漁業法QA①(総則規定、水産資源にかかる規程)
Contents
- 1 I 総則規定について
- 2 II 水産資源管理にかかる規程について
- 2.1 Q4.漁業法の目的に掲げられている「水産資源の管理及び保存」を達成するために、同法はどのような制度を用意していますか。
- 2.2 Q5.「①資源調査」とは具体的にどのような取組みですか?
- 2.3 Q6.「②資源評価」とは具体的にどのような取組みですか?
- 2.4 Q7.「③管理目標の設定」について具体的に教えてください
- 2.5 Q8.目標管理基準値及び限界管理基準値について具体的に教えてください。
- 2.6 Q9.「④資源管理措置の実施」について具体的に教えてください。
- 2.7 Q10.農林水産大臣はどのようにして漁獲可能量等の数量を定めますか?
- 2.8 Q11.漁獲割当てはどのような基準に基づき定められますか?
- 2.9 Q12.漁獲割当てに有効期間はありますか?
- 2.10 Q13.漁獲割当割合の設定を受けるにあたり、資格制限はありますか?
- 2.11 Q14.漁獲割当割合の設定を行政庁が行わない場合はありますか。
- 2.12 Q15.漁業者が申請した漁獲割当割合の設定を行政庁が拒否する場合に、申請者の意見聴取等の手続き面の保障はなされていますか?
- 2.13 Q16.一度設定された漁獲割当割合は他者に移転することができますか?
- 2.14 Q17.漁獲割当割合の移転に当たってはどのような手続きを経る必要がありますか?
- 2.15 Q18.漁獲割当割合の設定を受けた者が死亡した場合はどうなりますか?
- 2.16 Q19.年次漁獲量割当量設定者でない場合が採捕した場合の罰則規定は定められていますか?
- 2.17 Q20.年次漁獲割当量設定者が特定水産資源の採捕をした場合には、かかる採捕に関しての報告義務等は課せられていますか?
- 2.18 Q21.漁獲割り当てによらず漁獲量等の総量の管理が行われる場合において、採捕者には漁獲量などの報告義務がありますか?
I 総則規定について
まず初めに、漁業法の目的および基本事項の定義などについての総則規定について、QA形式でご説明します。
Q1.漁業法の目的は何ですか?
A. 平成30年に改正された漁業法(以下「法」)第1条において、「この法律は、漁業が国民に対して水産物を供給する使命を有し、かつ、漁業者の秩序ある生産活動がその使命の実現に不可欠であることに鑑み、水産資源の保存及び管理のための措置並びに漁業の許可及び免許に関する制度その他の漁業生産に関する基本的制度を定めることにより、水産資源の持続的な利用を確保するとともに、水面の総合的な利用を図り、もつて漁業生産力を発展させることを目的とする。」と定められています。
水産資源の持続的な利用を確保するとともに、水面の総合的な利用を図り、もって漁業生産力の発展を目指すことについては改正前にも同法の目的として掲げられていました。一方、「海洋生物資源の保存及び管理に関する法律」(TAC法)が1996年に制定されたことを受け、資源管理及び水産資源の持続的な利用に関しても、改正後の同法において目的として明記されています。
Q2.「漁業者」の定義を教えて下さい。
A. 法第2条2項では、漁業者とは「漁業を営む者」を言います。そして、「漁業を営む」とは、営利の目的を持って漁業(水産動植物の採捕、または養殖の事業)を行うことを言います。
すなわち、漁業者とは自分が漁業の営業の主体となり、営業によって得られる利益や営業上の責任が最終的に事故に帰属する場合をいい、単にその事業に出資するだけではなく、自分でその事業を運営する者を言います。
Q3.漁業法の適用範囲となる水面について教えて下さい。
A. 法第3条と第4条に漁業法の適用範囲が定められています。
まず、原則として、同法は公共の用に供する水面(水産動植物の採捕に関し、一般の使用に供せられている水面)に適用されると法第3条に定められています。
そして、公共の用に供する水面でなくとも「公共の用に供する水面と連接して一体をなす水面」については、例外的に漁業法を適用することが法第4条において定められています。
II 水産資源管理にかかる規程について
前述の通り、平成30年の漁業法改正によって、同法の目的に「水産資源の保存及び管理」が新たに加えられることとなりました。
そこで、本項では、改正漁業法が用意している水産資源管理のための諸制度についてQA形式でご説明します。
Q4.漁業法の目的に掲げられている「水産資源の管理及び保存」を達成するために、同法はどのような制度を用意していますか。
A. 漁業法における水産資源管理については、漁業法2章(7条から35条)に規定されています。そして、かかる水産資源管理は①資源調査②資源評価③管理目標の設定④資源管理措置の実施⑤モニタリングという大きな枠組みに沿って進められることが、同法の制度における建付となっています。
Q5.「①資源調査」とは具体的にどのような取組みですか?
