デパート・ショッピングセンターへの出店と賃貸借契約(「ケース貸し」の問題点)

はじめに

 お菓子屋・お総菜屋・レストランなど、食品・飲食事業のお店を出店する際、デパート・ショッピングセンター・スーパーなどの商業施設の一画を借りて出店することがあります。
 このような商業施設の売り場・フロアの一部を貸す方式は、「ケース貸し」と呼ばれることがあります。
 「ケース貸し」の形でスペースを借りて事業を行う場合、気を付けなければならないのは、それが「建物」の「賃貸借」にあたるか否か、ということです。「建物」の「賃貸借」にあたるか否かにより、安定して事業用スペースを借り続けられるかどうかに大きな影響が生じます。

借地借家法の保護

 「建物」の「賃貸借」にあたる場合、民法の定めに加えて、その特別法である借地借家法の定めも適用され、その保護を受けることができます。
 借地借家法は、借家人を手厚く保護するために民法の定めを修正するものです(以下の表ご参照)。
 そのため、「建物」の「賃貸借」にあたる場合、借地借家法の定めも適用されることで、安定して事業用スペースを借り続けられる可能性が高まります。

 

民法の定め

借地借家法の定め

賃借権・借家権の対抗要件

登記(賃貸人には登記に協力する義務なし)

建物の引渡し(登記がなくても借家権を対抗できる)

期間

上限20年

上限なし
1年未満とした場合は期間の定めのないものとみなす

法定更新

期間満了後、賃借人が使用収益を継続した場合、賃貸人がこれを知りながら異議を述べないとき、従前と同一の条件で更新と推定

賃貸人が賃貸借の期間満了の1年前から6か月前までの間に、更新しない旨の通知をしなかった場合、従前と同一の条件で更新とみなす(期間は定めがないものとなる)。

この通知には正当の事由が必要

当該通知をした場合でも、期間満了後、借家人が使用を継続する場合、賃貸人が遅滞なく異議を述べなかったとき、 従前と同一の条件で更新とみなす(期間は定めがないものとなる)

賃貸人からの解約

期間の定めがない場合、いつでも解約の申入れができ、解約の申入日から3か月が経過すると、賃貸借は終了

期間の定めのある場合であっても、期間内の中途解約権を留保したときは、同上

解約の申入日から6か月が経過すると、賃貸借は終了

この申入れには正当の事由が必要

賃料減額請求権

なし

あり

特約

原則自由

借地借家法の規定によっては、同法に反する特約で借家人に不利なものは無効

「建物」の「賃貸借」にあたるか

 では、「ケース貸し」の場合、「建物」の「賃貸借」にあたるとして、借地借家法の保護を受けることができるでしょうか。
 裁判実務では、個別具体的な判断がされていますが、①「建物」にあたるか、②「賃貸借」にあたるかについて、順次、見ていきましょう。

「建物」にあたるか

《 基本的な考え方 》 

 建物とは「土地に定着し、周壁、屋根を有し、住居、営業、物の貯蔵等の用に供することのできる、永続性のある建造物」をいいます。
 借地借家法においては、建築関連法令において1棟の建物として独立しているものだけではなく、1棟の建物の一部であっても、「建物」該当性が肯定されることがあります。
 旧借家法の「建物」について判示したものですが、判例も、「建物の一部であっても、障壁その他によって他の部分と区画され、独占的排他的支配が可能な構造・規模を有するもの」は「建物」にあたると判示しています(最高裁昭和42年6月2日民集21巻6号1433頁)。
 ケース貸しの場合に、どのような事情があれば「障壁その他によって他の部分と区画され、独占的排他的支配が可能な構造・規模を有するもの」といえるのでしょうか。
 以下、具体的な裁判例を検討していきましょう。

《 具体的な事例 》

( 肯定例 )

◎スーパー内のパン売り場(東京地裁平成8年7月15日判時1596号81頁)

