所在不明株主の株式の処理・取得等について(2)~スクイーズ・アウト~
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はじめに
所在不明株主が存在する場合、その株主の株式を会社側(会社、支配株主、又は経営陣と協調的な株主)が取得するにはどうしたらいいでしょうか。まず、以下の2つの方法が考えられます。
①所在不明株主の居所又は相続人を探索し、交渉により株式を買取
②裁判上の手続(競売による売却、又は裁判所の許可を得て行う売却・買取)
しかし、①・②の方法には、それぞれ以下のような問題があります。
①株主や相続人の所在を突き止められない、又は突き止められたとしても、株主や相続人との買取交渉が難航する可能性がある
②裁判上の手続には手間と時間が掛かる
詳しくは、以下の記事をご覧ください。
そこで、スクイーズアウト(キャッシュアウト)という方法が近年よく活用されています。
スクイーズアウトとは?
スクイーズアウト(キャッシュアウト)とは、少数株主の株式の全部を、その個別の承諾を得ることなく、現金を対価として強制的に取得し、少数株主を会社から締め出すことをいいます。
所在不明株主に対するスクイーズアウトとしては、下記の2つの方法が有用です。
①特別支配株主の株式等売渡請求
②株式併合
それぞれについて具体的に見ていきましょう。
※ なお、以下では、株券発行会社(会社法214条、117条7項、911条3項10号)の場合を除いてご説明します。
特別支配株主の株式等売渡請求
概要
特別支配株主とは、自ら単独で、又は自らの100%子会社等と併せて、対象会社の総株主の議決権の90%以上を有する株主のことをいいます。この特別支配株主は、対象会社の承認を得ることにより、対象会社の他のすべての株主等に対し、その保有株式等の全部の売渡しを請求できます(会社法179条1項本文)。これを、特別支配株主の株式等売渡請求といいます。
支配株主が単独で又は自らの100%子会社等と併せて、議決権の90%以上を有している場合には、この手続により、所在不明株主から株式を買い取ることができます。これは平成26年の会社法改正により創設されました。
株主総会決議を必要としないため、所在不明株主の処理においても、時間を大幅に短縮できるという利点があります。
特別支配株主の株式等売渡請求によるスクイーズアウトの手続
特別支配株主の株式等売渡請求によるスクイーズアウトを行う場合、手続の流れは以下のとおりです。
① 特別支配株主から対象会社に対する通知
特別支配株主は対象会社に対して、一定の事項(株式等売渡請求をする旨、売渡株主等に対する対価の額・算定方法、取得日等)を通知する(会社法179条の2、179条の3)。
② 対象会社による承認
対象会社の承認を受ける(会社法179条の3第1項)。
なお、承認方法は、以下のとおり
・取締役会設置会社の場合:取締役会決議
・取締役会非設置会社の場合:取締役の過半数による決定
③ 売渡株主等に対する通知又は公告
対象会社は、②の承認をした場合、取得日の20日前までに、売渡株主等に対し、一定の事項(承認をした旨、特別支配株主の氏名・住所、売渡株主に対する対価の額・算定方法、取得日等)を通知又は公告する。これにより、特別支配株主から売渡株主に対し株式等売渡請求がされたとみなされる(会社法179条の4第1項、第3項)。なお、この通知又は公告の費用は、特別支配株主が負担する(会社法179条の4第4項)。
④ 事前開示手続
対象会社は、③の通知又は公告のいずれか早い日から取得日後6か月(非公開会社の場合は1年)を経過する日までの間、株式等売渡請求の条件等を記載した事前開示書面等を本店に備え置き、閲覧に供する(会社法179条の5第1項)。
⑤ 特別支配株主による売渡株式等の取得
特別支配株主は、取得日に売渡株式等の全部を取得する(会社法179条の9第1項)。
なお、特別支配株主が取得した株式が譲渡制限株式であっても、譲渡承認ありとみなされ、譲渡承認を得る必要はない(会社法179条の9第2項)。
⑥ 事後開示手続
対象会社は、取得日後遅滞なく、取得日後6か月(非公開会社の場合は1年)を経過する日までの間、株式等売渡請求による売渡株式等の取得に関する事項を記載した事後開示書面等を本店に備え置き、閲覧に供する(会社法179条の10、会社法施行規則33条の8)。
株式併合
概要
所在不明株主に対してスクイーズアウトをしたい場合、支配株主が単独で又はその100%子会社等も含めて議決権の90%以上を有していないときは、特別支配株主の株式等売渡請求はできません。そのような場合は、株式併合によるスクイーズアウトが考えられます。
株式併合とは、数個の株式(たとえば10株)を合わせてそれよりも少数の株式(たとえば1株)にすることです。通常は、株式投資の単位である1株の価格を調整する手段として用いられますが、スクイーズアウトの手段としても利用できます。
具体的には、株式併合後の少数株主の保有株式数が1株未満となるような併合割合で株式併合を行うことにより、少数株主を強制的に排除する(少数株主は保有株式を失う代わりにその対価を受け取る)というものです。