A. 水産資源管理を行うためには、その前提として水産資源の状況を把握することが必要です。そして、法はそのための資源調査の実施を農林水産大臣に義務付けました。具体的には、かかる調査において、海洋環境に関する情報、水産資源の生息・生育の状況に関する情報、採捕・漁労の実績に関する情報、その他、水産資源の資源量の水準など資源評価を行うために必要となる情報を収集することとされています(法9条1項)。
Q6.「②資源評価」とは具体的にどのような取組みですか?
A. 上述の資源調査の結果得られたデータに基づき、魚種ごとに資源量、漁獲圧力などが持続可能な水準にあるのか否かを科学的な見地から評価することです。法9条3項に基づき、農林水産大臣はかかる資源調査を行うことが義務付けられています。
Q7.「③管理目標の設定」について具体的に教えてください
A. 上述の資源評価結果に基づき、それぞれの水産資源ごとに、法12条1項1号に規定された「目標管理基準値」および同項2号の「限界管理基準値」を定めることが義務付けられています。
Q8.目標管理基準値及び限界管理基準値について具体的に教えてください。
A. 最大持続生産量を達成する資源水準の値を言います。そして、最大持続生産量とは、現在、および将来の自然的条件の下で持続的に採捕することが可能な水産資源の数量の最大値(=生産資源を減少させず、持続的に採捕可能な最大量)のことを言います。
また、限界管理基準値とは、これを下回ればその漁業はもはや持続可能ではないことを表す資源量のことです。
Q9.「④資源管理措置の実施」について具体的に教えてください。
A. 上述の資源管理目標の設定を踏まえて(i)漁獲可能量の設定及び(ii)漁船ごとの漁獲割当を行います。
まず、漁獲可能量とは「水産資源の保存及び管理のため、水産資源ごとに一年間採捕することができる数量の最高限度として定められる数量をいう」(法7条1項)と定義されており、その具体的な値は法15条1項に基づき農林水産大臣が定めることとされています。
また、漁獲割当てとは、管理区分ごとに配分された漁獲可能量について、その範囲内で、さらに船舶などごとに採捕可能な数量を割当てることを言います。なお、特定水産資源を採捕するものによる過去の漁業実績に係るデータが整っていない場合や、船舶等ごとの漁獲量を迅速に把握するシステムが構築できていない場合には漁獲量の総量を管理すると法第8条第4項で規定されています。
Q10.農林水産大臣はどのようにして漁獲可能量等の数量を定めますか?
A. 法第15条第2項において漁獲可能量の作成にあたっての基準が定められています。
・資源水準の値が目標管理基準値を下回っている場合は、資源水準の値が目標管理基準値を上回るまで回復させること(同項第1号)。
・資源水準の値が目標管理基準値を下回っており、かつ、資源水準の値が限界管理基準値を下回っている場合は、法第12条第1項第2号の計画にしたがって、資源水準の値が目標管理基準値を上回るまで回復させること(同項第2号)。
・資源水準の値が目標管理基準値を上回っている場合は、資源水準の値が目標管理基準値を上回る状態を維持すること(同項第3号)。
・水産資源の特性または資源評価の精度に照らして別途の目標となる値を定めたときは、推定した資源水準の値が当該別途の目標となる値を上回るまで回復させ、又はそれを上回る状態を維持すること(同項第4号)。
また、農林水産大臣は、漁獲可能量、都道府県別漁獲可能量及び大臣管理漁獲可能量を定めようとするときは、水産政策審議会の意見を聞くこと及び遅滞なく定められた水準を公表しなければなりません(法第15条3項、5項)。
Q11.漁獲割当てはどのような基準に基づき定められますか?
A. 法17条3項及び漁業法施行規則5条各号に漁獲割当ての基準が定められています。
(i)船舶等ごとの漁獲実績(法17条第3項)
(ii)船舶の総数又は総トン数(施行規則5条1号)
(iii)採捕する者の数、その採捕の実態または将来の見通し、漁業に関する法令に違反する行為の違反の程度及び違反の回数(施行規則第5条第3号)
Q12.漁獲割当てに有効期間はありますか?
A. 法第17条第2項に規定されています。漁獲割当て割合の有効期間は、1年を下らない範囲で農林水産省令で定めることとされています。そして、法施行規則第4条によれば有効期間は原則5年とされています。
Q13.漁獲割当割合の設定を受けるにあたり、資格制限はありますか?
