食品衛生法の改正について

第1 はじめに

 食を巡る環境の変化等に応じて食品の安全を確保すべく、食品衛生法が平成30年に改正され、令和3年6月に完全施行されました。今回の改正により大きく変更された点もあり、食品等事業者にあっては、法令を十分理解し、適切に運用するための体制構築を迫られていることと推察します。

 そこで、以下では、平成30年の食品衛生法改正の全体像について解説していきます。

 

第2 改正の背景・趣旨

 食品衛生法が大きく改正されるに至った背景・趣旨には、以下のような事情が存在します()。

・食を取り巻く環境の変化や多様化・グローバル化が進んだことで旧食品衛生法が実態にそぐわない規定内容になっていること

・改正を検討した当時におけるオリンピック・パラリンピックに向けた食の安全の要請や、食品輸出を増加させる意図から、食品衛生管理を国際標準化する必要があること

・食中毒事件発生数が下げ止まりしており、食品衛生を向上させるための体制作りが必要であること

 これらの事情を受け、平成30年の改正により、後述する個別の新制度が設けられたものと考えられます。

厚生労働省「改正の背景・趣旨」

https://www.mhlw.go.jp/content/11131500/000345948.pdf

 

第3 改正の全体像

 平成30年の改正の対象とされたのは、以下の7項目です。

① 大規模又は広域におよぶ食中毒への対策を強化(食品衛生法21条の2ないし24条等)

② HACCPに沿った衛生管理を制度化(食品衛生法51条等)

③ 特定の食品による健康被害情報の届出を義務化(食品衛生法8条等)

④ 食品用器具・容器包装にポジティブリスト制度を導入(食品衛生法18条3項等)

⑤ 営業許可制度の見直しと営業届出制度の創設(食品衛生法54条ないし57条等)

⑥ 食品等の自主回収(リコール)情報の行政への報告を義務化(食品衛生法58条等)

⑦ 輸出入食品の安全証明の充実(食品衛生法102項、11条等)

 以下では、上記①~⑦の改正点について、簡潔に解説していきます。改正内容の詳細については、当サイトの該当記事などを参照してください。

① 大規模又は広域におよぶ食中毒への対策を強化

 平成29年7月から9月に関東地方で発生した都道府県を跨ぐ大規模な食中毒事件での課題等を受けて改正に至ったものです。このような広域にわたる食中毒事件を防止するため、広域連携協議会を設置する(食品衛生法21条の3第1項)など、都道府県や国の連携体制の強化が図られました。
施行期日:公布日(平成30年6月13日)から1年以内(食品衛生法等の一部を改正する法律(平成30年法律第46号)附則1条柱書但書、1条2号)とされ、政令(平成30年政令第321号)により、平成31年4月1日と定められました。
→ 詳細については、「広域的な食中毒事案への対策強化について~改正食品衛生法①~」をご参照ください。

② HACCPに沿った衛生管理を制度化

 HACCP(ハサップ)とは、食品の安全を確保するための衛生管理手法のことで、EU各国や米国など多くの国で採用されているものです。日本も、食品の安全の国際標準化を図るため、今回導入するに至りました。

これにより、原則として全ての営業者に、HACCPに沿った衛生管理基準の遵守が求められます。営業者は、業種やその規模に応じて「HACCPに基づく衛生管理」又は「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」のいずれかの衛生管理を実施する必要があります。

 施行期日:公布日(平成30年6月13日)から2年以内(食品衛生法等の一部を改正する法律(平成30年法律第46号)附則1条柱書本文)とされ、政令(令和元年政令第121号)により、令和2年6月1日と定められました。

 経過措置:施行後についても1年間は猶予期間(食品衛生法等の一部を改正する法律(平成30年法律第46号)附則5条)

 詳細については、HACCPに沿った衛生管理の制度化~改正食品衛生法②~」をご参照ください。

③ 特定の食品による健康被害情報の届出を義務化

 法令上の根拠を持たずに「健康食品」などが販売されている情勢や、一部の「健康食品」による健康被害と思われる事例が生じていることを受けて、「特別の注意を必要とする成分等」を含む食品による健康被害情報について、営業者が情報を得た場合には、都道府県知事等に届け出ることが義務付けられました。

 「特別の注意を必要とする成分等」については、必要に応じて、厚生労働大臣により随時指定されます。現在(令和4年11月)のところ、コレウス・フォルスコリー、ドオウレン、プエラリア・ミリフィカ、ブラックコホシュが指定されています。

 施行期日:公布日(平成30年6月13日)から2年以内(食品衛生法等の一部を改正する法律(平成30年法律第46号)附則1条柱書本文)とされ、政令(令和元年政令第121号)により、令和2年6月1日と定められました。

 詳細については、「特別の注意を必要とする成分等を含む食品による健康被害情報の届出制度等について~改正食品衛生法③~」をご参照ください。

 

