転貸借に関するQ&A

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1はじめに

 事業経営にあたっては、自社ビルなどを保有している場合を除いては、店舗となる物件を賃借するケースが一般的です。  

 さらに、その賃借にかかる法律関係は、物件の所有者から直接賃借する場合もあれば、いわゆる又借りという形で賃借人からさらに転借するという場合もあり、時として複雑なものになります。

 そこで、本稿では、日常生活ではあまり馴染みの無い転貸借の法的意味及びその内容を中心に、QAを交えながらご説明していきます。

 

 2 転貸借とは

 例えば、賃貸人が賃借人に対して営業用店舗不動産を賃貸し、かかる店舗を賃借人が第三者に又貸ししたとします。このような又貸し行為が一般的に理解される転貸にあたります(なお、以下では元となる賃貸借契約における貸主を「賃貸人」、借主を「賃借人(転貸人)」と呼び、転貸における借主を「転借人」と呼びます)。

 転貸にあたって賃借人が賃貸人の承諾を得ていた場合には無断転貸には当たらず、そのような転貸は適法なものとなります。他方で、賃借人が賃貸人の承諾を得ないまま転貸を行い、転借人が目的物の使用収益を行った場合には、後述のように、賃貸人による賃貸借契約の無催告解除が認められています(民法612条2項)。なお、ここでいう「承諾」とは、事前・事後を問わず、その相手方についても、賃借人か転借人かは問われません(最判昭和31年10月5日民集10巻10号1239頁)。また、一度承諾がなされると、たとえそれが転貸前であったとしても、賃貸人はその承諾を撤回することはできないものとされています(最判昭和30年5月13日民集9巻6号698頁)。ただし、ここでいう「承諾」とは、転貸借の承諾のことをいい、同居の承諾をもって転貸借の黙示の承諾と解することはできないとされています(東京高判昭和29年10月23日東高民時報5巻10号248頁)。

〇最判昭和31年10月5日民集10巻10号1239頁
 「賃借人のなした賃借権の譲渡に対する賃貸人の承諾は、必ずしも譲渡人に対してなすを要せず、譲受人に対してなすも差支なきものと解すべきである」。

〇最判昭和30年5月13日民集9巻6号698頁
 「賃貸人が賃借人に対し一旦賃借権の譲渡について承諾を与えた以上、たとえ、本件のごとく賃借人が未だ第三者と賃借権譲渡の契約を締結しない以前であつても、賃貸人一方の事情に基いて、その一方的の意思表示をもつて、承諾を撤回し、一旦与えた賃借権の譲渡性を奪うということは許されないものと解するを相当とする。」

〇東京高判昭和29年10月23日東高民時報5巻10号248頁
 「同居の承諾と転貸借の承諾とはその法律上の効力を異にするから、(たとえば家屋の賃貸借の合意解除または解約申入の場合において、同居者はたとえ賃貸人の承諾を得ていても当然同居する権利を失うけれども賃貸人の承諾を得た転借人は当然にはその権利を失うことがないというが如き。)同居について賃貸人の承諾があつたとしても、その後に成立した賃貸人と同居人との間の転貸借について、さきの同居の承諾をもつて転貸借の黙示の承諾とは解することができない。」

 適法転貸または無断転貸の結果生じる法律効果は異なりますので、以下ではそれぞれの場合に分けてご説明します。

 

2.1転貸借が適法になされた場合の効果

 転借人は賃借人(転貸人)に対して転貸借に基づく義務を負うことは当然ですが、その他の転貸借が適法にされた場合に生じる基本的な法律効果は以下の通りです。

①転借人は、賃貸人と賃借人(転貸人)との間の賃貸借に基づく賃借人(転貸人)の債務の範囲を限度として、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負います(民法613条1項前段)。

 例えば、賃料支払義務について、原賃貸借の賃料が転貸料よりも多額であれば転貸料が、原賃貸借の賃料が転貸料よりも少額であれば原賃貸借の賃料が、それぞれの賃料支払請求の上限となります。なお、転借人に対し直接賃料支払請求をするためには、転借人の転貸人に対する賃料が未払いであるだけでは足りず、転貸人の賃貸人に対する賃料も未払いであることが必要であると考えられています(東京地判平成27年9月9日)。

 具体的には、賃貸人が賃借人(転貸人)に対して営業用店舗不動産を賃料月額10万円で貸していたとします。そして、賃借人(転貸人)は同不動産を賃料月額15万円で転借人に転貸したとします。この場合、賃貸人と転借人との間には直接の契約関係はありませんが、転借人は賃貸人に対して賃料月額10万円を限度として直接履行する義務を負うこととなります。

〇東京地判平成27年9月9日(平成26年(ワ)第20331号、平成27年(ワ)第7031号)
 「民法613条1項により、賃貸人が転借人に対し、賃料の直接請求ができるのは、転借人の転貸人に対する賃料が未払であるだけでは足りず、転貸人の賃貸人に対する賃料も未払であることが必要である。同条項は、直接の契約関係にない賃貸人と転借人との間に直接の法律関係を認め、賃貸人の利益を図ったものであり、既に賃借人(転貸人)から賃料の支払を受けた賃貸人に重ねて賃料支払を受ける利益を与える必要はないからである。」

②賃貸人からの転貸賃料債務の直接履行請求(上記①に基づく請求)に対し、転借人は、賃借人(転貸人)への賃料の前払をもって賃貸人に対抗することはできません(民法613条1項後段)。

 例えば、上記の賃貸人の請求に対して、転借人は「すでに転貸にもとづく賃料は賃借人(転貸人)に前払済みである」ということを主張することは許されません。

 なお、ここで、転借人が対抗することができないのは「前払」であるという点に留意が必要です。ここでいう「前払」とは、転貸借契約で定められた賃料の支払時期を基準として、それよりも前にした支払いという意味であると解されています(大判昭和7年10月8日民集11巻1901頁、東京地判平成27年7月6日)。従って、すでに弁済期が到来している転貸に基づく賃料債務を転借人が弁済したということについては、当然に転借人は賃貸人に主張することができます。

〇大判昭和7年10月8日民集11巻1901頁
 「民法第六百十三条第一項後段ニ所謂借賃ノ前払トハ賃貸人カ転借人ニ対シ借賃ノ支払ヲ請求スルコトヲ得ル時期ヨリ前ニ転借人カ転貸人ニ対シ借賃ヲ支払ヒタル場合ヲ指称スル」

〇東京地判平成27年7月6日(平成27年(ワ)第10212号)
 「民法613条1項後段の「前払」にあたるか否かは、本件転貸借契約において定められた支払期が基準とされるべきである」。

③賃貸人は、原賃貸借が期間満了又は解約申入れによって終了するときは、転借人に対し、賃貸借の終了を通知しなければ、賃貸借の終了を転借人に対抗することができません(借地借家法34条1項)。賃貸人からかかる通知がなされたときは、転貸借は、その通知後6か月を経過した時に終了します(同法同条2項)。

 なお、原賃貸借が合意解除ないしは債務不履行に基づき終了する場合には、借地借家法34条は適用されません(大判昭和8年7月12日大民集12巻1860頁、最判昭和39年3月31日集民72号657頁)。

〇大判昭和8年7月12日大民集12巻1860頁
 「借家法第四条(筆者注:現借地借家法34条に相当。)ハ其ノ前条タル第三条ヲ受ケタル規定ニシテ即チ賃貸借契約ニ期間ノ定ナク解約ノ申入ニ因リ終了スヘキ場合ニ付規定シタルモノニシテ前叙ノ如ク賃借人ノ不履行ニ因リ賃貸借契約カ特約ニ因リ当然解除セラルルカ如キ場合ニ適用セラルヘキ規定ニ非サルカ故ニ被上告人ハ転借人タル上告人ニ対シ賃貸借ノ終了シタルコトヲ通知セサルモ本訴ノ請求ヲ為スコトヲ得」

〇最判昭和39年3月31日集民72号657頁
 「基本たる建物賃貸借が過怠約款に従い賃借人の債務不履行によつて解除に帰したときは、借家法四条(筆者注:現借地借家法34条に相当。)を適用する余地なく、同法条の適用あることを前提とする上告人の主張は採用できないとした原判決の判断は、正当として肯認できる。」

 

Q.賃貸人と賃借人(転貸人)との間の賃貸借契約が合意解除された後に、賃貸人が転借人に対し目的物の返還を請求した場合には転貸借契約にどのような影響がありますか?

A. 原則として、賃貸人は転借人に賃貸借契約の合意解除を対抗することはできず、かかる解除によって転貸借契約が終了することもありません(民法613条3項本文)。転貸自体は適法になされている以上、賃貸人の賃借人(転貸人)との間の合意によって転貸人の地位を奪う結果となることは適当ではないためです。

 もっとも、合意解除の時点において、賃貸人が賃貸借契約の債務不履行に基づく解除権を有しているような場合には、例外的に、賃貸人はかかる解除権を転借人に対抗することが可能です(民法613条3項但書)。また、特段の事情がある場合にも合意解除を転借人に対抗することが可能です。かかる特段の事情が認められた例としては、①転借人も合意解除がなされることを知っていた場合(最判昭和31年4月5日民集10巻4号330頁)や、②賃借人と転借人が同一視できる場合(最判昭和38年4月12日民集17巻3号460頁)などがあります。

 なお、上述のように合意解除を転借人に対抗することができる場合、目的物件の明渡しを賃貸人が転借人に請求した時点で、転貸借契約は終了することとなります(民法616条の2)。

〇最判昭和31年4月5日民集10巻4号330頁
 「被上告人は、近く予想せられた……本件家屋退去に至るまでの間を限つて、その家屋の一部の転借につき、上告人の代理人に対し承諾を与えたものであつて、上告人側も当初より右事実関係を了承していたものであることがうかがえるから、上告人の転借権が、……賃貸借の終了により消滅するとした原判決には、所論のような経験則違背はなく、また民法一条違反も認められない。」

〇最判昭和38年4月12日民集17巻3号460頁
 「本件賃借人と転借人とは判示のような密接な関係をもち、転借人は、賃貸人と賃借人との間の明渡に関する調停および明渡猶予の調停に立会い、賃貸借が終了している事実関係を了承していたというのであるから、原判決が、本件転貸借は賃貸借の終了と同時に終了すると判断したのは正当」である。

 

Q.賃借人(転貸人)が賃貸人に対して賃料の支払いを怠っています。このままだと賃貸借契約が債務不履行により解除されてしまう結果、転貸借契約も影響を受けてしまう可能性があり不安です。この場合に転借人として採ることのできる手段はありますか?

A. この場合、転借人としては、賃貸人に対し、直接(民法613条1項)、又は弁済をするについて正当な利益を有する第三者として(民法474条1項、2項)、賃貸借契約に基づく賃料を支払うことにより、賃借人(転貸人)の債務不履行状態を解消することが可能です。

 

Q.賃貸人が債務不履行に基づく解除権を行使して賃貸借契約を解除する場合、転借人に対する催告は必要ですか?

A. 原則として不要とするのが判例の立場です(最判昭和37年3月29日民集16巻3号662頁、最判平成6年7月18日集民172号1007頁)。賃貸人と転借人の間には直接の契約関係はありませんし、上述の民法613条1項に基づく転借人の賃貸人に対する義務は賃貸人保護を目的としたものであり、かかる規定を根拠として賃貸人に不利な結論を導くことは妥当ではないためです。

 ただし、転借人に対する催告を行わないことが信義則に反するような特段の事情があるような場合には、例外的にかかる催告が必要となります(東京地判昭和33年2月21日下級民集9巻2号266頁)。

〇最判昭和37年3月29日民集16巻3号662頁
 「原判決は、所論転貸借の基本である……賃貸借契約は、……賃料延滞を理由として、催告の手続を経て、……解除された事実を確定し、かかる場合には、賃貸人は賃借人に対して催告するをもつて足り、さらに転借人に対してその支払いの機会を与えなければならないというものではなく、また賃借人に対する催告期間がたとえ三日間であつたとしても、これをもつて直ちに不当とすべきではないとして、上告人の権利濫用、信義則違反等の抗弁を排斥した原判決は、その確定した事実関係及び事情の下において正当といわざるを得ない。」

〇最判平成6年7月18日集民172号1007頁
 「土地の賃貸借契約において、適法な転貸借関係が存在する場合に、賃貸人が賃料の不払を理由に契約を解除するには、特段の事情のない限り、転借人に通知等をして賃料の代払の機会を与えなければならないものではない」。

〇東京地判昭和33年2月21日下級民集9巻2号266頁
 「本件においては賃借人と転借人が不和となつたため転借人より賃貸人に対し予め賃借人の賃料延滞の場合は転借人自らにおいて右賃料を支払う旨を念を押している事情が認められるのであるから前記解除の意思表示する前に賃貸人が転借人に対し賃借人の債務不履行の事実につき一片の通告さえあれば転借人は賃借人に代つてその賃料を弁済し自己の転借権の基礎である賃貸借契約を維持し得たことが容易に予想される。従つてかような事情の下において転借人に弁済をなし得る機会を与えずに前記賃貸借契約を解除した場合には、右解除自体の効果は格別少くとも転借人に対して右解除を対抗し得ないものと解するのが信義則上相当であると認定する。」

 

Q.不動産の管理会社(賃借人)が目的物件をマスターリースしているケースにおいて、このマスターリース契約の更新が賃借人により拒絶された場合には、賃貸人はかかる更新拒絶を転借人に対抗することができますか?

A. 原則としてできません。

 不動産、特に中規模・大規模の事業用ビルの所有者は賃借人となるテナントを見つける能力に乏しい場合があります。このような場合には不動産の管理会社が一括して目的不動産を賃借し(これをマスターリースと呼びます)、かかる管理会社がテナントとの間で転貸借契約を締結するというケースが実務上よく見られます。かかるマスターリース契約によって、賃貸人は個別にテナントとの間の賃貸借契約を締結するという手間を省き、かつ管理会社から安定的な賃料を享受することができるのです。

 そして、賃貸人が上述のようなメリットを享受するためには、不動産管理会社による転貸が行われることはマスターリース契約の当然の前提と言えます。そうであるにもかかわらず、マスターリース契約の更新が拒絶されたからと言って、転貸借契約も終了すると解しては、あまりに転借人であるテナントの利益を害する結果となりかねません。そのため、賃貸人はかかる更新の拒絶を転借人に対して対抗することはできないとされています(最判平成14年3月28日民集56巻3号662頁)。また、同様の考え方に立つ裁判例として、東京地判平成28年2月22日判タ1429号243頁があります。

〇最判平成14年3月28日民集56巻3号662頁
 「被上告人は、建物の建築、賃貸、管理に必要な知識、経験、資力を有する訴外会社と共同して事業用ビルの賃貸による収益を得る目的の下に、訴外会社から建設協力金の拠出を得て本件ビルを建築し、その全体を一括して訴外会社に貸し渡したものであって、本件賃貸借は、訴外会社が被上告人の承諾を得て本件ビルの各室を第三者に店舗又は事務所として転貸することを当初から予定して締結されたものであり、被上告人による転貸の承諾は、賃借人においてすることを予定された賃貸物件の使用を転借人が賃借人に代わってすることを容認するというものではなく、自らは使用することを予定していない訴外会社にその知識、経験等を活用して本件ビルを第三者に転貸し収益を上げさせるとともに、被上告人も、各室を個別に賃貸することに伴う煩わしさを免れ、かつ、訴外会社から安定的に賃料収入を得るためにされたものというべきである。」
 「本件再転貸借は、本件賃貸借の存在を前提とするものであるが、本件賃貸借に際し予定され、前記のような趣旨、目的を達成するために行われたものであって、被上告人は、本件再転貸借を承諾したにとどまらず、本件再転貸借の締結に加功し、京樽(筆者注:再転借人。以下同じ。)による本件転貸部分二の占有の原因を作出したものというべきであるから、訴外会社が更新拒絶の通知をして本件賃貸借が期間満了により終了しても、被上告人は、信義則上、本件賃貸借の終了をもって京樽に対抗することはできず、京樽は、本件再転貸借に基づく本件転貸部分二の使用収益を継続することができると解すべきである。」

〇東京地判平成28年2月22日判タ1429号243頁
 本件各原賃貸借契約は、被告Mが原告らの承諾を得て本件各建物の各室を第三者に転貸して入居させることを当初から予定して締結されたものである。原告らによる転貸の承諾は、被告Mにおいて行使することを予定された賃貸物件の使用を転借人が原賃借人である被告Mに代わって行使することを容認するという類いのものではなく、自らは使用することを予定していない被告Mにその公的な立場や財源等を活用して本件各建物を第三者に転貸させるとともに、原告らも、各室を個別に賃貸することに伴う煩わしさを免れ、かつ、転賃料と千代田区の財源とから安定的に賃料収入を得ようとする目的に出たものであった。他方、被告入居者らも、上記のような趣旨、目的の下に本件各原賃貸借契約が締結され、原告らによる転貸の承諾がされることを前提として本件各転貸借契約を締結し、現に本件各居住部分に入居してこれを占有している。さらに、本件各継続条項によれば、原告らは、本件各原賃貸借契約が期間満了により終了する場合においても、被告入居者らとの間で賃貸借関係が継続することを相当程度覚悟していたものといえる。
 このような事実関係の下においては、本件各転貸借契約は、本件各原賃貸借契約の存在を前提とするものではあるが、本件各原賃貸借契約締結の際に既に予定されていた前記のような趣旨、目的を達成するために締結されたものといえる。したがって、原告らは、単に本件各転貸借契約の締結を承諾したにとどまらず、被告Mと共同して、本件各転貸借契約の締結を前提に、被告入居者らによる本件各居住部分の占有の原因を作り出したものと評価される。その結果、原告らには、被告Mが本件各建物に関する賃貸借・転貸借関係から離脱した場合の不都合を甘受することになってもやむを得ないといえる事情がある。そのため、被告Mの更新拒絶により、本件各原賃貸借契約が期間満了により終了したとしても、原告らは、信義則上、本件各原賃貸借契約の終了をもって被告入居者らに対抗することはできず、被告入居者らは、本件各原賃貸借契約と同一の条件で本件各転貸借契約に基づく本件各居住部分の使用収益を継続することができると解される

 

Q.転借人が目的物件を毀損したような場合にも、賃借人(転貸人)は賃貸人に対して責任を負うことはありますか?