総論

スーパー内のパン売り場部分が問題となった事案
「建物」にあたる

理由

・本件売場部分は、本件店舗内の別紙図面一のイロハニイを順次直線で結んだ線で囲まれた部分であり、スーパーマーケットの入口とは別に、直接公道から出入りできる独自の入口を持っていること
・スーパーマーケットの他の売り場とは扉等はなく自由に行き来できるが、一応独立した区画となっており、床や壁の仕様が異なり、天井にはシャンデリアを備え雰囲気も異なること
・本件売場部分からスーパーマーケット側に出た場合でも、スーパーマーケットのレジを通ることなく外に出られる構造となっていること
・パンを焼く場所についても、本件売場部分の販売店舗部分とも仕切られ独立した作業所となっていること

結論

したがって、本件契約は、本件売場部分の使用関係に関する限り賃貸借に関する法の適用を受けるべきものと解するのが相当であって、その使用関係の終了については被告らは借家法の規定による保護を受けるべきものというべきである。

◎ビル内の店舗(東京高裁昭和54年3月26日判時933号61頁)

総論

大蔵省庁舎ビル内の店舗が問題となった事案
「建物」にあたる

 理由

・本件店舗部分は、大蔵省本庁舎ビルの半地下一階にあって仕切りにより区切られた多数の売店のうちの一つであって単なる「ケース」ではないこと
・控訴人は、昭和48年2月ころ被控訴人名義で大蔵省共済組合の承諾を得、合計55万円あまりを投じて店舗の内装工事をし、古い陳列ケースをとりかえ、服地掛、姿見、応接セットをととのえるなどしたこと

 結論

以上より、本件店舗部分は借家法一条にいう建物にあたるものと認められる。


( 否定例 )

◎パーテーションで仕切られた部屋の一部(東京地裁平成28年11月22日ウェストロー2016WLJPCA11228003)

総論

ビルのフロア内で賃借人が賃借している部屋の一部が問題となった事案
「建物」にあたらない

 理由

・当該区画部分は、当該建物内の原告が賃借している部屋の一部であり、周囲を高さ約190cmのパーテ-ションによって区切られており、その他の部分とは客観的に区画されること
・しかし、パーテ-ションの上部が天井に達しておらず、パーテ-ション下部の接地部分も床に固定されていないため、容易にパーテ-ションを移動させることが可能であること
・当該区画と同じ部屋にある原告使用部分と当該区画は、外部との出入り口が共通であり、当該区画に到達するためには、事務所として使用されている原告使用部分の中を通る必要があること
・原告使用部分から当該区画に立ち入るための出入り口(パーテ-ションの置かれていない、神棚の下のパーテ-ションと壁との間及び当該区画部分にある机横のパーテ-ションと書類用キャビネットの間)にドア等は設けられておらず、原告使用部分に出入りできる原告代表者や従業員であれば、自由に当該区画部分に出入り可能であること

 結論

建物の一部である本件区画は、障壁等により、他の部分(原告使用部分)と客観的かつ明白に区画されているとは認めがたい上、独占的排他的な支配を可能とする構造及び規模であるともいえないから、本件賃貸借契約については、借地借家法は適用されないというべきである。

◎駅ビルのレストラン街の一部(東京地裁平成20年6月30日判時2020号86頁)

総論

駅ビルのレストラン街の一部が問題となった事案
「建物」にあたらない

 理由

・本件出店区画は、その構造上、ルミネ立川店中において、間仕切りにより他の店舗とは区別されているものの、それ自体出店に際して設置されるものであること
・契約面積中には賃料の対象とならない通路等の部分が含まれていること
・独自の施錠設備や独立した外部からの出入口はないことが認められること
・被告が本件賃貸借契約に際し、出店区画を移動し、契約面積も増加させるなどしている経緯
・以上に照らしてみれば、出店区画自体が建物としての独立排他性を有するものと認めるのは困難であること
・そして、本件出店区画の実際の使用方法について検討してみても、営業及び休業並びに営業時間、営業品目、店員の採用等まで様々な制約が課せられており、被告が自らの判断によりこれらをすることはできないものと認められること
・その他、本件規約の定めに照らしてみても、各出店区画をそれぞれ出店者が独立して自由に使用することは予定されていないものと認められること
・そうすると、本件出店区画は、構造上及び実際の使用上、他の出店者と共同してルミネ立川店8階にレストラン街を構成する建物内の一区画にとどまり、それ自体が建物としての独立排他性を有する営業施設であるとは認められないこと

