風評被害対策 口コミサイトやSNSで誹謗中傷された場合の対応~損害賠償請求・刑事告訴、発信者情報開示の仮処分~

はじめに 

 食品・飲食業のお客様は、口コミサイトやSNSなどを通じて、当該商品等の評判をチェックすることが当たり前になっています。それにも関わらず、商品について事実に反する誹謗中傷等が書き込まれると、その情報が拡散し、売上・利益の減少や、企業イメージの低下につながることがあります。
 口コミサイトやSNSで誹謗中傷された場合、食品・飲食事業者の皆様としては、次のように考えるでしょう。

①投稿を一刻も早く削除したい。
②投稿者に対し、投稿によって発生した損害の賠償を請求したい。

 このうち、②の損害賠償請求をするにはどうしたらよいのでしょうか。この記事では、②の損害賠償請求に必要な手続を整理します。

 なお、②の請求が認められるためには、前提として、誹謗中傷が食品・飲食事業者の皆様に対する名誉毀損だと認められる必要があります。どのような場合に名誉毀損と認められるのかについては、以下の記事をご覧ください。

>>参照:「風評被害対策 口コミサイトやSNSで誹謗中傷された場合の対応 ~民事における名誉毀損の要件~」

 また、①の請求について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

>>参照:「風評被害対策 口コミサイトやSNSで誹謗中傷された場合の対応 ~投稿された口コミの削除~」

投稿者は誰なのか?

 食品・飲食事業者の皆様は、まずは投稿者が誰なのかを法的に証明しない限り、投稿者へ損害賠償を請求することはできません。しかし、仮に、ある投稿のハンドルネームが投稿者の実名と思しき場合であっても、それが実際に実名であるか、その人物の住所はどこかといったことは、ハンドルネームからは明らかではありません。ハンドルネームが匿名である場合は尚更です。

 そこで、投稿者を氏名・住所等をもって特定するため、サイト運営者等から、サイト運営者等が把握している発信者情報(IPアドレス・タイムスタンプ等 ※)の開示を受ける必要があります。

※IPアドレス:インターネット上の送受信の際にどの通信機器が使用されたかを特定するために各通信機器に割り当てられる数字の羅列
タイムスタンプ:そのIPアドレスがどの時刻にその通信機器に割り当てられていたかを特定するために必要となる年月日と時刻のこと

任意交渉

 では、どのような方法でサイト運営者等に対して発信者情報の開示を求めればよいのでしょうか。

 発信者情報は、その投稿がされたサイト等によっては、裁判手続によらず、専用のフォーム等を用いて裁判外の任意手続によって開示される場合もあります。たとえば、著作権等の管理団体を構成員とするプロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会は、発信者情報の任意開示に関するガイドラインを公表しています。

>>参考:プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会

 これは、インターネット上で誹謗中傷がされた場合にサイト運営者等がどのように行動すべきかについて整理されたものです。
 しかし、サイト運営者等の対応や投稿内容にもよりますが、一般に、任意の裁判外の交渉によって、サイト運営者等が発信者情報を開示することは、滅多にありません。
 裁判所から、名誉毀損だから発信者情報を開示せよという命令が出されて初めて、発信者情報が開示されるという流れが通常だといえます。
 以下では、必要な裁判の手続・流れ等について、ご説明します。

発信者情報の開示を受けるための裁判手続・流れ

発信者情報の入手の流れ

 口コミサイトやSNSへの書き込みは、以下の流れをたどってなされます。

投稿者の通信端末(スマートフォン等)

経由プロバイダのサーバ(docomo、au、softbank等)

サイト運営者等のサーバ(facebook、twitter等の各種SNSが管理するサーバ)

サイト(facebook、twitter等の各種SNSサイト)

 このように、投稿者は自己の通信端末から直接口コミサイトやSNSに接続しているのではありません。経由プロバイダと契約をし、その経由プロバイダを通じてインターネットに接続し、口コミサイトやSNSにアクセスしているのです。
 そのため、サイト運営者等が把握している発信者情報は、ある投稿者がどの経由プロバイダを通じてその口コミサイトやSNSにアクセスしたかといったもの(IPアドレス、タイムスタンプ等)に限られます。
 そのIPアドレス・タイムスタンプと合致するプロバイダ契約の当事者に関する情報(投稿に使用された通信端末の情報、その契約者の氏名・住所等)は、プロバイダ契約を締結している経由プロバイダでないと把握していません。
 そのため、投稿者が誰か(損害賠償請求の相手方とすべき者は誰か)を明らかにするためには、以下の2つの段階を踏む必要があるのです。
①サイト運営者等に対して発信者情報(IPアドレス・タイムスタンプ等)の開示を請求する
②上記①で明らかになった発信者情報をもとに経由プロバイダを割り出す。その上で、経由プロバイダに対してIPアドレス・タイムスタンプ等と合致する発信者情報(投稿に使用された通信端末の情報、その契約者の氏名・住所等)の開示を請求する

