フランチャイズ契約における競業避止義務

 

 食品・飲食事業に関するFC契約では、競業避止義務違反がよく問題となります。
 例えば、飲食店事業のFC契約が終了した場合、フランチャイザーとしては、フランチャイジーが引き続き同じ場所で同じような飲食店の営業を続けることを禁止したいと考えるでしょう。
 そのため、FC契約には、契約終了後の競業避止義務が定められていることが通常です。

 競業避止義務を定めた条項が有効である場合、フランチャイジーは、FC契約終了後、当該条項の定めに従い、一定期間は、一定の場所において、契約期間中に行っていたFC事業と同種・類似の営業をすることができなくなります。
 ただし、FC契約終了後も、フランチャイジーがFC事業と同種・類似の営業をすることが一切できないとすれば、フランチャイジーの営業の自由に対する過度の制約として、競業避止義務条項が無効となることもあります。

 本記事では、FC契約における競業避止義務を概説した上で、食品・飲食事業において競業避止義務が問題となった裁判例をご紹介します。

FC契約における競業避止義務とは

 上記のとおり、FC契約においては、契約終了後の競業避止義務を定めた条項が規定されることが通常です。
 フランチャイジーの競業避止義務を明文で規定した法律はありません。
 そのため、FC契約において競業避止義務を定めることによって、フランチャイジーに競業避止義務を課すことができるのが原則です。
 ただし、後で取り挙げる裁判例(ほっかほっか亭仮処分事件 東京高判平成20年9月17日判時2049号21頁)のように、FC契約上明文で競業避止義務が定められていないにもかかわらず、解釈により競業避止義務が認められたケースもありますので、注意が必要です。

競業避止義務が定められる趣旨

 FC契約において競業避止義務を定める趣旨としては、主に以下の2点にあるとされています。

①ノウハウその他の営業秘密の保護
②顧客・商圏の確保
以下、それぞれについて解説します。

ノウハウその他の営業秘密の保護

 FC契約において、フランチャイザーはフランチャイジーに対して、自社の重要な資産であるノウハウその他の営業秘密について使用を許諾することになります。
 当然のことながら、フランチャイザーとしては、これらのノウハウ等が漏洩等することは、防止したいところです。そのための直接的な条項として、FC契約においては、秘密保持義務が定められることが通常です。
 しかし、秘密保持義務条項だけでは、ノウハウ等の漏洩等に対して、十分な対応がとれないことがあります。
 例えば、フランチャイジーがノウハウを不正に利用したり、営業秘密を第三者に提供したりした場合、フランチャイザーは、FC契約における秘密保持義務条項に違反することを理由に、損害賠償等を請求していくことができます。
 この場合、フランチャイジーによる違反行為や、発生した損害の事実等については、フランチャイザー側が立証する責任を負うことになります。
 しかし、その立証は容易ではありません。
 フランチャイジーによる違反行為が立証できない場合には、結局フランチャイザーによる損害賠償請求等は認められないことになってしまいます。
 そこで、FC契約においては、秘密保持義務を定めるだけでなく、ノウハウ等の不正利用を前提として行われることが多い競業行為を禁止することで、ノウハウ等の間接的な保護を実現しようとしているのです。

顧客・商圏の確保

 顧客・商圏の確保も、競業避止義務条項を設ける主たる目的です。競業避止義務条項を設け、競業行為を(場合によっては業種的・場所的・時間的制限を設けつつ)禁止することで、フランチャイザーの顧客・商圏についても保護することができます。

 なお、顧客・商圏は地域的な属性があることから、フランチャイジーの営業の自由を過度に制約しないようにするための工夫として、競業避止義務を課す範囲に場所的制限が付されることが多くあります。
 FC事業の種類によって一定の売上を確保するのに必要な商圏の範囲は異なりますので、競業避止義務に対する適切な場所的制限の範囲は、FC事業の種類により異なります。
 例えば、スーパーマーケットなどの食品販売業や飲食店業では、地域住民による日常的な利用が主に想定されます。
 そのため、これらの事業においては、フランチャイジーの営業の自由を過度に制約していると評価されないよう、場所的制限の対象となる地域を限定的にした方がよいといえます。

競業避止条項の有効・無効

競合避止条項の規定例

 FC契約における競業避止条項は、大きく分けてFC契約期間中のものとFC契約終了後のものとがあります。

《 FC契約期間中の競業避止義務 》
 FC契約期間中の競業避止義務については、次のような条項例が考えられます。

フランチャイジーは、本契約存続期間中、フランチャイザーの展開するFC事業と同種又は類似の事業を行わないものとする。

 上記の条項例のように、FC契約期間中における競業避止条項では、場所的・時間的制限なく、広く競業避止義務が課されることが比較的よくあります。

《 FC契約終了後の競業避止義務 》
FC契約終了後の競業避止義務については、次のような条項例が考えられます。

フランチャイジーは、本契約終了後●年間は、別途定める●●(場所、地域)において、フランチャイザーの展開するFC事業と同種又は類似の事業を行わないものとする。

 FC契約終了後も、フランチャイザーや他のフランチャイジーのノウハウその他の営業秘密及び商圏・顧客を保護する必要性は認められます。
 しかしながら、元フランチャイジーの営業の自由を過度に制約することはできないため、FC契約期間中と異なり、競業避止義務を負うべき範囲について場所的・時間的制限を設けることが一般的です。

