食品容器の事故に関する裁判例

はじめに

 食品の容器は、その食品を購入・利用しようとする消費者などが直に手に取るものであり、包装の仕方、容器の材質によっては、それによって消費者などが怪我をすることがあります。その場合、容器の製造業者は、怪我をした被害者から損害賠償請求をされるおそれがあります。法的な根拠としては、民法709条の不法行為責任か、製造物責任法3条の責任が考えられます。

 民法709条の不法行為に基づく損害賠償請求の場合は、被害者において、製造業者の故意過失を主張・立証しなければなりません。

 他方、製造物責任法に基づく損害賠償請求の場合は、被害者において、製造物責任法2条3項の「製造業者」であること、同法2条1項の「製造物」に同条2項の「欠陥」があること、その欠陥により「他人の生命、身体又は財産を侵害した」ことを主張・立証する必要がありますが、故意過失の主張・立証は不要です。

裁判例の紹介

 食品の容器による怪我について損害賠償を請求する場合には、食品の容器に「欠陥」があったといえるかが問題となります。以下では、これが問題となった判例を紹介します。

食品容器の破裂によって小売業者が怪我を負ったことについて、卸売業者が責任を負うかが問題となった裁判例

 こちらの裁判例では、瓶入りラムネを運搬しようとした小売業者が、ラムネ瓶が破裂したために目を負傷し、瓶が破裂したことについて、ラムネ瓶を製造・販売した卸売業者に注意義務違反があったが問題となっています。

 現在なら製造物責任法の問題となりますが、当時はまだ同法の施行前でしたので、民法709条に基づく不法行為の問題として扱われています。

 

東京地判昭和60年2月26日

事案

ラムネ等の食料品、雑貨を販売する原告が、ラムネの卸問屋である被告から本件ラムネを仕入れ、車で運搬した後、手押車に積み替えようとした際、ラムネ瓶数本が破裂し、左目を負傷したことについて、民法709条の不法行為に基づく損害賠償を請求した。本件においてラムネ瓶が破裂したことつき、卸問屋がラムネの販売についての一般的な注意義務を欠いているのかが問題となった。

争点

ラムネ瓶の破裂について、卸売業者に過失が認められるか

判断概要

・一般にラムネ瓶がラムネ水の内圧によって破裂する可能性については否定

・外的要因による破裂につき、ラムネ瓶のくぼみ部分に外的衝撃が加えられた場合には、破損の主要な原因となる。その上で、ムネ瓶が専らくぼみ部分より上部の中央に加えられた外的衝撃のみにより割れた場合には、くぼみ部分において大きくほぼ二つに割れるという形態的特徴を示し、一方で、もし専ら内圧超過のみにより割れた場合には、ラムネ瓶はくぼみ部分より下部において大きく2、3個に分割してたて割れするという形態的特徴を示す、とした。

・以上を前提に、本件においてのラムネ瓶は、くぼみ部分より上方が細かく割れ、下の部分はほぼ完全な形で残ったことから、ラムネ瓶の破裂は単に内圧のみによるものではなく、原告がラムネの入ったケースを手押車の上に置いた際にラムネ瓶同士が衝突し、その外的衝撃も複合的に作用して起こったもので、その衝撃は相当強度のものと認められる、とした。

・その上で、卸売業者には、特段の事情がない限り、通常の程度を超えた外的衝撃がラムネ瓶に加えることまでも予見して、販売するラムネを取捨選択すべき注意義務はないとした。そしてこの特段の事情について主張立証がないので、被告には本件ラムネ瓶の破裂について過失があったとは認められないとし、原告の請求を認めなかった。

食品容器が通常予想されていない使い方をされた結果、その容器によって怪我をした者がいたことにつき、当該容器が「必要な安全性を欠いている」といえるかが問題となった裁判例

 ポテトチップスの袋を振り回して遊んでいた幼児の近くにいた祖母が、袋の角が目にあたり怪我をしたことについて、袋の形状につき安全性が確保されていたかが問題となっています。

 法律上の問題としては、問題となる食品容器に、製造物責任法2条2項および3条にいう「製造物が通常有すべき安全性」を欠く「欠陥」があったか、という問題となっています。

