配偶者居住権Q&A

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1. はじめに

2018年における相続法の改正で新たに導入された制度に、配偶者居住権(民法1028条1項柱書本文)があります。本ページでは、配偶者居住権、及びこれと関連する配偶者短期居住権について、Q&A形式で説明します。

2. 配偶者居住権の概要

Q.配偶者居住権とは何ですか?

A. 端的には、生存配偶者に付与される、被相続人の死亡後も、居住建物の全部について無償で使用及び収益をすることのできる権利です。

Q.配偶者居住権を取得するための要件は何ですか?

A. 以下の3点です。

①生存配偶者が、相続開始時(被相続人死亡時:民法882条)において、被相続人の財産に属する建物に居住していたこと(民法1028条1項柱書本文)

②「遺産分割によって配偶者居住権を取得するものとされた」(民法1028条1項1号)、又は「配偶者居住権が遺贈(※3)の目的とされた」(民法1028条1項2号)こと

③当該建物が、被相続人及び生存配偶者のみによって共有されていたこと(民法1028条1項柱書但書)

まず、①についてですが、夫婦で被相続人所有の建物に同居していた場合の他、別居していた場合でも、生存配偶者が居住していた建物が被相続人所有のものであれば構いません。

次に、②の前段についてですが、相続人間の協議でなされた遺産分割(民法907条1項)に限らず、家庭裁判所の調停や審判によって遺産分割がなされた場合(民法907条2項本文)であっても構いません。その遺産分割の中で、生存配偶者が配偶者居住権を取得する旨決定された場合には、「遺産分割によって配偶者居住権を取得するものとされた」に該当します。

そして、②の後段についてですが、被相続人が遺言で「◯◯(生存配偶者)に配偶者居住権を遺贈する」などと残しておけば、「配偶者居住権が遺贈の目的とされた」に該当します。

この点について、「◯◯(生存配偶者)に配偶者居住権を相続させる」との遺言が残された場合には、少々問題が生じます。このように、特定の財産を承継させる旨の遺言を特定財産承継遺言(民法1014条2項参照)といい、判例は、かかる遺言は遺贈ではなく遺産分割方法の指定(民法908条前段(改正民法908条1項前段))であると解しています(最判平成3・4・19民集45‐4‐477)。このように解すると、仮に配偶者居住権を放棄したい場合、相続それ自体を放棄(民法938条)(※4)することを要し、かえって生存配偶者に不利益となりかねません。

一方で、遺贈であれば、受遺者は、遺言者の死亡後いつでも遺贈を放棄することができる(民法986条1項)ところ、これは遺贈を無効とするに過ぎず(民法986条2項)、相続自体の放棄ではありません。その為、生存配偶者の保護の観点からは、後者の方が妥当な解釈ということになるでしょうし、1028条1項各号に遺産分割の方法の指定が定められていないのも、かかる事情を考慮してのものと思われます。

そこで、特定財産承継遺言の解釈そのものについては、上述の最高裁平成3年判決における解釈を適用しますが、「◯◯(生存配偶者)に配偶者居住権を相続させる」との遺言により、配偶者居住権の設定が図られた場合には、配偶者居住権の遺贈がなされたものと解釈するものと考えられています。

なお、②に関連して、民法1028条1項各号には挙げられていませんが、被相続人・生存配偶者間で、「◯◯(生存配偶者)に配偶者居住権を取得させる」という死因贈与契約(民法554条)(※5)が締結された場合にも、遺贈に準ずるものとして、民法1028条1項2号に該当するものとされています。

最後に、③についてですが、相続開始時、被相続人の財産に属する建物に生存配偶者が居住していたとしても、被相続人及び生存配偶者以外の第三者も当該建物を共有していた場合には、配偶者居住権は成立しません。

※3 遺贈:遺言によって自己の財産の全部又は一部を他人に譲り渡すこと。「贈与」(民法549条、554条)が贈与者及び受贈者(贈与を受ける者)双方の意思表示の合致に基づく契約行為(民法522条1項)であるのに対し、「遺贈」は遺言者が単独できる点で異なります。