A. あります。

 賃貸借契約に基づき賃借人(転貸人)が負う義務に関しては、転借人は履行補助的立場にあると言えます。そうだとすれば、かかる履行補助者が故意・過失によって目的物を毀損したような場合には、賃借人(転貸人)の故意・過失による債務不履行と同視されるため、賃借人(転貸人)は賃貸人に対し債務不履行責任(民法415条)を負う可能性があります(大判昭和4年6月19日民集8巻675頁)。

〇大判昭和4年6月19日大民集8巻675頁
 「保管義務ヲ負担セル賃借人ノ意思ノ下ニ転借人ニ於テ現実之カ使用ヲ為シツツアルノ関係ニ至リテハ恰モ夫ノ債務履行ノ補助者タル地位ニ彷彿タルモノアルニ於テ補助者ノ故意過失ニ付債務者ニ於テ其ノ責ニ任セサルヘカラサルノ……法理ハ執テ以テ転貸借ノ場合ヲ律スルノ準繩ト為スヘキ」

 

Q.賃借人(転借人)が転貸借をするため、転貸承諾書を要求してきました。転貸について承諾をした賃貸人として、転貸承諾書を交付する義務があるのでしょうか?

A. 賃借人(転借人)が転貸借をするために必要である場合には、賃貸人には、賃貸借契約の債務の内容として、転貸承諾書を交付する義務があると判示した裁判例があります(東京地判平成30年3月29日)。

〇東京地判平成30年3月29日(平成26年(ワ)第32803号、平成27年(ワ)第7798号)
 「本件賃貸借契約が、原告が建物一棟を一括で賃借し、それを個別のテナントに転貸することを目的とするものであることからすると、原告が転貸借をするために必要である場合には、被告に本件賃貸借契約の債務の内容として、転貸承諾書を交付する義務があると解するのが相当である。」
 「そして、原告は被告に対して、……転貸借の内容を提示して、……転貸承諾書を求められていること、転貸承諾書を要求するのは被告が看板を掲示する等して原告の賃借権の存在に疑問を持たれたからであることなどを説明して、転貸借するために転貸承諾書が必要であると申入れていたことに照らすと、被告には本件賃貸借契約の債務の内容として、これらの転貸承諾書を交付する義務があり、同交付をしなかったことは債務不履行を構成するというべきである。」

 

Q.賃貸人と賃借人(転貸人)との間で、賃貸借契約を巡る係争が生じています。転借人としては、賃貸人と賃借人(転貸人)のどちらに賃料を支払えば良いか判然としないのですが、この場合はどうすれば良いでしょうか?

A. このような場合には、債権者不確知として、賃料を供託(民法494条2項)することで賃料債務を弁済することが裁判例上認められています(東京地判平成14年12月27日判時1822号68頁、東京地判平成30年5月30日)。

〇東京地判平成14年12月27日判時1822号68頁
 「争いのない事実等……記載の供託は、……民法六一三条一項の解釈を前提とする限り、債権者を確知し得ないとするものではないが、……原告とビルプロとの間に賃貸借契約の解約告知をめぐる紛争が係属していた上、……原告の代理人であった弁護士が、強硬に、賃貸人の転借人に対する賃料請求が転貸人の転借人に対する賃料請求に優先するものと解すべき旨主張したと認められること、さらに、……このような解釈にも相当な根拠のあることに照らすと、被告が債権者を確知し得ないとした点に過失があるものとは認められないから、本件室の賃貸人の地位について原告とビルプロとの間で紛争中のため債権者を確知できないことを供託の理由とした、……供託も有効であると認められる。」

〇東京地判平成30年5月30日(平成28年(ワ)第10638号、平成28年(ワ)第10639号、平成28年(ワ)第27602号)
 「原告は、……供託者を原告、被供託者を被告Bとして、本件建物の賃料を供託している。供託された金額は原賃貸借契約の賃料額とは異なっており、本件転貸借契約の賃料額と同じではあるが、これは原告が供託を開始した時点で原賃貸借契約における正確な賃料額を知らなかったためであると認められることから、本件供託は原賃貸借契約の賃料の弁済としてされたものであるというべきである。」
 「これに対し、被告Bは、原告は本件供託の前に弁済の提供をしていないことから、本件供託は要件を欠き無効であると主張する。もっとも、……原告は、……2度にわたり、被告Bの自宅を訪問し、Eに対し、原賃貸借契約の賃料の支払を申し出た上、……内容証明郵便により、原賃貸借契約の未払賃料の支払を申し出ている。このように、原告が被告Bに繰り返し賃料の支払を申し出たのに対し、被告Bが何ら応答しなかったことからすれば、被告Bは原告に対して弁済の受領を拒絶する態度を示しており、仮に原告が弁済の提供をしても受領する意思がなかったものと認められる。したがって、本件においては、原告が弁済の提供をせずに供託をしているものの、本件供託の効力は否定されないというべきである。」

 

Q.現在賃借している物件を転貸したいのですが、賃貸人が転貸借に関し承諾をしてくれません。この場合における裁判所による代替許可の制度は存在しますか?

A. 存在しません。借地借家法19条では裁判所による代替許可の制度が設けられていますが、これは借地権者が賃借人の目的である土地の上の建物(および土地の賃借権)を第三者に譲渡する場合において、賃貸人が正当な理由なくこれを承諾しない場合に認められている制度であり、転貸借の場合とは適用すべき場面が異なります。

 

Q.原賃貸借の賃料を転借料に連動させようとしています。この場合、賃借人(転貸人)と転借人の間で一定期間賃料を免除する特約を締結したときに、この特約を賃貸人に対抗することはできますか?

A. 原賃貸借の賃料を転借料に連動させる連動方式を採用すること自体は可能です。

もっとも、この場合、原則として、賃借人(転貸人)と転借人の間で一定期間賃料を免除する特約を締結したとしても、かかる特約を賃貸人に対抗することはできません。例外的に、賃貸人がかかる特約を許容する旨の合意がある場合、及び賃貸人に著しい不利益が生じない等の特段の事情がある場合に限り、かかる特約をもって賃貸人に対抗することができると考えられています(東京地判平成18年8月31日金商1251号6頁)。

〇東京地判平成18年8月31日金商1251号6頁
 「いわゆるフリーレントは、事務所あるいは居室等の移転に伴って、入居当初に過大な費用の負担を余儀なくされる賃借人の負担を軽減することで、入居を誘致するための方策として、賃貸人が賃借人に対する賃料を賃貸借契約の当初の一定の期間免除することによって、一定の賃料を維持したまま、実質的に賃料を値下げする手法である。それは、賃貸借契約の当事者間においては、格別問題になることはないが、本件のように、転貸借において行われた場合においては、本件賃貸借契約がいわゆるサブリースであって、賃借人の転貸事業による収益から賃料収入が確保され、かつ、賃料が転借料に連動して決定される旨の合意があるときは、実質的には、転借人に対する転借料が、賃貸人の権利の対象と同視できるから、法的に、転借人に対する転借料の一部免除とみられるフリーレントは、それを許容する合意がある場合は格別、賃貸人に著しい不利益が生じない等の特段の事情がない限り、賃貸人には対抗できないものと解するのが相当である。」

 

Q.承諾のある転貸借がなされている場合において、賃貸人が目的物を賃借人(転貸人)に売却したとき、賃貸人・賃借人(転貸人)・転借人の間の法律関係はどのようになりますか?

A. 承諾のある転貸借がなされている場合において、賃貸人が目的物を賃借人(転貸人)に売却したときは、賃貸人と賃借人(転貸人)の地位が同一人に帰属することになり、それによって、目的物の所有権が転貸人に移転し、転借人は目的物の所有者からの直接の賃借人となります。

 この場合において、当該売買契約を解除するときは、賃借人(旧転借人)の承諾を得ることが必要となると考えられています。なぜなら、再度目的物の所有権と転貸借における賃貸人の地位が別々の人格に帰属するような形で移転すると、賃借人(旧転借人)に不利益が生ずるおそれがあるからです。

 

Q.転借人は、転貸借の存続中に、目的物を直接原賃貸人から賃借することができますか?

A. 転借人は、転貸借の存続中に、目的物を直接原賃貸人から賃借することができます。この場合は、原賃貸人と原賃借人(転貸人)との間の原賃貸借が消滅し、転貸借がその効力を失ったとしても、原賃貸人と旧転借人との間で直接締結した賃貸借契約の効力には影響がないと考えられています(広島高判昭和31年1月19日高裁民集9巻2号25頁)。

〇広島高判昭和31年1月19日高裁民集9巻2号25頁
 「被控訴人と……村との間の……賃貸借が終了した結果、……村と控訴人との間の……転貸借も消滅に帰したことは明らかである。しかしながら、……控訴人は右転貸借とは別に……被控訴人より直接本件物件及び土地を賃借したのであるから、前者の転貸借の消滅により、後者の賃貸借契約が当然消滅すべきいわれはない。」

 

2.2無断転貸の場合の効果

 賃貸人の承諾なく転貸がなされ、かつ、第三者に賃借物の使用又は収益をさせたような場合には、賃貸人は原賃貸借契約を解除することが可能となります(民法612条2項)。

 このような解除制度は、前述の賃貸借契約の特徴から導き出されたものです。すなわち、前述の通り賃貸借契約は個人的な信頼関係を基礎とした継続的契約という特徴を有していますが、賃貸人に無断で目的物を転貸するという行為は、賃貸人と賃借人の間の信頼関係を破壊する背信的な行為にあたります(「賃借人(転貸人)のことを信頼して土地を貸していたのに、勝手に賃借人(転貸人)がその土地を自分がよく知らない第三者に又貸ししていた」という事態を想像してください)。そこで、法は、このように両者の信頼関係が破壊された場合に、賃貸人を契約の拘束力から解放するべく、上述のような解除制度を用意したのです。

 しかしながら、逆に言えば、転貸が背信的な行為に当たらないような特殊事情があるのであれば、このような賃貸人による解除を認める必要はないとも言えます。

 そこで、確立された判例法理によれば、無断転貸がなされた場合でも、背信的行為と認めるに足らない特段の事情がある場合においては、同条(民法612条)の解除権は発生しないとされています(最判昭和28年9月25日民集7巻9号979頁)。

〇最判昭和28年9月25日民集7巻9号979頁
 「元来民法六一二条は、賃貸借が当事者の個人的信頼を基礎とする継続的法律関係であることにかんがみ、賃借人は賃貸人の承諾がなければ第三者に賃借権を譲渡し又は転貸することを得ないものとすると同時に、賃借人がもし賃貸人の承諾なくして第三者をして賃借物の使用収益を為さしめたときは、賃貸借関係を継続するに堪えない背信的所為があつたものとして、賃貸人において一方的に賃貸借関係を終止せしめ得ることを規定したものと解すべきである。したがつて、賃借人が賃貸人の承諾なく第三者をして賃借物の使用収益を為さしめた場合においても、賃借人の当該行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情がある場合においては、同条の解除権は発生しないものと解するを相当とする。」

 

Q.土地賃貸借において、賃借人が借地上に建物を建て、その建物を第三者に賃貸した場合、転貸に当たりますか?

A. 大判昭和8年12月11日は、このような建物の賃貸借は、敷地の転貸借にはあたらないと判示しました。従って、このような場合には、そもそも転貸自体が認められないこととなります。

〇大判昭和8年12月11日裁判例7巻民277頁
 「轉貸ハ賃借人カ賃借物ヲ第三者ニ賃貸スル關係ヲ指稱スルモノナルヲ以テ土地ノ賃借人カ其ノ地上ニ建設シタル建物ヲ賃貸シ其ノ敷地トシテ土地ノ利用ヲ許容スル場合ノ如キハ之ヲ土地ノ轉貸借ト目スヘキモノニ非サル」

 

Q.賃貸借契約や使用貸借契約以外の契約でも無断転貸にあたる場合はありますか?

A. あります。

 東京地判昭和34年2月4日判時180号46頁は、「民法第六百十二条にいわゆる転貸とは、賃借人が自己の有する権利の範囲内において第三者をして独立してその物を使用収益させることを約する契約を指すのであつて、その契約がこのような実質を供える以上、その法律関係が賃貸借であると、経営委任契約であると、その他の法律関係であるとを問わないと解するのが相当である」と判示しており、契約の種類という形式的な面のみを考慮して転貸に該当するか否かの判断をしているわけではないことが分かります。

 なお、飲食事業においては、賃借人が第三者に経営を委託するケースがよく見受けられますが、この場合における経営委託契約が転貸に該当するか否かについては別記事にてまとめられていますので、ぜひご参照下さい。

>>参照:「食品・飲食事業において第三者に対する経営委託と無断転貸が問題となった裁判例」

 

Q.賃貸借契約の目的となる物件を第三者に利用時間を定めて貸し出した場合には、かかる貸出行為は転貸借にあたりますか?

A. 個別具体的な事案によりますが、転貸借にあたるとみなされる場合があります。

 一例として、東京地判平成4年2月24日判時1451号136頁では、元々はダンス教室に使用する目的で賃貸された物件がヨガ教室等を主催する第三者(数人)に対して時間貸しされたケースについて、かかる時間貸しが転貸に当たるか否かが問題となりました。

 上記の時間貸しに際し、賃借人(転貸人)は第三者に対して複製の鍵を渡しており、かかる第三者は自由に目的物件を使用・収益していました。また、賃借人(転貸人)は第三者との間で、賃料や賃貸日時等を詳細に定めた賃貸借契約を締結していました。これらの点を踏まえ、裁判所は、当該時間貸しは賃貸人に無断でなされた転貸借にあたると判断をしました。

 このように、目的物件を一定の期間を定めて貸し出す通常の賃貸借と異なり、1日のうち短時間目的物件を第三者に貸し出すような場合でも、その第三者の使用収益状況等を考慮し、転貸借にあたると判断される場合があるので、留意が必要です。

〇東京地判平成4年2月24日判時1451号136頁
 「本件建物の賃貸借において、転借人(各借主)が独立に使用収益して賃借人(被告)の支配が及ばない時間帯が継続的に少なくとも毎週二〇時間あるというのは、信頼関係を基本とする賃貸借契約の利用関係に重要な影響を及ぼすものであって、賃貸人(原告ら)による本件建物の維持管理上も軽視することができない事情の変更であるといわざるを得ない。これに加えて、……原告らは、被告が離婚して一人でダンス教室を主宰して頑張っていることに同情し、賃料も……長期間にわたって一か月一五万円のまま据え置き、水道料も請求しないなどの便宜を図ってきたこと、ところが、被告は、原告らに何ら報告も相談もすることなく、本件時間貸しをして、右賃料をはるかに超える一か月二十数万円の転貸料を取得してきたことが認められ、これらの諸事情を考慮すると、本件時間貸しについて背信性を認めるに足りない特段の事情があるとは認められない」。

 

Q.個人として目的物件を賃借している場合に、同人がその経営を会社組織に改めたような場合(いわゆる法人成り)にも無断転貸解除が認められる場合はありますか?