 

東京地判平成7年7月24日

事案

女児がポテトチップスの袋を振った際に、そばにいた原告である祖母の右目に袋の角の部分が当たり、けがをした。原告は、ポテトチップスの袋の製造につき安全性が確保されていないとして、ポテトチップスを製造している業者を被告として損害賠償を請求した。

争点

ポテトチップスの袋の端の形状について製造者に過失が認められるか。

判断概要

本件袋について、その上下が約3mm間隔の波形で、波形の先端部分や袋の上下の閉じた部分の角が特に鋭利な形状になっているものとは認められず、一般の消費者が安全にその中身を食べることのできる包装になっていると認定した。

その上で、本件袋のような材質・形状の包装は菓子等食品類の包装に比較的多く用いられているが、ポテトチップスを食べることのない幼児が袋を手に持って遊ぶことを通常予想して製造販売されるものとはいえないし、菓子袋本来の用法とは無関係の事故のような事態をも予想して工夫しなければ安全性を欠いているというべきでもないとし、原告の請求を認めなかった。

コメント

食品の容器につき、通常予想できない方法で使用した場合に対する裁判所の一判断として参考になります。

誤飲しやすい食品の容器について、食品の容器に、誤飲を誘発するような設計上の欠陥があったか、また外袋に、誤飲を警告する表示に不足があるなどの表示上の欠陥があったか、が問題となった裁判例

 乳幼児がこんにゃくゼリーをのどに詰まらせ窒息死したことにつき、ゼリーの容器に窒息に繋がりやすい食べ方を誘発するような設計上の欠陥があったか、また外袋の「窒息のおそれがあるため、乳幼児や高齢者は食べないでください」「このような食べ方はしないでください」等の警告表示は十分であったか、が問題となっています。

 法律上の問題としては、ゼリーの容器や外袋に、製造物責任法2条2項及び3条にいう「製造物が通常有すべき安全性」を欠く「欠陥」があったか、という問題となっています。

 

第1審:神戸地判姫路支判平成22年11月17日・第2審:大阪高裁平成24年5月25日

事案

乳幼児が、あらかじめ冷凍させておいたこんにゃくゼリーを食べて喉を詰まらせ、死亡した事案について、幼児の両親が同ゼリーを製造した会社に対して、ゼリーの容器について設計上の欠陥、警告表示の欠陥があるとして損害賠償を求めた。

争点

こんにゃくゼリーの容器について誤飲するような設計上の欠陥があるか、警告表示につき欠陥があるか

 

第1審:神戸地判姫路支判平成22年11月17日

判断概要①
こんにゃくゼリーそのものについて

食品の特性として、窒息のリスクがある。

判断概要②
こんにゃくゼリーの容器について

・柔らかいプラスチック製で左右非対称のハート型をしており、中身を容易に押し出せるように配慮された構造である

・その結果、容器の見た目や感触から、上を向いたり吸い出したりして食べる必要がないと容易に認識することが可能である

・ある程度の年齢に達した小児であれば、容器に触れれば、それが吸い出さなくても中身が出てくるものであることは容易に認識できた

・摂取する際には、容器の底をつまんで容器より出てきたゼリーのうち、自分が食するのに適した大きさの分量にかみ切るなどして摂取すればよい

・容器の上蓋をはがせないような乳幼児に対しては、保護者が切り分ける等して与えるべきである

よって、本件のようにそのような乳幼児に対しこんにゃくゼリーを切り分けせずに与えた結果,当該乳幼児がこんにゃくゼリーを誤嚥したとしても,それはこんにゃくゼリーの容器の設計上の欠陥ではない。

判断概要③
外袋の警告表示について

・外袋の表面に子供、高齢者が苦しそうに目をつむっているイラストを配置し、こんにゃく入りであることを明示している

・子供や高齢者はゼリーを喉に詰まらせるおそれがあるため食べないよう赤字で警告し、摂取方法についてもイラストと共に表示されている

これらのことから、イラスト等で直接視覚に訴えるだけでなく、文字によっても十分に警告をしていたといえる。

さらに、
・当該表示の大きさも横約2.6センチメートル、縦約3センチメートルと注意を引きやすい大きさであった

したがって、一般人に対する誤嚥による事故発生の危険を周知するのに必要十分な表示であった。

結論

以上より、設計上の欠陥も表示上の欠陥も認められない。

 