※4 相続放棄:相続開始後に、相続人が相続の効果が自己に及ぶことを拒否する旨家庭裁判所に申述することで、その者は初めから相続人ではなかったものとみなされます(民法938条、939条)。被相続人の財産(相続財産)が債務超過である場合に、相続人が自らの意思に反して過大な債務負担を負わせられることを防止するために認められた制度です。

※5 死因贈与:贈与者の死亡によって効力を生ずる、停止条件(民法127条1項)(※6)付贈与のこと。贈与者と受贈者との契約によって成立する点は通常の贈与(民法549条)と同じですが、効力発生が「贈与者の死亡」という条件にかけられている点で異なります。

※6 停止条件:法律行為(典型的には契約)の効力の発生を将来の不確定な事実の存否にかからしめる法律行為の付款のことをいいます。

Q.なぜ配偶者居住権の制度が作られたのですか?

A. 生存配偶者の生活を保障する為です。

事例1

 夫A、妻B、子Cで構成される家族が存在し、Aが死亡して相続が開始した(民法882条)とします。そして、Aの財産としては、生前AとBで暮らしていた自宅(2000万円)の他、預貯金債権(3000万円)が存在します。

 この場合、Aの相続財産は、B及びCにどのように分割されるのでしょうか。

この場合、Aの相続人たるB(民法890条前段)及びC(民法887条1項)の法定相続分は、それぞれ2分の1(2500万円ずつ)です(民法900条1号)。

 仮に、Bが自宅全部を相続せず、Aの全財産を、B及びCでそれぞれ2分の1ずつ遺産分割するとすれば、Bは自宅の1000万円相当の持分権(※7)及び預貯金債権1500万円を取得することになります。一方で、Bとしては、Aの死後も自宅での居住を継続したいと考えるのが一般的と思われるところ、2000万円の自宅を相続する以上、法定相続分の範囲内で他に受け取ることができるのは、預貯金債権500万円に限られます。

この点について、居住用家屋を確保したいBとしては、後者の相続を選択することになるでしょう。しかし、これでは自宅を確保できても、その後の生活費に不安を抱えることになりかねません。特にBが高齢者である場合、相続した自宅を売却したお金で生活費を捻出するとともに、新たな住居を見つけようとしても、高齢であることを理由に、賃貸借契約(民法601条)の締結等を拒まれてしまう可能性があります。また、高齢であるBが、自ら労働し、収入を得ることにも困難が伴うおそれがあります。

 そこで、このような生存配偶者を保護するために創設されたのが配偶者居住権制度です。Bが民法1028条1項柱書及び同項各号のいずれかが定める要件を満たす場合、配偶者居住権の価値が1000万円であるとすれば、Bは1000万円の配偶者居住権と1500万円の預貯金債権を取得することができ、居住にも生活費にも困窮するという事態は避けられるでしょう。

具体的には、配偶者居住権を考慮しない上述の考え方によれば、Bが居住の利益を確保するには、Bに自宅の所有権(民法206条)を移転させる必要があり、その分生活費となる預貯金債権の取得額は減少してしまいます。しかし、配偶者居住権を考慮することで、自宅の所有権自体はCに移転(但し、1000万円の配偶者居住権の負担(※8)がついた所有権)するものの、自宅を使用・収益する権利をBは有することになり、おまけに十分な生活費も取得することができるのです。

この点に、配偶者居住権の意義があると言えます。

なお、配偶者居住権の価値を具体的にどのように計算するのかについては、建物の固定資産税評価額や法定耐用年数、生存配偶者の平均余命年数などを考慮し、現在様々な計算方法が考えられています。実際の相続においては、その中から当事者全員が納得できる計算方法を選択することになるでしょう。

ただ、1つ言えることとしては、上述した通り、建物の所有権そのものを取得するよりは、配偶者居住権として建物を使用・収益する権利を取得するだけの方が安価に留まるため、その分自己の相続分の範囲内で、他の相続財産をより多く相続することができるということです。

※7 持分(権):共有において、各共有者が、共有目的物について有する権利のこと(民法249条参照)。

※8 負担:事例1の場合には、Cは完全な所有権を有しているとは言えず、配偶者居住権を有するBによる自宅の使用・収益を否定することはできません。このように、自己の有する権利が、他者の権利の設定により一定の範囲で制限されている場合、「◯◯の負担」がついた権利と言います。

Q.遺産分割により配偶者居住権を取得する場合について、家庭裁判所の審判(民法907条2項本文)による場合もあるとのことですが、どのような場合であれば家庭裁判所に配偶者居住権の取得を定めてもらえるのでしょうか?