有効・無効の判断について

 競業避止義務条項をFC契約に定めても、常に有効になるわけではありません。
 裁判実務では、FC契約終了後の競業避止義務条項において業種的・場所的・時間的制限を設けなかったり、その義務の範囲が広すぎた場合、フランチャイジーの営業の自由に対する過度の制約となり、競業避止義務条項が公序良俗に違反するとして無効と判断される可能性があります。
 したがって、FC契約において契約終了後の競業避止条項を定める場合には、義務の対象となる業種や地域、期間をどの程度にするべきか、裁判例などに照らして検討する必要があります。

競業避止義務違反の効果

営業の差止請求

 フランチャイジーがフランチャイザーと競合する事業を行う場合、フランチャイザーはフランチャイジーに対して、その事業を止めるよう、「営業の差止請求」をしたいところです。
 FC契約において競業避止義務条項が定められており、その条項が有効であると判断されれば、競業避止義務の違反を理由として、営業の差止請求ができるのが原則です。
 これに対し、後で取り挙げる裁判例(ほっかほっか亭仮処分事件 東京高判平成20年9月17日判時2049号21頁)のように、FC契約上明文で競業避止義務条項が定められておらず、解釈により競業避止義務が認められたにとどまるケースでは、営業の差止請求は認められていません。

損害賠償請求

 フランチャイジーが競業避止義務に違反した場合、フランチャイザーは競業行為によって生じた損害について、損害賠償請求をすることができます(民法415条、709条、不正競争防止法4条)。
 損害賠償請求について詳しく知りたい方は、以下の記事をご参照ください。

>>フランチャイズ(FC)契約と違約金について

食品・飲食事業において競業避止義務違反が問題となった裁判例

 以下では、食品・飲食事業において、競業避止義務違反が問題となった裁判例をご紹介します。


①本家かまどや事件(神戸地判平成4年7月20日判タ805号124頁)

結論

営業の差止請求・損害賠償請求を認容

概要

<事案>
持ち帰り弁当等飲食物の加工販売に関するFC契約に、契約終了後の競業避止義務が定められていた。
この事案では、FC契約終了後も、FC契約中の営業場所において、FC事業と同種の事業をしてはならない旨が定められていた。
また、FC契約には、ロイヤリティの支払遅延又は契約条項違反がある場合に所定の違約金を損害賠償金として支払わなければならない旨も定められていた。
しかし、FC契約終了後、元フランチャイジーは、FC事業と同種の事業(持ち帰り弁当等飲食物の加工販売事業)を、FC事業の店舗と同じ場所で行った。
そこで、フランチャイザーは、営業の差止請求及び損害賠償請求を行った。

<判旨>
裁判所は、上記の競業避止条項について、
・競業禁止の場所をFC契約における営業場所1か所に限定していること
・競業を禁止する営業の種類をFC契約存続中のものと同一業種・同一事業に限定していること
等を考慮して、本件の競業避止条項は元フランチャイジーの営業の自由を過度に制約するものとはいえず、公序良俗に反するとはいえない(有効)として、その場所でその事業をしてはならないと判示した。
また、上記の違約金条項に基づく損害賠償請求も認容した。


②ニコニコキッチン事件(大阪地判平成22年5月27日判時2088号103頁)

結論

営業の差止請求を認容

概要

<事案>
在宅の高齢者向けの弁当宅配事業に関するFC契約に、契約終了後の競業避止義務が定められていた。
この事案では、FC契約終了後5年間は、FC事業と同種の事業をしてはならない旨が定められていた。
しかし、FC契約終了後、元フランチャイジーは、FC事業と同一の事業(在宅の高齢者向けの弁当宅配事業)を、FC事業の店舗と同じ場所で行った。
そこで、フランチャイザーは、営業の差止請求を行った。

<判旨>
裁判所は、
・上記の競業避止条項について、競業避止義務には業種・期間的制限があること
・条項上は場所的制限はないが、フランチャイザーの請求ではFC事業の店舗と同じ場所及び奈良県内に区域が限定されていること
・違反した場合の違約金の定めもないこと
等を考慮して、本件の競業避止条項は元フランチャイジーの営業の自由を過度に制約するものとはいえず、公序良俗に反するものではない(有効)として、FC契約終了後5年間はその場所でその事業をしてはならないと判示した。


③ほっかほっか亭仮処分事件(東京高判平成20年9月17日判時2049号21頁)