第2審:大阪高裁平成24年5月25日

判断概要①
こんにゃくゼリーそのものについて

・こんにゃくという特性から、一旦のどに詰まらせると窒息する危険性はある

・しかし、そのような特性による窒息事故の危険性は、こんにゃくゼリーそのものの危険性ではなく、その食べ方によって発生するものである

・他社が製造している同様のゼリーについても大多数は窒息事故がない

・あったとしてもその件数は飴によるものと大差ないほど件数が少なく、日本の伝統食である餅によるもののほうが断然多い

したがって、こんにゃくゼリーそのものについて、安全性を欠く食品であるとはいえない。

判断概要②
こんにゃくゼリーの容器について

・大きさや形状によっては、上向きで食べたり,吸い込んで食べたりすることを誘発することもあり得る

・よって、こんにゃくゼリーを製造・販売する際にその対策を講じるべきである

・その対策いかんによっては、こんにゃくゼリーの欠陥が基礎付けられる場合もある

しかし本件では、容器については対策が講じられていた。

判断概要③
外袋の警告表示について

・「お子様や高齢者の方は食べないでください」「吸い込まずに底をつまみ押し出し,よくかんでお召し上がり下さい」などの記載があり、喉につまらせる危険性があることが明確に表示されている

・こんにゃく入りであること、特に子供や高齢者は食べないようにと明確に表示されている

よって、警告文として不十分な点は無い。

結論

以上より、設計上の欠陥も表示上の欠陥も認められない。

コメント

1審の判断とは異なり、こんにゃくゼリーそのものの安全性には問題がないとしています。

こんにゃくゼリーそのものの安全性について判断するにあたり、比較対象として飴・餅など他の食品による事故数などを具体的に検討した上で結論を出している点が参考になるといえるでしょう。

食器について、破損した際の危険性について、通常有すべき安全性を欠いているかが問題となった裁判例

 小学校で給食用食器として使われていた「コレール」という製品について、破損した際、その破片が飛び散り、児童が目を負傷する事件が起き、コレールに設計上の欠陥、また割れた時の危険性について十分表示していなかったという表示上の欠陥があったかが問題となっています。

 法律上の問題としては、公立学校での事件でしたので、国家賠償法の解釈等も問題となっていますが、本記事では製造物責任法に基づく損害賠償責任についてまとめます。

 

奈良地判平成15年10月8日

事案

小学校の児童が給食用の食器として使用されていた強化耐熱ガラス製の食器(コレール)を落とし、その際に飛び散った破片で右目を負傷した。そのため、コレールが通常有すべき安全性を欠いていたと主張して、食器を製造・販売している会社を被告とし、製造物責任法3条による損害賠償請求をした。

原告が欠陥として主張した事実は以下のようなものである。

①糸底がない食器であるため子供には持ちにくく、滑りやすい形状なので、小学校が使用する食器としては不向きである

②コレールの構造上、割れやすくその危険性も大きい

③自動車のフロントガラスのような、割れた時の被害回避の措置が十分になされていない

④家庭で日常用いられる陶磁器等と類似しており、学校関係者や児童に陶磁器製の食器と同様のものであるという意識を与える

争点

コレールを小学校の給食用食器として使うことが適切か

コレールに設計上の欠陥、表示上の欠陥があるか

判断概要

<設計上の欠陥>

・給食用食器は、危険性について十分な判断能力を有しない幼児や小学校低学年の児童等も使用することが想定されている。そのため、それに見合った高い安全性が必要で、仮に危険性を内包するものであれば、それについての十分な対策がなされることが期待されている。ただし、学校給食が学校における教育の一環として行われているため、教育的見地からの有用性も勘案すべきであるとして、以下のように判断した。

・コレールは、軽くて取り扱いやすく、それ以前に使用されていた食器と異なり、有害物質の溶出がないといった有用性がある。また、原告が主張する事実の内、①糸底のない形状という点は、かさばらない、運搬や洗浄の際に便利である、内容物の温度を実感しながら配膳できるという、学校用給食の食器としての有用性を生じさせるものである。