A. 以下の2つの場合のいずれかに該当する場合に、遺産分割の請求を受けた裁判所は、生存配偶者が配偶者居住権を取得する旨定めることができるとされています(民法1029条柱書)。

①’共同相続人間で生存配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき(民法1029条1号)

②’ 上記①’以外の場合で、生存配偶者が家庭裁判所に対して、配偶者居住権の取得を希望する旨申し出ており、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお、生存配偶者の生活を維持するため特に必要があると認めるとき(民法1029条2号)

Q.生存配偶者が被相続人と居住していた建物が賃借物件だった場合でも、配偶者居住権は発生し得るのでしょうか?

A. このような場合、配偶者居住権は発生しないものと考えられています。配偶者居住権の目的となる建物は、相続開始の時点において、被相続人の財産に属した建物でなければならない(民法1028条1項柱書)からです。

但し、生存配偶者が被相続人と賃借した建物(民法601条)に居住していた場合、被相続人の死亡によって、被相続人の賃借権は相続されます(民法896条本文)。そして、生存配偶者も相続分を有する(民法890条前段、900条1号〜3号)ので、被相続人の賃借権を相続し、これを賃貸人や他の共同相続人に対抗することができます。その為、配偶者居住権が発生しなくても、生存配偶者の居住権はある程度保障されていると言えます。

Q.配偶者居住権を取得すると、何ができるのですか?

A. 配偶者居住権を取得した生存配偶者は、従前の用法に従い、居住建物の全部(「従前居住の用に供していなかった部分」も含む(民法1032条1項但書))を無償で使用・収益できます(民法1028条1項柱書本文、1032条1項本文)。

但し、あくまで居住建物は、他の共同相続人に相続されているので、他者の所有する不動産です。その為、配偶者居住権を取得した生存配偶者は、「善良な管理者の注意をもって」居住建物の使用・収益を行わなければならず(民法1032条1項本文)、自己の物に対するのと同一の注意義務では足りません。

また、配偶者居住権を取得した生存配偶者は、居住建物の使用・収益に必要な修繕も行うことができ、修繕の都度、建物所有者の承諾を得る必要はありません(民法1033条1項)。

加えて、建物所有者の承諾を得れば、居住建物の改築・増築や、第三者に使用・収益(使用貸借(※9)につき民法593条、賃貸借につき民法601条)させることも可能です(民法1032条3項)。

※9 使用貸借:当事者の一方があるものを引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用・収益をして契約終了時に返還することを約することにより成立する契約のこと。無償で貸し借りされる点で、有償の賃貸借とは区別されます。

Q.配偶者居住権は登記できますか?

A. できます。また、居住建物の所有者は、生存配偶者に対し、配偶者居住権の設定登記を備えさせる義務を負います(民法1031条1項)。

そして、生存配偶者が自己の配偶者居住権について設定登記を具備した場合、後に居住建物について物権を取得した者その他第三者が出現しても、自己の配偶者居住権を対抗(主張)することができます(民法1031条2項、605条)。加えて、それらの者によって自己の配偶者居住権の行使を妨げられている場合(第三者に居住建物が占有されている場合など)には、妨害の停止等を求めることもできます(民法1031条2項、605条の4)。

 但し、生存配偶者が対抗できるのは、上述の通り、「居住建物について物権を取得した者その他第三者」に限られます。そして、居住建物及びその敷地を遺産分割によって取得した他の共同相続人が、敷地のみを他者に売却した場合、売却に際して敷地利用権を設定していなければ、当該敷地上に建てられた居住建物は、当該敷地の所有権を正当な権原なく妨害していることになります。

この場合、当該敷地を譲り受けた他者は、居住建物について物権を取得しているわけではないので、「居住建物について物権を取得した者その他第三者」には該当せず、生存配偶者は、配偶者居住権を対抗できないこととなり、当該敷地を譲り受けた他者による明渡請求を拒むことができません。

Q.配偶者居住権は譲渡することができますか?