 結論

以上より、本件賃貸借契約は建物を目的とする賃貸借契約とはいえないから、本件賃貸借契約には同法の適用はないものというべきである。

◎ピロティ上の販売店(東京地裁平成18年9月4日)

総論

ピロティの一部を利用する生花造花販売店が問題となった事案
「建物」にあたらない

 理由

・1階部分の入り口広場内にあり、一部を除き、他の広場部分と明確に区画する障壁等がなく、それ自体、独立的排他的な支配が可能な構造を有するとは評価できないこと

 結論

「建物」にあたらない。

◎その他
 他には、デパ地下の総菜売場、スーパーの総菜売場、ショッピングセンターのフードコートなどについては、調理場の独立性・隔離性は高いことが多いでしょうが、顧客の飲食エリアが複数の店舗の共用となっていることが大半だと思われます。そのため、独立的排他的な支配が可能とはいえないとして、「建物」とは認められない傾向にあります。

「賃貸借」にあたるか

《 基本的な考え方 》

( 有償であること )

 借地借家法の適用を受けるためには、ケース貸しの対象物が「建物」にあたるだけでなく、ケース貸しで事業用スペースを借りることが「賃貸借」にあたることも必要です。
 賃貸借にあたると判断されるためには、有償の契約関係であること(対価の支払いがあること)が必要です。無償で建物を使用する場合には、「賃貸借」にはあたらず(使用貸借という別の契約となります)、借地借家法の適用は受けません。
 対価の内容・額は、通常は当事者間で自由に決めることができますが、あまりに低額すぎる場合には、対価の支払いなし(有償の契約関係とはいえない)として、「賃貸借」にあたらないと判断されることがあります。
 また、有償の契約であっても、賃貸借ではなく、業務委託契約・販売委託契約であると判断されることもあります。
 なお、居住用の賃貸借であるか、事業用の賃貸借であるか、賃貸人・賃借人が個人であるか、法人であるかについては、借地借家法上保護される「賃貸借」にあたるかという点においては、問題となりません。

( 経営委託、施設側の指揮監督 )

 ケース貸しでは、食品・飲食事業者の皆様は、商業施設の一画を借りて出店することになります。その際、食品・飲食事業者の皆様は、商業施設側から、指揮監督を受けることがあります。この場合、商業施設は食品・飲食事業者の皆様に対して、賃貸しているのではなく、業務の一部を経営委託しているなどとして、「賃貸借」にあたらないと判断されることがあります。
 ケース貸しの場合、どのような事情があれば、経営委託ではなく、「賃貸借」にあたるといえるのでしょうか。

 契約書上に「賃貸借」だと明記されている場合、「賃貸借」にあたると判断される傾向にあるとされています。
 裁判例でも、飲食店の経営やレストランフランチャイズチェーン店の加盟店募集等を業とする会社間で争いになった事案について、「店舗の転貸借契約という法形式を選択している以上、その法形式が仮装であるといった事情がない限り、法形式どおりの効果を認めるべきである」と判示したものがあります(東京地裁平成22年2月25日ウェストロー2010WLJPCA02258022)。

