漁業法QA③(漁場計画及び沿岸漁場管理)

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IV海区漁場計画および沿岸漁場管理について

本項では、漁業生産力の発展および環境保全を図るために漁業法で整備された諸制度について、QA形式でご説明します。

 

IV-① 海区漁場計画について

Q105.海区漁場計画とはなんですか?

A. 海区漁場計画とは、都道府県知事が5年ごとに管轄水域の海区ごとに、どの水域にどのような漁業権を設定するかなど海域の利用計画を定めるもの(法62条1項)であり、水面を最大限に活用して漁業生産力の向上を図ることを基本的な目的とするものです。具体的には、海区に設定する漁業権及び保全沿岸漁場についてそれぞれ所定の事項を定めることとされています(同条2項)。

ここでいう「海区」とは、海面について農林水産大臣が漁業状態が大体において同様のところをみて、都道府県の区域又はそれを分けた地域の「地先海面」をもって定めたものをいいます。各県に1海区が基本とされていますが、県の大きさや面している海域によって2海区以上を管轄する県もあります。

なお、漁業権の存続期間が10年である漁業権についても、5年ごとに、利害関係者の意見を聴き、海区漁業調整委員会の意見を聴いた上で、海区漁業計画を定める必要があります。

詳細につきましては、水産庁「海面利用制度等に関するガイドライン」(※)第3をご参照ください。

漁業法(昭和24年12月15日法律第267号)

第六十二条(海区漁場計画)

1 都道府県知事は、その管轄に属する海面について、五年ごとに、海区漁場計画を定めるものとする。ただし、管轄に属する海面を有しない都道府県知事にあつては、この限りでない。

2 海区漁場計画においては、海区(第百三十六条第一項に規定する海区をいう。以下この款において同じ。)ごとに、次に掲げる事項を定めるものとする。

 一 当該海区に設定する漁業権について、次に掲げる事項

  イ 漁場の位置及び区域

  ロ 漁業の種類

  ハ 漁業時期

  ニ 存続期間(第七十五条第一項の期間より短い期間を定める場合に限る。)

  ホ 区画漁業権については、個別漁業権(団体漁業権以外の漁業権をいう。次節において同じ。)又は団体漁業権の別

  ヘ 団体漁業権については、その関係地区(自然的及び社会経済的条件により漁業権に係る漁場が属すると認められる地区をいう。第七十二条及び第百六条第四項において同じ。)

  ト イからヘまでに掲げるもののほか、漁業権の設定に関し必要な事項

 二 当該海区に設定する保全沿岸漁場について、次に掲げる事項

  イ 漁場の位置及び区域

  ロ 保全活動の種類

  ハ イ及びロに掲げるもののほか、保全沿岸漁場の設定に関し必要な事項

https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/kaikaku/attach/pdf/suisankaikaku-39.pdf

 

Q106.保全沿岸漁場について具体的に教えてください。

A. 「保全沿岸漁場」とは、漁業生産力の発展を図るために保全活動の円滑かつ計画的な実施を確保する必要がある沿岸漁場として都道府県知事が定めるものをいいます(法60条9項)。

ここでいう「保全活動」とは、水産動植物の生育環境の保全又は改善その他沿岸漁場の保全のための活動であって農林水産省令で定めるものをいいます(同条8項)。具体的には、施行規則21条において、赤潮の発生状況の監視、水底の底質調査、漂流物の除去、有害動植物の駆除、法令違反行為抑止活動などが規定されています。

漁業法(昭和24年12月15日法律第267号)

第六十条(定義)

1~7(略)

8 この章において「保全活動」とは、水産動植物の生育環境の保全又は改善その他沿岸漁場の保全のための活動であつて農林水産省令で定めるものをいう。

9 この章において「保全沿岸漁場」とは、漁業生産力の発展を図るため保全活動の円滑かつ計画的な実施を確保する必要がある沿岸漁場として都道府県知事が定めるものをいう。

 

漁業法施行規則(令和2年7月8日農林水産省令第47号)

第二十一条(保全活動の内容)

 法第六十条第八項の農林水産省令で定める活動は、次の各号のいずれかに掲げる活動であって、漁業生産力の発展に資するものとする。

 一 赤潮の発生状況の監視、水底の底質の調査その他の漁場の状況に関する調査

 二 漂流物の除去、有害動植物の駆除その他の漁業の対象となる水産動植物の生育に資する活動

 三 種苗の放流その他の漁業の対象となる水産動植物の増殖

 四 漁業関係法令に違反する行為を抑止するために必要な活動

 

Q107.海区漁場計画では具体的にどのような要件を充足すべきとされていますか?