A. 配偶者居住権の制度は、あくまで生存配偶者の保護のために設けられた制度であり、第三者に譲渡することはできません(民法1032条2項)。

事例2

夫A、妻B、子Cで構成される家族で存在し、Aの死亡により相続が開始した(民法882条)とします。Aが死亡した時点で、BはAとX建物で共に居住しており、Aは「Bに配偶者居住権を遺贈する」旨の遺言を残していました。なお、Aの相続財産は、X建物のみです。
 しばらくして、Bは高齢のため、ヘルパーによる介護を受けられる高齢者施設に入居することになりました。その為、Bは、X建物に設定された配偶者居住権を第三者に売却することを検討しています。

まず、相続開始時において、生存配偶者たるBは、被相続人AとX建物を共有し、居住していました。そして、Aは事例2にあるように配偶者居住権をBに遺贈しています。その為、BはX建物につき、配偶者居住権を取得します(Cが、X建物につき、配偶者居住権の負担付の所有権を取得するものとします)が、民法1032条2項は、配偶者居住権の譲渡を禁止しているので、X建物を使用・収益しなくなるからと言って、Bはこれを第三者に処分することはできません。

もっとも、Bは、X建物の所有者たるCに、配偶者居住権を買い取ってもらうことは可能です。但し、Bのような生存配偶者に、法は配偶者居住権の買取請求権を付与していないため、あくまでCが買取に合意した場合に限られます。また、買い取ってもらえない場合には、Cの承諾を得た上で、第三者にX建物を賃貸することも考えられます(民法1032条3項)。

更に、上述の通り、配偶者居住権の買取請求権は認められていませんが、遺産分割の協議(民法907条1項)・調停(民法907条2項本文)、遺言、又は死因贈与契約(民法554条)によって配偶者居住権が設定される場合、当事者間の合意又は遺言において、買取請求権を認める旨や買取条件、買取額の算定基準等を定めておくことは可能です。

Q.配偶者居住権の存続期間はいつまでですか?

A. 原則として、生存配偶者の終身の間、配偶者居住権は存続します(民法1030条本文)。

但し、配偶者居住権の存続期間について、遺産分割の協議(民法907条1項)若しくは調停又は審判(民法907条2項)、遺言(民法960条以下)において特段の定めがなされた場合には、例外的にその定められた期間に限り、配偶者居住権は存続することになります(民法1030条但書)。

そして、配偶者居住権の存続期間を巡って、1点注意しておくべきことがあります。配偶者居住権は、上述の通り、生存配偶者の生活を保障するために創設された制度ですが、それもあくまで生存配偶者の相続分の範囲内に限定されます。その為、配偶者居住権の存続期間が長いほど、所有者の負担は大きくなるので、配偶者居住権の評価額は高くなり、その他に遺産分割を通じて得られる財産は少額になってしまいます。

Q.配偶者居住権は、配偶者の死亡(存続期間について特段の定めが無い場合)及び存続期間の満了(存続期間について特段の定めがある場合)の他、どのような場合に消滅するのでしょうか?

