食品事故と製造物責任法(PL法)

 食品事故が発生した場合、食品製造会社は、被害者から製造物責任法(PL法)に基づき責任を追及される可能性があります。ここでは、PL法に基づく責任追及の要件と免責事由について、解説します。

概要

 食品事故が生じた場合に、PL法に基づいて損害賠償請求をする被害者は、
①相手方が「製造業者等」であること
②食品が「製造物」に当たること
③食品に「欠陥」があること
製造業者等が食品を「引き渡した」こと
⑤生命、身体、又は財産が侵害され、損害が発生したこと
⑥③と⑤に因果関係があること
を主張・立証する必要があります。
 民法上の不法行為に基づく損害賠償請求と異なり、加害者である製造業者等の故意又は過失を、被害者が立証する必要はありません。
 
 ただし、被害者が①~⑥を立証できたとしても、製造業者等が、免責事由である、

⑦開発危険の抗弁
⑧部品・原材料製造業者の抗弁
のいずれかを主張・立証すれば、製造業者等はPL法に基づく損害賠償の責任を免れることができます。
 以下では、要件と免責事由に分けて、個別にその内容を解説します。

要件

相手方が「製造業者等」であること(①)

 以下のア~ウのいずれかに該当すれば、「製造業者等」に当たります。

《ア 製造物を業として製造、加工又は輸入した者 》
 「業として」とは、反復、継続して製造、加工、又は輸入する者を対象とする趣旨です。営利目的であることは必要とされていないので、公益法人、国、地方公共団体なども製造業者等になりえます。また、事業規模の大小も問われません。
なお、製造物のラベルに表示されていなくとも、現実に欠陥ある製造物を製造、加工、又は輸入した者は、これに該当します。

《イ 製造物に氏名、商号、商標等の表示をした者、又は製造業者と誤認させるような氏名等の表示をした者 》

 現実に製造、加工、又は輸入をしていなくても、「製造元」、「輸入者」等の肩書きで自分の氏名等を付している場合や、肩書なしに自分の氏名やブランド名等を表示している場合など、製造業者と誤認されるような表示をしている者は、これに該当します。

《ウ その他実質的な製造業者と認めることができる氏名等の表示をした者 》
 例えば、販売業者は、本来製品を「製造」せず、また、製造業者と誤認させるような氏名の表示をすることも考えにくいので、上記ア、イには該当しません。しかし、同種類の物を製造している者や、国内市場で独占的に販売を行っている者が、製品に「発売元」として自己の名称を表示した場合、消費者等にとっては、販売業者が、「製造」に密接に関与しているとの印象を受け、製品の安全性の判断材料にすることが想定されます。そのため、このような場合には、販売業者等でもPL法による責任を問われる可能性があります。

食品が「製造物」に当たること(②)

 「製造物」とは、「製造又は加工された動産」をいいます。そして、「製造」は、原材料に手を加えて新たな物品を作ることを、「加工」は、動産を材料としてこれに工作を加え、その本質を保持しつつ、新しい属性ないし価値を付加することを、それぞれ意味します。
 食品についていえば、未加工の農林畜水産物は、製造物に該当しません。しかし、これに対して加熱や味付け等がされると、「加工」されたとして、製造物に該当する可能性が出てきます。
 そこで、どの程度人の手が加わることによって「加工」された農産畜産物となるかが問題となります。
 「加工」の解釈については、国会審議における政府答弁において、「・・・一般的には煮る、焼く等の過熱、調味、塩漬け、燻製等の味付け、粉挽き等は加工に該当するが、単なる切断、冷凍、乾燥などは基本的に加工に当たらないと考えられる」とされています。
 上記の解釈を前提とすると、魚を切るだけでは、「加工」に当たらないように思えます。しかし、例えば魚を刺身用に切ってパッケージする場合等については、材料となる魚の本質を保持したまま、これに工作を加えて直ちに食べられる形にし、魚の価値を増加させているとして、「加工」に当たると判断される可能性があります。

食品に「欠陥」があること(③)

 「欠陥」とは、製造物の特性、通常予見される使用形態、製造業者等が製造物を引き渡した時期などを考慮して、製造物が通常有すべき安全性を欠くことをいいます。
 食品の場合、人体に摂取されるものであることから、性質上一定の期間や保存条件の下で絶対的な安全性が求められ、食品事故の原因となる毒素が含まれていれば、原則として「欠陥」に当たります。また、食品衛生法、JIS規格等に定められた安全基準をみたしていても、PL法における「欠陥」に当たる可能性があるので注意が必要です。
 なお、食品事故における異物混入の場合等には、被害者は、必ずしも混入した異物が何かということの特定まで立証することは求められません(例:名古屋地判11630日判時1682106頁)。
 そして、「欠陥」は、一般に、以下のア~ウに掲げる3つの類型に分類されます。

ア  設計上の欠陥》

 設計上の欠陥とは、製造物の設計段階で十分に安全性に配慮しなかったため、製造物の安全性が欠ける結果となることです。食品の大きさや硬さ等が原因となり、当該食品を飲食する消費者において窒息する可能性がある場合などに問題となることがあります(参考:大阪高判平成24525日)。