A. 海区漁場計画は、その地域の漁業関係者の利害関係に直接影響を及ぼし、漁業権漁業を実施するうえでの基本となる計画であることから、漁業調整その他の公益に支障を及ぼさないよう配慮する必要があるため、以下の要件を充足するものである必要があります(法63条)。

・それぞれの漁業権が、海区に係る海面の総合的な利用を推進するとともに、漁業調整その他公益に支障を及ぼさないように設定されていること(同条1項1号)。

*「海面の総合的な利用を推進」とは、その海面の自然条件が漁業権の内容たる漁業を営むのに適しており、かつ、漁業生産力の発展を図るという本来の目的を達成する上で漁業権の内容たる漁業を営むことが適当である場合を指します。

〇最判昭和38年12月3日集民70号1頁
 「知事は上告会社を救済するため新漁場を設置してその漁業権を同会社に取得させるべく、もつぱら同会社の利益を図るだけの目的で、本件小清さけ定第三五号定置漁業権の漁場計画を新らたに決定公示し、これに基づき右漁業権を上告人両名に共同免許したというのである。してみれば、本件漁業権の漁場計画は、……制度を無意味にするものであつて、該制度の根底にある漁業民主化の目的理念に背馳し違法であり、これに基づく知事の漁業権免許処分を不適法と認めて取消した農林大臣の訴願裁決は適法である。」

*「漁業調整」とは、特定水産資源の再生産の阻害の防止若しくは特定水産資源以外の水産資源の保存及び管理又は漁場の使用に関する紛争の防止のために必要な調整をいいます(法36条2項)。

*ここでいう「公益」について、船舶の航行、停泊もしくは係留又は水底電線の敷設のほか、土地収用法その他土地収用に関する特別法により土地を収用し又は使用することができる事業の用に供する場合(漁港施設の設置等)は、ここでいう「公益」に該当するものの、他方で、地域開発計画による単なる工場誘致のための埋立てであって土地収用法の対象とならない事業等の用に供する場合は、ここでいう「公益」には該当しないと考えられています。

・海区漁場計画の作成の時において適切かつ有効に活用されている漁業権(活用漁業権)があるときは、漁場の位置及び区域、漁業の種類、漁業時期が当該漁業権とおおむね等しいと認められる漁業権(類似漁業権)が設定されていること(法63条1項2号)。

*「おおむね等しい」とは、現に免許を受けている漁業者が、引き続き漁場を適切かつ有効に活用できるようにすることが想定されています。「おおむね等しい」と認められるか否かは、活用漁業権に係る漁場の現況及び利用の状況、その漁場の周辺における漁場の利用の状況等を勘案して、現に免許を受けている漁業権者が、従前と同様の漁業を営み得るかという観点から実質的に判断されます。したがって、漁場の環境変化等を踏まえて、漁業権の対象となる漁場の位置や規模を調整する場合や、対象となる水産動植物を変更するものの従来と同様の漁具を使用する場合等は、「おおむね等しい」と認められると考えられます。

・法63条1項2号の場合において活用漁業権が団体漁業権であるときは、類似漁業権が団体漁業権として設定されていること(同項3号)。

・前号の場合のほか、漁場の活用の現況及び法64条2項の検討の結果に照らし、団体漁業権として区画漁業権を設定することが、当該区画漁業権に係る漁場における漁業生産力の発展に最も資すると認められる場合には、団体漁業権として区画漁業権が設定されていること(法63条1項4号)。

*「漁業生産力の発展に最も資する」か否かについては、短期的な生産量や生産額のみで判断することは適当ではなく、長期的な漁業の継続性や地域の漁業への波及効果も含めて総合的に判断することが適当と考えられています。具体的な例としては、①多数の組合員に個別に免許することにより漁場の細分化や漁場利用の固定化を招き、漁業生産力の発展に支障を及ぼす場合、②複数の区画漁業権が重複して設定される際に利用者間を調整し、水面の立体的利用を可能とする場合、③多数の漁業者が共同して販売する場合、養殖業に参画しようとする新規就業者に技術の普及を図ろうとする場合その他経営問題に精通した中立的な有識者が関与した具体的な実行計画により地域経済の発展に資することが明らかである場合等が、「漁業生産力の発展に最も資する」と認められる場合として挙げられます。