発信者情報の開示を求めていくにあたっての注意点(時間的な制約)

 経由プロバイダは、日々極めて膨大な量のアクセスログ(通信履歴)を扱っています。そのため、サーバの容量上、すべてのアクセスログをいつまでも保管しておくことはできません。一定の保有期間経過後(1か月~6か月のことが多いようですが、経由プロバイダによります)は、そのデータが消去されてしまいます。
 つまり、せっかく裁判手続等により、裁判所が発信者情報の開示請求を認めてくれても、「すでに保有期間が経過しているので、発信者情報はない」という状態が生じてしまうことがあるのです。
 そこで、アクセスログが消去されてしまう前に、速やかに経由プロバイダを割り出した上で、その経由プロバイダに対し、以下の2つの事項を求めていく必要があります。
・必要なアクセスログを消去しないこと
・経由プロバイダが保有する発信者情報を開示すること

第1段階:サイト運営者等への発信者情報開示請求

取り得る手段

 ご説明したとおり、任意の開示を裁判外で求めることはできます。しかし、裁判外の交渉によって、サイト運営者等が発信者情報を任意に開示することは滅多にありません。
 そこで、裁判手続をとる必要が生じます。この裁判手続としては、①通常の訴訟手続と②仮処分手続がありますが、②仮処分手続(※)をとることが通常です。
※ 仮処分:通常の訴訟手続の前に、通常の訴訟手続で勝訴したときと同様の処分を相手方に命じるよう裁判所に求める手続。通常の訴訟を前提とした暫定的な仮の措置であるため、通常の訴訟手続より簡易・迅速に手続を進めることが可能

仮処分手続の流れ

《 発信者情報開示の仮処分命令の申立て 》

 以上のとおり、口コミサイトやSNSに誹謗中傷的な投稿がされた食品・飲食事業者の方は、まずはサイト運営者等を相手方として、発信者情報開示の仮処分を裁判所に申し立てます。
 ただし、仮にサイト運営者等が外国法人(Google,facebook,twitter等)の場合、その法人登記に相当する資料を申立前に海外から取り寄せる必要があります。その上、申立書・証拠を英訳し、それを国際郵便でその外国法人の本店所在地がある国に送付する必要もあります。その分、時間と手間を要しますので、注意が必要です。

《 どこの裁判所に申し立てるのか:管轄の問題 》

 発信者情報開示の仮処分は、相手方(サイト運営者等)の普通裁判籍を管轄する地方裁判所に申し立てる必要があります。
 サイト運営者等が外国法人である場合には、日本の裁判所に国際裁判管轄がある必要があります。本記事の執筆時点において、東京地裁では、発信者情報の開示を求める側(食品・飲食事業者の方)が、申立時にこの2点について主張した上申書も提出しなければならないという運用がされています。
 なお、別記事においてご説明する投稿記事削除の仮処分も同時に申し立てる場合には、発信者情報開示の仮処分を削除の仮処分の管轄地方裁判所に提起することも可能です。

>>参照:「風評被害対策 口コミサイトやSNSで誹謗中傷された場合の対応 ~投稿された口コミの削除~」

《 手続では、どのような点が問題となるのか:審理の問題 》

 申立書等が裁判所に受理され、相手方(サイト運営者等)に送達された後は、発信者情報開示の仮処分の要件(①被保全権利の存在、②保全の必要性)が認められるか否かについて審理されます。

①被保全権利の存在

 まず、発信者情報開示の仮処分によって保全されるべき権利(被保全権利)が認められることが必要です。
 具体的には、以下の2つが認められる必要があります。
・食品・飲食事業者の名誉が毀損されたこと
・違法性阻却事由(投稿の公共性、公益目的、真実性等)の存在を窺わせる事由はないこと

 つまり、発信者情報開示の仮処分手続では、食品・飲食事業者の方は、名誉を毀損されたことに加えて、違法性阻却事由の存在を窺わせる事由はないことも主張・立証する必要があります。
 これはプロバイダ責任制限法に「権利が侵害されたことが明らかであるとき」と規定されているためです。

