フランチャイズ(FC)契約と違約金について

はじめに

 フランチャイズ(FC)契約においては、契約違反に対する違約金条項が定められることが一般的です。
 もっとも、FC契約においてはフランチャイザー(本部)の優位性を背景にフランチャイジー(加盟店)の支払うべき違約金額が不当に高額となっているケースがあり、実際に裁判で争われた例もあります。
 そこで、FC契約に定められる違約金について裁判例を交えながら説明します。

FC契約における違約金

損害賠償額の予定

 FC契約においてフランチャイジーの契約違反に対する違約金が定められることがあります。
 違約金は、契約書に異なる定めがない限り損害賠償額の予定と推定されます(民法420条第3項)。

 損害賠償額の予定:契約当事者の一方が債務不履行をした場合における損害賠償額をあらかじめ契約で定めておくもの損害賠償額の予定としてFC契約に違約金を定めた場合、フランチャイザーはフランチャイジーの債務不履行の事実さえ証明すればよく、損害が発生した事実や損害額の証明がなくても契約上定められた違約金を請求することができます。

 特にFC契約においては、具体的な損害額の証明は難しいことが多く、この証明が不要となることは請求する側にとって大きなメリットといえます。

民法改正との関係

 2020年4月1日施行の改正民法以前は、裁判所は原則として違約金を減額できないこととされていました(改正前民法420条1項後段)。
 このため、不当に高額な違約金の定めがある事案において、裁判所は違約金条項が公序良俗違反(民法90条)であることを根拠に違約金の減額を認めてきた経緯があります。

 民法改正により、裁判所が原則として違約金を減額できないとの条文が削除されました。
 このため、今後は公序良俗違反を理由としなくても、裁判所が正面から違約金額の妥当性を判断することが可能となります。

FC契約において問題となる2種類の違約金

 FC契約に定められる違約金条項としては、大きく分けてFC契約の中途解約に対する違約金とFC契約終了後の違約金の2つがあります。
 そこで、以下では2つの類型ごとに、違約金条項の具体的内容と、食品・飲食事業に関する裁判例について解説します。

中途解約に対する違約金

中途解約に対する違約金とは

 FC契約の一方当事者から、契約期間満了前に中途解約がされることがあります。
 中途解約の原因となるのはロイヤルティ不払いなどといった契約違反のほか、契約当事者間の信頼関係を毀損する行為などがあります。

 FC契約においては、契約違反等に基づき中途解約される場合において解約された側が違約金を支払う旨が定められていることがあります。

 これに加え、FC契約の一方当事者が契約期間満了前に解約することそれ自体について違約金支払い義務が定められていることもあります。
 この意味の違約金は、解約一時金などと呼ばれることもあり、解約に至った理由にかかわらず違約金が発生するものです。

FC契約における具体的な条項例

 FC契約の中途解約事由となるものとして比較的よくあるのは、フランチャイジーによるロイヤルティの不払いです。
 ロイヤルティの支払いは、フランチャイザーが有する商標やノウハウ利用の対価であり、FC契約の根幹をなすものです。そのため、FC契約においてはロイヤルティの不払いは中途解約事由となり、また違約金支払い義務の対象とされていることが一般的です。

 また、FC契約は継続的契約であることから契約当事者間の信頼関係が重要となります。
 このため、一方当事者に信頼関係を破壊するような背信行為があった場合には、中途解約事由に該当すると考えられています。

 さらに、前述のとおり、一方当事者による中途解約それ自体について違約金(解約一時金)の支払い義務が定められる例があります。
 ただし、この解約一時金としての違約金が極めて高額である場合には、実質的に中途解約を禁止するに等しいものといえるでしょう。このような場合には、一方当事者の経済活動の自由を不当に制限するものであるとして、公序良俗違反により無効とされる余地があります。

中途解約違約金に関する裁判例の紹介

①ほっかほっか亭大阪事業本部事件(大阪地判昭和61年10月8日判時1223号96頁)