・法62条2項1号ニについて、法75条1項の期間より短い期間を定めるに当たっては、漁業調整のため必要な範囲内であること(法63条1項5号)。

・それぞれの保全沿岸漁場が、海区に設定される漁業権の内容たる漁業に係る漁場の使用と調和しつつ、水産動植物の生育環境の保全及び改善が適切に実施されるように設定されていること(同項6号)。

これらの詳細につきましては、水産庁「海面利用制度等に関するガイドライン」(※)第3の2をご参照ください。

https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/kaikaku/attach/pdf/suisankaikaku-39.pdf

 

Q108.「適切かつ有効に活用されている漁業権」(法63条1項2号)について、詳しく教えてください。

A. 海区漁場計画が満たす必要のある要件として、「海区漁場計画の作成の時において適切かつ有効に活用されている漁業権(活用漁業権)があるときは、漁場の位置及び区域、漁業の種類、漁業時期が当該漁業権とおおむね等しいと認められる漁業権(類似漁業権)が設定されていること」(法63条1項2号)があります。

ここでいう「適切かつ有効」に活用とは、漁場の環境に適合するように資源管理や養殖生産等を行い、将来にわたって持続的に漁業生産力を高めるように漁場を活用している状況をいいます。「適切かつ有効」に活用されているか否かについては、単に生産金額や生産数量、組合員行使権者数のみをもって判断することは適当ではなく、これらに加え、漁業権又は組合員行使権の行使状況、漁業権に係る漁場の現況及び利用の状況、その漁場の周辺における漁場利用の状況、法令遵守の状況等の事情を総合的に考慮することが適当と考えられています。

「適切」の判断基準としては、漁場利用が、他の漁業者が営む漁業の生産活動に支障を及ぼしたり海洋環境の悪化を引き起こしたりしていないことが必要です。具体的には、漁業関係法令を遵守していること、漁具の使用・設置状況や薬品の使用状況が適切であること、漁場紛争が起きていないこと又は起きた場合でも漁場紛争の解決に向けて誠実に取り組んでいること、資源管理を適切に実施していること、漁場改善計画に基づく取組が行われていること等を満たしていることが求められます。

「有効」の判断基準としては、漁場利用において、合理的な理由がないにも関わらず漁場の一部を利用していないといった状況が生じていないことが必要です。具体的には、操業や養殖が可能な期間を相当程度利用していること、養殖密度等が周囲の漁場と同程度であること、あるいは飼育状態を合理的に説明できること等を満たしていることが求められます。なお、漁場の一部を利用していない場合であっても、それが資源の回復や漁場の潮通しを良くする等の漁場環境の改善を目的とする場合のほか、漁船の修理や漁具の補修を行っている場合、操業を主に行う者が病気やけがのために一時的に操業できない場合、台風や赤潮等の自然災害のために一時的に操業できない場合等、合理的な理由に基づく場合は、「有効」に該当すると考えられます。

水産庁「海面利用制度等に関するガイドライン」(※)別紙1記載のチェックシートが、漁場を「適切かつ有効」に活用しているかどうかの判断を行う際に確認すべき項目を示しているため、こちらもご参照ください。

https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/kaikaku/attach/pdf/suisankaikaku-39.pdf

 

Q109.海区漁場計画を作成するに当たっての具体的な手続きについて教えて下さい。

A. 海区漁場計画は、漁業者にとっては利用する漁場を決める重要なものです。そのため、透明性の高い手続きによって作成されなければならず、そのための作成手続きが法64条に規定されています。

①都道府県知事は、あらかじめ、意見の提出方法、提出期限、提出先その他意見の提出に関し必要な事項を、インターネットの利用その他の適切な方法により公表した上で、当該海区において漁業を営む者、漁業を営もうとする者その他の利害関係人の意見を聴きます(同条1項、施行規則22条1項)。この際、利害関係人として意見を述べようとする者は、当該事案について利害関係のあることを疎明する必要があります(施行規則22条2項)。

②都道府県知事は、上記の意見について検討を加え、その結果を公表します(同条2項)。この際、例えば、パブリックコメントにおける方法に準じてインターネット等を利用して具体的に公表することが適当であると考えられています。また、既存の漁業権者が同意しないことのみを理由として、意見を不採用とすることは適切でないと考えられています。