イ  製造上の欠陥》

 製造上の欠陥とは、製造過程で粗悪な材料が混入するなどし、製造物が設計・仕様どおりに作られなかったことで、安全性を欠くことです。製造機械の摩耗や経年劣化等により剥がれた金属片が、食品の製造過程で混入してしまった場合などに問題となることがあります(参考:東京高判平成161012日判時191220頁、東京地判平成211112日)。

ウ  指示・警告上の欠陥》
 指示・警告上の欠陥とは、有用性や効用との関係で除去し得ない危険性を有する製造物について、当該危険性の発現による事故を防止・回避するために適切な情報を、製造者が消費者に与えないことです。食品の物性や形状などから、調理方法や飲食方法等について注意すべき点があるにもかかわらず、その旨の指示説明ないし警告を怠った場合などに問題となることがあります(参考:大阪高判平成24525日、東京地判平成241130日判タ1393335頁)。

製造業者等が食品を「引き渡した」こと(④)

 製造物責任の発生には、製造業者等が、自己の意思に基づいて食品の占有を移転させたことが必要です。そのため、盗まれた、あるいは強奪されたことによって製造業者等から占有が移転した場合は、「引き渡した」とはいえません。もっとも、詐欺や錯誤によって占有が移転した場合には、製造業者等の意思に基づいて占有が移転したことには変わりないので、「引き渡した」といえるでしょう。
 また、有償か無償かは関係ありませんので、例えば食品のサンプルとして引き渡した場合も含まれます。

生命、身体、又は財産が侵害され、損害が発生したこと(⑤)

 製造物責任の発生には、製造物の欠陥によって、人の生命、身体、又は財産が侵害され、損害が生じたことが必要です。そのため、消費者や飲食店従業員等が、購入した食品が腐っているのに気づいて、実際に食する前や、調理・提供前に廃棄した場合などは、生命、身体、又は財産に対する侵害及び損害の発生が認められません。
 食品事故によって発生する「損害」としては、健康被害に関する治療関係費(治療費、通院交通費、入院雑費、付添・看護費等)、休業損害、逸失利益、精神的損害などが想定されます。ただし、製造物責任による保護の対象は、あくまで生命、身体、又は財産であるので、精神的損害のみが発生するようなケースでは、製造業者等の製造物責任を追及することはできないと考えられています。
 また、損害が当該製造物についてのみ生じたときは、PL法に基づく責任追及はできません。他の製造物についても損害が生じたことが必要です。ただし、損害が当該製造物についてのみ生じた場合でも、契約責任又は不法行為責任の追及可能性は残ります。
 なお、PL法は、責任を追及できる主体を消費者に限定していません。そのため、食品事故の発生により営業損害、信用損害等を被った飲食店等を経営する法人が、食品の製造・輸入業者等に責任を追及することも可能です。

食品に「欠陥」があること(③)と、生命、身体、又は財産が侵害され、損害が発生したこと(⑤)の因果関係

 製造物責任の発生には、製造物に「欠陥」があることと、「損害の発生」との間に相当因果関係があることが必要です。食品については特に安全性が求められることから、食品事故が発生した場合、「欠陥」と「損害の発生」との因果関係は、強く推定されると考えられています。
 健康食品であるあまめしばの摂取と閉塞性細気管支炎の発症との因果関係が問題となった事案(名古屋地判平成191130日判時200169頁)では、動物実験におけるあまめしばの摂取と閉塞性細気管支炎との関連性も、毒性物質も確認されず、発症のメカニズムが解明できていなかったにもかかわらず、他の事実を総合して、加工あまめしばの摂取と閉塞性細気管支炎の発症とは高度の関連性があるとし、疫学的因果関係を認めました。

免責事由

開発危険の抗弁

 製造業者等が、製造物を引き渡した時における科学又は技術に関する知見では、製造物に欠陥があることを認識できなかった場合には、製造業者等は、損害賠償責任を免れます。
 ただし、「科学又は技術に関する知見」とは、客観的に社会に存在する、他に影響を及ぼしうる程度に確立された知識の総体であり、世界最高の科学技術の水準をも含みます。そのため、この抗弁が認められる可能性は、非常に低いといえます。たとえば、料亭で提供したイシガキダイ料理によってシガテラ毒素による食中毒が発生した事案(東京地判平成141213日判タ1109285)では、料亭を経営する被告は、イシガキダイによる食中毒発生事例の少なさ、イシガキダイがシガテラ毒素を含む場合があるという事実の認知の低さ、シガテラ毒素の予防の困難性等から開発危険の抗弁を主張しましたが、既存の文献が存在していたことから、この主張は認められませんでした。 
 それでは、製造物を引き渡した当時の「科学又は技術に関する知見」では、その「欠陥」を認識できなかったが、引渡し後に、科学技術の進歩によって「欠陥」が認識可能となった場合、製造業者等はどのような責任を負うのでしょうか。
 この場合、製造業者等は、開発危険の抗弁を主張することで、PL法の責任を免れることができます。ただし、引渡し後であったとしても、「欠陥」が認識可能になった後に、購入者に対する警告、回収等を行うことは必要です。仮にこのような措置を怠った場合には、民法上の不法行為責任を追及される可能性があります。

部品・原材料製造業者の抗弁

 製造物が、他の製造物の部品又は原材料として使用された場合に、その欠陥が専ら他の製造物の製造業者が行った設計に関する指示に従ったことによって生じ、かつ、過失がない場合には、製造業者等は損害賠償責任を免れることになります。

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