②保全の必要性

 次に、②保全の必要性として、発信者情報が迅速に開示されない場合に生じる著しい損害又は急迫の危険も主張・立証する必要があります。
 上記のとおり、発信者を特定するためには、まず、サイト運営者等に対してその保有する発信者情報の開示を求め、次に、それにより判明した経由プロバイダに対してもその保有する発信者情報の開示を求める必要があり、時間がかかります。しかし、経由プロバイダは一般に発信者情報の保有期間を定めており、その期間経過後は発信者情報は消去されてしまいます。消去されてしまった後では、仮に発信者情報開示の仮処分が認められても、誰が問題となる投稿等をしたのか把握できなくなってしまいます。
 そこで、発信者情報開示の仮処分手続においては、このような事情を根拠に、保全の必要性ありと主張することになるでしょう。

《 担保 》

 審理の結果、食品・飲食事業者の方の申立てに理由がある(違法な名誉毀損である)と認められた場合、食品・飲食事業者の方は、裁判所の決定に従い、一定の額の担保金を一定の期間内に法務局に供託することになります。
 担保の金額は、10万円~30万円程度が多いのですが、開示を求める投稿の件数や事案の内容等により異なります。
 なお、この担保金は、違法・不当な仮処分が行われた際に備えるためのものです。そのため、通常は、発信者情報の開示を受けた後、一定の手続を経て回収することができます。

《 仮処分命令の発令とその後の対応 》

 食品・飲食事業者の申立てに理由がある(違法な名誉毀損である)と認められた場合、裁判所から発信者情報開示の仮処分命令が発令されます。
 サイト運営者等は、仮処分命令に不服がある場合、不服申立てをすることができます。
 不服申立てが認められなかったにもかかわらず、サイト運営者等がなお仮処分命令に従わない場合や、不服申立てはしなかったもののサイト運営者等が仮処分命令に従わない場合もありえます。

 この場合、食品・飲食事業者の方としては、別途、間接強制(※)による保全執行の発令を求めることを検討することになります。
※ 間接強制:ここでいう間接強制とは、サイト運営者等に対して発信者情報を開示するまで一定の金額を支払うよう命じることで心理的圧迫を加え、自発的な開示を促すもの

 もちろん、これとは異なり、サイト運営者等が発信者情報開示の仮処分命令に従うケースも多々あります。
 いずれのパターンにせよ、サイト運営者等から発信者情報が開示された場合、食品・飲食事業者の方としては、開示された発信者情報を踏まえ、以下の(3)の手続をとることになります。
 ただし、サイト運営者等が仮処分命令に従う場合でも、開示のタイミングはサイト運営者等によりけりです。速やかに開示されない場合には、発令後においても適宜対応する必要がありますので、注意してください。

第2段階:経由プロバイダへの発信者情報開示請求等

アクセスログの保存請求

 発信者情報が開示された場合、食品・飲食事業者の方は、速やかにいわゆる「who is検索」を行う等して、投稿者が使用した経由プロバイダを特定する必要があります。
 上記のとおり、アクセスログの保存期間を経過してしまうと、投稿者にたどり着くことは難しくなってしまいます。そのため、経由プロバイダを特定した場合には、速やかにそのプロバイダに連絡をとり、アクセスログの保存を求める必要があります。
 この方法としては、以下の2つがあります。
①裁判外で経由プロバイダ所定の方式に従ってアクセスログの保存を求める方法
②裁判所にアクセスログの消去禁止の仮処分命令を申し立てる方法
 どちらの方法でも、発信者情報開示の仮処分命令が発令されたこと(違法な名誉毀損だと裁判所に認められたこと)や対象となる投稿がどれかがわかる資料を適宜添付して求めることになります。
 食品・飲食事業者の方としては、すぐに仮処分手続に移行できるよう用意をしつつ、経由プロバイダに対して任意でアクセスログの保存・消去禁止に応じてくれるよう速やかに連絡するのがよいでしょう。

発信者情報の開示請求

《 取り得る手段 》

アクセスログの保存請求の後またはそれと並行して、食品・飲食事業者の方は、経由プロバイダに対して、サイト運営者等から開示されたIPアドレス・ポート番号を提示して、それを問題となる投稿がされた時刻に使用していたプロバイダ契約の契約者の氏名・住所等を開示するよう求めることになります。
この2段階目の発信者情報開示請求の手段としては、の2つが考えられます。
①裁判外の請求
②通常の訴訟手続