A. あります。

 大阪高判昭和39年8月5日高裁民集17巻5号343頁では、従前個人として土地を賃借していた者が、かかる土地賃借権を、法人成りした会社に現物出資したようなケースが問題となりました。そして、大阪高裁は、法人成りした後の企業経営が、個人経営時のそれと変わることはなく、土地の使用状況にも全く変化がないと認められるような場合には背信的行為と認めるに足らない特段の事情が認められる可能性があるとしつつも、会社の実態が法人成り前後で別異のものとなったような場合には、原則通り無断転貸解除が認められるとして解除を肯定しています。また、建物賃貸借の場合について、法人成りにおける無断転貸解除を肯定した裁判例として、東京高判昭和31年3月14日下級民集7巻3号572頁があります。

 なお、上記とは異なり、法人成りにおいて無断転貸解除が否定された裁判例としては最判昭和39年11月19日民集18巻9号1900頁、最判昭和46年11月4日集民104号137頁などがあります。

〇大阪高判昭和39年8月5日高裁民集17巻5号343頁
 「土地の賃借人が、従来の個人経営を会社組織に改め、賃借物上の建物を、その賃借権とともに会社に現物出資したような場合、その経営の実態が、個人と会社とでは格別異なるところなく土地の使用状況にさしたる変化を来さないため、右賃借権の譲渡又は賃借物の転貸が、賃貸人に対する関係で背信行為ではないと評価され、賃貸人が賃貸借契約を民法六一二条で解除できないときは、賃借人は、賃借権の譲渡又は賃借物の転貸にもかかわらず、依然、賃借権を有する。そして、賃借人との関係で賃借権の譲渡又は賃借物の転貸を受けた転借人である会社は、賃貸人が右譲渡又は転貸を承諾しない以上、賃貸人との関係において、賃借物を転借し、又は賃借物の転借権を有するとはいえないまでも、賃借人の賃借権を正当に援用できる地位にあり、賃貸人は、これを受忍すべき法律関係にあると解するのが相当である。それゆえ、その限りにおいて、転借人の賃借物の占有は、正権原にもとずくといわなければならない。しかし、それは賃借権の譲渡又は賃借権の転貸を受けた会社の経営が、個人のそれと異なることなく、土地の使用状況に変化を来さない状態が存する場合にだけ妥当する。もし、会社の実態が、たとえば、組織がえなどのため、賃借人である個人が会社から排除され全く別異になつたときは、かりに当初からそうであつたとすれば、賃貸人は賃貸借を解除しえたものとしなければならず、又その会社は、賃貸人の所有権に対抗する正権原を有しないものといわなければならないから、それとの対比の上において、賃借権の譲渡又は賃借物の転貸を受けた会社は、もはや、賃借人の賃借権を正当に援用できない関係に立ち至り、そのとき以後賃借物の不法占拠者であると解するのが相当である。」

〇東京高判昭和31年3月14日下級民集7巻3号572頁
 「そもそも家屋の賃貸借において、借主が個人であるか、或は財産関係、外部に対する責任関係等において全く態様を異にする株式会社であるかということは、当事者に関する重要な問題であつて、たとえ家屋賃借中の個人が自己の営業をそのまま株式会社組織に改めた場合だと云つても、自己が依然その家屋に居住して使用する外、株式会社の本店を置きそこで会社の営業をするというのは、一応は個人たる賃借人が株式会社をして同家屋を使用せしむること、すなわち転貸することであるとみるのが相当である。」
 「控訴人が総株数三千九百株のうち三千六百五十株を所有していること……、他の取締役その他の役員が控訴人の姻戚または元の使用人であり、控訴人が右会社の経営を主宰していることは、……控訴人本人の供述によつてこれを窺知することができるが、控訴人以外の株主、役員は単に氏名を貸しただけであるとか、株式の引受も仮空のものであつて、従つて利益の配当も役員報酬も支給することがないとか、会社設立の前後を通じて経営の実体は全く両者同一であるという如きことを認めるに足りる証拠も十分でない(かえつて控訴人は訴外……三名が訴外会社の役員として本件家屋に出入していることを自陳している。)から、控訴人個人の営業と訴外会社の営業とは、社会上経済上全く同一であるとみるに由ないものといわなければならない。よつて、控訴人がその賃借家屋内に自己が代表取締役となつた訴外株式会社の本店を置き、そこで同会社の事業を経営している(このことは控訴人も自認している)以上は、控訴人は本件家屋の一部もしくは全部を訴外会社に転貸したものと認めるにはばからない。」
 「被控訴人の控訴人に対する本件家屋の無断転貸を理由とする契約解除の意思表示は右転貸を以て賃貸人に対する背信行為と目するに足らない特段の事情ありとも認められない本件にあつては、もとより有効であつて、右家屋の賃貸借契約は被控訴人主張のように、……解除となつたものというべきであるから、控訴人は被控訴人に対し本件家屋を明渡す義務あるこというまでもない。」

〇最判昭和39年11月19日民集18巻9号1900頁
 被上告人は、本件家屋の賃借当初から、階下の店舗でN商会という名称でミシンの個人営業をしていたが、税金対策のため、株式会社Nミシン商会という商号の会社組織にし、翌年頃にはこれを解散してSミシン工業株式会社を組織し、Kミシン工業株式会社と商号を変更したものであつて、各会社の株主は被上告人の家族、親族の名を借りたに過ぎず、実際の出資は凡て被上告人がしたものであり、右各会社の実権は凡て被上告人が掌握し、その営業は被上告人の個人企業時代と実質的に何らの変更がなく、その従業員、店舗の使用状況も同一であり、また、被上告人は右Kミシン工業株式会社から転借料の支払を受けたことなく、かえつて被上告人は上告人らの先代に対し本件家屋の賃料を同会社名義の小切手で支払つており、被上告人は同会社を自己と別個独立のものと意識していなかつたというのである。されば、個人である被上告人が本件賃借家屋を個人企業と実質を同じくする右Kミシン工業株式会社に使用させたからといつて、賃貸人との間の信頼関係を破るものとはいえないから、背信行為と認めるに足りない特段の事情あるものとして、上告人らが主張するような民法六一二条二項による解除権は発生しないことに帰着するとした原審の判断は正当である。

 

Q.「背信的行為と認めるに足らない特段の事情」にあたるか否かは具体的にどのように判断するのですか?

A. この点については、明確な判断基準があるわけではなく、様々な事情を総合的に考慮して判断がなされるということになります。

 そして、かかる総合考慮にあたっての考慮要素としては「物的・経済的側面」「人的要素(個人的信頼関係)」「譲渡・転貸の対象の種別」「その他当事者双方の諸事情」などが挙げられます。

 例えば、転貸がなされたとしても、①実質的な賃借人に変更がない場合(最判昭和38年10月15日民集17巻9号1202頁)や、②転貸に営利性がなく、その動機もやむを得ない場合(最判昭和40年9月21日民集19巻6号1550頁、最判昭和44年4月24日民集23巻4号855頁)、③一時的又は僅少部分の又貸し等、転貸が軽微といえる場合(最判昭和36年4月28日民集15巻4号1211頁)などには、かかる転貸が背信的行為であるとは認められない可能性があります。

〇最判昭和38年10月15日民集17巻9号1202頁
 「原判決は、……被上告人……の父……は寺門の出であつて、同被上告人もまた僧職にあるところ、……(筆者注:被上告人の父は)上告人から借用した本件土地に住居兼説教所として本件建物を建てて住み、……死亡後は右被上告人がその跡を継ぎ、同被上告人は昭和二十七、八年頃右建物を本拠として被上告人……寺を設立し同寺の住職として引続き家族と共に同所に住んでいることから、宗教法人である被上告人……寺が本件土地を使用するに至つたことは否定できないけれども、その使用関係は実質上終始変りがなく、したがつて、仮りに本件賃貸借契約中には被上告人寺の設立が予知し包含されていないとするも、被上告人寺の設立は上告人と被上告人……との本件賃貸借関係を断たねばならぬ程に信頼関係を裏切つたものと見るべきでないとし、よつて、上告人主張の解除権は発生しない旨判断して居り、この判断は、首肯できる。」

〇最判昭和40年9月21日民集19巻6号1550頁
 本件土地はAの所有であつたが、昭和一七年六月にBがこれを賃借し地上に本件家屋を所有して居住していたところ、Bの二女・Dの夫である上告人が昭和三四年七月にAから本件土地を買受け移転登記を経由して本件土地賃貸人たる地位を承継した、Bは昭和三四年一〇月に本件家屋を長女・Cの長男である被上告人に贈与し移転登記を了したが、本件家屋には、従前と同じく、B、C、被上告人が同居しており、本件贈与の後も被上告人らの本件土地の使用状況には以前となんら変つた点はなく、Bは、将来本件家屋において自分とC(精神薄弱者)の面倒を被上告人に見て貰うために、同居している孫の被上告人に贈与したのであつて、Dの相続権を害する意図に基づいたものではないというのであるから、「原判決が、右当事者の身分関係、生活状況、建物贈与の理由等から考えれば、本件贈与とともに土地賃借権を譲渡または転貸したのは、土地賃貸人たる上告人の承諾を得ていなくとも、賃貸人と賃借人との間の信頼関係を裏切る性質のものではなく、賃貸人に解除権が発生せず、賃貸人たる上告人は譲受人(または転借人)たる被上告人に対して土地明渡を求めることはできないと判断したことは、民法六一二条の解釈として是認することができる」。

〇最判昭和44年4月24日民集23巻4号855頁
 Y1・Y2の両名は夫婦として本件土地上の本件家屋に居住し生活を共にして居たものであり、XはY1との間に本件土地賃貸借契約を締結するに際しY1・Y2の両名の右同居生活の事実並びに本件家屋の登記簿上の所有名義はY1であるが真の所有者はY2であることを知っていたものであり、その後Y1・Y2の両名の夫婦関係の破綻、離婚に伴って、同居していたY1からY2へ本件土地賃借権が譲渡されたが、Y1が他へ転出したほか本件土地の使用状況の外形には何ら変るところがないというのであるし、その他の諸事情を考えれば、右賃借権の譲渡は、賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情がある場合にあたり、Xは、Y1に対し民法612条2項によつて本件賃貸借契約を解除することはできず、Y2は、賃貸人たるXの承諾がなくても賃借権の譲受けをもってXに対抗できるものと解すべきである。

〇最判昭和36年4月28日民集15巻4号1211頁
 事実関係(殊に、本件賃貸借成立の経緯、本件家屋の所有権はXにあるが、その建築費用、増改築費用、修繕費等の大部分はY1が負担していること、Xは多額の権利金を徴していること、Y1が共同経営契約に基づきY2に使用させている部分は、階下の極く一小部分であり、ここに据え付けられた廻転式「まんじゅう」製造機械は移動式のもので家屋の構造には殆ど影響なく、右機械の取除きも容易であること、Y2は本件家屋に居住するものではないこと、本件家屋の階下は元来店舗用であり、右転貸に際しても格別改造等を行なっていないこと等)を綜合すれば、Y1が家屋賃貸人たるXの承諾を得ないでY2をして本件家屋の階下の一部を使用させたことをもって、原審が家屋賃貸人に対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情があるものと解し、Xのした本件賃貸借契約の解除を無効と判断したのは正当である。

 

Q.賃借人が第三者のために譲渡担保権を設定した場合、転貸があったものとして、無断転貸を理由に解除をすることができますか?

A. 判例は、賃借人が借地上に建てた建物に第三者のための譲渡担保権を設定したとしても、同賃借人が同建物を引き続き占有していたときは、譲渡・転貸があったとはいえない旨を判示しています(最判昭和40年12月17日民集19巻9号2159頁)。

 もっとも、譲渡担保権者が建物の引渡しを受けて使用収益する場合は、譲渡担保権実行前であっても、譲渡・転貸にあたり、他に信頼関係破壊を認めるに足りない特段の事情がない限り、賃貸人は現賃貸借契約を解除できる旨を判示しています(最判平成9年7月17日民集51巻6号2882頁)。

〇最判昭和40年12月17日民集19巻9号2159頁
 「被上告人……は、上告人からその所有の本件土地を賃借し、地上に本件建物を所有していたが、……被上告人……より会社運営資金の融通を受けることとなり、その手段として、本件建物を代金二三五万円で被上告人……に譲渡し、その旨登記するとともに、……右同額をもつて本件建物を買い戻すことができる旨約定して、代金の交付を受けたというのである。しかし、本件建物の譲渡は、……担保の目的でなされたものであり、上告人の本件土地賃貸借契約解除の意思表示が被上告人……に到達した……当時においては、同被上告会社はなお本件建物の買戻権を有しており、被上告人……に対して代金を提供して該権利を行使すれば、本件建物の所有権を回復できる地位にあつたところ、その後……、被上告人……は……債務の全額を支払い、これにより、両会社間では、本件建物の所有権は被上告人……に復帰したものとされたことおよび被上告人……は本件建物の譲渡後も引き続きその使用を許されていたものであつて、その敷地である本件土地の使用状況には変化がなかつたこと等原審の認定した諸事情を総合すれば、本件建物の譲渡は、債権担保の趣旨でなされたもので、いわば終局的確定的に権利を移転したものではなく、したがつて、右建物の譲渡に伴い、その敷地である本件土地について、民法六一二条二項所定の解除の原因たる賃借権の譲渡または転貸がなされたものとは解せられないから、上告人の契約解除の意思表示はその効力を生じないものといわなければならない。」

〇最判平成9年7月17日民集51巻6号2882頁
 「地上建物につき譲渡担保権が設定された場合であっても、譲渡担保権者が建物の引渡しを受けて使用又は収益をするときは、いまだ譲渡担保権が実行されておらず、譲渡担保権設定者による受戻権の行使が可能であるとしても、建物の敷地について民法六一二条にいう賃借権の譲渡又は転貸がされたものと解するのが相当であり、他に賃貸人に対する信頼関係を破壊すると認めるに足りない特段の事情のない限り、賃貸人は同条二項により土地賃貸借契約を解除することができるものというべきである。けだし、(1)民法六一二条は、賃貸借契約における当事者間の信頼関係を重視して、賃借人が第三者に賃借物の使用又は収益をさせるためには賃貸人の承諾を要するものとしているのであって、賃借人が賃借物を無断で第三者に現実に使用又は収益させることが、正に契約当事者間の信頼関係を破壊する行為となるものと解するのが相当であり、(2)譲渡担保権設定者が従前どおり建物を使用している場合には、賃借物たる敷地の現実の使用方法、占有状態に変更はないから、当事者間の信頼関係が破壊されるということはできないが、(3)譲渡担保権者が建物の使用収益をする場合には、敷地の使用主体が替わることによって、その使用方法、占有状態に変更を来し、当事者間の信頼関係が破壊されるものといわざるを得ないからである。」

 

Q.背信的行為がないとされた場合には転貸にかかる法律関係はどのようになるのですか?

A. この場合には、無断転貸であるにもかかわらず、賃貸人がかかる転貸を承諾したのと同様の法律関係が当事者間に認められることとなります(最判昭和44年11月13日集民97号267頁、最判昭和62年3月24日集民150号509頁)。

 もっとも、無断転借人から賃貸人に対し、積極的に、賃借権が帰属することの確認を求めることはできないと判断した裁判例があります(東京地判平成4年7月29日判時1462号122頁)。

〇最判昭和44年11月13日集民97号267頁
 「家屋の一部に対する転貸行為について、いまだ賃貸人と賃借人との間の信頼関係を破壊するに足りない特段の事情があって、賃貸人が民法六一二条により賃貸借を解除することが許されない場合においては、賃貸人は、転借人に対してもその転借につき承諾のないことを主張し、賃貸家屋の所有権に基づいてその明渡を求めることができず、また、その結果として、転借人は賃貸人の承諾があったと同様に転借をもって賃貸人に対抗することができるものと解すべき」である。

〇最判昭和62年3月24日集民150号509頁
 「土地の賃借人が賃貸人の承諾を得ることなく右土地を他に転貸しても、転貸について賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるため賃貸人が民法六一二条二項により賃貸借を解除することができない場合において、賃貸人が賃借人(転貸人)と賃貸借を合意解除しても、これが賃借人の賃料不払等の債務不履行があるため賃貸人において法定解除権の行使ができるときにされたものである等の事情のない限り、賃貸人は、転借人に対して右合意解除の効果を対抗することができず、したがって、転借人に対して賃貸土地の明渡を請求することはできないものと解するのが相当である。」
 「けだし、賃貸人は、賃借人と賃貸借を合意解除しても、特段の事情のない限り、転貸借について承諾を与えた転借人に対しては右合意解除の効果を対抗することはできないものであるところ……、賃貸人の承諾を得ないでされた転貸であっても、賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるため、賃貸人が右無断転貸を理由として賃貸借を解除することができない場合には、転借人は承諾を得た場合と同様に右転借権をもって賃貸人に対抗することができるのであり……、したがって、賃貸人が賃借人との間でした賃貸借の合意解除との関係において、賃貸人の承諾を得た転貸借と賃貸人の承諾はないものの賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情がある転貸借とを別異に取り扱うべき理由はないからである。」

〇東京地判平成4年7月29日判時1462号122頁
 「無断譲渡又は転貸に該当するとして原則として解除権が発生するが、信頼関係を破壊しないとしてその行使が制限される場合、当該無断譲受人又は転借人は、自ら積極的に自己に賃借権又は転借権が帰属することの確認を求めることができるかについて考えると、……本件においては、別件原告らは、被告……が賃借人であるとして行動してきており、原告らも長期に渡ってそのように取り扱ってきているのであり、ただ、前記の理由により、被告……との賃貸借契約を解除して別件原告らに明渡しを求めることが現時点では信義則上できないというにとどまるのである。したがって、そのことのみを理由として、積極的に別件原告らに賃借権が帰属するとの結論を当然に導くことはできないと言わねばならない。もっともそのように解すると、賃貸借契約は原告らと被告……との間に存続し、他方、本件建物を占有し、賃借人として行動するのが別件原告らであるという実体と異なる法律関係の存続を結果的に認めることになり、法的安定性が害されることになるが、以上の経過からすれば、別件原告らはその不利益を甘受すべきであるし、原告らの意思により、法的安定性のために、別件原告ら又はそのいずれか一方を賃借人と認めて占有権限を付与して賃料を請求することはできるとしても、原告らにおいて積極的に別件原告らの賃借権の帰属を確認することまでは求め得ないと解するのが相当である。」

 

Q.背信的行為があるとされた場合には、その後の転貸関係はどのようになるのですか?

