所在不明株主の株式の処理・取得等について(1)~競売・売却~
設立から長期間経過している中小企業においては、所在不明株主が存在することが少なくありません。中小企業の経営者として、所在不明株主から株式を買い取りたい等の希望がある場合の対処法は、以下のとおりです。
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所在不明株主に対する処理
所在不明株主が存在する場合で、当該株主の株式を会社側が取得したい場合、大きく分けて、以下の2通りの手続きがあります。
①所在不明株主の居所、又は当該株主の相続人を探索し、交渉により株式を買取
②裁判上の手続きにより、競売による売却、又は裁判所の許可を得て買取
所在不明株主の居所又は相続人の探索、及び交渉による株式買取
所在不明株主が存在する場合、会社側としては、所在不明株主の居所、又は当該株主が亡くなっている場合の相続人を探索して、交渉することが考えられます。その居所又は相続人の探索を行う場合、株主名簿記載の住所等から、住民票・戸籍謄本等・法人登記簿等を取り寄せ、調査を行うことになるでしょう。しかしながら、株主名簿が整理されていない場合や、記載されている住民票等からは追い切れない場合には、この手段を利用することはできません。
裁判上の手続きにより、競売による売却、又は裁判所の許可を得て買取
所在不明株主についても、当該株主の同意が得られない以上、原則として、強制的に株式を買い取ることや競売することはできません。しかし、例外的に、一定の場合には、裁判上の手続きを経て、所在不明株主の株式を競売により売却、又は裁判所の許可を得て会社・第三者が買い取ることができます。要件は以下の4つです。
①株主への通知および催告を省略できること(株主への通知又は催告が5年以上継続して到達しないこと)(会社法197条1項1号、196条1項)
②その株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しなかったこと(会社法197条1項2号)
③その株主その他の利害関係人が一定期間(3か月以上)内に異議を述べることができる旨等を公告し、かつ個別に催告すること(会社法198条1項)
④裁判所の手続を経ること(競売、又は裁判所の売却許可)(会社法197条1項柱書、2項第一文後段)
以下では、上記要件について具体的に検討します。
《 ①株主への通知および催告を省略できること(会社法197条1項1号) 》
そもそも、株主が所在不明であったとしても、原則として、当該株主に対する通知・催告を省略することはできません。
ここでいう「通知・催告」の代表例としては、株主総会の招集通知(会社法299条各項)があげられます。
会社が株主に対して行う通知・催告は、株主名簿上の株主の住所・株主が通知した場所や連絡先宛てに行えば足り(会社法126条1項)、その通知・催告は、通常到達すべきであった時に株主に到達したものとみなされます(会社法126条2項)。
そのため、株主総会の招集通知等について、会社が株主名簿上の住所等に発送している限り、実際には株主に届かず、宛先不明で会社に返送されたとしても、有効に通知・催告が行われたものとして扱われます(大審院大正8年11月18日判決・民録25輯2165頁)。これは、会社があらかじめ宛先不明で返送されると分かっていながら株主名簿記載の住所に宛てて通知・催告を発送した場合であっても同様です。
そして、このような状態が一定期間継続すると、例外的に、株主に対する通知・催告の省略が認められます。
具体的には、会社が株主に対してする通知・催告が5年以上継続して到達しない場合、会社は、その株主に対する通知・催告を省略することができます(会社法196条1項)。すなわち、不到達期間が5年未満の場合には、会社は宛先不明で返送されることが事前に判明していたとしても、株主に対する通知・催告を省略できないということです。
なお、不到達期間は、実際に発送された通知・催告が到達しなかった時から起算されるため、毎年1回送付する定時株主総会の招集通知を基準にすると、6回連続して到達しなかったことを確認して初めて、当該株主に対する通知・催告の省略が認められます。
したがって、当該株主に対する通知・催告の省略が認められるように、到達しないとわかっている場合でも、所在不明株主の住所(株主名簿に記載されている住所)に対して、定時株主総会の招集通知を5年以上(年1回の定時株主総会の招集通知であれば合計6回)にわたり行う必要があります。そして、当該通知は配達証明付郵便にて行い、宛所なしで返送された郵便物を全て保管しておく必要があります。
このような手続きを経ることにより、会社は、初めて不明株主に対する通知・催告を省略することができるようになります。
《 ②その株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しなかったこと(会社法197条1項2号) 》
こちらは条文ママですが、「その株式の株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しなかった」ことが要件となります。
《 ③その株主その他の利害関係人が一定期間(3か月以上)内に異議を述べることができる旨等を公告し、かつ個別に催告すること(会社法198条1項)》
会社が所在不明株主の株式の競売・売却を行うにあたっては、所定事項の公告と当該株式の株主およびその登録株式質権者に対して各別の催告を行うことが必要であり、株主その他の利害関係人が異議を述べないままに3か月以上の異議申述期間が経過した場合にかぎって、当該株式を競売・売却することができます(会社法198条1項。
《④裁判所の手続を経ること(競売、又は裁判所の売却許可)(会社法197条1項柱書、2項第一文後段)》
競売ではない売却による場合、非上場の中小企業のように、市場価格のない株式のときは、裁判所の許可を得て競売以外の方法により(会社法197条2項第一文後段)、当該株式を売却することができます。
この場合、会社又は第三者は、売却する株式の全部または一部を自ら買い取ることが可能となります(会社法197条3項)。
会社は、株式を競売・売却した場合、その代金を株主に交付する必要がありますが(会社法197条1項柱書)、株主は所在不明であるため、当該代金を供託することによりその債務を免れることもできます(民法494条)。
スクイーズアウトの制度を利用する方法
上記のように、所在不明株式の買取等の方法は、4つの要件を充たさない限り、利用することができません。
しかし、4つの要件を充たさない場合でも、スクイーズアウト(少数の株主から強制的に株式を取得する方法)の制度を利用することにより、所在不明株主の地位を失わせることができる場合もあります。
具体的な方法としては、
・特別支配株主の株式等売渡請求
・株式併合
の2つがあります。
こちらについては、記事「所在不明株主の株式の処理・取得等について(2)」 において、ご説明します。 また、要件①②に関しては、所在不明株主に関する会社法の特例が設けられておりますので、記事「所在不明株主の株式の処理・取得等について(3)」 において、ご説明します。