 なお、契約書上に「経営委託」「業務委託」「営業委託」等の表題が付されていたり、契約書の条項中に「賃貸借ではない」旨が明記されていたりする場合でも、「賃貸借」にあたると判断されることがあります。
 判例は、ある家屋内の2坪あまりの広さの店舗で鳥禽類の仕入販売を行っていた事案について、「経営の委任または委託の場合、法律上委任の形式をとるにかかわらず受任者が自己の計算において自己の裁量に従って経営を行い、委任者に対して一定の金員を支払うことが少なくない。かかる場合、経営の委任といっても実質は営業の賃貸借に外ならないと解すべきである」と判示しています(最高裁昭和39年9月24日裁判集民75号445頁)。
 この判例が「実質は営業の賃貸借」だと述べているとおり、裁判実務において、「賃貸借」にあたるか、それとも経営委託であるかは、単に契約書の形式からのみ判断されるのではありません。その取引の実態に着目した個別具体的な判断が必要とされています。
 その判断要素は事案に応じて考慮されますが、デパートにカレー屋が出店していた事案について、裁判所は以下の事情を挙げており、参考になります(東京地裁平成12年11月30日ウェストロー2000WLJPCA11300015)。

・店舗の利用関係を定める契約の法的性質は、当該契約の契約書に用いられている契約の名称や用語のみで直ちに決定されるものではなく、契約書の他の条項、特に、損益の帰属、支払金額、営業上の指揮監督等に関する規定や、営業の実状、実態等をも考慮して、その実質に即して決定されるというべきである。
・その判断の際には、以下の諸事情が勘案されるべきである。
・・当該契約にかかる契約書の体裁、名称、用語
・・契約条項の規定及びその内容
・・当事者の取引経験
・・当事者の事業規模
・・当該店舗の存する事業施設の規模、性格
・・当該店舗の用途
・・当該事業施設又は当該店舗の立地条件
・・当該店舗の構造
・・当事者が当該契約を締結するに至る経緯
・・契約締結時における当事者の意思
・・当該店舗における仕入、販売等の営業の実態、営業主体としての店舗の管理状況等
・・内装、設備、什器備品その他の費用負担
・・当該店舗における従業員の雇用状況
・・営業の指揮監督状況
・・売上げの計算管理方法
・・当該店舗の利用に関して支払われるべき金員の支払方法、計算方法
・・営業損益の帰属等々の諸事情

 そこで、以下では、具体的な裁判例を検討していきましょう。

《 具体的な事例 》

( 肯定例 )

◎スーパー内のパン売り場(東京地裁平成8年7月15日判時1596号81頁)

総論

スーパー内のパン売り場部分が問題となった上記の事案
「賃貸借」にあたる

 理由

・被告らが営業を行ってきた本件売場部分は、本件店舗の中において原告の経営するスーパーマーケット部分とは明瞭に区画されていること
・その営業は、昭和四五年から現在に至るまでの長年の間、場所を移動することもなく、行われてきたこと
・パン売り場は、内装工事費や設備機材費等全て自己負担していること
・独自の経営判断と計算において営業してきたこと
・自ら開発した焼き立てパンの製造販売技術を用いて、営業を行ってきたものであること
・他方、原告は、被告ローゼンベックから一旦売上金全額の入金を受け、経理上は全額売上げとして計上したうえで、売上金の一定割合の歩合金や諸費用を控除した残額を被告ローゼンベックへ支払う方式により、右歩合金等を取得するものであるが、原告は、本件売場部分での営業自体には関与していないばかりか、内装工事費や設備費用等すら負担することもなく、まさに本件売場部分を提供することの対価として、保証金や歩合金を取得していること

 結論

したがって、本件契約は、本件売場部分の使用関係に関する限り賃貸借に関する法の適用を受けるべきものと解するのが相当であって、その使用関係の終了については被告らは借家法の規定による保護を受けるべきものというべきである。

◎ビル内の店舗(東京高裁昭和54年3月26日判時933号61頁)