A. この場合には、原則通り無断転貸解除が認められることとなりますので、賃貸人と賃借人(転貸人)との間の契約は解除により消滅します。そして、転貸借は原賃貸借を前提として成立しているため、原賃貸借が解除により消滅した場合には、転貸借の適法性の基礎は失われることとなります。

 この場合、賃貸人は賃借人に対し、賃貸借契約終了ないし所有権に基づく目的物の返還請求、及び原状回復請求(民法621条)等の賃貸借契約終了に基づく一般的な請求をなし得ます。また、賃貸人は旧転借人たる第三者(解除により賃貸人と旧転借人の間には契約関係がなくなるため、旧転借人は第三者となります)や旧再転借人に対し、所有権に基づく目的物の返還請求ができます(最判昭和26年4月27日民集5巻5号325頁、最判昭和52年4月7日集民120号407頁)。加えて、賃貸人は賃借人及び旧転借人たる第三者に対し、返還されるまでの占有について、不法行為に基づく損害賠償請求及び不当利得返還請求をすることができます。

 さらに、この場合、旧転借人たる第三者は賃借人に対し、賃料の支払拒絶(民法559条・576条、最判昭和50年4月25日民集29巻4号556頁)、転貸借契約の解除(民法541条)、損害賠償請求(民法415条)をすることができます。なお、旧転借人たる第三者が賃貸人への土地明渡しを余儀なくされたときは、その時に転貸借は終了します(最判昭和40年3月23日集民78号395頁)。

〇最判昭和26年4月27日民集5巻5号325頁
 「土地の所有者たる被上告人は民法六一二条二項に基いて、……賃貸借を解除すると否とにかかわらず、又賃借人……の承諾を要せず、右……の賃借権が……被上告人に対抗し得べきものであると否とに関係なく、(所有権者にその占有を対抗できない占有者たる)上告人に対して、直接本件土地の明渡を請求し得るものと解すべきであ」る。

〇最判昭和52年4月7日集民120号407頁
 「賃貸人は、賃貸借契約を解除することなしに無断再転借人に対し物の返還を請求することができる」。

〇最判昭和50年4月25日民集29巻4号556頁
 「所有権ないし賃貸権限を有しない者から不動産を賃借した者は、その不動産につき権利を有する者から右権利を主張され不動産の明渡を求められた場合には、賃借不動産を使用収益する権原を主張することができなくなるおそれが生じたものとして、民法五五九条で準用する同法五七六条により、右明渡請求を受けた以後は、賃貸人に対する賃料の支払を拒絶することができるものと解するのが相当である。」

〇最判昭和40年3月23日集民78号395頁
 「賃貸人の承諾のない転貸借において、転借人が後日地主に土地明渡を余儀なくされたときは、これにより転貸人の転借人に対する債務は履行不能となる」。

 

Q. 目的物の一部が転貸された場合、かかる一部転貸を理由として全体について解除することができますか?

A. 判例は、目的物の一部転貸がなされた場合、一部転貸自体が許されないときは、全体について解除ができる旨を判示しています(大判昭和10年4月22日大民集14巻571頁、最判昭和32年11月12日民集11巻12号1928頁)。

〇大判昭和10年4月22日大民集14巻571頁
 「賃借人ハ賃借地ノ何レノ部分ヲモ転貸セサルヘキ義務ヲ負担セルモノナレハ其ノ一部分タリトモ他人ニ転貸シタルトキハ則チ賃借人トシテノ債務不履行トナルヲ以テ賃貸人ハ之ヲ理由トシテ賃貸借契約ノ全部ヲ解除スルコトヲ得ヘキモノトス」

〇最判昭和32年11月12日民集11巻12号1928頁
 「一個の賃貸借契約によつて二棟の建物を賃貸した場合には、その賃貸借により賃貸人、賃借人間に生ずる信頼関係は、単一不可分であるこというまでもないから、賃借人が一棟の建物を賃貸人の承諾を得ないで転貸する等民法六一二条一項に違反した場合には、その賃貸借関係全体の信任は裏切られたものとみるべきである。従つて、賃貸人は契約の全部を解除して賃借人との間の賃貸借関係を終了させその関係を絶つことができるものと解すべきである。」

 

Q. 賃貸人が無断転貸を長年放置していたような場合でも、かかる無断転貸を理由とした賃貸借契約の解除が認められる場合はありますか?

A. 事案によりますが、かかる放置が黙示的な転貸借契約の承諾とみなされるような場合には、賃貸借契約の解除は認められないこととなります。

 また、かかる放置が黙示的な転貸借契約の承諾とみなされない場合であっても、無断転貸を理由とした賃貸借契約の解除権が消滅時効にかかる場合は、同解除権は行使することができません。具体的には、同解除権は、転借人が目的物の使用収益を開始した事実を知った時から5年(民法166条1項1号)、又は転借人が目的物の使用収益を開始した時から10年(民法166条1項2号)の消滅時効にかかります(最判昭和62年10月8日民集41巻7号1445頁参照)。

〇最判昭和62年10月8日民集41巻7号1445頁
 「賃貸土地の無断転貸を理由とする賃貸借契約の解除権は、賃借人の無断転貸という契約義務違反事由の発生を原因として、賃借人を相手方とする賃貸人の一方的な意思表示により賃貸借契約関係を終了させることができる形成権であるから、その消滅時効については、……その権利を行使することができる時から一〇年を経過したときは時効によつて消滅するものと解すべきところ、右解除権は、転借人が、賃借人(転貸人)との間で締結した転貸借契約に基づき、当該土地について使用収益を開始した時から、その権利行使が可能となつたものということができるから、その消滅時効は、右使用収益開始時から進行するものと解するのが相当である。」

 

3 無断転貸が問題となった裁判例

 以下では、これまでご紹介した裁判例の他に、特に無断転貸を理由とする解除が問題となった裁判例をご紹介します。

 

3.1 無断転貸を理由とする解除を肯定した裁判例及びそれに類する裁判例

〇東京地判昭和31年4月2日下級民集7巻4号853頁

  • 「訴外人は被告の家族、雇人もしくは一時の泊客として本件家屋に居住したものでないことが明らかであるから、被告は右訴外人に本件家屋の一部を転貸したものといわなければならない。被告は右転貸について原告の承諾を得たと主張するがこれを認めるに足りる証拠は全く存在しない。しかして民法第六百十二条第二項の規定により、賃借人が賃貸人の承諾を得ないで賃借権の譲渡又は賃借物の転貸をした場合は、賃貸人は解除権を有するのであるが……、たとえ賃借人において賃貸人の承諾を得ないで上記の行為をした場合であつても、賃借人の右行為を賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情のあるときは、賃貸人は同条項による解除権を行使し得ないものと解するを相当とする。」
  • 「今本件についてこれを見るに、訴外……は、その居住先から明渡しを要求され移転先がないまま被告に依頼して本件家屋に居住するに至つたもので、このような状況にある知人を同居させるに至つた被告の所為そのものはさして責められるべきではないであろうが、被告は右訴外人を同居させるに当り賃貸人である原告の諒解を得べく努力した形跡もなく、右訴外人に対しては本件家屋を原告から賃借している事実を告げず、自己所有の家屋であるかのようにふるまい、しかも当時本件家屋を一カ月金三百五十円の賃料で賃借し(右転貸の当時、約三年分の賃料を延滞し)ていながら右訴外人からは電気、ガス、水道代を別にして一カ月金千円の賃料を受けとり、……警察署の生活相談において原告から右訴外人の立退きを求められたにかかわらず同人の移転先を探す努力をもせず……、右訴外人には本件家屋の玄関で炊事をさせ、泥のついた自転車を廊下に上げる等乱暴な使用方法をとつていたのであるから、右転貸は賃貸借の信頼関係を裏切るものといわざるを得ず、たとえ右訴外人が本訴提起後である昭和三十年九月に至つて退去したとしても、すでに失われた信頼関係を回復し得るものではなく(しかも右退去はすでに契約解除の後である。)、本件において民法第六百十二条第二項の規定を排除する特段の事情は存しないものといわなければならない。」
  • 「被告は原告が本件家屋の修理義務をつくさないとか、他に借家を有しているとか主張するが、右は被告のした転貸行為を正当づける何らの理由ともならないことは、多く説明を要しないところである。その他原告において不当の目的をもつて本件家屋の明渡しを企図するものであることを認めるに足りる証拠は存しないから、原告のした契約解除を目して権利濫用ということはできない。」
  • 「しからば、原告と被告との間の本件家屋の賃貸借契約は、原告のした契約解除の意思表示が被告に到達した昭和三十年一月七日をもつて解除されたものというべく、被告は原告に対し本件家屋を明け渡し、かつ、昭和二十九年十二月一日以降解除の日までの延滞賃料及び解除の日の翌日から明渡ずみまで賃料相当の損害金として一カ月金千百三十一円を支払うべき義務があるから、原告の請求は全部これを認容」する。

〇京都地判昭和34年12月14日訟月6巻2号261頁

  • 被告国が本件建物を使用する法律関係が民法第六一二条にいわゆる転貸借に該当するか否について判断するに、局舎借入契約には「借入」とか「借料」とかいう言葉を使用しているけれども結局被告Yが被告国に特定郵便局舎としての使用を為さしめ、被告国がその賃金を支払うことを約しているにほかならず、該契約が民法第六〇一条にいう賃貸借に該当するものであることは右契約内容に徴して明かであって、「いわゆる転貸とは転貸借という特別の契約があるわけでなく、賃借人が賃借物についてなす賃貸借が転貸借なのであるから、賃借人と転借人との間の賃貸借契約によつて常に転貸借が成立するものというべく、被告国の本件家屋使用関係が、民法にいう転貸借に該当することは疑を容れる余地がない。」
  • 三等郵便局長(後の特定郵便局長)の身分に関する制度の変更はともかく、被告Yが被告国に本件家屋を転貸したのは、一に被告Yの自由意思に基く契約によつて成立したものであることは言を俟たないところであつて、国家といえども私法の領域たる本件家屋の利用関係において、個人の意思を無視して自由に使用関係を設定し得るものではない。本件家屋に対する被告国の使用関係を他の転貸借一般と区別し、民法第六一二条による解除権を生じないものとする特殊な事情を認め得ない。
  • 被告国は、被告Yが本件家屋を被告国に使用させたことによつて、外形は被告国との間に転借関係が生じても、信義則上原告の解除権の行使は許されないと主張し、その理由として昭和二三年当時の制度改革に伴う法令の改正による処置であり、被告Yがその行為に出たのは、誠に止むを得ないところで、被告Yに背信行為はないというけれども、被告国のいわゆる三等郵便局長の身分制度改正は必然的に無断転貸を随伴するものではあるまい。「全国多数の特定郵便局の局舎は、当該郵便局長の個人所有のものが甚だ多く、その場合には当該局長と任意借入契約を締結すればよくその余は本件のように局長が他から借入れているものであつて、この場合には、当該局長又は国において賃貸人の承諾を得て適法に転借すべきものであつて、国が転借する場合に限つて賃貸人の承諾不要だとか、無断転貸による解除権がないとかいうのは正当でない。」

〇大阪高判昭和37年6月15日下級民集13巻6号1199頁
 控訴人Y1の控訴人Y2に対する本件家屋の使用関係の設定、つまり転貸につき賃貸人たる被控訴人Xの承諾がないことは認定のとおりであり、第三者に対する右のような新たな使用関係の設定が被控訴人Xに対する関係において未だ背信的行為というまでに至らないものとなすべき特段の事情を認めるべき証拠はないから、被控訴人Xは控訴人Y1に対しY2との間の使用関係の設定を原因として民法第六一二条により本件家屋賃貸借の解除権を取得したものといわなければならない。そして被控訴人Xが控訴人Y1に対し昭和三二年四月一六日到着の書面をもつて控訴人Y2に対する無断転貸を理由として本件家屋賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたことは当事者間に争がない。そうすると被控訴人Xと控訴人Y1の間の右賃貸借は昭和三二年四月一六日限り解除に因って消滅したものというべきである。

〇大阪高判昭和42年3月30日下級民集18巻3・4号321頁

  • 「思うに、賃借人が個人として借入れた土地を同人が個人企業を会社組織に改め設立した会社に地上建物を所有させてこれに使用さすことは右賃借人が資本的にも人間的にも右会社の支配的地位を占め、会社経営の実権を掌握している限り、賃貸人との間の信頼関係を破るものとはいえないから、背信行為と認めるに足りない特段の事情あるものとして民法第六一二条二項による解除権は発生しないことに帰着するわけであるが……、後に株式の移転、賃借人の役員辞任等によつて会社の実権が第三者に移行したような場合はおのづから事情が変更したものとして、そのときから民法第六一二条を適用して賃貸借契約を解除することができると解するを相当とする。」
  • 「今これを本件についてみるに前認定の事実関係の下においては被控訴会社はおそくとも昭和三一年五月七日以降は人的構成においても、資本的構成においても多大の変化を来し、賃借人伝之助は被控訴会社の経営についての実権を失つたものと認められるから、爾後の被控訴会社の本件土地使用関係(転借関係)は背信性あるものとして控訴人らに民法第六一二条二項による解除権を発生せしめること明かで、控訴人らが右事実を知るに及んで、昭和三四年七月二二日到達の内容証明郵便で夫々右転貸を理由に本件賃貸契約の解除をしたことは……これを認めることができる。」

〇東京高判昭和51年7月28日東高民時報27巻7号185頁

  • 被控訴人は、本件賃貸借の当初から本件建物部分についての転貸を禁ずる旨をつよく表示していたものであり、控訴人が飲食店経営を他人に委託することを承諾し、或いは訴外Oが本件建物部分において自己の名義でバー営業に従事することに同意を与えたうえ、その営業許可を得ることに協力したことも、いずれも控訴人の巧みな説明によってそのいわゆる委託経営の趣旨を誤解し、建物部分の転貸にはあたらないとの見解のもとに行われたのであって、控訴人ら主張のように転貸を承諾したものと認めるには充分でなく、他に被控訴人が転貸を承諾したものと認めるに足りる証拠はない。
  • 本件賃貸借の経緯、ならびに被控訴人において、控訴人が本件建物部分を区画してマーケット又は飲食店経営をなし、右飲食店の経営を他人に委託することを承諾し、Oのなす風俗営業に同意した事実は前認定のとおりであり、被控訴人は、Oの風俗営業には同意したものの、再三にわたる要望にも拘らず同人との間の契約書を見せようとしない控訴人の態度に不信の念を抱き、依然としてOが本件建物の一部を転借しているのではないかとの疑いは消えなかったが、確証がない以上賃貸借を継続するほかはないものと考え、控訴人から支払われた権利金等を受領し、更にその日である同年一〇月一一日控訴人に電話し、再度Oとの関係をただしたところ、誠意ある回答は得られず、かえって、面倒なことをいうなら解約して損害賠償を請求する、などと高圧的ともいうべき応待をうけ、益々控訴人に対する信頼感を失っていたところ、その後になって、控訴人との間で結ばれた賃貸借契約書を示され、かつOと控訴人との間の契約内容も同一であることを聞知するに及び、同訴外人らに対して本件建物部分を転貸したものとの確信を抱き、控訴人に対して本件賃貸借契約解除の意思表示をなすに至ったものである事実が認められる。右認定事実によれば、被控訴人には、権利金等を全額滞りなく受領ができるようにするため殊更に本件解除権の行使を遅らせていたような事情はなく、当初からつよく転貸を禁ずる意思を明示していたものであって、控訴人主張の諸事実があるからといって直ちに本件転貸につき背信性がないものとする特別の事情あるものとは認められず、また解除権の濫用というにも足りず、他にこれを認めさせるに足る証拠はない。
  • 「よって、被控訴人のした本件建物部分に対する賃貸借契約解除の意思表示は有効であり、本件賃貸借は昭和四七年一〇月一七日終了し、控訴人は本件建物部分を被控訴人に明渡す義務を負うものというべきである。」

〇東京地判昭和56年1月30日判タ452号129頁

  • 被告と訴外Hとの間の契約は、被告においてHから経営委託料名下に一定金額及び保証金の支払を受けてこれを受領し、Hにおいて飲食店営業のため本件建物を使用収益することを目的とする契約であり、実質的には本件建物の賃貸借(原告との関係では転貸借契約)にほかならないものと認められる。
  • 被告は訴外Yに代わりHに本件店舗の経営を任かせるにつき、Hに対しては被告が原告から賃借している事実を秘して自分の店であると称して店の経営を勧誘し、後日被告が原告から賃借していることが判明するや、Hに対してはHが被告から賃借していることを話さないよう口止めし、原告からもし聞かれたら雇われマダムであると答えるよう指示したこと、以上の事実が認められ、右事実に、被告が原告より転貸につき事前に承諾を得ていない事実並びに原告が契約を解除するに至つた経過を併わせ検討すると、被告は経営委託という形態をとるにせよ、それが転貸借にあたるかぎり原告の承諾しないものであることを十分に知りながらかつ、原告から再三転貸を中止するようにとの要請があつたにもかかわらずこれを無視し、Hに転貸した後、訴外S、同Nへと順次転貸していつたものと認められ、もはや原、被告間には信頼関係は破壊されたものとみることが相当である。「したがつて原、被告間の賃貸借契約は昭和五二年一一月末日解除されたというべきである。」