・また、②割れた時の危険性については、コレールは一般的な磁器製等の食器に比べて、衝撃に強いという学校用給食の食器としての大きな有用性がある一方で、割れた場合には細かく鋭利な破片が広範囲に飛散するという危険性を有する。しかし、この危険性は、衝撃を内部にとどめる構造からくるものであり、割れにくいという点と表裏一体をなすものである。そのため、割れた際の危険性が大きいという事実によって直ちに、その設計上に欠陥があったと評価することはできない。

・さらに、③被害回避措置の欠如の点も、自動車のフロントガラスは割れることによってより大きな被害を回避しようとするものであり、同じガラス製品でも、食器であり、使用の目的・形態等を全く異にするコレールをこれと単純に同列にして論ずることはできず、フロントガラスのような被害回避措置をとるべきであるともいえない。

・④陶磁器に似た外観については、学校給食においても、家庭で日常用いられる陶磁器類と類似した食器を用いうることは、有用性の一つとして評価しうる。

・コレールについてその設計上の欠陥があるとはいえない。

<表示上の欠陥>
・コレールは、強化磁器製や一般的な磁器製等の食器に比べて、割れにくさという観点からはより安全性が高い食器であるという一面を有するが、破損した場合の破損状況という観点からは、極めて危険性の高い食器であるともいえる。
・しかし、被告旭らは、コレールの取扱説明書、商品カタログ及び使用要項において、コレールがガラス食器でありながら、一見陶磁器のような外観を有し、しかも、陶磁器、強化磁器、耐熱強化磁器及び乳白強化ガラス等に比べて、落下や衝撃に強く、丈夫で割れにくいものであることを特長として強調しているものの、一旦割れた場合には、通常の陶磁器等に比べて危険性の高い割れ方をすることについては特段の記載がない
・商品カタログや取扱説明書等において、コレールが陶磁器等よりも「丈夫で割れにくい」といった点を特長として、強調して記載するのであれば、併せて、それと表裏一体をなす、割れた場合の具体的態様や危険性の大きさをも記載するなどして、消費者に対し、商品購入の是非についての的確な選択をなしたり、また、コレールの破損による危険を防止するために必要な情報を積極的に提供すべきである。
・本件では、コレールが破壊した場合の態様等について、取扱説明書等に十分な表示がなかった。
・結論として、表示上の欠陥がある。

・そして、もしそのような表示があれば、コレールが割れた際の危険性を認識した上で、あえてその特長に着眼して給食用食器として採用したとしても、児童らに危険性を周知徹底させるなどの適切な対処を行うことは十分可能であった
・表示上の欠陥と児童の負傷との間には因果関係がある。

<結論>
結論として、表示上の欠陥と因果関係のある範囲において、原告の請求を認めた。

コメント

小学校の給食の際に使用されていた食品容器が問題となっているため、設計上の欠陥の有無の判断にあたり、「教育的見地からの有用性」等も判断の一事情として考慮しています。この点は、他の事案と比較して、特殊であるといえるでしょう。

ただし、コレールが割れた際に広範囲に鋭利な破片が飛び散る点については、構造上割れにくいことと表裏の関係にあること等からすれば、上記考慮事情(教育的見地からの有用性)の有無にかかわらず、本件の食品容器については、設計上の欠陥はないと判断される可能性が高いと予想されます。

これに対して表示上の欠陥については、コレール自体の危険性を認定した上で、その短所や危険性についての説明が不十分であったことを理由に、その存在が肯定されています。製造業者の方が、説明書等の作成にあたり参考にすべき判断といえるでしょう。

まとめ

 以上のとおり、食品の容器によって消費者などが怪我をした場合に、製造者が損害賠償責任を負うかについて検討しました。

 特に以下のようなお悩みをお抱えの方は、ご遠慮なくご相談ください。

  • 食品の容器を製造している方で、製造した容器につき設計上の安全性に不安を抱えている事業者の方
  • 食品の容器によって怪我をした消費者の方から、損害賠償等を求められている等のトラブルを抱えている事業者の方

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