③都道府県知事は、上記の検討結果を踏まえて海区漁場計画の案を作成します(同条3項)。

④都道府県知事は、上記案の作成をしたときは、海区漁業調整委員会の意見を聴きます(同条4項)。

⑤海区漁業調整員会が④の意見を述べようとするときは、あらかじめ期日と場所を公示したうえで公聴会を開き、当該海区で漁業を営む者、営もうとする者その他の利害関係人の意見を聴かなければなりません(同条5項)。この際、公聴会に出席して意見を述べようとする者は、当該事案に関して利害関係を有する理由及び述べようとする意見の概要を海区漁業調整委員会に申し出る必要があります(施行規則23条1項)。なお、当該申出人が多数あるときは、意見を述べることができる者の数が制限されることがあります(施行規則23条2項・3項)。

⑥都道府県知事は、海区漁場計画を作成したときは、当該海区漁場計画の内容その他農林水産省令(施行規則24条)で定める事項を公表するととともに、漁業の免許予定日及び法109条の沿岸漁場管理団体の指定予定日並びにこれらの申請期間を公示しなければなりません(同条6項)。この場合、免許予定日及び指定予定日は、当該公示の日から起算して3か月を経過した日以後の日としなければなりません(同条7項)。

詳細につきましては、水産庁「海面利用制度等に関するガイドライン」(※)第3の3をご参照ください。

漁業法施行規則(令和2年7月8日農林水産省令第47号)

第二十二条(都道府県知事による意見の聴取)

1 都道府県知事は、法第六十四条第一項(法第六十七条第二項において準用する場合を含む。次項において同じ。)の規定により意見を聴こうとするときは、あらかじめ、意見の提出方法、提出期限、提出先その他意見の提出に関し必要な事項を、インターネットの利用その他の適切な方法により公表するものとする。

2 法第六十四条第一項の利害関係人として意見を述べようとする者は、当該事案について利害関係のあることを疎明しなければならない。

第二十三条(海区漁業調整委員会による意見の聴取)

1 法第六十四条第五項(法第六十七条第二項において準用する場合を含む。)の公聴会に出席して意見を述べようとする者は、当該事案に関して利害関係を有する理由及び述べようとする意見の概要を海区漁業調整委員会に申し出なければならない。

2 海区漁業調整委員会の会長は、前項の規定による申出をした者が多数あることにより、公聴会の期日において、これらの者の全てに意見を述べさせることができないと認めるときは、意見を述べることができる者の数を制限することができる。この場合において、海区漁業調整委員会の会長は、多様な趣旨の意見を聴取することを旨として、公聴会において意見を述べることができる者を定めるものとする。

3 海区漁業調整委員会の会長は、前項の規定による制限によって公聴会において意見を述べることができないこととなる者に対して、その旨を通知しなければならない。

第二十四条(海区漁場計画等を作成したときの公表事項)

 法第六十四条第六項(法第六十七条第二項において準用する場合を含む。)の農林水産省令で定める事項は、次に掲げるものとする。

 一 法第六十四条第四項の規定により聴いた海区漁業調整委員会の意見の概要及び当該意見の処理の結果

 二 漁場図

 三 その他参考となるべき事項

https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/kaikaku/attach/pdf/suisankaikaku-39.pdf

 

Q110.海区漁場計画が変更されることはありますか?

A. 農林水産大臣は、以下に掲げるいずれかに該当するときは、都道府県知事に対し、海区漁場計画を変更すべき旨の指示その他海区漁場計画に関して必要な指示をすることができます(法66条)。

(i)法65条の規定により助言をした事項について、我が国の漁業生産力の発展を図るため特に必要があると認めるとき(法66条1号)。

(ii)都道府県の区域を超えた広域的な見地から、漁業調整のため特に必要があると認めるとき(同条2号)。

漁業法(昭和24年12月15日法律第267号)

第六十五条(農林水産大臣の助言)

 農林水産大臣は、前条第二項の検討の結果を踏まえて、都道府県の区域を超えた広域的な見地から、我が国の漁業生産力の発展を図るために必要があると認めるときは、都道府県知事に対し、海区漁場計画の案を修正すべき旨の助言その他海区漁場計画に関して必要な助言をすることができる。

第六十六条(農林水産大臣の指示)

 農林水産大臣は、次の各号のいずれかに該当するときは、都道府県知事に対し、海区漁場計画を変更すべき旨の指示その他海区漁場計画に関して必要な指示をすることができる。

 一 前条の規定により助言をした事項について、我が国の漁業生産力の発展を図るため特に必要があると認めるとき。

 二 都道府県の区域を超えた広域的な見地から、漁業調整のため特に必要があると認めるとき。

 

Q111.海区漁場計画を変更するに当たっての具体的な手続きについて教えて下さい。

A. 海区漁場計画を変更する際は、その作成と同様の手続きを経る必要があります(法64条8項)。

漁業法(昭和24年12月15日法律第267号)

第六十四条(海区漁場計画の作成の手続)

1~7(略)

8 前各項の規定は、海区漁場計画の変更について準用する。

 

Q112.作成された海区漁場計画について不満があります。海区漁場計画に対して行政不服審査法に基づく不服申立てをすることはできますか?