〇東京地判昭和60年9月9日判タ568号73頁

  • 認定事実に照らして考えると、本件契約上の訴外Kの地位を控訴人の単なる使用人又は経営受託者とみることには無理があり、本件契約は、金井の本件店舗におけるバー営業を目的とする本件店舗の賃貸借契約であると認めるのが相当である。
  • 「被控訴人は、昭和四二年九月、本件店舗を控訴人に賃貸した当時、控訴人の本件店舗でのバー営業が、控訴人自ら接客に当るのではなくいわゆる雇われママを使用する形態で行われるものであることを承知していたことが認められるが、被控訴人としては、雇われママはあくまでも控訴人の使用人として、その指揮監督の下に本件店舗を使用して営業するものであると諒解していたにすぎないものであり、右雇われママが独立の営業者となり、本件店舗を転貸と目すべき形態で使用し、営業することまでも包括的に承諾していたものとは認めることはできない」。
  • 本件店舗におけるバー営業は、昭和四二年九月から昭和四八年ころまでの間は訴外Sが、同年から昭和五五年一〇月ころまでの間は訴外KRがこれに当つていたこと、被控訴人は、SやKRが本件店舗で働いていたときにもしばしば客を同伴するなどして本件店舗を訪れたことがあり、日常、本件店舗内に控訴人の姿はなく、本件店舗で接客しているのはSやKRであることは知つていたことが認められるが、被控訴人は、S及びKRは控訴人の使用人としての雇われママであると思い込んでいたこと、ところが、昭和五七年九月に本件賃貸借契約の更新について交渉すべく電話したところ、応対に出たKから本件契約の内容を聞き、それからほどなくして本件契約の契約書を見せてもらつて初めて本件契約が単なる雇傭契約あるいは経営委託の域を越えるものであることを知り、控訴人に対し、本件賃貸借契約解除の意思表示をなしたことが認められるから、被控訴人が本件店舗で接客に当つているのが、SやKRであり、控訴人自身でないことを知つていたからといつて、本件契約の如き本件建物の転貸借までも暗黙の裡に承諾をしていたものとみることはできないし、他に被控訴人が,黙示の承諾をしていたものとみるべき事情を認めるに足りる証拠はない。
  • 「控訴人は、被控訴人が控訴人の本件店舗使用の実態を熟知していた旨主張するが、右主張が肯認し難いことは前記判示のとおりである。かえつて、前記認定判示のとおり、控訴人は、本件店舗を転貸しながら、これを経営委託と装い、右委託名下に本件賃貸借の賃料にほぼ三倍する利を得ていたのであり、控訴人の制肘の及ばない経営者による本件店舗の使用の態様には、その使用者の変動に応じて自ら差異あるものとみるべきことに加えて、……本件賃貸借契約における賃料増額、契約更新の際の控訴人の対応にはやや誠意を欠くとみられるところがあつたことが認められることを考慮すると、信頼関係の破壊があると認めるに足りない特段の事情があると認めることはできないものというほかはない。」

〇東京高判昭和61年2月28日判タ609号64頁

 「認定した事実によれば、本件賃貸借契約には、被控訴人において本件貸室を貸机業に使用してはならない旨の定めが存したものであり、被控訴人が約定の昭和五七年一〇月四日を経過した後も、本件貸室において貸机業を営んできたことは、本件賃貸借契約に定められた用法に違反するものである(ビルの一室の賃貸借契約において、貸机業を行つてはならないことを賃借人の用法義務として定めることは、……相応の合理性があるものと認められる。)から、本件賃貸借契約は、……解除によつて昭和五八年一月二八日限り終了したものと認めるのが相当である。」

〇東京地判平成7年8月28日判時1566号67頁

  • 「被告……が、……本件建物において……美容院の業務を行っていたことは当事者間に争いがない。そして、本件業務委託契約の実質につき、被告らは本件建物の転貸借であると主張するのに対し、原告は、まさにその名のとおり業務委託契約であって、被告……による本件建物の使用は転貸に該当しないと反論する。そこで以下において本件業務委託契約の実質について検討する」。「本件業務委託契約に関する書面としては覚書がある。同書面では、第一条において、原告が代表者を務める訴外有限会社……が被告……に対し美容に関するすべての運営業務を委託する旨が記載されているものの、被告……が行う美容院店舗の名称については、被告……において決定し、原告がまったく関与しないものとされていること(第二条)、被告……が、毎月定額の運営費を原告に支払うものとされていること(第三条)、本件建物に関する毎月の光熱費については……被告……に対し請求し、被告……がその責任において支払うものとされていること(第四条)、本契約に際して、被告……が……保証金として五〇万円、権利金として五〇万円をそれぞれ支払うものとされていること(第五条)、右契約期間の最初の月にあたる平成四年二月分の本件建物に関する家賃の負担につき……分担割合が決められていること(第六条第二文)、本件賃貸借契約の更新時において家主に対して支払うこととなる更新料についての被告……の負担割合が決定されていること(第七条)などからすると、同契約の実質の大半は本件建物の転貸借契約であると認められる」。その他認定された「事情によれば、本件業務委託契約は、契約の呼称こそ業務委託契約となっているが、その実質は本件建物の転貸借というべきである」。「右のとおり、本件業務委託契約による被告……の本件建物の使用は無断転貸借に該当する。」
  • 「まず、……本件業務委託契約の実質が、転貸借契約であり、かつ、同契約に関する客観的事実を原告が認識している以上は、原告が同契約なり被告……による本件建物の使用が転貸借にあたらないと考えていたとしても、そのこと自体は、背信性を認め得ないという特段の事情があるとはいえない」。「また、……本件業務委託契約締結により現実に本件建物を使用する店舗経営者に変更が生じるものである以上、同契約の前後を通じて同一の業務、同一の利用目的であるとしても、そのことが、本件における転貸借につき背信性を認め得ないという特段の事情になるとまでいうことはできない」。「さらに、原告は、本件建物で美容業を営むことで生計を維持してきたものであり、本件解除により収入の途を失うこととなり生活に窮し、その影響及び被害は甚大であると主張する……が、……本件業務委託契約締結当時、原告は本件建物以外の二店舗において同種の美容院を経営していたことが認められ、原告の生計が本件建物における美容院経営のみに依存していたという事実は認めがたいから、原告の右主張も採用できない。」
  • 「右のとおり、本件の転貸借について背信性を認め得ないという特段の事情を認めるに足りる証拠はいまだ存しないというべきである」。「本件解除は有効であるから、本件解除の無効を前提とする原告の被告……に対する各請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。」

〇東京地判平成24年4月11日(平成22年(ワ)第45362号)

  • 「本件建物は、被告B(T)によって、中国人向けの学生寮として利用されていたことは当事者間に争いがなく、本件賃貸借契約書には「寮」との記載がある。証拠……によれば、原告は、本件建物が被告B(T)により、パソコン教室とかピアノ教室として利用されることのほか、学生寮として利用される可能性があることも知って本件賃貸借契約を締結したと認めることができる。」
  • 「本件賃貸借契約は、建物の賃貸借契約であるから、使用収益の主体が誰であるかは、賃貸人にとって重要な関心事項であるということができる。……消防署による立入検査において本件建物が寄宿舎として利用されていることにつき、消防法令、建築法令関係の違反事項が本件建物所有者である原告に対して指摘されており、平成22年2月11日、同年12月30日、平成23年5月23日には、本件建物からの水漏れ事故が発生している。平成22年2月11日の水漏れ事故は、Rが被告Bから本件建物の転借をしていた時期である。本件建物を中国人向け学生寮としての収益物件として使用するということでは、被告B(T)とRが同様の営業形態を営むということができるとしても、入寮者に対する使用上の管理、本件建物の管理修繕など使用収益の態様は、賃借人によって異なるものであるから、賃借人が誰であるかは、賃貸人である原告の重大な関心事項であるということができる。そうすると、原告に無断で転貸が行われ、使用収益の主体が被告B(T)からRに交代することは、原告に対する背信行為であるということができ、かかる背信行為に対して、原告は、本件賃貸借契約を催告なくして解除できると認めることができる」。「なお、被告Bは、原告による解除の意思表示が被告に到達した時までに転貸借関係が解消されていたから解除権が消滅したとの主張をしているとも解されるが、無断転貸によって賃貸借契約の解除権が発生した場合、その転貸が終了した一事のみによっては解除権の行使は妨げられない……し、原告と被告Bとの信頼関係の回復など無断転貸によって発生した解除権が消滅したことを認めるに足りる証拠はない。」
  • 「以上によれば、本件賃貸借契約は、平成22年7月13日の原告から被告Bに対する解除の意思表示の到達によって解除され、終了したと認めることができ、原告の被告Bに対する請求には理由がある。」

〇東京地判平成24年9月25日(平成23年(ワ)第34654号)

  • 「まず、被告会社は、原告らが被告P4から被告会社への無断転貸について黙示の承諾をしたなどと主張する。しかしながら、……原告らは、本件訴えを提起する前に本件建物についての占有移転禁止の仮処分決定を受け、……同決定の執行により、被告会社が本件建物の占有者であると特定されたのであって、……原告らは、上記執行に至るまで、被告会社の存在を知らなかったものと認めるのが相当である。そうすると、原告らが、被告P4から被告会社への転貸借を承諾することなどということはあり得ず、その他本件証拠に照らしても、黙示の承諾があったと認めるに足りる証拠はなく、被告会社の主張は理由がない。」
  • 「次に、被告会社は、仮に黙示の承諾がなかったとしても、被告P4と被告会社が同一人物であることなどからすれば、被告P4から被告会社への無断転貸は背信行為とは認められず、承諾転貸と同様に扱われるべきであると主張する。確かに、証拠……によれば、被告P4は、遅くとも平成21年3月17日には、本件建物において、……マッサージ店を営業しており、……平成22年8月16日ころに設立された被告会社の代表取締役が被告P4であり、被告会社が上記マッサージ店を引き継いでいることからすれば、被告P4から被告会社へ本件建物が転貸された以降も、実質的には、被告P4が本件建物を利用して占有していたというべきである。しかしながら、……株式会社の名義で、本件建物における「……整骨院」の開設届が平成23年8月26日付で新宿区保健所長に提出されているところ、原告らは、……株式会社及びその代表者であるP8のことを知らなかったものと認められる。また、……本件建物の使用目的は「エステ店舗」であり、使用目的を変更することができない旨の規定があるところ、被告会社は、……平成23年9月2日以降、整骨院兼鍼灸院である本件整骨鍼灸院を営業している。そうすると、被告会社は、原告らの知らない会社名義で開設届を出し、原告らの知らない第三者が本件建物を使用しているかのような外観を作出しているばかりか、本件整骨鍼灸院というエステ店舗とは業態の異なる店舗として本件建物を使用していることからすれば、本件建物の利用者が実質的には被告P4であることを考慮したとしても、被告P4から被告会社への無断転貸が原告会社に対する背信行為ではないなどと認めることはできず、やはり被告会社の主張は理由がないというべきである。」
  • 「以上より、被告会社に本件建物についての占有権限は認められず、原告P1の被告会社に対する所有権に基づく返還請求権としての本件建物の明渡請求は認められる。」

〇東京地判平成24年10月25日(平成23年(ワ)第25360号、平成23年(ワ)第32140号)

  • 「甲被告cと乙被告eとの間において、本件転貸借契約1が締結されていることが認定できる。しかして、甲被告cは、仮に同転貸借契約が締結されたとしても、その際又はその後原告からこれについて承諾又は黙示的承諾を得ている旨主張する。しかしながら、同承諾の事実を認めるに足りる証拠はない。」
  • 「原告は、甲被告cが本件建物内において、軽食屋台を営業すること自体は承認しており、乙被告eが甲被告cの従業員として同営業に従事することについては特に異議を述べなかったというにすぎず……、乙被告eが甲被告cから本件……の建物部分を転借して独立の営業主体となることや甲被告cが同転貸により中間利得を得ることを黙認してきたことを認めるに足りる証拠はないこと、原告は、乙被告e及びその夫から、……同被告と甲被告cとの間で本件転貸借契約1が締結されている事実を知らされ、その契約書も見せられて初めて同契約締結の事実を知り、本件転貸借契約2が無断で締結されたことも併せて理由とした上、……原告訴訟代理人から本件賃貸借契約を解除する旨の通知書を発している……こと、原告に無断で本件転貸借契約1が締結された事情について甲被告cを特に宥恕すべき事情は窺われないこと、本件……の建物部分は本件建物全体に占める割合は1割に満たない25平方メートル……にすぎないものの、これを原告に無断で他に転貸借して中間利得を得ることは原告に対する重大な背信行為と評価することができる。そうすると、原告に無断で本件転貸借契約1を締結したことにより、原告と甲被告cとの間の信頼関係は破壊されていることが明らかであり、少なくともそれが破壊にまで至っていないとする特段の事情があるとは認めることができない。」

〇東京地判平成25年9月2日(平成24年(ワ)第23952号)

  • 「認定事実によれば、被告会社の従業員である被告Eが同社の了解を得て、……原告の許可なく本件建物に居住し始めたこと、その頃から、被告会社は本件建物を事務所として使用しない状態になっていったことが認められ、そうすると、被告Eが、本件建物の居住者として、その頃から借主である被告会社とは独立した使用収益を行ったものと認めるのが相当であるから、被告会社が無断転貸を行うとともに、事務所として使用するという本件賃貸借契約の目的に違反したことが明らかである。また、被告会社の……賃料減額請求には理由がないことは……説示したとおりであって、そうすると、被告会社は、本件解除の時点で、1年分を超える賃料を滞納していたことになる。」
  • 「したがって、被告会社には、上記無断転貸、使用目的違反及び賃料滞納という本件賃貸借契約上の解除原因が存在したというべきであるから、原告による本件解除は有効である。」

〇東京地判平成26年8月14日(平成25年(ワ)第30519号)

  • 「被告P6夫婦は、平成22年頃から、本件貸室に居住するようになったものであるが、本件貸室を住居として日常的に使用していること、その使用期間も現在まで少なくとも3年以上に及んでいること、家賃の半分を負担し、有償で使用していること等からすれば、被告P6夫婦は、本件貸室を独立して使用していると認められるから、被告P2は、同年頃、被告P6夫婦に対し、本件貸室を転貸したことが認められる(なお、仮に、被告P2が現在も本件貸室に時々寝泊まりすることがあったとしても、転貸についての上記認定判断は左右されない。)。そして、……本件貸室賃貸借契約によれば、被告P2は、原告の書面による承諾なく本件貸室を第三者に転貸することが禁じられているところ、本件貸室を被告P2が被告P6夫婦に転貸することについて、原告が書面により承諾したことを認めるに足りる証拠はないから、上記転貸は、本件貸室賃貸借契約の定めに反するものであると認められる。そうすると、被告P2の被告P6夫婦に対する本件貸室の転貸は、原告の承諾なくして行われたものであり、無断転貸に当たるというべきである。」
  • 「被告P2には、無断転貸及び修繕拒否という本件貸室賃貸借契約の定めに反する行為があり、これについて、被告P2の背信行為と認めるに足りない特段の事情があることを認めるに足りる証拠はないから、契約継続の前提となる当事者間の信頼関係がいまだ破壊されていないとはいえないというべきである(なお、仮に、被告P2の無断転貸及び修繕拒否が認められないとしても、……被告P2の滞納賃料が……合計136万5000円(7ないし8か月分)に及んでいることからすれば、いずれにしても、当事者間の信頼関係が破壊されていないとはいえないというべきである。)。」

〇東京地判平成27年4月7日(平成25年(ワ)第29553号、平成26年(ワ)第2114号)

  • 「転貸の有無について検討すると、〔1〕本件貸室で営業する飲食店の店名が変更されたばかりでなく、「wacca 輪」が被告P7の飲食店であることを示す名刺が本件貸室内に備え置かれていたこと、〔2〕被告P6が飲食店の店長を被告P7に任せるだけであれば、被告P7の住民票や印鑑登録証明書を本件管理会社に提出したり、被告P7名義で飲食店営業の許可を取得したりする必要はないこと、〔3〕被告P8による押印の有無や契約書の詳細な内容はともかく、作成未了とはいえ、被告P7と被告P8の名前が表示された共同経営契約書が用意されていたこと、〔4〕被告P6が、βに飲食店を出店したことに関するツイートにおいて、2店目の開業などとは表記せずに、βに移転した旨を表記していること、〔5〕「wacca 輪」の開業について、被告P6が本件管理会社には伝えず、本件解除1がされるや、被告P7が廃業届を、被告P6が屋号の変更届をそれぞれ提出するという対応をしていることを併せ考えると、飲食店「wacca 輪」の経営者は被告P7であり、被告P6は、被告P7が同店を開業し、本件貸室の使用収益を始めた……日までに、被告P7に対し、本件貸室を転貸したものと認めるのが相当である。」
  • 「亡P1が本件ビルの管理業務を委託していたのは本件管理会社であり……、P11に対し、本件貸室の転貸の承諾に関する代理権を授与した事実を認めるに足りる証拠はない。そして、……亡P1がP11に対して基本代理権を授与した事実、あるいは、亡P1が被告P6に対して本件貸室の転貸の承諾に関する代理権をP11に授与した旨の表示をした事実は認められない」。「そうすると、P11が口頭で転貸の承諾をしたか否かについて判断するまでもなく、有権代理又は表見代理による転貸の承諾をいう旨の被告らの主張は採用の限りでない。」
  • 「前記の認定判断を踏まえると、被告P6の被告P7に対する転貸は無断転貸であると認められるところ、本件解除1の成否に関し、賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるか否かについて検討する」。「P12から転貸をやめるよう求められたか否かにかかわらず、本件管理会社を通じ、本件賃貸借契約の約定どおり、賃貸人である亡P1から転貸について書面による承諾がされるまでは、そもそも被告P7に対する転貸を差し控えるべきであったといえるから、被告P6が、その後約2週間しか経過していない……日までに、被告P7に対する無断転貸を敢行した点は、賃貸人である亡P1との関係では、背信的な行為であるとの評価を免れない」。「また、……被告P6は、無断転貸を始めた頃から、賃料……支払の遅滞を繰り返すようになったこと……、遅滞期間も次第に長くなり……、賃料不払を解除原因とする本件解除2がされたにもかかわらず、一時期は、3か月分の賃料が不払の状態となっていたこと……、その後も賃料支払の遅滞が断続的に続いていること……が認められ、全体としてみると、無断転貸を契機として、賃料支払の遅滞が常態化するようになったということができる。これに加えて、解除の効力を争って本件賃貸借契約の存続を主張し、本件貸室を使用し続けていながら、……賃料の支払遅滞に関して賃貸人側に責任を転嫁するような主張をしている被告P6の対応(被告P6は、原告側から賃料の支払請求がなかった旨主張するけれども、……賃料支払の期限や方法は明確に合意されていた上、亡P1の死亡後も、賃料及び管理費相当額の振込先の口座を教示されていたのであるから……、賃料支払の遅滞が常態化した理由は、被告P6に支払能力がなかったか、契約内容を順守する意識が乏しかったことに尽きるといえる。)を併せ考えると、1か月余りという転貸期間や上記……の事情を踏まえても、賃貸人である原告らと被告P6との信頼関係は修復が困難なほどに破壊されているといわざるを得ない。」
  • 「以上によれば、賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるとは認められず、本件解除1により、本件賃貸借契約は……終了したものと認められる。」

