株式の相続による準共有
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株式を相続した場合、株主の地位はどうなるか
ある会社の株主が亡くなったとき、その株主の有していた株式はどうなるのでしょうか。会社としては、株主総会の開催や、そこでの議決権行使はどのようにしたらいいのでしょうか。
この記事では、株主の相続が発生した場合についてご説明します。
相続による株式の準共有
株主が死亡し相続が発生した場合、遺産分割協議がされるまで、その株式は共同相続人間で共有されます(正確には準共有といいますが、以下では単に共有といいます)。
株式を共有するという意味について、以下の具体例でご説明します。
甲株式会社(発行済株式総数180株) |
この事例で、Aが亡くなったとします。この場合、その相続人はX・Yという子供2人であり、相続分は2分の1ずつですので、共同相続人X・YはAの株式150株を相続分2分の1ずつの割合で共有することになります。
しかし、共同相続人X・YはAの株式150株を半分(75株)ずつ所有することになるということではなく、1株について2分の1ずつの持分で150株全部について2人で共有することになるということです。
共有状態が続く間は、各共有者は、共有物である株式を勝手に売却することはできません。
準共有者が権利行使するためには
権利行使者の指定・通知がある場合
では、このような共有状態において、株式を共有する共同相続人は、株式について権利行使するにはどうしたらいいのでしょうか。
会社法では、株式の共有者は、権利行使すべき者1人を共有者の中から指定し、会社に通知しなければならないと定められています(会社法106条本文)。
反対に、会社としては、通知された権利行使者に権利行使させればよいということになります。会社の便宜が図られているのです。
先ほどの事例でいうと、Aの株式150株について、共有者であるX・Y間でXを権利行使者に指定することが合意され、それを甲社に通知すれば、X・YはAの株式150株について権利行使することができます。甲社としても、指定されたXにAの株式150株について権利行使させればよいということになります。
会社の同意がある場合
ただし、権利行使者の指定・通知がない場合でも、株式の共有者は、会社の同意があれば株式について権利行使できるとされています(会社法106条但書)。
もっとも、この場合、会社は、会社の便宜を図るという利益を自ら放棄することになります。
そのため、権利行使者以外の共有者の権利行使によって他の共有者に損害が生じた場合には、会社は、損害賠償責任や総会決議取消し等のリスクを負うことになります。
判例も、会社が権利行使者以外の共有者の権利行使に同意したとしても、権利行使が民法の共有に関する規定に従ったものでない場合は、その権利行使は適法とはならない旨を判示しています(最判平成27・2・19民集69・1・25)。
先ほどの事例でいうと、Aの株式150株について、共有者であるX・Y間で誰を権利行使者に指定するか合意できず甲社への指定もない場合でも、Xは、甲社の同意があれば、Aの株式150株について権利行使(たとえば、議決権行使)をすることができます。
もっとも、民法の共有に関する規定に従うと、議決権行使が共有物(Aの株式)の管理行為にあたる場合、XとYの相続分は2分の1ずつですので、XはAの株式150株について相続分に応じた持分の過半数(76株以上)を取ることができず、Aの株式150株について議決権行使はできないはずです。甲社は、それにもかかわらずAの株式150株についてXの議決権行使を認めたことから、他の共有者Yから損害賠償請求や総会決議取消訴訟等をされるというリスクが生じるということです。
権利行使者の指定なく権利行使できる特段の事情がある場合
権利行使者の指定・通知がない場合でも、判例上、特段の事情がある場合には、株式の共有者による権利行使(総会決議不存在確認の訴えの提起等)が認められることがあります(最判平成2・12・4民集44・9・1165等)。
たとえば、実際には権利行使者の指定・通知がない状態で、会社が権利行使者の指定・通知がされたことを前提とする行動をとっていながら、他方で権利行使者の指定・通知がないことを主張して共有者の権利行使を阻害しようとすることは著しく信義則に反するといえるでしょう。
このような場合に、特段の事情ありとして、権利行使が認められることがあるとされています。
先ほどの事例でいうと、Aの株式150株について、共有者であるX・Y間で誰を権利行使者に指定するか合意できず甲社への指定もない場合、Yは、Aの株式150株について権利行使(たとえば、総会決議不存在確認の訴えの提起)はできないことが原則です。