なお、この2段階目の発信者情報の開示については、1段階目の発信者情報の開示と異なり、原則として仮処分によることはできません。それは、2段階目の場合は、任意の交渉または仮処分の申立てを通じて発信者情報の保存・消去禁止を図ることができることが通常であることから、原則として、保全の必要性が認められないためです。

《 経由プロバイダに対する裁判外の請求 》

プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会は、経由プロバイダ向けにも、インターネット上で誹謗中傷がされた場合にとるべき行動について整理したガイドラインを用意しています。
https://www.telesa.or.jp/consortium/provider
このWEBサイトには、名誉毀損をされた食品・飲食事業者の方に向けて、経由プロバイダに対して発信者情報の開示請求をする場合の書式例や必要資料に関する情報も記載されています。
食品・飲食事業者の方としては、このガイドラインに記載された書式等に従い、経由プロバイダに対し、裁判外で発信者情報開示の請求をすることができます。
この2段階目の発信者情報開示手続において、日本法人であるプロバイダは、このガイドラインに則って行動することが多いとされています。

《 通常の訴訟手続 》

 ガイドラインに則った裁判外の請求をしたとしても、経由プロバイダが任意の開示に応じない場合があります。そのときは、食品・飲食事業者の方としては、裁判外の請求と並行してもしくはその後に、または裁判外の請求をすることなく、通常の訴訟手続によって、経由プロバイダに対し、発信者情報の開示を請求することが考えられます。
 この場合、その経由プロバイダの本店所在地を管轄する地方裁判所に対して通常訴訟を提起することになります。
 第1段階の発信者情報開示の仮処分手続と同様、プロバイダ責任制限法に「権利が侵害されたことが明らかであるとき」と規定されているため、食品・飲食事業者の方は、名誉を毀損されたことに加えて、違法性阻却事由の存在を窺わせる事由がないことまで主張・立証する必要があります。
 主張・立証に成功し、ある投稿が食品・飲食事業者の方の名誉を違法に毀損したことが認められた場合、食品・飲食事業者の方は投稿者(損害賠償請求をすべき相手方)を特定することができます。

損害賠償請求・刑事告訴

 投稿者が特定された後、食品・飲食事業者の方としては、投稿者に対して名誉毀損を理由として不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起することや、投稿者を名誉毀損罪で刑事告訴することが考えられます。

損害賠償請求

 損害賠償請求訴訟においては、権利侵害の有無が改めて争われるほか、損害の発生・数額も重要な争点になることが通常です。食品・飲食事業者の方としては、営業損害、慰謝料、投稿者特定のための調査費用、弁護士費用等が損害であると主張したいところです。
 慰謝料については、従前は低い額しか認められないことが多く、100万円ルールなどといわれ、100万円程度に抑えられることが多い状況でした。もっとも、近時では200~300万円程度の慰謝料を認める裁判例もあらわれてきています。
 他方、営業損害については、投稿を直接の原因として生じたといえるか問題となることが多くあります。基本的には、投稿が原因で売上や利益が下がったと立証することは難しく、損害として認められる可能性は高くありません。
 また、調査費用、弁護士費用等については、その全額が損害として認められた裁判例もありますが、大半の裁判例では、(特に弁護士費用について)その一部が認められるにとどまっています。

刑事告訴

 食品・飲食事業者の方を誹謗中傷する記事については、名誉毀損罪、侮辱罪、信用毀損罪、業務妨害罪等に該当する可能性があります。そこで、食品・飲食事業者の方としては、投稿者についてこれらの罪で刑事告訴したいところです。
もっとも、刑事告訴した場合であっても、捜査機関がそれを受理して捜査を始めたり、捜査したとしても起訴したりするとは限りません。事案の重大性、被害弁償の有無・程度等により、対応は異なります。

まとめ

 以上のとおり、口コミサイトやSNS上において誹謗中傷された場合、食品・飲食事業者の皆様が投稿者を特定するために取り得る手段、及び特定した投稿者に対する請求等(損害賠償請求、刑事告訴)についてご説明しました。
 いずれも裁判手続等の専門的知識を要する方法によるべきですので、弁護士にご相談されることをお勧めします。
 特に以下の方はご遠慮なくご連絡ください。
●口コミサイトやSNS上の誹謗中傷記事の投稿者に対して損害賠償請求をしたいと考えている食品・飲食事業者の方
●口コミサイトやSNS上の誹謗中傷記事の投稿者が誰なのか、特定したいと考えている食品・飲食事業者の方

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