A. 海区漁場計画の作成は、単なる計画の策定であり、海区漁場計画により直接国民の権利を制限し又は義務を課す法的効果を伴う行政処分とはいえないため、海区漁場計画に対して行政不服審査法に基づき不服申立てをすることはできないとされています。

 

IV-② 沿岸漁場管理について

Q113.沿岸漁場管理団体とは具体的にはどのような団体ですか?

A. 沿岸漁場管理団体とは、保全沿岸漁場(水産動植物の生育環境を保全する必要がある沿岸漁場のこと(法60条9項))において、保全活動を主体的に行う団体のことです。都道府県知事が海区漁場計画に基づき、保全沿岸漁場ごとに申請のあった団体から指定することとされています(法109条1項)。

 

Q114.沿岸漁場管理団体の指定はどのようになされますか?

A. 都道府県知事は、漁業協同組合若しくは漁業協同組合連合会又は一般社団法人若しくは一般財団法人を、①法110条規定の「適格性を有する者」であること(法109条1項1号)、②役員又は職員の構成が保全活動の実施に支障を及ぼすおそれがないものであること(同項2号)、③保全活動以外の業務を行っている場合には、その業務を行うことによって保全活動の適正かつ確実な実施に支障を及ぼすおそれがないこと(同項3号)という基準に適合する場合に、その申請により、沿岸漁場管理団体として指定することができます。

都道府県知事は、保全活動の適切な実施を確保するために必要があると認めるときは、上記指定をする際に、条件を付することができます(法109条2項)。また、都道府県知事は、上記指定をする際に、海区漁業調整委員会の意見を聴かなければなりません(同条3項)。

なお、漁場の保全活動を沿岸漁場管理制度によらず、漁業協同組合等の自主的な活動として行う場合には、都道府県知事の指定なくしてこれを行うことが可能です。

漁業法(昭和24年12月15日法律第267号)

第百九条(沿岸漁場管理団体の指定)

1 都道府県知事は、海区漁場計画に基づき、当該海区漁場計画で設定した保全沿岸漁場ごとに、漁業協同組合若しくは漁業協同組合連合会又は一般社団法人若しくは一般財団法人であつて、次に掲げる基準に適合すると認められるものを、その申請により、沿岸漁場管理団体として指定することができる。

 一 次条に規定する適格性を有する者であること。

 二 役員又は職員の構成が、保全活動の実施に支障を及ぼすおそれがないものであること。

 三 保全活動以外の業務を行つている場合には、その業務を行うことによつて保全活動の適正かつ確実な実施に支障を及ぼすおそれがないこと。

2 都道府県知事は、保全活動の適切な実施を確保するために必要があると認めるときは、前項の規定による指定をするに当たり、条件を付けることができる。

3 都道府県知事は、第一項の規定により沿岸漁場管理団体を指定しようとするときは、海区漁業調整委員会の意見を聴かなければならない。

 

Q115.沿岸漁場管理団体の「適格性を有する者」とはどのような者をいうのですか?

A. 沿岸漁場管理団体の「適格性を有する者」とは、以下の各号のいずれにも該当しない者をいうと規定されています(法110条)。

・その役員又は政令で定める職員のうちに暴力団員等がある者であること(同条1号)。

*「政令で定める職員」について、現在、欠格事由の対象となる職員に関する規定は政令に設けられていません。

・暴力団員等がその事業活動を支配するものであること(同条2号)。

・適確な経理その他保全活動を適切に実施するために必要な能力を有すると認められないこと(同条3号)。

 

Q116.法111条1項により沿岸漁場管理団体は沿岸漁場管理規程を作成することとされていますが、かかる規程に記載すべき事項ついて具体的に教えて下さい。

A. 沿岸漁場管理規程には以下の事項を記載する必要があります。

・水産動植物の生育環境の保全又は改善の目標(同条2項1号)

・保全活動を実施する区域及び期間(同項2号)

・保全活動の内容(同項3号)

・保全活動の実施に関し遵守すべき事項(同項4号)