〇東京地判平成27年4月23日(平成26年(ワ)第21931号)
 「被告会社は、原告の承諾を得ることなく、本件建物を被告Cに使用させていたから、これは無断転貸及び用法違反に該当する。さらに、被告らは、平成26年7月以後、本件建物の賃料として月額1万円しか支払っていないのであるから、被告会社が本件契約の条項に違反していることは明らかである。原告が、平成26年10月27日、被告会社に対して本件契約を解除するとの意思表示をしたことは当裁判所に明らかである。したがって、本件契約は、同日、解除された。」

〇東京地判平成28年2月17日(平成27年(ワ)第27734号)

  • 「本件建物に係る占有状況や、……「……総合法律事務所」のホームページの掲載事項からうかがわれる被告Bと被告E及び被告Cの人的関係等を総合すると、被告Bは、被告E及び被告Cに対し、遅くとも平成26年11月末頃までには、本件建物の賃借権を譲渡し、あるいは本件建物を転貸して、本件建物を直接占有させたというべきである。そして、本件建物に係る賃借権譲渡及び転貸につき原告の承諾がないことは当事者間に争いがない。よって、被告E及び被告Cによる本件建物に対する上記占有は、原告に対する不法行為を構成するというべきである。」
  • 「証拠……及び弁論の全趣旨によれば、原告が、被告Bに対し、通知書……を送付し、平成27年9月28日、同通知書が被告Bに到達したことが認められる。そして、前記……の事実が本件賃貸借契約所定の譲渡転貸禁止……に違反することに照らせば、本件賃貸借契約は、平成27年9月28日に解除されたといえる。」

〇東京地判平成28年7月12日(平成26年(ワ)第28189号)

  • 「本件賃貸借契約においては、被告Z2が音楽用貸しスタジオとしての用途を超えた転貸を行うことは、昭和48年の本件賃貸借契約の締結後も、昭和58年の契約書作成後も、一般的には承諾されていなかったというべきである」。「被告Z2が、左室を被告会社らおよびICTに賃貸したことが、本件賃貸借契約上禁止された転貸にあたるかどうかについて判断すると、被告Z2は、本件7階の音楽用貸しスタジオとしての需要がなくなってきていることから、Z3が経営する被告会社らおよびICTに賃料月30万円で賃貸し、その事務所を入居させることとしたが、これらはいずれもIT系企業で、音楽あるいは演劇の団体ではなく、その使用形態も、什器備品を搬入、設置した上、約15人の従業員が勤務するという純然たる会社事務所としての使用であって、音楽あるいは演劇のスタジオとしての使用ではないというものであり、被告Z2は、音楽用貸しスタジオ……を右室のみに縮小した上で、左室を単なる貸事務所……に変更し、これを被告会社らおよびICTに本店または営業所用に賃貸したとみるのが相当であるから……、これは、本件賃貸借契約が予定している本件7階における音楽用貸しスタジオの運営の範囲を超えて、同契約が禁じている転貸を行ったものというべきである。」
  • 「さらに、上記の転貸が、本件賃貸借契約における賃貸人と賃借人の間の信頼関係を破壊するか否かについて判断すると、無断転貸借の禁止は、民法上の原則であり、本件賃貸借契約においても昭和58年以降は契約書に明記されており、当事者間においても音楽用貸しスタジオとして使用料を得るという範囲を超えた転貸が認められないことは当然の理解になっていたといえること……、原告は平成12年に被告Z2に対し他業種への転貸は契約違反になると明確に伝えていること……、原告による是正の催告に対し、被告Z2は、代理人弁護士を通じて、原告に対し、被告会社らおよびICTに対する転貸は、本件7階のスペースの有料貸出しに過ぎず、事業形態には何ら変化がなく、むしろ騒音発生の可能性が減って本件ビルの他のテナントにとって喜ばしいことであると回答し、何らこれを是正する姿勢を見せなかったこと……の各事実および事情が認められるから、被告Z2が、本件賃貸借契約における本件7階の使用目的の音楽用貸しスタジオの運営を右室に限定し、左室をそれと異なる事務所用に第三者に転貸し、そのことについて、事前にも事後にも原告に通知したり了解を得たりすることがなかったことは、本件賃貸借契約における当事者間の信頼関係を破壊する行為であると評価するのが相当である。」
  • 「以上のとおりであるから、本件賃貸借契約は、原告が行った……解除の意思表示により、……解除され、以後、被告Z2ならびに同人からの転借人である被告会社らおよびICTは、本件7階の使用権原を喪失した。」

〇東京地判平成28年9月26日(平成27年(ワ)第3300号)

  • 「本件契約においては、本件物件を被告会社が主催する展示会等に用いることについては原告も認めていたものの、第三者が主催する展示会等に用いることを認める合意はなかったと認められる」。また、「本件合意書の文言に照らせば、被告会社が、原告に対し、今後本件物件を第三者に使用させないことや本件ウェブサイトを削除することを約束したのは明らかである」。しかし、「本件合意後も被告会社が本件ウェブサイトの記載を削除せず、また無断転貸を続けていたのであるから、これが本件契約及び本件合意に違反するものであることは明らかである。被告Bは、本件ウェブサイトから申込みフォームさえ削除すれば良いと思っていたと述べるが、同人の勝手な思い込みというほかない。訴外サイトの削除が遅れたことも、結局は被告会社の訴外会社に対する働きかけが不十分であったためであって、本件合意の違反にあたることは明らかである。また被告Bは、本件ウェブサイトの記載にかかわらず、被告会社の事業と無関係な者からの利用申込みは断っていたと述べるが、本件合意がそのような限定なく第三者に対する転貸を禁止するものであることは明らかであるから、主張自体失当というほかない。」
  • 「したがって、本件解除通知には理由があるから、本件解除は有効であり、本件契約は……解除されたと認められる。」

〇東京地判平成28年11月10日(平成27年(ワ)第13815号)

  • 被告Aは、訴外Pを通じて、原告に対し、被告Aの代表者である被告Bが高齢となったことなどから被告Aが運営するスポーツクラブ事業を何らかの法形式を用いて第三者に承継することを将来の希望として伝えていたこと、被告Aは、事業承継先の候補となる会社との間で交渉中であり、その経過等をaに報告したいとの要望を伝えたこと、訴外Pに対し、本件建物の3階部分を被告Lに転貸するとともに4階から6階部分を被告Lに運営委託することを決めたので原告の書面による承諾を求めることなどを伝えたことが認められるものの、被告が本件建物の転貸等を行う会社名、同会社の事業内容、規模及び知り得る限りの財務状況等、原告が転借人等として本件建物の使用を認めるか否かを判断するに必要な情報を具体的に開示して原告による検討を依頼したなどといったことまでは認められないし、原告がかかる検討をして被告Aに対して口頭又は書面を問わず本件建物の転貸等を認めたことも認められない。被告らは、原告から被告Aが本件建物における事業を第三者に承継することについて原告の承諾を得たことや、その後も事業承継について原告に伝えたが異議を述べなかったことなどを主張するが、賃貸人である原告にとって承継先となり得る会社がどのような会社であるかは重要な関心事項であり、転貸等を承諾するか否かは個別的に検討せざるを得ないものと考えられるが、各時点で具体的な承継先等が候補に挙がり、その交渉をし、原告がこれを前提に検討した上で承諾したと認めるに足りる証拠はない。したがって、被告Aが被告Lに対して本件建物を転貸等することについて、その方式を問わず原告の承諾があったということはできない。
  • 「本件契約において、賃借人が本件建物を第三者に転貸する場合にはあらかじめ書面による賃貸人の承諾を得る必要がある旨が定められているが、これは、賃貸人の承諾の有無についての法律関係を明確にし将来の紛争を避けることを目的とするものであって、かかる合意は有効なものであるが、書面による承諾を得ないで転貸した場合であっても、書面による承諾を必要とした特約の趣旨その他諸般の事情に照らし、上記転貸が賃貸人に対する背信的行為であると認めるに足りない特段の事情が存する事実について、賃借人から立証がされた場合には、賃貸人は賃貸借契約を解除することは許されないと解するのが相当である。」
  • 「本件についてこれをみると、被告……はいずれも本件建物でスポーツクラブを運営しており、その使用目的が大きく異なることはないものの、被告らは異なる法人格を有し、特別な資本関係等は認められないから、その経営主体は異なり、本件建物の占有主体が実質的に同一と評価することはできない。民法612条において賃借人が賃貸人に無断で転貸等することが賃貸人による解除事由となることが定められているのは、賃貸借契約が継続的契約であって賃貸人と賃借人との信頼関係が契約継続の基礎となり、賃貸借契約の対象物を使用する賃借人が誰であるかは賃貸人の重要な関心事項であって無断で転貸等することが上記信頼関係を破壊するものであることによるからである」。そして、被告らがいずれも本件建物でスポーツクラブを運営しており、その使用目的が大きく異なるものではなく、また、被告Lが本件建物を明け渡す義務を負うとすると、被告Lが主張するように同被告の投下資本回収や同被告が運営するスポーツクラブの会員に大きな影響があるとしても、占有主体が名実ともに異なることは否定し得ないし、こうした事情や前記認定事実から被告Aによる無断転貸等が背信的行為と認めるに足りない特段の事情があるということはできない。そして、ほかに背信的行為と認めるに足りない特段の事情があると評価すべき事実は認められない。

〇東京地判平成29年1月19日(平成27年(ワ)第23546号、平成27年(ワ)第36237号)

  • 被告Sは、被告E(実質的にはその親権者両名)に対し、本件2階店舗を営業委託し、被告E(実質的にはその親権者両名)は、Hに対してこれを再委託したものであり、転貸ではない旨主張し、証拠がこれに沿う。しかし、Hは「毒をんな」という店の名前でゲイバーを営業しているところ、被告Eは、平成20年10月1日生まれであり、店舗営業委託契約書の作成日付である平成25年5月7日の時点では4歳にすぎなかった者であり、ゲイバーの経営に関与できるはずもないし、被告Sもゲイバーの経営に関与していたものとも認められない。そして、Hは、毎月14万円という一定の金額を支払っており、Hも上記14万円が「賃料」であり、賃貸人の地位に争いがあるから供託していると認識している。以上によれば、被告Sは、本件2階店舗を被告Eに転貸し、さらに、被告Eは、本件2階店舗をHに転貸したものと推認される。
  • 被告らは、原告は被告Yが第三者に本件2階店舗の営業を委託することを前提としており、被告Y及び被告Sは、原告が確実に賃料を受け取れるように原告の依頼に基づいて本件2階店舗の営業を第三者に委託したものである旨主張し、証拠がこれに沿う。しかし、原告と被告Cは、平成18年頃に3、4回しか会ったことがないというのであり、原告が本件2階店舗について第三者に転貸することを包括的に承諾するほどの原告と被告Cとの間の信頼関係があったものと認めることはできない。被告らの前記主張に沿う前記証拠を直ちに採用することはできない。
  • 被告らは、原告は、本件2階店舗が、「TAISHO」、「毒をんな」といった屋号の経営者に経営委託されていることを知っており、第三者に対する委託を承諾していたものである旨主張する。しかし、新a商業組合名簿には、2009年及び2010年のものには「TAISHO」、2011年、2012年、2013年、2014年及び2015年のものには「毒をんな」の記載があるが、本件2階店舗とこれらの記載の対応関係は名簿上からは明らかでないし、本件2階店舗への入り口には、「毒」という看板が設置されて「毒をんな」という表札も掲げられているが、これらの外観を見ても、被告Sと被告EやHとの契約関係は明らかではなく、被告Sが従業員を雇用して経営していた可能性もあるから、原告が本件2階店舗に第三者が転借りすることを事後に承諾していたものと認めることはできない。被告らの前記主張を採用することはできない。
  • このように、被告Sは、本件2階店舗をHに転貸してHはゲイバーの営業を行い、その間に、平成20年○○月生まれの児童にすぎない被告Eを関与させるなどしたものであるが、これは賃貸人と賃借人との間の信頼関係を大きく毀損する重大な背信行為というべきである。「したがって、本件2階店舗についての無断転貸を理由とする原告の本件第1次解除は理由がある。」

〇東京地判平成30年1月18日(平成28年(ワ)第36781号)

  • 被告は、本件賃貸借開始後、本件店舗において、「昭和屋レストラン」の看板を掲げて洋風居酒屋を営んでいたが、平成27年2月頃、被告の知人であるCが本件店舗において、自ら同看板の上に「大衆酒場昭和屋」の看板を取り付けて和風居酒屋の営業を開始したものであり、それ以降、本件店舗の賃料も、Cが訴外G(本件賃貸借の媒介業務を行い、以降、本件店舗の賃貸管理業務を行っていた不動産業者)に直接持参する方法により支払われていたほか、本件店舗のガス、水道についても上記の際にC自らが供給契約を締結して使用者となっていたこと、その後、平成28年3月に本件賃貸借を更新するに当たり、原告が訴外Gを通じて被告に賃料の値上げを申入れた際、被告からCと相談するよう言われたため、訴外GにおいてCの了解を得た上で、賃料の改定がされたこと、その後、Cは、平成29年1月末頃に突然被告から本件店舗から退去するよう要請を受けたことを訴外Gの担当者であるDに相談していたものであり、同年2月には、本件店舗における居酒屋の営業を終了し、C自身が本件店舗に持ち込んでいた調理器具や空調機等を上記「大衆酒場昭和屋」の看板と共に撤去した上で、訴外Gの仲介により近隣の店舗に移転し、同看板を掲げながら居酒屋の営業を再開したこと、Dにおいて、Cから上記相談を受ける中で、被告から本件店舗で働く従業員がおらず、賃料も支払えなくなったものの、契約期間が残っているため、店を経営してみないかと声をかけられたことがきっかけで、本件店舗において居酒屋の営業を始めたことなど、従前のいきさつを打ち明けられるとともに、Cにおいて上記更新時の更新料も自分で支払ったほか、同年1月の時点で翌2月分の賃料まで支払っていたのに、被告から突如退去を要請されたことについて不満を述べているのを聞いていたものであり、原告も、Cが本件店舗から退去する際、Cから直接同様の話を聞いていたこと、その後、被告の知人が上記「昭和屋レストラン」の看板を掲げて洋風居酒屋の営業を行っていることなどの事実が認められる。これらの認定事実によれば、Cは、上記の間、被告から本件店舗の転貸を受けて自ら居酒屋を経営していたものと認めることができる。そうすると、「被告は、賃貸人である原告に無断で本件店舗を転貸していたものと認められ、この点について背信行為と認めるに足りない特段の事情も見当たらない。」
  • 「以上で説示したところによると、原告は、被告の……無断転貸により本件賃貸借を解除することができる」。

〇東京地判平成30年1月19日(平成28年(ワ)第22672号)
 認定事実によれば、被告は、訴外H株式会社「に対して本件建物を転貸したということができるところ、本件賃貸借契約では「第三者が賃貸借物件の一部又は全部を転貸(共同使用、委託経営その他これに準ずる一切の行為を含む)」を禁止していて(9条2号)、原告は被告が本件賃貸借契約の禁止事項に違背したときは何らの催告を要せず単に通知のみをもって直ちに本件賃貸借契約を解除することができる(18条)とされていて被告の上記行為はこれに反するものであり、しかも被告は原告に対して事実を報告せず欺瞞的な説明をしていて、事実経緯の発覚後の原告からの問合せについても何ら応答することをしなかったのであり、原告と被告との信頼関係は完全に破壊されているということができる」。「以上の次第で、原告の請求は理由がある」。

〇東京地判令和元年11月26日(平成30年(ワ)第8753号)

  • 原告は、昭和53年1月30日、被告M商事に対し、本件建物について第三者へ転貸することを承諾したものと認められる。もっとも、原告は、被告M商事との間で、昭和60年12月24日には、転貸の希望あるときは、借主が貸主の承諾を得る旨の本件覚書を合意し、平成14年以降に更新された本件賃貸借契約においては、原告の書面による承諾のない第三者への転貸を禁止する旨の条項を定めていたことからすれば、上記の承諾にかかわらず、少なくとも平成14年以降は、本件賃貸借契約において、貸主(原告)の書面による承諾のない第三者への転貸は禁止されたと認められる。そして、被告M商事は、原告から書面による承諾を得ることなく、被告Iに本件建物を賃貸借していることからすれば、被告M商事は本件賃貸借契約に違反しているものと認められる。
  • 被告らは、仮に被告M商事の被告Iに対する転貸借が本件賃貸借契約に反するとしても、本件では原告と被告M商事との間の信頼関係を破壊しない特段の事情があるとし、具体的には、本件建物が長期間転貸されていたこと、被告M商事が転貸借等に関する原告の承諾書を有していて転貸は承諾されていると認識していたことなどのほか、被告bが「jビル」の名を高めたこと、被告bが昭和60年に原告の社員権を無償で原告に譲渡したことなどを特段の事情として主張する。しかしながら、被告M商事は、原告との間で上記承諾書を作成した後、本件覚書を作成し、書面による承諾のない転貸借を禁ずることを含んだ内容で本件賃貸借契約を更新したこと、原告が被告M商事に対し、平成10年3月20日頃、本件建物の転貸については、q一代限り認める旨の書面を送付していたことなどからすれば、被告M商事が第三者への転貸が上記承諾書をもって無制限に許されていたなどと考えていたとは直ちに認め難い。また、被告bがjビルの名を高めたとは認めるに足りる証拠はない上、その点や被告bが昭和60年に原告の社員権を無償で譲渡したことをもって、上記特段の事由に当たるとも認め難い。したがって、被告M商事の被告Iへの転貸借は、原告と被告M商事との間の本件賃貸借契約に違反しているものと認められ、原告は被告M商事に対し、平成30年2月27日、上記無断転貸を理由として本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたことから、これにより本件賃貸借契約が解除されたと認められる。