他方、甲社としても、Aの株式150株が甲社の発行済株式総数180株の多数を占める状況において、権利行使者の指定・通知がない場合、XはAの株式150株について相続分に応じた持分の過半数(76株以上)を取っていない以上、総会特別決議を成立させることはできません。
それにもかかわらず、甲社において総会特別決議が成立したとして会社運営がされている場合には、甲社は権利行使者の指定・通知がされたことを前提とする行動をとっていることになり、Yから総会決議不存在確認の訴えが提起された場合、権利行使者の指定・通知がされていないことを理由としてこれを否定することは著しく信義則に反するためできないと判断される可能性があります。
Yの側から見ると、特段の事情ありとして、Aの株式150株について権利行使(総会決議不存在確認の訴えの提起)が認められることがあるということです。
権利行使者の指定の方法
株式の共有は、相続以外にも、組合の形成等の場合も生じ得ます。
株式の共有者による権利行使者の指定は、通常、共有物の管理行為にあたるとして、持分価格の過半数で行うことができます(民法252条本文)。
相続による株式の共有の場合も、判例上、相続分に応じた持分の過半数で決定できるとされています(最判平成9・1・28判時1599・139)。
ただし、権利行使者の決定過程及びそれに基づく権利行使が権利濫用にあたるとされることがあります(大阪高判平成20・11・28判時2037・137)。
この裁判例の事案は以下のようなものでした。
・発行可能株式総数3万株の同族会社の紛争
・父は9700株を保有していたが死亡し相続が発生
・相続発生前、長女派は5500株、次女派は1万4800株を保有
・父の9700株について、長女派(長女及び三女)は法定相続分の過半数を保有
・長女派は、父の9700株について三女(長女派)を権利行使者に指定したとして会社に通知し、長女等を取締役に選任する旨の議案を株主総会に提出
・父の9700株について長女派が議決権行使できる場合、長女派はわすか400株の差で議決権の過半数を獲得
(長女派:元々保有していた5500株+父の9700株=1万5200株、次女派:1万4800株)
・長女派は、上記議案が可決されたことの確認を求めて訴訟提起
この裁判例では、同族企業において、共同相続人間で会社支配権をめぐる争いがある場合に、大株主の死亡・相続という偶然の事情によって、遺産分割がされるまでの間、暫定的に共有状態に至ったにもかかわらず、一方の側がわずかな差で議決権の過半数を占めることになることを奇貨として、権利行使者の指定について真摯に協議する意思なく、持分の過半数をもって権利行使者を指定し議決権を行使したことは、権利濫用にあたる旨が判示されました。
権利行使者の権限
指定・通知された権利行使者は、判例上、会社との関係では、他の共有者の意思に拘束されず自己の判断に基づき権利行使できるとされています(最判昭和53・4・14民集32・3・601)。
あらかじめ株式を相続する者を指定しておくべきこと
以上のとおり、共同相続人間で権利行使者を指定して会社に通知することで、遺産分割協議が整うまでの間、相続した株式について権利行使することができます。
しかし、誰を指定するかについて共同相続人間で協議がまとまらず、どの共同相続人も過半数をとることができない場合は、権利行使者の指定・通知はできません。
これは、被相続人が大株主である会社の場合、特に問題です。
たとえば、判例上、相続された株式も定足数の母数に入れるとされているため(上記の最判平成27・2・19民集69・1・25)、権利行使者の指定・通知ができないと、株主総会の定足数を充たさず、株主総会を開催できないことになり、会社の意思決定が滞ってしまうというおそれがあるのです。
先ほどの事例でいうと、Aの株式150株も定足数の母数に入れて計算することになるため、甲社株主総会の定足数が過半数とされている場合(発行済株式総数は180株)、定足数を充たすには、91株の議決権を有する株主が出席しなければなりません。
しかし、Aの株式150株について権利行使者の指定・通知ができない場合、X(30株)が出席しても、定足数を充たさず株主総会を開催できないのです。
このような事態を未然に防ぐには、あらかじめ遺言を用意し、特定の者に株式を相続させる旨を法律の定める書式・手続にしたがって記載しておくことなどが重要となるでしょう。
まとめ
ここまで、株式の相続による準共有についてご説明しました。
以下のような点でお悩みの食品・飲食事業者の方は、ぜひご相談ください。
・大株主である自己の株式を上手く相続させることで、事業承継を円滑に行いたい方
・自社の株主に相続が発生したが、複数の相続人にどのように対応すべきか不安な方
・株式を複数の相続人で準共有するに至ったが、権利行使について共同相続人間で対立している方