・保全活動に従事する者のうち保全沿岸漁場において漁業を営む者及びその他の者の役割分担その他保全活動の円滑な実施の確保に関する事項(同項5号)

・保全活動により保全沿岸漁場において漁業を営む者その他の者が受けると見込まれる利益の内容及び程度(同項6号)

・前号の利益を受けることが見込まれる者の範囲(同項7号)

・保全活動に要する費用の見込みに関する事項(同項8号)

*ここでいう「費用」については、モニタリング活動における採水や分析等に要する経費や、漂流物等の除去活動における人件費や処分等に要する経費、機器・資材費等がこれに該当すると考えられています。

・保全活動に要する費用の収納及び管理に関する事項、その他参考となるべき事項(同項9号、施行規則31条)。

詳細につきましては、水産庁「海面利用制度等に関するガイドライン」(※)第7の2及び同別紙5をご参照ください。

漁業法施行規則(令和2年7月8日農林水産省令第47号)

第三十一条(沿岸漁場管理規程の規定事項)

 法第百十一条第二項第九号の農林水産省令で定める事項は、次に掲げるものとする。

 一 保全活動に要する費用の収納及び管理に関する事項

 二 その他参考となるべき事項

https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/kaikaku/attach/pdf/suisankaikaku-39.pdf

 

Q117.沿岸漁場管理規程を作成するにあたり必要な手続きについて教えて下さい。

A. 都道府県知事は、沿岸漁場管理規程の認可の申請があったときは、海区漁業調整委員会の意見を聴かなければなりません(法111条4項)。そして、都道府県知事は、沿岸漁場管理規程の内容が次の各号のいずれにも該当するときは、認可をしなければなりません(同条5項)。

・保全活動を効果的かつ効率的に行う上で的確であると認められるものであること(同項1号)

・不当に差別的なものでないこと(同項2号)

・受益者に同条2項8号の協力を求めようとするときは、その額が利益の内容及び程度に照らして妥当なものであること(同条5項3号)。

都道府県知事は、沿岸漁場管理規程の認可をしたときは、沿岸漁場管理団体の名称、住所、連絡先、認可をした沿岸漁場管理規程、その他参考となるべき事項を公示しなければなりません(同条6項、施行規則32条)。

漁業法(昭和24年12月15日法律第267号)

第百十一条(沿岸漁場管理規程)

1~3(略)

4 第一項又は前項の認可の申請があつたときは、都道府県知事は、海区漁業調整委員会の意見を聴かなければならない。

5 都道府県知事は、沿岸漁場管理規程の内容が次の各号のいずれにも該当するときは、認可をしなければならない。

 一 保全活動を効果的かつ効率的に行う上で的確であると認められるものであること。

 二 不当に差別的なものでないこと。

 三 受益者に第二項第八号の協力(第百十三条及び第百十四条において単に「協力」という。)を求めようとするときは、その額が利益の内容及び程度に照らして妥当なものであること。

6 都道府県知事は、第一項又は第三項の認可をしたときは、沿岸漁場管理団体の名称その他の農林水産省令で定める事項を公示しなければならない。

 

漁業法施行規則(令和2年7月8日農林水産省令第47号)

第三十二条(沿岸漁場管理規程の認可に係る公示事項)

 法第百十一条第六項の農林水産省令で定める事項は、次のとおりとする。

 一 沿岸漁場管理団体の名称、住所及び連絡先

 二 法第百十一条第一項又は第三項の規定による認可をした沿岸漁場管理規程

 三 その他参考となるべき事項

 

Q118.沿岸漁場管理規程を変更するにあたり必要な手続きについて教えて下さい。

A. 都道府県知事は、沿岸漁場管理規程の変更の認可(法111条3項)の申請があったときは、沿岸漁場管理規程の作成の際と同様に、海区漁業調整委員会の意見を聴いた上で(同条4項)、沿岸漁場管理規程の内容が同条5項各号のいずれにも該当するときは、認可をしなければなりません。そして、都道府県知事は、沿岸漁場管理規程の変更の認可をしたときは、沿岸漁場管理団体の名称その他の農林水産省令で定める事項を公示しなければなりません(同条6項、施行規則32条)。

漁業法(昭和24年12月15日法律第267号)

第百十一条(沿岸漁場管理規程)

1、2(略)

3 沿岸漁場管理団体は、沿岸漁場管理規程を変更しようとするときは、都道府県知事の認可を受けなければならない。

4 第一項又は前項の認可の申請があつたときは、都道府県知事は、海区漁業調整委員会の意見を聴かなければならない。

5 都道府県知事は、沿岸漁場管理規程の内容が次の各号のいずれにも該当するときは、認可をしなければならない。

 一 保全活動を効果的かつ効率的に行う上で的確であると認められるものであること。

 二 不当に差別的なものでないこと。

 三 受益者に第二項第八号の協力(第百十三条及び第百十四条において単に「協力」という。)を求めようとするときは、その額が利益の内容及び程度に照らして妥当なものであること。

6 都道府県知事は、第一項又は第三項の認可をしたときは、沿岸漁場管理団体の名称その他の農林水産省令で定める事項を公示しなければならない。

 

Q119.沿岸漁場管理団体はどのような活動をすることと規定されていますか??