〇東京地判令和2年6月30日(平成31年(ワ)第5471号)

  • 「被告Bは、Gが、本件賃貸借契約締結に当たり、被告Bに対し、本件建物の転貸を口頭で許可した旨主張し、本人尋問においても同趣旨を述べる。しかしながら、本件賃貸借契約の契約書……において、原告が承諾した場合を除いて入居者が被告Bに限られており、かつ、本件賃貸借契約に基づく権利又は義務の全部又は一部を第三者に転貸、譲渡することが禁止されていることに照らすと、仲介業者の担当者であったGが、被告Bが原告に対して入居者の増加の承諾を求めた場合の見通しを述べるにとどまらず、無条件に本件建物の転貸を許可したというのは不自然不合理であり、被告Bの上記供述を信用することはできない」。「他にGが本件賃貸借契約に当たり被告Bに対し本件建物の転貸を許可したことを認めるに足りる証拠はないから、その余の点につき判断するまでもなく、被告Bの上記主張には理由がない。」
  • 「被告Bは、原告は、被告Bによる本件建物の第三者への転貸につき黙示の承諾をした旨主張する。そこで検討するに、まず、原告は、原告が被告Bによる本件建物の転貸の事実を知ったのは平成30年12月1日である旨主張する。この点、確かに、……当時原告の従業員であったHは、平成30年10月20日、被告Bに対する滞納賃料の催告のために本件建物を訪れ、そこで宛先として本件建物の住所が記載された外国人宛ての葉書を見つけたことが認められる。しかしながら、これをもって原告は同日に被告Bが本件建物を転貸している可能性を認識したということはできても、原告が同日に被告Bが本件建物を転貸していることを知ったということはできない。また、……本件建物の郵便受けには外国人の表札が出ていたことがあること、被告Bは本件建物に入居後、本件建物にエアコンを4台取り付けたこと、本件建物の前には自転車やバイクが複数台置かれていたこと、本件建物の複数の場所に洗濯物が干されていたことがあることがそれぞれ認められる。しかしながら、これらをもって原告が同年12月1日より前の時点で被告Bによる本件建物の転貸を知っていたことを推認することはできず、上記の同年10月20日の出来事を踏まえても同様である。そして、上記各認定事実の他にも、被告Bは、……原告が同年12月1日より前の時点で被告Bによる本件建物の転貸を知っていたことを基礎づけるとする根拠をるる述べるが、これらのうち原告代表者が以前から本件建物に外国人が住んでいるということを近所の人から聞いて知っていたと述べたとする点については客観的裏付けがなく信用することができず、その余はいずれも被告Bの憶測によるものか、上記各認定事実と併せて考えても原告が同年12月1日より前の時点で被告Bによる本件建物の転貸を知っていたことを推認するには足りないものであり、他に原告が同日より前の時点で被告Bによる本件建物の転貸を知っていたことを認めるに足りる証拠はない。これらからすれば、原告の上記主張に反し、原告が同日より前の時点で被告Bによる本件建物の転貸を知っていたと認めることはできない」。「次に、……原告は、同日に被告Bによる本件建物の転貸を知った後、同月26日に被告Bに対して転貸を前提とした賃貸借契約を締結するか本件賃貸借契約を解約するように求めたことが認められるから、原告が被告Bによる本件建物の転貸を知った後の原告の言動をもって、原告が被告Bによる本件建物の転貸を黙示に承諾したということはできない」。「したがって、原告が本件建物の転貸につき黙示の承諾をしたということはできず、被告Bの上記主張は理由がない。」

〇東京地判令和2年11月6日(平成30年(ワ)第1943号)

  • 被告Rは、被告Sとの間で、本件飲食店の運営を委託する内容の本件営業契約を締結し、本件営業契約に基づいて、被告Sから営業料の名目で95万2380円(税抜)及び家賃の名目で50万8095円(税抜)の支払を受けていること、被告Sは、同社の名義で本件貸店舗における営業の許可を取得していたこと、被告Sが本件営業契約に基づき本件貸店舗において本件飲食店の運営を行っていることがそれぞれ認められ、これらの事実によれば、被告Rが被告Sに対して本件貸店舗の使用を許諾し、被告Sは同許諾に基づいて本件貸店舗を使用し、被告Rに対してその対価を支払っているものといえるから、本件貸店舗の賃借人である被告Rは、本件営業契約を締結した日頃から被告Sに対して本件貸店舗を転貸していたというべきである。また、被告Rの被告Sに対する本件貸店舗の転貸借について、賃貸人の承諾があったと認めるに足りない。
  • 原告が、本件訴訟の係属中にP3の経営する別会社との間の賃貸借契約の期間を延長したことがあるからといって、同別会社とは別の主体である被告Rとの間の本件賃貸借契約に係る信頼関係に直ちに影響を及ぼすものとはいえない。このほか、P5及びP6が、平成9年11月から現在に至るまでの長期にわたり本件貸店舗の運営主体が変遷したことについて何らの異議をとなえていない事実は被告らの上記主張に沿うものの、被告P4から訴外K社や訴外s社に対して営業委託されたことなどは逐一P6に対して報告されたことはなかったのであり、P5又はP6としても、異議を述べる機会があったとはいえないため、P5又はP6から長期にわたって本件貸店舗の使用について異議が出ていなかったからといって、被告Sに対する転貸に背信行為と認めるに足りない特段の事情があるものと認めることはできないというべきである。かえって、本件貸店舗におけるドライエリアの使用状況について、原告及び被告らとの間で紛争が生じていることが窺われ、被告Rから第三者に対して転貸がされることによって、実際に不都合な状況が生じているというべきであること、被告Rは、本件営業契約に基づき、被告Sから家賃名目の金銭のほか営業料名目で1か月当たり95万2380円の対価を受け取っており、被告Sが被告Rの所有する内装や什器を使用していることを考慮しても、被告Rは多額の利得を得ていることが窺われることなど、被告Rの被告Sに対する転貸借が背信的であると評価できる事情が認められるのであり、長年にわたって賃料の支払の懈怠がなく、P5又はP6が被告Rに対し、第三者である被告P4に本件飲食店の経営を委託することを承諾していたこと、長期間にわたって本件飲食店の使用状況について異議を述べなかったことなどの被告らの有利な諸事情を勘案しても、被告Rの被告Sに対する本件貸店舗の転貸借が賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるとはいえない。以上の検討によれば、被告Rの被告Sに対する本件貸店舗の転貸借が賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があると認めるに足りない。
  • これまでの検討によれば、被告Rは、被告Sに対し、本件貸店舗を転貸していたところ、同転貸借について、賃貸人の承諾があったと認めるに足りず、また、同転貸借が賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるとも認めるに足りないので、賃貸人である原告は、本件賃貸借契約の解除をすることができるというべきであり、本件賃貸借契約は、原告の解除の意思表示が被告Rに対して到達した平成29年3月1日に解除されたものというべきである。

〇東京地判令和3年6月3日(平成30年(ワ)第39563号)

  • 「被告らは、本件契約2による転貸について原告の承諾があるとし、本件誓約書1により原告が転貸については包括的に承諾していた旨を主張する。しかし、本件契約1にかかる契約書には、本件転貸禁止条項が定められているところ……、仮に、本件誓約書1が転貸を包括的に承諾したものであれば本件転貸禁止条項は無意味なものになってしまうから、当該定めと矛盾するような包括的な承諾を与える旨の意思表示を原告があえて行うことは通常考えにくい」。「解除に先立ち原告が本件転貸を承諾する旨の意思表示をした事実は認められない。」
  • 被告Nは、本件転貸が、賃貸部分の一部(本件建物1が6平方メートルであるのに対し本件建物2は12.3平方メートル)であることや、被告電子書籍の使用態様は被告Nとほとんど変らず、原状回復を困難ならしめるような態様でもなく、転借人が変ったことによって原告に損害がもたらされたものでもなく、さらに転借人である被告電子書籍は既に退去済みであるなどと主張し、被告Nの行為に背信行為と認めるに足りない特段の事情がある、などと主張している。しかし、被告N主張の事情をもってしても、賃貸借の実態に変化がないとか、違反が軽微であるとはいえないから、被告Nの行為に背信行為と認めるに足りない特段の事情があるとは認められない。なお、そもそも本件において、当初、被告Nの転貸が認められたのは、被告N及びMがそれぞれ単独で賃借したのでは賃料を支払うことができないためであった。しかし、被告Nが原告に支払う賃料が月額35万円であり、被告電子書籍が被告Nに支払う賃料が月額14万円であることからすれば、被告Nが負担する賃料は実質的には月額21万円であるところ、本件転貸において、被告電子書籍の専有部分の面積が、被告Nの専有部分の面積の半分以下であることからすれば、被告電子書籍に対する賃料は面積に比して高額であり、被告Nは、本件転貸により自ら利益を得ているとも考えられる。このような転貸の態様は、本件において転貸が認められた目的と異なるものとも考えられ、賃貸人が当初の転貸では想定しておらず、背信性を強めるものと認められる。
  • 「以上によれば、原告の請求にはいずれも理由がある」。

〇東京地判令和3年8月10日(令和2年(ワ)第6697号、令和2年(ワ)第6698号、令和2年(ワ)第6699号、令和2年(ワ)第6700号、令和3年(ワ)第729号)

  • 〔1〕本件賃貸借契約において、本件ビルは訴外Eの事務所の用にのみ使用する旨定められ、また、Eは貸室の一部又は全部を転貸すること、貸室の一部若しくは全部を他人の事務所等に使用し、貸室内に第三者を同居させ、又は第三者名義の在室表示をすることをしてはならない旨定められていたこと、〔2〕原告は平成29年7月にEに対して被告らが本件ビルに無断同居していることを指摘して是正を求める申入書を送り、その後、無断同居会社の退去がなされないことを理由に本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしていること、〔3〕原告は、令和元年、東京地方裁判所において、Eに対し、本件賃貸借契約の終了に基づく本件ビルの明渡し等を求める訴訟を提起していることなどからすれば、原告がEが被告Oらに対して本件ビルを転貸することを承諾していたとは到底認められない。
  • 〔1〕そもそも原告がE以外の会社(被告ら)が本件ビルを使用することを当初から認識していたとは認められず、被告らによる占有は無断転借であるから基本的に背信性の程度は高いといわざるを得ないのであって、〔2〕Eに賃料の不払いがなかったとしてもそのことから直ちに背信行為と認めるに足りない特段の事情があるとまで認めることはできない。また、〔3〕原告は、被告らによる無断同居の件について、Eに対し、平成29年7月に是正を申入れ、同年12月に本件賃貸借契約の解除の通知をし、平成30年5月頃から令和元年7月頃にかけて本件ビルからの退去を求める旨の通知をし、同年9月頃には本件ビルの明渡しを求める訴訟を提起し、また、令和2年1月頃には占有移転禁止の仮処分を申し立てているのであって、Eへの是正申入れから本訴提起までに時間を要したからといって、原告が被告らによる占有を認めていたとか、原告に不利益がないなどと評価することは到底できない。したがって、本件において、Eによる被告Oらへの転貸が賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるとはいえない。したがって、被告Oらが本件ビルの転借権を有する旨の被告Oらの主張は採用できない。

〇東京地判令和3年11月29日(令和2年(ワ)第6154号)

  • 〔1〕本件建物における被告Aのブランドでの女性用ウィッグ販売業務に関して、被告Aから被告Kに対し、毎月一定額の金員の支払があり、この金員の名目は販売手数料とされているが、被告A側ではこれを本件建物の賃料と認識していること、〔2〕本件店舗で働いているのは被告Aに所属する従業員のみであり、被告Kに所属する従業員は一人も働いていないこと、〔3〕電話料、火災保険料、警備保障費、水道光熱費及び袖看板料という本件店舗の運営に必要な諸経費については、上記の販売手数料名目の金員とは別に被告Aが被告Kに支払うことによって、被告Aが負担していることが認められる。これらの事実によれば、本件業務契約は、被告Aから被告Kへの業務委託という形式をとってはいるものの、その実態は、被告Kから被告Aへの本件建物の転貸であり、本件店舗を運営して本件建物を占有しているのは被告Aであると認めるのが相当である。この点、被告Kは、被告Kが本件店舗での事業について休業保険を掛けていること、本件業務契約において、被告Kが商品の販売等について被告Aに対し報告するものとされていることなどを挙げて、本件業務契約が転貸ではなく業務委託である旨を主張する。しかし、本件業務契約が業務委託という形式をとっている以上、部分的に業務委託と整合的な取扱いがされているのはむしろ当然というべきであって、被告Kが指摘する諸点によっても、上記〔1〕~〔3〕のとおりの事実関係の下では、本件業務契約が実質的には転貸の契約であるとの認定を左右するには足りない。
  • 原告は、令和元年11月19日には、被告Kに対し、本件建物の無断転貸を理由として本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしていることが認められるから、原告が本件建物の転貸を知りながら長期にわたり異議を述べなかったということはできず、原告が被告Kから被告Aへの本件建物の転貸について明示又は黙示の承諾をしていたとは認められない。
  • 被告Kは、ほぼ同様の使用態様で長期間にわたり本件建物を賃借・使用しており、その間原告に対する賃料の支払を続け、原告に何らの不都合・不利益も与えていないから、原告との信頼関係は破壊されておらず、原告に解除権は発生しない旨を主張する。しかし、無断転貸は、賃貸目的物の使用利益をいわば横流しする行為であって、被告Kは、原告に対する自らの賃料を上回る額の賃料で本件建物を被告Aに無断転貸することにより、本来であれば原告に帰属する賃貸収益の一部を横取りしたものといわざるを得ないから、原告との信頼関係が破壊されていないとはいえない。原告代表者が、本人尋問において、70万円で原告が貸している本件建物を132万円で借りていると被告Aの担当者から聞いたとき、大変悔しく、残念に思ったと供述するのも、上記の趣旨をいうものと理解することができる。したがって、被告Kの上記主張を採用することはできず、原告には無断転貸を理由とする解除権が発生するものと認められる。

〇東京地判令和4年1月25日(令和1年(ワ)第31663号)

  • 「認定事実及び弁論の全趣旨によれば、Gあるいは原告が、BあるいはH、被告Fに対し、転貸を承諾する旨の意思表示をした事実は認められない」。「他に、本件全証拠によっても、転貸を承諾する旨の原告の意思表示を認めるに足りない。」
  • 「Bには無断転貸及び本件賃貸借契約5条違反(事前の承諾のない店舗又は造作の模様替)の事実が認められるところ、被告Cらは、40年にわたり賃料不払がないこと、承諾料支払による店舗造作譲渡承諾条項(10条)が存在するから、無断転貸もただちに無催告解除事由になると解すべきではなく解除権の行使は制限されるべきであるなどとして、賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情がある旨を主張する。しかし、承諾料支払による店舗造作譲渡承諾条項の存在は、無断転貸を許容するものではないから、同条項の存在により無断転貸による解除権の行使は制限されない。また、本件建物は飲食店としてBに賃貸されたものであり、Bも飲食店として転貸しているから営業形態としては同一であるが、Hあるいは被告Fの飲食店の営業にBが共同経営者として関与していたなどの事実は認められず、本件賃貸借契約に基づく賃貸借の実態は変化したものと認められるし、Bによる転貸は、本件建物全ての転貸であるから、転貸が軽微な違反であるとも認められない。これらの事情に加え、被告Fは、Bに対し、本件賃貸借契約に基づきBが原告に対して支払っていた倍の転貸料を支払っていた事実がうかがわれるから、Bの転貸には営利性がうかがわれる。以上によれば、賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情がある旨の被告Cらの主張は採用できない。」
  • 「被告Cらは、原告は転貸やトイレ及び倉庫の位置変更について認識していたから、現時点で本件賃貸借契約の解除を主張することは、権利濫用あるいは信義則に反する旨を主張する。この点、原告はトイレ及び倉庫の位置変更については認識していたと認められるが、位置変更を事前に承諾していたものではなく、いつの時点で位置変更を認識していたかは明確でない上、転貸の事実についても、Bは、平成12年頃に本件店舗をトルコ料理店に改装した際には営業を委託していたに過ぎず、約10年後に転貸したというのであり、そうであれば、外観上は容易に転貸の事実を認識できないのであるから、原告が本件賃貸借契約の解除の意思表示をするまで、転貸の事実を認識していたとまでは認められず、本件全証拠を見ても、原告が転貸の事実を認識していた事実をうかがわせる事情も認められない。よって、原告が転貸の事実を認識していたとまでは言えず、トイレ及び倉庫の位置変更も認識していた時期が明確ではないから、現時点で解除権を行使することが、権利濫用あるいは信義則違反になるとまでは言えず、被告Cらの主張は採用できない。」

〇東京地判令和4年2月9日(令和3年(ワ)第3285号)