総論

大蔵省庁舎ビル内の店舗が問題となった上記の事案
「賃貸借」にあたる

 理由

・被控訴人は、昭和三一年以来大蔵省共済組合本省支部から一年毎の契約に基づいて本件店舗部分における売店の経営の委託を受け、洋服類の仕立販売業を営んでいたが、代表者自身が高齢(現在八八歳)となるに従い自ら営業を担当することが困難となり、加えて右店舗で使用していた店員が昭和四六年中に死亡したなどの事情により、右営業を担当する者がなくなったこと
・他方、控訴人は店売ではなく外交販売を中心として洋服商を営んでいて店舗を必要としていたこと
・そこで、被控訴人と控訴人とは、昭和四七年四月、本件店舗部分及び被控訴人の従前からの顧客関係等のいわゆる営業権(のれん)を賃貸借する契約を締結したこと
・そして、両者間では、将来の実績をみて控訴人を被控訴会社の役員とすることを含みとしていたが、右賃貸借契約の内容は、期間は昭和四八年四月までの一年、賃料は一か月五万円で毎月末日限りその翌月分を持参支払う、被控訴人の使用した残りの生地ほぼ六〇万円分を控訴人に譲渡するとともに、その生地代及び賃貸借の権利金として合計一〇〇万円を控訴人が被控訴人に支払う、控訴人は賃借権を第三者に譲渡転貸してはならず又第三者の使用に委ねてはならないとするものであったこと
・しかし、大蔵省共済組合と被控訴人との間の売店経営委託契約においては、被控訴人は売店の経営の一部又は全部を第三者に譲渡し、又は請負わせてはならず、本件店舗部分の一部又は全部を第三者に利用させてはならないとの定めがあったので、大蔵省共済組合及び税務当局との関係では、控訴人を被控訴会社の従業員とすることとし、被控訴会社が受取る賃料を被控訴人代表者の手当とし、仕入や売上なども全て被控訴会社でしたものとして税の申告などをすることと約定し、又当初は契約書の作成さえも差し控えていたが、昭和四八年四月一年の期間を更新した後の同年七月には、「株式会社伊藤洋服店の設備品及び営業権の一時使用に関する契約書」なる契約書を作成したこと
・控訴人は、大蔵省共済組合等との関係で被控訴人の名称を使用しているものの、店舗内の造作等を変更し、商品の価格を定め、生地等の材料を購入し、洋服の仕立を下請職人にさせるなどの経営上の事項の決定は、被控訴人の指揮監督などを受けずに独立しており、生地問屋その他の取引先も控訴人自身の営業であることを承知して取引に応じていること
・営業の損益は全て控訴人に帰属し、出資に応じた利益の分配、損益の分担等の組合契約特有の関係も認められないこと
・本件店舗部分は、大蔵省本庁舎ビルの半地下一階にあって仕切りにより区切られた多数の売店のうちの一つであって単なる「ケース」ではないこと
・控訴人は、昭和四八年二月ころ被控訴人名義で大蔵省共済組合の承諾を得、合計五五万円あまりを投じて店舗の内装工事をし、古い陳列ケースをとりかえ、服地掛、姿見、応接セットをととのえるなどしたこと
・以上より、本件店舗部分は借家法一条にいう建物にあたるものと認められること

 結論

本件契約は建物の賃貸借に顧客関係等のいわゆる営業権の賃貸借が附随したものと解される。

◎ビルの一室のスナック(大阪高裁平成9年1月17日判タ 941号199頁)

総論

ビルの一室のスナックが問題となった事案
「賃貸借」にあたる

 理由

・本件契約書上では店舗経営委託契約とされているものの、そこでの店舗「知己」の経営は控訴人の名義で、その計算と裁量により行われ、被控訴人がその経営に関与することはないこと
・控訴人より被控訴人に支払われる分配金、共益費名義の金員は店舗経営による収益にかかわりなく定額であること

 結論

以上からすると、右の契約は、店舗経営委託契約の性格を持たず、かえって控訴人に本件物件と内装・器具を飲食店の営業のために自由に使用収益して、その収益を取得(損失のときはこれを負担)することを許し、その対価として一定額の金員を受領することとする建物賃貸借の性格を有することは明らかである。


( 否定例 )

◎デパート内のスパゲッティ店(大阪地裁平成4年3月13日判タ 812号224頁)

総論

デパート内のスパゲッティ店が問題となった事案
「賃貸借」にあたらない

理由

・被告の本件売場部分における営業は相応の独立性を有するものと言えること
・他方、賃貸借契約に通常付随する権利金、敷金等の授受が当事者間に全くないこと
・原告の収得する金員も日々の売上金の一定割合をもって定められる歩金であって賃料とは全く異なること
・売場の設定、変更等について原告の強い権限が及んでいること
・契約当事者の意思