結論

公序良俗違反なし
契約書通りの違約金の支払義務を肯定

概要

フランチャイジーが他の加盟店に対し「金儲主義の本部追放」などといった表現を含む文書を送付し協同組合設立を呼びかけ、また本部の指定に反する方法で原材料を購入するなどした。これに対し、裁判所はフランチャイジーの行為は約定解約原因にあたり、FC契約違反を理由とするフランチャイザーの解約権行使は正当であるとして約定どおりロイヤルティ60か月分に相当する違約金の支払いを認めた。


②本家かまどや事件(神戸地判平成4年7月20日判タ805号124頁)

結論

公序良俗違反あり
契約書に定める違約金の2分の1の限度で支払義務を肯定

概要

フランチャイジーは指定業者以外の者から原材料を購入したり、販売商品の一部についてフランチャイザーの指定に反して無断で販売価格を設定するなどした。これに対し、裁判所はフランチャイジーの契約違反を認定しつつ、ロイヤルティ60か月分に相当する300万円の違約金はフランチャイザーが被ることが予想される損害の程度と比較して著しく均衡を失するとして150万円を超える部分については公序良俗違反により無効であるとした。


③ニコマート事件(東京地判平成6年1月12日判時1524号56頁)

結論

公序良俗違反あり
契約書に定める違約金の2分の1の限度で支払義務を肯定

概要

FC契約期間中のフランチャイジーによる競業行為について、裁判所は中途解約事由に該当するとした上で、約定の違約金6720万円(120か月分のロイヤルティ相当額)は著しく高額であり840万円(30か月分のロイヤルティ相当額)を超える部分は公序良俗違反により無効と判断した。この裁判所の判断においては、もともとフランチャイザーがフランチャイジーに対して店舗の営業権及び在庫商品を譲渡する対価として約1400万円と評価していたことが参考にされた。

中途解約違約金のまとめ

 FC契約期間中の違約金に関して争われる事例では、違約金額の多寡が主要な争点となることが大半です。
 裁判所は、単純に「ロイヤルティ何か月分であれば問題なし」としているのではなく、フランチャイジー側の契約違反行為の程度も比較考量した上で違約金額が著しく高額といえるかを判断している点に注意が必要です。

契約終了後の違約金

契約終了後の違約金とは

 FC契約においては、契約終了後も一定の義務が存続する旨の条項が定められていることがあります。
 代表的なものとしては、FC契約終了後の競業避止義務や秘密保持義務、商標権侵害の禁止などです。

 FC契約に定められている契約終了後の義務に違反した場合にも違約金の定めが適用されることが一般的です。

FC契約における具体的な条項例

《 秘密保持義務 》
 FC契約の本質は、端的に言えばフランチャイザーの有するノウハウをフランチャイジーに利用許諾する点にあります。

 ここでいうノウハウは、不正競争防止法上の保護を受ける「営業秘密」だけではなく、「営業秘密」には該当しない経営上のノウハウも含むことが一般的です。

 したがって、ノウハウの提供こそがフランチャイズ・システムの根幹をなすものといえ、FC契約の終了後にフランチャイジーがノウハウを不正に利用するとすれば、フランチャイザーは大きな損害を受けるおそれがあります。

 このため、FC契約においては契約終了後にフランチャイジーがフランチャイザーの有するノウハウを利用したり第三者に漏洩することを禁止する秘密保持義務が定められることが通常です。

《 競業避止義務 》 
 FC契約においては、「契約終了後において、〇〇市内でフランチャイジーがフランチャイザーの営業と同一又は類似の営業をすることを禁止する」といった契約終了後の競業避止義務が定められることがあります。

 競業避止特約の目的としてはノウハウ保護と商圏保護の2つがあり得るところ、当該特約において場所的・地域的な限定がある場合には後者の商圏保護が主たる目的であると解釈されることになります。
 これに加え、前述した秘密保持義務をFC契約に定めたとしても実際には義務違反を立証することには困難が伴うため、ノウハウ等の秘密保持を確実なものとするためにも競業避止義務を定めておく意味があります。

 ただし、競業避止特約はフランチャイジーの営業の自由を不当に制約する可能性があるため無制限に認められるものではなく、地域や期間等の限定を要すると考えられています。
 不当な競業避止義務を定める条項に関しては、全部または一部が公序良俗違反となる可能性があります。