A. 原則は漁獲割当割合の設定を受けるにあたっての資格制限はありません。
しかしながら、漁業者間での紛争を回避する観点から、一定の場合には漁獲割当割合の設定を有資格者に限定することができる規定をおいています(法17条第4項)。かかる有資格者に限定する措置をとることができるのは、以下の場合です。
(i)漁獲割当の対象となる特定水産資源の再生産の障害を防止するために、漁獲可能量による管理以外の手法による資源管理を行う必要があると認めるとき。
(ii)漁獲割当割合の設定を受けた者の間の紛争を防止する必要があると認めるとき。
Q14.漁獲割当割合の設定を行政庁が行わない場合はありますか。
A. 法第18条に漁獲割当割合の設定を行わない場合が規定されています。
(i)漁業又は労働に関する法令を遵守せず、かつ、引き続き順守することが見込まれない者(第1項第1号)。
(ii)暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律第2条第6号に規定する暴力団員又は同号に規定する暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者(第2号)。
(iii)法人であって、その役員又は政令で定める使用人のうち前ニ号のいずれかに該当する者があるもの(第3号)。
(iv)暴力団員等がその事業活動を支配する者(第4号)。
(v)その申請にかかる漁業を営むに足りる経理的基礎を有しないもの(第5号)。
Q15.漁業者が申請した漁獲割当割合の設定を行政庁が拒否する場合に、申請者の意見聴取等の手続き面の保障はなされていますか?
A. 行政庁による申請拒否処分は申請者にとっては対象となる特定水産資源の採捕ができないという重大な不利益処分であることから、農林水産大臣又は都道府県知事は、あらかじめ、その理由を文書をもって通知し、公開の意見聴取を行うことが義務付けられています(第18条第2項、第3項)。
Q16.一度設定された漁獲割当割合は他者に移転することができますか?
A. 移転は、次の移転事由に該当する場合であって、農林水産大臣又は都道府県知事の認可を受けたときに限り、移転できます(法第21条)。
(i)船舶等とともに当該船舶等ごとに設定された漁獲割当割合を譲り渡す場合(同条第1項)。
(ii)複数の船舶等について漁獲割当割合の設定を受けている場合であって、当該船舶等の間で漁獲割当割合の移転をする場合(施行規則第9条第1号)。
(iii)漁獲割当割合の設定を受けた船舶等を使用することを廃止し、当該漁獲割当割合設定者の使用する他の船舶等に当該漁獲割当割合の移転をする場合(施行規則第9条第2号)。
(iv)漁獲割当割合の設定を受けた船舶等が滅失し、又は沈没したため、当該漁獲割当割合設定者の使用する他の船舶等に当該漁獲割当割合の移転をする場合(施行規則第9条第3号)。
(v)漁獲割当割合の設定を受けた船舶等を借り受け、またはその返還を受けることにより当該船舶等を使用する権利を取得する者に当該漁獲割当割合を譲り渡す場合(施行規則第9条第4号)。
Q17.漁獲割当割合の移転に当たってはどのような手続きを経る必要がありますか?
A. 移転を受けようとする者は、漁獲割当割合の設定を受ける船舶等ごとに、農林水産大臣又は都道府県知事に申請しなければいけません(施行規則第10条第1項)。当該申請は移転をしようとするものと移転を受けようとする者が共同して行います(同条第2項)。
Q18.漁獲割当割合の設定を受けた者が死亡した場合はどうなりますか?
A. 死亡の場合は相続人が承継します(法21条3項)。地位を承継した場合は承継の日から二ヶ月以内に農林水産大臣又は都道府県知事に届け出ます。
Q19.年次漁獲量割当量設定者でない場合が採捕した場合の罰則規定は定められていますか?
A. 漁獲割当管理区分においては、年次漁獲量割当量設定者以外は採捕を禁じられています(法第25条)。違反者は法第190条第1号の規定により3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又はこれらの併科に処されます。設定者であってもその設定量を超える採捕が禁じられます。
Q20.年次漁獲割当量設定者が特定水産資源の採捕をした場合には、かかる採捕に関しての報告義務等は課せられていますか?
A. 年次漁獲割当量設定者が特定水産資源の採捕をしたときは、氏名、住所、採捕した資源、漁獲割当管理区分、設定を受けた年次漁獲割当量、漁獲量、陸上げ日等を農林水産大臣又は都道府県知事に報告する必要があります(法第26条、施行規則第16条第2項)。
Q21.漁獲割り当てによらず漁獲量等の総量の管理が行われる場合において、採捕者には漁獲量などの報告義務がありますか?
A. 法第30条第1項に規定されています。漁獲割り当て管理区分以外であっても、採捕をした者は漁獲量または漁獲努力量、氏名住所、管理区分、陸上げ日等を報告します(施行規則第19条第2項)。