A. 以下のような場合が考えられます。

・居住建物の全部滅失(民法1036条、616条の2)
・居住建物が生存配偶者の財産に属することとなった場合<
 :この場合、居住建物の所有権との混同(※10)により、配偶者居住権は消滅します(民法179条1項本文)。但し、生存配偶者と他の者との共有となった場合には、配偶者居住権は消滅しない(民法1028条2項)。
・生存配偶者による配偶者居住権の放棄
・生存配偶者が用法に従って建物を使用しない・配偶者居住権を譲渡した・無断で増改築又は第三者への賃貸などを行った場合
 :かかる場合、建物所有者は生存配偶者に対し、相当の期間を定めて是正の催告をし、その期間内に是正がなされないときは、生存配偶者に対する「配偶者居住権を消滅させる」旨の意思表示により、配偶者居住権を消滅させることができます(民法1032条4項)。

※10 混同:同一人に2つの地位が併存するに至ったが、両者を併存させておく必要のない場合に、一方の法律的地位が消滅すること。例えば、配偶者居住権を有する生存配偶者が、居住建物の所有権まで取得した場合、居住建物の使用・収益権に留まらない所有権さえ残しておけば、配偶者居住権が消滅します。この場合、配偶者居住権を残しておく必要はないと考えられるためです。

Q.配偶者居住権が消滅した後はどのようにすれば良いのですか?

A. 生存配偶者は、居住建物を建物所有者に返還しなければなりません(民法1035条1項本文)。その際、通常の使用や経年劣化により生じた損耗以外の損傷で、相続開始後に生じたものがあれば、これを原状に回復しなければなりません(民法1035条2項、621条本文)。但し、その損傷が生存配偶者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りではありません(民法1035条2項、621条但書)。

また、生存配偶者が相続開始後に居住建物に附属させたものがあれば、それも収去しなくてはいけません((民法1035条2項、599条1項本文))。但し、収去するのに過分な費用がかかる、又は分離が不可能であるなどの場合は、この限りではありません(民法1035条2項、599条1項但書)。一方で、例えば生存配偶者が附属させたエアコンなどを、建物所有者がそのまま建物に附属させておいて欲しいと希望したとしても、生存配偶者はこれを収去することができます(民法1035条2項、599条2項)。

なお、生存配偶者が、居住建物につき、配偶者居住権のみならず、持分権を有していた場合には、配偶者居住権の消滅を理由に、建物所有者は返還を求めることはできません(民法1035条1項但書)。

Q.配偶者居住権以外にも、生存配偶者の居住権を確保するために取り得る方策はありますか?

A. まず、配偶者居住権の発生要件を満たしていない場合でも、共同相続人間の遺産分割の協議(民法907条1項)若しくは調停又は審判(民法907条2項本文)を通じて、生存配偶者にその居住していた住居の所有権(民法206条)を取得させることができます。

 また、遺産分割の結果、住居の所有権が他の共同相続人に移転したとしても、当該他の共同相続人との間で、住居の使用貸借契約(民法593条)や賃貸借契約(民法601条)を締結することで、生存配偶者は当該住居を継続して使用できることになります。

ただ、遺産分割には、いつまでにこれを行わなければならないという期限は存在しません。その為、実務においては、生存配偶者が被相続人の死亡後も元々居住していた住居を使用し続けている場合、遺産分割を行わず、当該生存配偶者も死亡してしまった場合に、併せて遺産分割を行うこともあるようです。このような場合には、配偶者居住権が発生しなくても、生存配偶者の居住の利益を確保することが可能です。

3. 配偶者短期居住権の概要

Q.配偶者短期居住権とは何ですか?

A. 配偶者短期居住権は、配偶者居住権同様、被相続人と共に居住していた生存配偶者の居住権を確保する制度ですが、配偶者居住権とは異なり、その期間が民法1037条1項各号に定められた日までに限定されています。

つまり、文言通りではありますが、配偶者短期居住権は、配偶者居住権よりも短期間の、生存配偶者が次のステップに移るまでの間の生存配偶者の居住権や生活を保障するものであると言えます。

Q.配偶者短期居住権を取得するための要件は何ですか?