結論

営業の差止請求を棄却

概要

<事案>
持ち帰り弁当事業に関するFC契約を展開するマスターフランチャイザーが、FC契約(地区本部)を締結していた元エリアフランチャイザーに対し、FC契約(地区本部)終了後の競業避止義務違反があったとして、営業の差止請求をした。
なお、元エリアフランチャイザーの前のエリアフランチャイザーとの間のFC契約(地区本部)や、元エリアフランチャイザーとフランチャイジーとのFC契約(加盟店)には、FC契約終了後の競業避止条項があったのに、元エリアフランチャイザーとのFC契約(地区本部)には当該条項は定められていなかった。そのため、本事例では、
ⅰ)FC契約終了後の競業避止義務について黙示の合意があったか
ⅱ)信義則上の競業避止義務が認められるか
ⅲ)いずれかが認められる場合に、営業の差止請求は認められるか
が争われた。

<判旨>
裁判所は、ⅰ)の点について、
・競業避止義務は義務者(元エリアフランチャイザー)の営業の自由を強く制約するものであるから、たやすくそのような「合意」を認めることは相当ではない
・そのような義務が当事者間の合意によって有効に発生したというためには、競業避止義務を負う業種、期間、地域等について合理的な限定が付されていることが必要
・FC契約(加盟店)には例外なくFC契約終了後の競業避止義務が定められていたのにFC契約(地区本部)にはそのような条項はない
等を考慮して、FC契約終了後の黙示の競業避止義務の合意は認められないと判示した。
一方、ⅱ)の点について、
・フランチャイザーと元エリアフランチャイザーのFC契約(地区本部)は長期にわたる継続的なものだったこと
・元エリアフランチャイザーは、本件FC事業において、九州地域と東日本地域を営業範囲とする屈指のエリアフランチャイザーだった
・FC契約(地区本部)には、FC契約期間中の競業避止義務については、テリトリー内外を問わず類似の営業を直接又は間接にでも行ってはならない旨の条項があった
・FC契約(地区本部)終了後の競業避止義務がないとすれば、フランチャイザーはノウハウ等の無形の財産について甚大な損害を被る
・前のエリアフランチャイザーとの間では、元エリアフランチャイザーの営業を保護するため、FC契約(地区本部)終了後の競業避止義務を定めていた
・元エリアフランチャイザーにおいても、FCシステムを維持するためには、FC契約(地区本部)終了後1年程度の競業避止義務が必要だという認識を持っていたと認められる
等を考慮して、FC契約(地区本部)終了後、1年間は当該FC契約(地区本部)にかかるテリトリー内では、持ち帰り弁当事業を行わない旨の競業避止義務が、FC契約(地区本部)に付随する義務として、信義則上、認められると判示した。

もっとも、ⅲ)については、
・信義則上の競業避止義務は、合意によって発生したものではない
・あくまで付随的義務であり、それは一般に履行の強制をされるものではない
・競業避止義務は義務者の営業の自由を強く制約する
・競業避止義務違反によるフランチャイザーの被害は甚大だが、営業の差止めによって元エリアフランチャイザーが被る損失も甚大である
等を考慮して、信義則上の付随的な競業避止義務違反を理由とする営業の差止請求は認められない(ただし、競業避止義務違反を理由とする損害賠償請求によってフランチャイザーの損害は補填されるほかない)と判示した。

実務上の留意点

フランチャイザー側の留意点

 食品・飲食事業において、裁判所から競業避止義務条項が無効と判断された事例は、それほど多くはありません。
 しかし、フランチャイザーとしては、フランチャイジーから競業避止義務条項の有効性について争われ、裁判になること自体が大きなリスクといえるでしょう。
 そのため、フランチャイザーとしては、競業避止義務条項の有効性が争われないように、競業避止義務が適用される地域や期間を、裁判例等を参考に合理的な範囲内にとどめておくことが大切でしょう。

フランチャイジー側の留意点

 フランチャイジーとしては、FC契約終了後も、同種の事業を引き続き行いたいと考えることが少なくないでしょう。
 フランチャイジーにフランチャイザーの経営ノウハウ等を不正使用する意図がない場合にも類似の営業が一切できないとすれば、事業の選択肢が大きく狭められてしまいます。
 しかし、交渉によって競業避止義務を一切負わないという内容のFC契約を締結することは難しいことが大半でしょう。
 そこで、フランチャイジーとしては、競業避止義務を極力限定する方向で交渉をした方がよいでしょう。
 具体的には、競業避止義務が課される地域を狭く、期間を短くすることや、フランチャイザー側の責めに帰すべき事情によってFC契約が終了した場合には例外的に競業避止義務を負わない等の特約を定める等が考えられます。

まとめ

 以上、FC契約における競業避止義務について、食品・飲食事業に関する裁判例を紹介しつつ、ご説明してきました。

 以下のような方は、ご遠慮なくご相談ください。
●フランチャイザーとして、FC契約に、契約期間中または契約終了後の競業避止義務をどのように定めたらいいのか、心配な方
●元フランチャイジーに対し、競業避止義務違反を理由に、営業の差止請求や損害賠償請求をしたいと考えている方
●フランチャイジーとして、FC事業と同種・類似の営業を行いたいが、競業避止義務違反による責任を問われないか、不安な方
●求められるままにFC契約を締結したものの、定められた競業避止条項は、自己の営業の自由を過度に制約するものではないかと感じている方

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