結論

以上の事情等を併せ考慮すると、本件契約は、賃貸借契約であると言うことはできず、借家法等の適用のない販売業務委託契約であると言うべきである。

◎デパート1階の一部においた商品什器を利用していた店舗(最高裁昭和30年2月18日民集 9巻2号179頁)

総論

デパート1階の一部においた商品什器を利用していた店舗が問題となった事案
「賃貸借」にあたらない

理由

・上告人等は被上告会社との契約に基き同会社のデパートの一階の一部の場所において、商品什器を置いて、それぞれ営業を営んでいるものであること
・上告人等の使用する前示店舗の部分はあらかじめ被上告会社から示されて定められたものであること
・右部分は営業場として一定しているものではあるが、同時に、右営業場はデパートの売場であり、従つて売場としての区劃がされているに過ぎず、これを居住に使用することは許されないこと
・殊に、被上告会社は店舗の統一を図るため商品の種類品質価格等につき上告人等に指示する等上告人等の営業方針に干渉することができること
・その上、被上告会社経営のデパートたる外観を具備すること
・そのデパートの安全を図るため右売場の位置等についても被上告会社において適当の指示を与えることができ、例えば防火等の必要あるときは右売場の位置の変更を指示することができること
・上告人等は自己の使用する営業場の設備を自己の費用で作り店舗の造作をなし得る約束であるが、同時に、右設備は定着物でなく移動し得るものに限られ、且右造作等を設置する場合は必ず被上告会社の許可を要し、被上告会社の営業方針に従わなければならないこと
・上告人等は当初定められた種類の営業をそれぞれ自己の名義で行い、従つてその租税も自己が負担するものであるが、同時に、右営業は名義の如何を問わず被上告会社の所有とされ、上告人等において営業権又は営業名義の譲渡賃貸書換をすることはできないこと
・上告人等は自己の資本で営業し、店員の雇入解雇給料支払は上告人等においてするものであるが、同時に、その営業方針は統一され、使用人の適否についても被上告会社の指示に従うべき定めであること
・上告人のうち一人は被上告会社に対し当初売上金の一割を支払うこととしたがその後昭和二五年四月以後右支払金は月額四万円と改定されたこと
・その余の上告人等は被上告会社に対し二箇月分の権利金名義で金九万円又は金六万円を支払う約束であること
・上告人等は被上告会社に対し前示営業場一桝につき一日金百円宛支払う約であつたが、同時に、右権利金は出店料に対し権利金として支払うものであり右日掛金は右一桝分の出店料として維持費名義で支払う定めであつて、上告人の一人については右権利金の支払に代え前示のように売上金の歩合で支払うものであること
・なお、前示契約は上告人横幕との間では期限の定めがなくその余の上告人等との間では二箇年の存続期間の定めがあつたものであるが、互に都合により一箇月の猶予期間をおいて契約解除をし得る定めであり、かつ営業方針について、被上告会社が干渉するほか、包装用紙もこれを一定せしめ被上告会社において調製の上、上告人等に分譲する、というものであること

結論

以上の事実関係に徴すれば、上告人等は、被上告会社に対し、被上告会社の店舗の一部、特定の場所の使用収益をなさしめることを請求できる独立した契約上の権利を有し、これによつて右店舗の一部を支配的に使用しているものとは解することができない。

◎ホテルの一部をシャッターで仕切った区画(東京地裁平成29年3月24日ウェストロー2017WLJPCA03248018)

