固定残業代(みなし残業代)を定めている場合の注意点~残業代の二重払いを避けるために~

はじめに

 コロナ禍の影響で、やむを得ず従業員の方に退職をお願いする場面が増えてきています。
 それに伴い、退職後に未払残業代の支払請求をされることも、少なくないようです。

 残業代について、トラブルになる点は多々ありますが、本コラムでは固定残業代の注意点についてご説明します。

 食品・飲食業界においても、固定残業代を定めている事業者の方は多いようです。
 しかし、制度運用の誤解から、事業者側に大きな損害が生じることがあります。

固定残業代(みなし残業代)の落とし穴(残業代の二重払い)

 固定残業代とは、一定の金額の支払いにより、残業代を支払ったこととするものです。
 例えば、「基本給24万円」、「時間外手当6万円(月30時間分)」とするときの「時間外手当6万円(月30時間分)」等です。

 しかし、この制度は運用方法を間違えると、
・時間外手当6万円を支払っていたのに、残業代を1円も支払っていないと評価される。
・固定残業代部分を含めて割増賃金の基礎と評価されてしまい、1時間あたりの単価が高くなる。この高い単価をもとに、更に残業代を支払わされる。
 という状況になる危険性があります。

具体例

 以下のような事例で考えてみましょう。
・1月あたりの労働時間・160時間
・基本給・月24万円(1月160時間なので、1時間あたり1,500円)
・固定残業代・月6万円(月30時間分、1時間あたり2,000円)

 このとき、固定残業代の運用を間違えることにより、以下のようなリスクが生じます。
・月30時間分の残業代の支払いはなかったと評価されてしまう。
・1時間あたりの単価を算定する基礎賃金を、基本給24万円ではなく、30万円(=24万円+6万円)とされてしまう(1時間あたり1,875円)。
・この1時間あたり1,875円を基礎として、実際に残業した時間について残業代が計算される。
(休日・深夜労働等がないとすると、例えば月の残業時間が30時間であれば、1,875円×1.25×30時間=7万0312円)
・そのため、当該従業員に対して、1月あたり30万円の支払いでは足りず、上記の例であれば37万0312円を支払う必要が生じる。

 この場合、事業者としては、月30時間分の残業代を支払っていたと考えていたのに、制度の運用を間違えていたために、残業代を1円も支払っていなかったと評価されてしまいます。
 その上、高くなった単価をベースに、更に月30時間分の残業代を支払うこととなります。
 このように、二重に残業代を支払わされることがあるのです。

残業代の二重払いを避けるためには

 では、このようなリスクを避けるためには、どのような対応が必要でしょうか。

 字数の関係で、ここでは概要の説明にとどめますが、ポイントは以下の3つです。

就業規則・賃金規程等に、固定残業代としていくら支払っているかを明記

 先ほどの例のように、「基本給・月24万円」、「時間外手当・月6万円(1月あたり30時間)」と就業規則・賃金規程・雇用契約書等に記載されていれば、(1)の要件はOKです。

 他方で、以下のような場合は、見直しを検討した方がよいでしょう。

<例1「月給30万円(固定残業代を含む)」>
→これでは、固定残業代として支払っているのはいくらなのか、わかりません。

<例2「基本給・月24万円」、「営業手当・残業手当等合計月6万円」>
→こちらも、固定残業代として支払っているのはいくらなのか、わかりません。

 固定残業代としていくら支払うのかを明示することが必要です。

 それが何時間分の時間外労働に相当するものなのかについても明示できると、より良いでしょう。

基本給と固定残業代のバランス

 基本給と固定残業代のバランスにも気を付ける必要があります。

 例えば、「基本給・月15万円」、「固定残業代・月15万円」等という場合、基本給を低くして、固定残業代でカバーしていると評価されかねません。

 つまり、「そもそも固定残業代の一部が、実質的に基本給なのでは?」と考えられてしまう可能性があるということです。

 固定残業代の金額については、基本給の2~3割程度に抑えられていれば、問題になりにくいでしょう(もちろん、ケースバイケースの対応が必要です)。

毎月の時間外労働の記録、固定残業代を超えた額の割増賃金が生じた場合における差額の支払い

 法定の割増賃金額が固定残業代の額よりも高い場合には、以下のとおり差額分を固定残業代とは別に支払わなければなりません。

・時間外労働の記録と、時間外労働の時間に基づく割増賃金の計算
・休日・深夜労働の記録と、休日・深夜労働の時間に基づく割増賃金の計算
・これらの合計が、固定残業代よりも高い場合には、差額の清算(※)
※ 固定残業代に、休日・深夜労働の割増賃金を含む場合。含まない場合には、別途の清算が必要となります。

 固定残業代を定める場合、以上の(1)~(3)を満たす必要があります。

最後に

 以上のとおり、固定残業代制度の注意点についてご説明しました。
 固定残業代は、誤解により事業者側が残業代の二重払いを強いられる例が少なくないところです。

 今一度、自社の就業規則・賃金規程・雇用契約書等を見直していただき、上記3つのポイントを満たす内容となっているか、ご確認いただければと存じます。

 何かご質問等あれば、お気軽にご連絡ください。

お問い合わせフォームまたはお電話にてお問い合わせください。 TEL:03-3597-5755 予約受付時間9:00~18:00 虎ノ門カレッジ法律事務所 お問い合わせはコチラをクリックしてください。

法律相談のご予約はお電話で(予約受付時間9:00~18:00) TEL:03-3597-5755 虎ノ門カレッジ法律事務所