A. 沿岸漁場管理団体は、沿岸漁場管理規程に基づいて保全活動を行います(法112条1項)。そして、保全活動の内容、実施状況、収支状況等を1年に1回以上都道府県知事に報告しなければなりません(同条2項、施行規則33条)。

漁業法(昭和24年12月15日法律第267号)

第百十二条(沿岸漁場管理団体の活動)

1 沿岸漁場管理団体は、沿岸漁場管理規程に基づいて保全活動を行うものとする。

2 沿岸漁場管理団体は、農林水産省令で定めるところにより、保全活動の実施状況、収支状況その他の農林水産省令で定める事項を都道府県知事に報告しなければならない。

3 都道府県知事は、保全活動の実施状況、収支状況その他の農林水産省令で定める事項を海区漁業調整委員会に報告するとともに、公表するものとする。

 

漁業法施行規則(令和2年7月8日農林水産省令第47号)

第三十三条(保全活動の実施状況の報告等)

1 法第百十二条第二項及び第三項の農林水産省令で定める事項は、次に掲げるものとする。

 一 報告の対象となる期間

 二 保全活動の内容

 三 活動を行った日数及び人数その他の保全活動の実施状況

 四 保全活動の収支状況

 五 その他必要な事項

2 法第百十二条第二項の規定による都道府県知事への報告は、当該都道府県知事が定める方法により、一年に一回以上、当該都道府県知事の定める日までに行うものとする。

 

Q120.保全活動の実施にあたり、保全活動従事者以外で保全活動により利益を受けることが見込まれる者(受益者)の協力が得られないときはどうすれば良いでしょうか?

A. 沿岸漁業管理団体の活動は、そこに生息する水産動植物の生育環境の保全など、公益性が高く、その水域の漁業生産力の向上に寄与するものであるので、関係者の協力を斡旋する仕組みが漁業法に定められています。

具体的には、沿岸漁場管理団体は、保全活動の実施に当たり、受益者の協力が得られない時は都道府県知事に対して必要な斡旋をすべきことを求めることができ(法113条1項)、知事はその受益者の協力が特に必要であると認めるときは斡旋をしなければなりません(同条2項)。

ここでいう「斡旋」とは、話し合いが円滑に行われるようにその機会を用意すること等をいいます。都道府県知事は、斡旋にあたって、保全活動が漁業者等の自主的な活動であることを尊重し、あくまでも自主的な解決が図られるよう配慮すべきであるとされています(水産庁「海面利用制度等に関するガイドライン」(※)第7の2(2))。

漁業法(昭和24年12月15日法律第267号)

第百十三条(保全活動への協力のあつせん)

1 沿岸漁場管理団体は、保全活動の実施に当たり、受益者の協力が得られないときは、都道府県知事に対し、当該協力を得るために必要なあつせんをすべきことを求めることができる。

2 都道府県知事は、前項の規定によりあつせんを求められた場合において、当該受益者の協力が特に必要であると認めるときは、あつせんをするものとする。

https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/kaikaku/attach/pdf/suisankaikaku-39.pdf

 

Q121.受益者が斡旋を受けたにもかかわらず、その協力が得られない場合はどうなりますか?