 なお、公正取引委員会も、「本部が加盟者に対して、特定地域で成立している本部の商権の維持、本部が加盟者に対して供与したノウハウの保護等に必要な範囲を超えるような地域、期間又は内容の競業禁止義務を課すこと」については独占禁止法で禁止される優越的地位の濫用に該当するとの見解を示しています(公正取引委員会「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」平成14年4月24日)。

《 商標権侵害の禁止 》
 商標とは、事業者が自己の商品やサービスについて使用する符号、マーク等をいいます。
 商標は商標法に基づく登録が可能です。

 有名なフランチャイザーの有する商標に対しては消費者の絶大な信頼があります。
 FC契約の締結によりフランチャイジーはフランチャイザーの有する商標を利用する権利を得ることで、フランチャイザーが培ってきた事業上の信用を利用できることになります。
 したがって、フランチャイザーの有する商標の利用はノウハウの提供と並んでFC契約の根幹をなすものといえます。

 他方で、FC契約終了後にもフランチャイザーの商標がフランチャイジーに自由に使われるとすれば商標の有する財産的価値へのフリーライドを許すことになります。

 そこで、これを阻止するためFC契約では「フランチャイジーは契約終了後〇日以内にフランチャイザーの名称、サービスマーク、商標等を表示した看板等を一切撤去する」といった条項が定められることが通常です。

契約終了後の違約金に関する裁判例の紹介

①日本さわやかグループ事件(原審:浦和地判平成6年4月28日判タ875号137頁、控訴審:東京高判平成7年2月27日判タ875号137頁)

結論

地裁:公序良俗違反あり。契約書に定める違約金の20分の1以下の限度で支払義務を肯定
高裁:そもそも義務違反がなく、損害賠償義務なし

概要

FC契約解約後にフランチャイジーがサービスマーク等の撤去義務に違反しているとしてフランチャイザーが違約金800万円の支払いを求めた。これに対し原審は、具体的な違反行為を考慮しないまま一律に800万円(ロイヤルティ60年分以上に相当)を違約金として支払わせることはフランチャイザーの予想される損害を最大限考慮したとしても著しく均衡を失しているとして30万円を超える部分は公序良俗違反により無効であるとした。
もっとも、控訴審は、フランチャイザーが残存しているサービスマーク等について不問に付した事実を認定して、フランチャイジーの義務違反自体がないことを理由として違約金支払い義務を否定した。


②京たこ事件(名古屋地判平成14年3月1日)

結論

公序良俗違反なし。
契約書通りの違約金の支払義務を肯定

概要

フランチャイザーがフランチャイジーに対し、FC契約終了後もフランチャイザーの商標及びたこ焼き用銅板等を使用してたこ焼き店を営業していること、及び加盟時と同一の場所で同種の営業を継続することが競業禁止特約に違反しているとして違約金約1450万円(売上3か月分相当)の支払いを求めた。これに対して、裁判所は競業禁止特約及び違約金条項にそれなりの合理性があるとしてフランチャイザーの請求を認めた。

契約終了後の違約金のまとめ

 裁判例において、FC契約終了後の秘密保持義務違反が主要な争点となったものは少なく、多くの場合に競業避止義務違反として争われています。競業避止義務に関しては、期間や地域、業種など適用範囲に限定があれば有効性が否定されることはほとんどないのが実情です。

 また、FC契約終了後の商標やサービスマーク等の無断使用が争われる事例もみられます。
 商標等はフランチャイザーの事業にとっての重要性が高いため、無断使用に対しては差し止め等が可能です。

 ただし、日本さわやかグループ事件のように契約終了後の使用を知った上で一度は許容したなどの事情があると、その後の使用について契約違反に基づく損害賠償請求が認められなくなる可能性があるため注意を要します。

まとめ

 以上、FC契約における2種類の違約金について、食品・飲食事業に関する裁判例の紹介を中心に、ご説明いたしました。

 以下のような点でお悩みの方は、ご遠慮なくご相談ください
● フランチャイザーとして、FC制度の設計にあたり、違約金条項の内容について迷われている方
● フランチャイザーとして、フランチャイジーに対し、違約金条項に基づく損害賠償請求を検討している方
● フランチャイジーとして、フランチャイザーから違約金条項に基づく損害賠償請求を受けないか心配な方、または実際に損害賠償請求を受けている方

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