株式併合によるスクイーズアウトの手順
株式併合によるスクイーズアウトを行う場合、手続の流れは以下のとおりです。
① 株主総会の特別決議
株主総会特別決議(会社法309条2項4号)により、株式併合の割合、効力発生日等を定める。その際、株式併合後の所在不明株主の保有株式数が1株未満の端数となるような併合割合とする(会社法180条2項)。
② 株主に対する通知等
会社は、原則として効力発生日の2週間前までに、株主等に対して株式併合の割合や効力発生日等を通知又は公告する(会社法181条1項、2項)。
③ 株式併合の効力発生後の処理
株式併合の効力発生後、会社は、端数株式について、競売又は裁判所の許可を得て行うそれ以外の方法により売却し、それにより得られた代金をその株主に交付する(会社法235条1項、235条2項、234条2項ないし5項)。
④ 事後開示手続
会社は、効力発生日後遅滞なく、取得日後6か月を経過する日までの間、株式併合後の発行済株式総数等の事項を記載した書面等を本店に備え置き、閲覧に供する(会社法182条の6第1項、2項)。
株式を買い取った場合の対価の支払いについて
特別支配株主の株式等売渡請求と株式併合のどちらの場合も、所在不明株主に対し、その保有する株式の対価を支払わなければなりません。しかし、「所在不明」株主の場合は、対価を交付すべき相手が所在不明のままのために、交付できないことも少なくありません。
その場合は、供託手続を利用することになります(民法494条)。
この手続は、所在不明株主の住所地を管轄する法務局で行います(民法495条1項、484条参照)。
株式の対価に関する争い
特別支配株主の株式等売渡請求と株式併合のどちらの場合でも、最も争いとなりやすいのは、株式の対価の適正性です。株主が株式の対価について争う手段について、以下の通り概要を整理します。
株式等売渡請求の場合
《 売買価格決定の申立て 》
売渡株主等は、売渡対価について不満があるときは、裁判所に対して売買価格の決定の申立てをすることができます(会社法179条の8第1項)。
《 差止請求 》
特別支配株主が定めた売渡対価が著しく不当であり、売渡株主等が不利益を受けるおそれがあるときは、売渡株主等は、特別支配株主に対し、株式等売渡請求による売渡株式等の全部の取得をやめるよう請求することができます(会社法179条の7第1項3号)。
《 無効の訴え 》
売渡株主等は、売渡株式等の全部の取得の無効の訴えを提起することもできます(会社法846条の2第1項)。
どのような事情が無効の原因になるかについて、明文の定めはありませんが、取得の対価が株式の公正な価格に比べて低額であることは、原則として無効原因とならないとされています。それは売買価格決定の申立てにより争えばよいためです。しかし、対価が著しく不当な場合は、無効原因となると考えられています。
このような場合には、株主総会決議によるスクイーズアウトの効力も否定し得ること(会社法831条1項3号による決議取消し)との均衡を図る必要があるからです。
株式併合の場合
《 端数株式の買取請求およびその価格の決定の申立て 》
株式の併合に反対する株主で、株式併合により端数となる株式の株主は、会社に対して、自己の有する株式のうち1株に満たない端数となるものの全部を公正な価格で買い取るよう請求することができます(会社法182条の4)。
その買取価格について会社と株主との間で協議が調わない場合は、会社又は株主は、裁判所に対し、価格決定の申立てをすることができます(会社法182条の5第2項)。
《 差止請求 》
株式併合の場合、対価が不当であることを理由とした差止請求はできないとされています。
《 株主総会決議取消しの訴え 》
株主総会決議取消しの訴えは、手続の違法性を争うものであり、対価が不当であることのみを理由に提起することはできません。他方、対価が著しく不相当な場合で、「特別利害関係人の議決権行使による著しく不当な決議があった」と主張する場合等には、この手続を利用することができます(会社法831条1個3号)。
まとめ
ここまで、所在不明株主に対するスクイーズアウトについて簡単にご説明しました。
以下のような方は、お気軽にご相談ください。
・所在不明株主から、なるべく迅速に、その株式を取得したい方
・スクイーズアウトにより所在不明株主を排除したい方
・特別支配株主の株式等売渡請求や、株式併合によるスクイーズアウトを行いたいが、手続を問題なく行えるか、不安がある方
・特別支配株主の株式等売渡請求制度や株式併合によるスクイーズアウトをしたが、価格決定の申立てや差止請求がされるなど、対価について争いになっている方
なお、 所在不明株主の居所又は相続人の探索、及び交渉による株式買取、および競売による売却、又は裁判所の許可を得て行う買取については、記事「所在不明株主の株式の処理・取得等について(1)」 において、ご説明します。
また、競売による売却、又は裁判所の許可を得て行う買取に関しては、所在不明株主に関する会社法の特例が設けられておりますので、記事「所在不明株主の株式の処理・取得等について(3)」 において、ご説明します。