総論

ホテルの一部をシャッターで仕切った区画が問題となった事案
「賃貸借」にあたらない

 理由

・本件建物部分は、1棟の建物の一部であるので、本件建物部分を対象とする賃貸借契約が借地借家法の適用を受けるためには、対象部分が構造上・経済上・利用上独立していなければならないこと
・本件建物部分の構造上の独立性をみると以下の事情があること
・本件建物部分は、別紙図面1及び別紙図面2のとおり、本件建物の1階部分のロビーの入り口付近の壁側部分のフリースペースにあり、被告が本件建物部分において薬局を営業する以前は、本件建物部分においては、本件ホテルのテイクアウト用のケーキ、総菜が車輪のついたショーケースに展示され、販売が行われており、同販売のための専用のスペースではなく独立の区画にもなっておらず、シャッターも存在していなかったこと
・被告は、このフリースペース部分を賃借したものであって、本件賃貸借契約書においては、本件建物部分につき、「階別 1階」、「契約面積 31.52m2(9.54坪)」との記載があるのみであり、本件建物部分のそれ以上の場所の特定はされていないこと
・そこで、被告は、本件建物部分が、ロビーの一角であるために、商品を囲む何らかの柵がないと商品が盗難に遭う危険性があることから、被告の負担で、盗難防止目的で本件シャッターを設置したこと
・本件シャッターは、レール部分が、天井、壁、柱の3点で固定された横引きのシャッターであり、シャッターは天井から30ないし40センチメートル離れたところで吊され、シャッターと床との間にも固定する箇所があり、シャッターを施錠することができるものであり、被告は、本件建物部分から退去するときは、本件シャッターを撤去して原状回復をする義務を負っているが、1時間半程度で取り外しが可能な簡易なものであること
・してみると、構造上の独立性は、本件シャッターが盗難防止のために設置され本件建物部分と他の部分を区切るために設置されたものではなく、その取り外しが容易に可能なものであり、被告は、本件賃貸借契約終了の際には、本件シャッターを撤去して、本件建物部分を以前のフリースペース状態に原状回復する義務を負っている以上、本件シャッターが本件建物部分の構造上の独立性を基礎付けるものとは認められないこと
・本件建物部分の経済上・利用上の独立性については以下の事情があること
・店舗における日々の売上金は、被告がレジスターを設置し、被告の従業員が、レジスターを打ち込み、営業時間終了後にレジスターを打ち上げ、原告の指定出納課員から当日受け取った釣銭、売上金等を原告の指定する集金袋に入れて封緘し、原告は売上金を毎月15日と末日に締め切り集計し、毎月15日の集計から賃料を差し引いた上月額にその残額を、毎月末日の集計額から共益費、諸経費、その他の経費を差し引いた上、翌月15日にその残額を、それぞれ被告の指定する銀行に振り込むこととされていること
・金銭の出し入れが原告の間接管理とされており、被告の販売品目は限定され、被告が店名・業種、取扱品目の変更を行う場合には、書面で予め原告に届け出て、原告の承認を得ることが必要であること
・被告が営業日、営業時間は原告と被告の定めるところに従う必要があること・本件建物部分内の造作、間仕切り、建具等の新増設、変更、電気・電灯・電気・ガス・上下水道等の配線配管並びに新増設、本件建物部分又は本件建物の内部又は周辺(窓ガラスを含む。)に看板・掲示板・広告・標識等を設置・掲出・貼付すること等をするには、原告に対して届け出て、原告の書面による承諾を得た後、被告の費用をもって実施することとされていること
・以上の事情等に照らすと、本件賃貸借契約において、原告は被告の営業に関して強い制約を設け、指示監督権を有しており、被告の経済上・利用上の独立性が保たれているということはできないこと

 結論

以上より、本件建物部分については構造上・経済上・利用上の独立性はなく、本件賃借契約に借地借家法は適用されないというべきである。

まとめ

 以上のとおり、ケース貸しが「建物」の「賃貸借」にあたるとして借地借家法の保護を受けられるかについて概要をご説明しました。
 以下のような方は、ご遠慮なくご相談ください。
・ケース貸しにおいて、商業施設との間でトラブルになっている方
・これから商業施設との間でケース貸しの契約を締結するにあたり、契約書の内容等について相談をしたい方
・その他、商業施設とのケース貸しについてお悩みを抱えている方

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