コロナ禍を理由とする整理解雇の難しさ

コロナ禍を理由とする整理解雇の難しさ

はじめに

 2020年8月21日、仙台地方裁判所で、コロナ禍を理由とする整理解雇を無効とする裁判例が出ました。

 食品・飲食業界の経営者の皆様としては、「コロナ禍を原因とする経営不振はやむを得ない。
 したがって、コロナ禍を理由とする整理解雇は当然に認められるだろう。」と思われる方が多いのではないでしょうか。
 しかし、コロナ禍を理由とする整理解雇は、認められにくいのが現状です。

 本コラムでは、コロナ禍を理由とする整理解雇の難しさについてご説明します。

整理解雇が認められるためには

 そもそも、整理解雇とは、企業の経営上必要とされる人員削減のために行われる解雇のことをいいます。
 経営不振などを理由にされることが多いですが、裁判実務上、整理解雇が有効になる場面は厳しく制限されています。
 具体的には、以下の4要素から、その有効性が判断されています。

・人員削減の必要性があるか
・解雇回避努力義務が果たされているか
・人選の合理性があるか
・相当な手続をとっているか

 それぞれ問題となりますが、コロナ禍を理由とする整理解雇において、特に重要なのは「解雇回避努力義務が果たされているか」の点です。

解雇回避努力義務と雇用調整助成金

 ご存知のとおり、現在は雇用調整助成金の特例措置により、雇用調整助成金を広く利用することができます。

 整理解雇との関係では、「解雇は最終手段であって、経営者は、その前に一時休業等の解雇回避措置をとり、雇用を維持しようと努力すべきである」「雇用調整助成金の特例措置を利用すれば、直ちに解雇をすることなく、(一定期間は)従業員の雇用を維持できることが大半である」と考えられています。
(どのような解雇回避措置があり得るのかについては、その企業の具体的実態を踏まえて判断すべきですが、裁判では以上のように判断されることが多いでしょう。)

 したがって、コロナ禍を理由に整理解雇をしても、雇用調整助成金を利用していない場合には、「解雇回避努力義務を果たしていない」として、整理解雇は無効となることが多いと予想されています。

仙台地裁の裁判例

 仙台地裁の裁判例は、タクシー会社が運転手である従業員を解雇した事案ですが、このタクシー会社は、雇用調整助成金を利用していませんでした。
 裁判所は、「雇用調整助成金を利用すれば、運転手を休ませても、休業手当の大半を支払うことができたはずであること(解雇回避努力を果たしていないこと)」等を理由として、整理解雇を無効と判断しました。

整理解雇ではなく、合意退職を検討すべき

 このように、雇用調整助成金を利用できる現状では、それを利用せずに整理解雇をしても、無効となるリスクが非常に高いといえます。
 その場合、解雇できない上に、その従業員と争っている期間の賃金についても、全額負担させられる可能性すらあります。
 そのため、経営者の皆様としては、コロナ禍を理由にやむを得ず人員削減をするという場合には、「整理解雇」(使用者による一方的な通知)ではなく、「合意退職」(従業員との合意)の形で進めることができるかを検討するべきでしょう。
 もちろん、合意退職の形をとっても、その進め方によっては、違法として問題になりえますので、注意が必要です。

最後に

 以上のとおり、やむなく人員削減をするとしても、合意退職の検討を含む慎重な判断が必要です。
 何かご質問等がありましたら、お気軽にご連絡ください。

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