A. 「配偶者」が、「被相続人の財産に属した建物」に、「相続開始の時」に、「無償で居住していた場合」に、配偶者短期居住権を取得することができます。

 但し、「配偶者」については、被相続人の配偶者であっても、以下の者は「配偶者」に含まれないと考えられています。

・「相続開始の時において居住建物に係る配偶者居住権を取得したとき」(民法1037条1項柱書但書)
・相続欠格(※11)事由に該当するとき(民法1037条1項柱書但書、891条各号)
・推定相続人の廃除(※12)により、相続権を喪失したとき(民法1037条1項柱書但書、892条)
・相続を放棄したとき(民法1037条1項1号参照、939条)
・遺言により、相続分を0と指定されたとき(民法1037条1項1号参照、902条1項)
・遺言により、居住建物を相続させないとされたとき(民法1037条1項1号参照、960条以下)

※11 相続欠格:本来であれば相続人となる者が、民法891条各号に規定された不行跡を行うことで、法律上当然に相続資格を喪失すること。

※12 推定相続人の廃除:遺留分を有する推定相続人が、被相続人に対して一定の非行を行った場合に、当該推定相続人の相続資格を剥奪するよう、被相続人が家庭裁判所に請求すること。

Q.配偶者短期居住権は、「短期間の間」生存配偶者の居住権を確保するものとされますが、具体的にどのくらいの期間存続するものなのでしょうか?

A. 以下の2つの場合に分けられます。

①” 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合」(民法1037条1項1号)
 :この場合、遺産分割を通じて居住建物の所有権の帰属先が確定した日、又は相続開始時から6箇月を経過する日のいずれか遅い日まで、配偶者短期居住権は存続します。

 これは、生前被相続人と同居していた生存配偶者は、被相続人との間で、被相続人の死亡後も当該住居を無償で使用させる旨の合意が成立していたもの推認されるとして、遺産分割までの間、被相続人の他の共同相続人を貸主とし、生存配偶者を借主とする使用貸借契約(民法593条)関係が継続するとした判例(最判平成8年12月17日)を踏まえたものと解されます。

②” ①”以外の場合
 :この場合、配偶者を含めた遺産分割以外の原因(遺贈(民法964条)など)に基づいて居住建物の所有権を取得した者が、配偶者短期居住権の消滅を申し入れた日から6箇月を経過する日までの間、配偶者短期居住権は存続します。

Q.配偶者短期居住権が発生した場合、生存配偶者はどのようなことができますか?

A. 生存配偶者は、「従来の用法に従い」、「善良な管理者の注意をもって」、居住建物を使用することができます(民法1038条1項)。

 但し、配偶者居住権同様、生存配偶者の居住権を確保する制度である配偶者短期居住権を第三者に譲渡することはできません(民法1041条、1032条2項)。また、居住建物の所有者の承諾を得なければ、第三者に居住建物を使用させることはできません(民法1038条2項)。

Q.配偶者短期居住権は、上述の存続期間を経過した場合以外で、どのような場合に消滅しますか?

A. 以下のような場合には、配偶者短期居住権は消滅します。

・配偶者短期居住権の消滅の申入れ(民法1037条3項)
・配偶者居住権の取得(民法1039条)
・配偶者の義務違反(民法1038条3項)
・配偶者の死亡(民法1041条、597条3項)
・居住建物の滅失(民法1041条、616条の2)

Q.配偶者短期居住権が消滅した場合、生存配偶者はどうすれば良いのでしょうか?

A. 配偶者短期居住権が、配偶者居住権の取得以外の自由によって消滅した場合には、生存配偶者は、居住建物を返還しなければなりません(民法1040条1項本文)。但し、生存配偶者が、居住建物について共有持分権を有する場合は、この限りではありません(民法1040条1項但書)。

返還に際して、通常の使用や経年劣化により生じた損耗以外の損傷で、相続開始後に生じたものがあれば、これを原状に回復しなければなりません(民法1040条2項、621条本文)。但し、その損傷が生存配偶者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りではありません(民法1040条2項、621条但書)。

また、生存配偶者が相続開始後に居住建物に附属させたものがあれば、それも収去しなくてはいけません((民法1040条2項、599条1項本文))。

但し、収去するのに過分な費用がかかる、又は分離が不可能であるなどの場合は、この限りではありません(民法1040条2項、599条1項但書)。

一方で、例えば生存配偶者が附属させたエアコンなどを、建物所有者がそのまま建物に附属させておいて欲しいと希望したとしても、生存配偶者はこれを収去することができます(民法1040条2項、599条2項)。

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