A. 斡旋を受けたにもかかわらず、受益者の協力が得られず、そのことによって沿岸漁場管理団体が保全活動を実施する上で支障が生じている場合において、法64条1項の規定により沿岸漁場管理団体がその支障の除去に関する意見を述べたときは、都道府県知事は、海区漁場計画を定め、又は変更するにあたり、当該意見を尊重します(法114条1項)。さらに、保全沿岸漁業で漁業を営む受益者の協力が得られず、そのことによって保全活動に支障を生じていると都道府県知事が認める場合には、同知事は、そのような受益者の漁業権に対する条件の付与などの措置を講ずることとされています(同条2項)。

漁業法(昭和24年12月15日法律第267号)

第六十四条(海区漁場計画の作成の手続)

1 都道府県知事は、海区漁場計画の案を作成しようとするときは、農林水産省令で定めるところにより、当該海区において漁業を営む者、漁業を営もうとする者その他の利害関係人の意見を聴かなければならない。

2~8(略)

第百十四条(協力が得られない場合の措置)

1 前条第二項のあつせんを受けたにもかかわらず、なお受益者の協力が得られないことにより沿岸漁場管理団体が保全活動を実施する上で支障が生じている場合において、第六十四条第一項(同条第八項において準用する場合を含む。)の規定により沿岸漁場管理団体がその支障の除去に関する意見を述べたときは、都道府県知事は、海区漁場計画を定め、又は変更するに当たり、当該意見を尊重するものとする。

2 都道府県知事は、前条第二項のあつせんをしたにもかかわらず、なお受益者(保全沿岸漁場において漁業を営む者に限る。)の協力が得られないことにより沿岸漁場管理団体が保全活動を実施する上で支障が生じていると認めるときは、第五十八条において準用する第四十四条第一項若しくは第二項の規定又は第八十六条第一項、第九十三条第一項若しくは第百十九条第一項若しくは第二項の規定により必要な措置を講ずるものとする。

 

Q122.保全活動を休廃止する場合の手続きについて教えて下さい。

A. 法115条1項において、沿岸漁場管理団体は、都道府県知事の認可を受けなければ、沿岸漁場管理規程に基づく保全活動の全部または一部を休止し、又は廃止してはならないと規定されています。都道府県知事が保全活動の全部の廃止の認可をしたときは、当該沿岸漁場管理団体の指定はその効力を失います(同条2項)。

漁業法(昭和24年12月15日法律第267号)

第百十五条(保全活動の休廃止)

1 沿岸漁場管理団体は、都道府県知事の認可を受けなければ、沿岸漁場管理規程に基づく保全活動の全部又は一部を休止し、又は廃止してはならない。

2 都道府県知事が前項の規定により保全活動の全部の廃止を認可したときは、当該沿岸漁場管理団体の指定は、その効力を失う。

3(略)

 

Q123.沿岸漁場管理団体の指定が取り消されることはありますか?

A. 都道府県知事は、沿岸漁場管理団体が「適格性を有する者」(法110条)でなくなったときは、その指定を取り消さなければなりません(法116条2項)。

また、都道府県知事は、沿岸漁場管理団体が保全活動を適切に行っておらず、又は付された条件を遵守していないと認めるときは、当該沿岸漁場管理団体に対して、保全活動を適切に行うべき旨又は当該条件を遵守すべき旨を勧告しなければならず(同条1項)、かかる勧告を受けた沿岸漁場管理団体がその勧告に従わないときは、その指定を取り消すことができます(同条3項)。

都道府県知事は、沿岸漁場管理団体の指定を取消しをするときは、海区漁業調整委員会の意見を聴かなければなりません(同条4項、89条3項)。また、この場合において、海区漁業調整委員会は、漁業権を取り消すべき旨の意見を述べようとするときは、あらかじめ、当該漁業権者にその理由を文書をもつて通知し、公開による意見の聴取を行わなければなりません(法116条4項、89条4項)。

漁業法(昭和24年12月15日法律第267号)

第八十九条(休業による漁業権の取消し)

1、2(略)

3 第一項の規定により漁業権を取り消そうとするときは、都道府県知事は、海区漁業調整委員会の意見を聴かなければならない。

4 海区漁業調整委員会は、前項の場合において、漁業権を取り消すべき旨の意見を述べようとするときは、あらかじめ、当該漁業権者にその理由を文書をもつて通知し、公開による意見の聴取を行わなければならない。

5~7(略)

第百十六条(指定の取消し等)

1 都道府県知事は、沿岸漁場管理団体が保全活動を適切に行つておらず、又は第百九条第二項の規定により付けた条件を遵守していないと認めるときは、当該沿岸漁場管理団体に対して、保全活動を適切に行うべき旨又は当該条件を遵守すべき旨を勧告するものとする。

2 都道府県知事は、沿岸漁場管理団体が第百十条に規定する適格性を有する者でなくなつたときは、その指定を取り消さなければならない。

3 都道府県知事は、第一項の規定による勧告を受けた沿岸漁場管理団体がその勧告に従わないときは、その指定を取り消すことができる。

4 前二項の場合には、第八十九条第三項から第七項までの規定を準用する。

 

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