④ 食品用器具・容器包装にポジティブリスト制度を導入

 ポジティブリスト制度とは、規格の定まっていない原材料を用いた食品用器具・容器包装の使用を原則として全面禁止した上で、使用を認めるものだけをリスト化し、安全が担保されたもののみ使用できるとするものです。改正法は、「政令で定める特定の材質」を用いた食品用器具・容器包装について、ポジティブリスト制度を導入するとともに、製造管理過程の適正化も図っており、さらに、原材料や容器包装の製造者、消費者に食品を提供する事業者に至るまで、ポジティブリストへの適合性を確認できる情報が伝達されるように規定を整備しています。

 「政令で定める特定の材質」としては、現在(令和4年11月)のところ、合成樹脂のみが指定されています。

 施行期日:公布日(平成30年6月13日)から2年以内(食品衛生法等の一部を改正する法律(平成30年法律第46号)附則1条柱書本文)とされ、政令(令和元年政令第121号)により、令和2年6月1日と定められました。

 経過措置:①施行日より前に製造等している食品用器具・容器包装はポジティブリスト制度の対象にならず、②既存の器具・容器包装と「同様のもの」は、施行日から5年間(令和2年6月1日から令和7年5月31日までの間)、ポジティブリスト適合とみなされます(食品衛生法等の一部を改正する法律(平成30年法律第46号)附則4条、「食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件」(令和2年厚生労働省告示第 196 号))。

 詳細については、「食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度について~改正食品衛生法④~」をご参照ください。

 

⑤ 営業許可制度の見直しと営業届出制度の創設

 営業許可制度の見直しとは、コンビニなど多様な営業形態をもつ事業者が増えてきたことを受けて、「一施設一許可」の原則の下、許可業種を見直すものです。

 他方で、営業届出制度とは、営業者に対し、許可よりもハードルの低い届出を課す制度です。従来、届出制度の有無は自治体により異なっていましたが、HACCPに沿った衛生管理制度の創設に伴い、営業許可の対象外の営業者であっても、行政がその所在等を把握する必要が生じたため、統一的な届出制度が導入されるに至りました。

 原則として、営業許可業種以外の全ての業種が営業届出制度の対象に包含されますが、以下に掲げる営業については、例外的に届出対象外となります。

 ・公衆衛生に与える影響が少ない営業で、政令で定めるもの(食品衛生法57条1項括弧書、食品衛生法施行令35条の2各号)

 ・食鳥処理の事業(食品衛生法57条1項括弧書)

 このように、今回の改正では、個々の業種ごとに生じ得るリスクに応じて、許可業種・届出業種・届出対象外業種の整理がなされました。 

 施行期日:公布日(平成30年6月13日)から3年以内(食品衛生法等の一部を改正する法律(平成30年法律第46号)附則1条柱書但書、1条3号)とされ、政令(令和元年政令第121号)により、令和3年6月1日と定められました。

 経過措置:届出を要する者について、既に営業している場合には、施行日から6ヶ月以内の届出が必要(食品衛生法等の一部を改正する法律(平成30年法律第46号)附則8条)

 詳細については、「営業許可制度の見直しと営業届出制度の創設~改正食品衛生法⑤~」をご参照ください。

 

⑥ 食品等の自主回収(リコール)情報の行政への報告を義務化

 消費者への情報提供や行政による的確な監視指導を実現するため、食品や添加物、器具・容器包装を回収する場合には、遅滞なく回収に着手した旨、及び回収の状況を都道府県知事等に届け出ることが義務付けられました(食品衛生法581項柱書)。届出の内容は公表され、健康被害や食品衛生法違反の防止に繋げられます。

 施行期日:公布日(平成30年6月13日)から3年以内(食品衛生法等の一部を改正する法律(平成30年法律第46号)附則1条柱書但書、1条3号)とされ、政令(令和元年政令第121号)により、令和3年6月1日と定められました。

 詳細については、「食品等の自主回収報告制度について~改正食品衛生法⑥~」をご参照ください。

⑦ 輸出入食品の安全証明の充実

 輸入食品の安全性の強化の要請やHACCPの導入を受けて、食肉等、乳・乳製品、生食用かき・ふぐを対象に、衛生証明書の添付義務など輸入要件を変更するものです。

 施行期日:公布日(平成30年6月13日)から2年以内(食品衛生法等の一部を改正する法律(平成30年法律第46号)附則1条柱書本文)とされ、政令(令和元年政令第121号)により、令和2年6月1日と定められました。

 経過措置:施行日から1年間は努力目標(食品衛生法等の一部を改正する法律(平成30年法律第46号)附則2条)

 詳細については、「輸入食品の安全証明の充実~改正食品衛生法⑦~」をご参照ください。

 

第4 まとめ

 以上、簡潔に食品衛生法の全体像を見てきました。これらの制度は、いずれも食品の安全に資するものであり、食品等事業者は適切に対応することが求められます。疑問点などがある場合、保健所や弁護士などの専門家へ相談することをお勧めします。

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