  • 「被告bは、平成30年1月頃から被告cを店長として本件店舗の経営を完全に任せ、自らは平成31年1月から約2年間にわたり管理会社からの連絡が取れない状態となり、少なくとも令和2年12月頃には被告cに対しても行き先を明らかにしていなかったこと、被告cは、同月から令和3年1月にかけて、管理会社に対し、自らが本件店舗の経営者である旨やオーナーである旨を複数回にわたり述べていたことが認められる。以上の事実を総合すると、本件店舗の経営主体は令和2年12月までに被告bから被告cに完全に移転しており、被告bは被告cに本件店舗を原告に無断で転貸したと認めるのが相当である。」
  • 「被告らは、本件店舗が被告bから被告cへ無断転貸されたと評価されるとしても、事業形態が維持されており、従業員及び店名の変更もないなどの事情に照らすと、無断転貸により本件賃貸借契約の当事者間の信頼関係が破壊されたとはいえないと主張する。しかし、事業用の賃貸借契約であるからといって、賃貸人と賃借人との間の人的な信頼関係が問題とならないとはいえず、本件店舗における飲食店の店名ないし営業形態や従業員に変更がないとの被告らの主張を前提とするとしても、賃貸人に無断で本件店舗の占有主体を変更する転貸について賃貸借契約の当事者間の信頼関係を破壊するに足りない特段の事情があるということはできない。したがって、被告らの主張は理由がない。」
  • 「よって、原告による本件解除は有効であり、本件賃貸借契約は令和3年2月3日の経過により終了したと認められる」。

〇東京地判令和4年12月20日(令和1年(ワ)第32267号)

  • 「被告は、平成30年5月17日、Jとの間で、被告がJに対して本件建物の一部で飲食店を営むことを委託し、Jが被告に対して委託料月額17万円を支払う旨の業務委託契約書を作成したが、上記業務委託契約書には、被告がJに委託した業務に関し一切の権限を持たず、上記業務における収益を全てJのものとする旨の定めがあり、Jは自己の計算において自己の裁量に従って本件居酒屋を営業していたものと認められるから、被告がJとの間で締結した契約は、被告がJに本件建物の一部を使用収益させることを約し、Jがこれに対してその賃料を支払うことを約する賃貸借契約の実質を有するものと認めるのが相当である」。「しかるに、被告が、Jに対して本件建物の一部を転貸するに当たり、原告の承諾を得た事実を認めるに足りる証拠はない。」
  • 「被告は、原告がHを代理人とする非弁行為により居酒屋……の関係者を威迫して本件建物から退去させたため、本件建物をJに転貸せざるを得なかった旨を主張し、これに沿う供述……をするが、Hが居酒屋……の関係者を威迫して本件建物から退去させたという事実を裏付ける的確な証拠はない上、仮にHの言動が居酒屋……の閉店に何らかの影響を及ぼすものであったとしても、そのことをもって、被告が原告に無断で本件建物をJに転貸することが正当化されるものではない。他に、原告による解除が権利の濫用に当たり、本件建物をJに転貸することにつき背信行為と認めるに足りない特段の事情を認めるに足りる事情は見当たらない。」
  • 「なお、被告は、無断転貸を理由とする解除権は、被告がEに対して本件建物の一部を転貸した平成16年4月16日から10年の経過により時効消滅したと主張するが、本件において無断転貸を理由とする解除権が発生したのはJが本件建物の使用収益を開始した平成30年9月11日頃以降であるから、被告の上記主張はその前提を欠き、採用することができない。」
  • 「よって、原告は、本件建物の無断転貸を理由として本件賃貸借契約を解除することができる。」

 

3.2 無断転貸を理由とする解除を否定した裁判例及びそれに類する裁判例

〇東京地判昭和47年10月30日判時697号66頁

  • 被告A、同Bが本件建物を占有している事実、原告が、右被告両名が本件建物を占有している点をとらえて、無断転貸に当るとして被告Nに対し、その主張どおり本件賃貸借契約解除の意思表示をした事実は当事者間に争いがない。そこで、右が転貸に該当するかどうかについて考えるに、同被告と被告Aとの関係は、単なる雇傭関係ではなく、共同経営であることが明らかであるから転貸に当るというべきである。被告Bとの関係でも転貸に当るか否かの判断はしばらく措く。
  • 被告N、同A、訴外Kは、本件建物を使用してパチンコ遊戯場を共同経営しようとしたが開業資金を調達するには日本人である被告Nが表面に立つことが有利であったため、昭和三五年一二月二一日被告Nが借主となって原告と本件建物賃貸借契約を締結した。右賃貸借契約の期間は、昭和三五年一二月一五日から向う一カ年の約であったところ、右期間満了のころ、被告N、同Aは、一カ年金一〇〇万円の権利金を金七〇万円に、一カ月金一〇万円の賃料を金七万円に値下げすることを要求し、原告は、従来どおりの権利金および賃料を支払わなければ、賃貸借契約の更新はしない旨主張して、遂にそのころ仮処分事件(申立人原告、相手方被告N)にまで発展した。右仮処分事件において、原告と被告N間に原告主張どおりの裁判上の和解が成立した。しかして右和解調書には「債権者(原告)は債務者(被告N)に対しAの許可名義で営業し、同人が(本件建物に)居住することを認める。」旨の条項が存する(この点は当事者間に争いがない。)。右裁判上の和解成立当時、被告Aが本件建物につき或程度独立した占有をしていたことは、原告においても了承していたものと認めるのが相当である。けだし、当時被告Aが被告Nの純然たる雇人に過ぎないものであったとすれば、右和解にあたり、敢えて前記のような条項をいれる必要はなかったものと考えられるからである。また、既に認定したところから明らかなとおり、本件建物の利用形態は、昭和三五年一二月被告Nが最初に賃借して以来少しも変っていないことが認められる。
  • 以上の諸点に徴すると本件建物の被告Aに対する転貸はもとより、被告Bの本件建物居住が仮に転貸に該当するとしても、いずれも、これを被告Nの背信行為と認めるに足りない特段の事由があるものというべく、原告の契約解除の意思表示によっては本件賃貸借契約解除の効力を生じないものと認むべきである。従ってまた被告A、同Bは、本件建物転借権(Bの場合は仮に転借に当るとしても)を以て原告に対抗できると解するのが相当である。

〇東京地判昭和61年10月31日判時1248号76頁

  • 訴外Fは、昭和59年6月ころから本件建物において大衆酒場の営業を開始したが、開始に当たり被告に対し、保証金2000万円を差入れ、営業主体の名義人を被告からFに変更し、したがって右営業にかかる料理飲食等消費税や水道及びガス等の公共料金は同人において支払い、毎月の損益は全て同人に帰属するという形態をとり、したがって訴外K社又は被告から給料の支給を受けることなく、かえって被告のK社に対する債務を毎月20万円宛被告に代ってK社に支払っていた。以上のとおりであって、これらの事実を総合すれば、Fは本件建物を独立して使用収益していたものと認められるから、被告は同人に対し本件建物を転貸したものというべきである。被告が本件建物をFに使用させるについて原告の承諾を得たとの主張立証はない。
  • 被告は、右無断転貸は信頼関係を破壊しないと主張するので考えるに、昭和60年8月ころ、原告から被告に対し、本件建物をFに使用させるのは転貸になるから困る、との苦情があったため、被告は同月中にはFを本件建物から立ち退かせ、再度自己の責任において大衆酒場の営業を続け、したがって原告が解除の意思表示をした同年9月9日には転貸借の状態は解消していたこと、Fが本件建物を転借使用するに至った経緯は前記のとおりであり、また約1年2か月の転借期間における同人の営業形態は、K社の傘下チェーン店として、「酒蔵K(水道橋店)」の商号を掲げた大衆酒場であって、被告が営業していた当時と殆んど変るところはなく、被告においても右転貸期間は同人を正式に独立させることができるかどうかを見極める試用期間と考えていたこと、等の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。これらの事実を勘案すると、Fに対する無断転貸は、いまだ本件建物の賃貸借の信頼関係を破壊するに至っていないものと認めるのが相当である。してみると、これを理由とした解除は、その効力を生じない。

〇最判平成21年11月27日集民232号409頁

  • 「第1転貸は、本件土地の賃借人である上告人Y1が、賃貸人である被上告人の承諾を得て本件土地上の上告人Y1所有の旧建物を建て替えるに当たり、新築された本件建物につき、C及び上告人Y2の共有とすることを容認し、これに伴い本件土地を転貸したものであるところ、第1転貸による転借人らであるC及び上告人Y2は、上告人Y1の子及び妻であって、建て替えの前後を通じて借地上の建物において上告人Y1と同居しており、第1転貸によって本件土地の利用状況に変化が生じたわけではない上、被上告人は、上告人Y1の持分を10分の1、Cの持分を10分の7、上告人Y2の持分を10分の2として、建物を建て替えることを承諾しており、上告人Y1の持分とされるはずであった本件建物の持分10分の1が上告人Y2の持分とされたことに伴う限度で被上告人の承諾を得ることなく本件土地が転貸されることになったにとどまるというのである。そして、被上告人は、上告人Y1とCが各2分の1の持分を取得することを前提として合意した承諾料につき、これを増額することなく、上告人Y1、C及び上告人Y2の各持分を上記割合として建物を建て替えることを承諾し、上記の限度で無断転貸となる第1転貸がされた事実を知った後も当初はこれを本件解除の理由とはしなかったというのであって、被上告人において、上告人Y1が本件建物の持分10分の1を取得することにつき重大な関心を有していたとは解されない。そうすると、上告人Y1は本件建物の持分を取得しない旨の説明を受けていた場合に被上告人において承諾料の増額を要求していたことが推認されるとしても、第1転貸が上記の限度で被上告人に無断で行われたことにつき、賃貸人である被上告人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるというべきである。」
  • 「また、……第2転貸は、本件土地の賃借人である上告人Y1が、本件土地上の本件建物の共有者であるCにおいてその持分を上告人Y3に譲渡することを容認し、これに伴い上告人Y3に本件土地を転貸したものであるところ、上記の持分譲渡は、上告人Y1の子であるCから、その妻である上告人Y3に対し、離婚に伴う財産分与として行われたものである上、上告人Y3は離婚前から本件土地に上告人Y1らと共に居住しており、離婚後にCが本件建物から退去したほかは、本件土地の利用状況には変化が生じていないというのであって、第2転貸により賃貸人である被上告人が何らかの不利益を被ったことは全くうかがわれない。そうすると、第2転貸が被上告人に無断で行われたことについても、上記の特段の事情があるというべきである。」
  • 「以上によれば、第1転貸及び第2転貸が被上告人に無断で行われたことを理由とする本件解除は効力を生じないものといわなければならず、被上告人の上告人らに対する請求はいずれも理由がない。」

〇東京地判平成24年12月20日(平成23年(ワ)第38753号)

  • 「原告と被告Bとの間で、本件建物を被告Bの関連会社に転貸することや事務所以外の用途で使用することを許容するような本件賃貸借契約書の定めとは異なる特段の合意があったとは未だ認めることはできないから、被告Bが、書面による原告の承諾を得ないまま被告Bの関連会社に本件建物を使用させたり、事務所以外の用途で本件建物を使用することは、本件賃貸借契約書第6条及び第9条2項(1)に違反する行為であると解される」。被告Bは、一時的に被告Fに本件建物を使用させていた。また、被告Pについても、被告Pは、遅くとも平成23年3月ころから本件建物を使用して本件エステサロンを営業する準備を開始し、同年5月には本件エステサロンをオープンさせて顧客に対する施術を開始し、平成24年1月下旬ころまで本件エステサロンとして本件建物を使用していたことが認められる。そうすると、被告Bが、原告の書面による承諾なく、第三者である被告Fに本件建物を事務所として使用させると共に、被告Pに本件建物を事務所以外の用途で使用させることにより、本件賃貸借契約第6条及び第9条2項(1)に違反する行為をしたことが認められる。
  • 被告Fについては、被告Bが本件通知書を受領してから相当期間経過後も本件建物の占有を継続していたとは認められず、被告Bが、従業員一人の会社に過ぎない被告Fの事務所として数ヶ月間本件建物を使用させたことによって、原告に対して何らかの不利益を生じさせたとは認められない。これに対し、被告Pについては、被告Bが本件通知書を受領した後も、平成24年1月20日ころまで少なくとも約8か月間、原告の承諾がないまま本件エステサロンを営業していたことが認められる。確かに、本件建物を本件エステサロンとして使用することは、「事務所」として本件建物を使用したとは認められないが、エステサロンという業務の性質上、不特定多数の顧客が常時出入りするような一般的な店舗とは異なり、来客数も1日に数人と限られており、エステティックの施術をするためには、被告Pにおいて、ある程度顧客の情報も管理していたことが推認されるから、本件建物を本件エステサロンとして使用する場合が、事務所として使用する場合に比べて、本件ビルの安全平穏、評判等に問題が生じる可能性が高かったとは認め難い。また、被告Pが本件建物を使用したことによって、原告の本件ビルの管理・利用に対し、結果的には著しい不利益が生じたとも認められない。
  • 「被告Bとしては、本件ビルを買い戻すことを強く希望して本件売買契約を締結したことが窺われるところ、本件合意書には、本件賃貸借契約が被告Bの債務不履行により解除されたとき、被告Bは本件ビルの買戻し権を失うものとされているから、被告Bが、同人の債務不履行を理由とする本件賃貸借契約解除によって負担するペナルティは相当厳しいものであることをも勘案すると、被告Bが、今後も被告Bの関連会社を原告の承諾なく新たに入居させるようなことがあった場合には格別、被告会社2社による本件建物の占有状況等に鑑みれば、現時点では、原告と被告Bの間の信頼関係が本件賃貸借契約を解除しなければならない程度まで破綻したとまでは認められない。」

〇東京地判平成26年6月13日(平成24年(ワ)第25373号)

  • 「本件賃貸借契約においては、契約書の明文で転貸を禁止する旨が明記されており……、本件各転貸がされる前のテナントの出店は、いわゆるケース貸しの方法によって行われており、これらが転貸借の形式で行われていた形跡はないこと……からすれば、本件賃貸借契約において、同契約の締結当初から転貸を許容する合意があったものと認めることはできない。」
  • 被告は、原告に対し、訴外Lの本件建物の使用開始に際し、Lの出店及びそれに伴う内装工事の実施については説明し、原告はこれを承諾していたものと認めることができる。しかし、被告が、上記の説明に加えて、Lの本件建物の使用が転貸の形式によるものであることについて説明をしたことを認めるに足りる証拠はなく、訴外Sの本件建物の使用開始に際しては、その使用が転貸の形式によることのみならず、Sの出店及び看板工事の実施等についても説明をしたことを認めるに足りる証拠がない。むしろ、原告が平成16年頃以降本件各転貸の内容の開示を求めていたのに対し、被告がこれを拒絶していた経過や、被告とLとの間の転貸借契約に係る契約書には同転貸借について原告の承諾があったことをうかがわせる記載がないことにも照らせば、本件各転貸に際し、L及びSの使用収益が転貸又は転々貸に基づくものであることを説明したとは認め難いというべきである。以上によれば、原告が、被告に対して本件各転貸について明示の承諾をしたとの事実を認めることはできず、また、本件各転貸について原告が黙示の承諾をしたと評価するに足りる事情もないというべきである。
  • 「そこで、本件各転貸について背信行為と認めるに足りない特段の事情があるか否かについて検討する」。L及びSの本件建物の使用開始に際しては、内装工事や看板設置工事により、従前の使用態様とは明らかに異なる外形の変更が生じていたこと、原告は、被告との間の賃料増額の交渉において、被告が本件賃貸借契約における転貸の禁止の合意に違反している旨の認識を記載した書面を送付していたことが認められる。これらの事実からすれば、原告は、上記書面を送付した遅くとも平成16年3月ないし4月頃には、L及びSの本件建物の使用について転貸借契約関係が存在するとの認識を有するに至っていたものと認めることができる。以上によれば、原告は、無断転貸による解除権に言及する記載のある書面を被告に送付した平成23年10月27日頃までは、上記解除権に言及することなく、少なくとも7年以上の間、L及びSの本件建物の使用が転貸借契約に基づくものであるとの認識を持ちつつ、被告に対し、これを解除事由として問題とすることなく、賃貸借契約の継続を前提に賃料の増額を求める対応をとっていたということができる。以上の事実に加えて、本件建物においては、賃借人が第三者であるテナントに出店させる形態による使用収益が長年にわたり行われていたこと、Lの本件建物の使用開始に際しては大規模な内装工事が行われたものの、少なくとも同工事の実施については原告がこれを承諾していることをも総合すると、被告が本件各転貸に際して転貸借契約及び転々貸借契約の存在を原告に申告しなかったことや、原告との間のその後の交渉においても原告からの本件各転貸の内容の開示要求に応じなかったこと、被告がLへの転貸により700万円を超える賃料収入を得ていることなどの事情を踏まえても、本件各転貸については、背信行為と認めるには足りない特段の事情があるというのが相当である。
  • 「よって、本件解除は効力を有しない」。

〇東京地判平成26年9月26日(平成25年(ワ)第9929号)

  • 被告会社も訴外M社も訴外b社も被告Bが経営しているか、大きな関与をしている会社であり、本件美容室の営業にはこれら3社しか関与しておらず、さらに、被告会社が本件美容室の営業を管理しているということができる。そうすると、仮に、本件建物の使用実態が形式的には被告会社からb社への本件建物の転貸に当たるといえたとしても、実質的な転貸であるとは言い難い。また、原告は、本件賃貸借契約の更新前に、本件美容室の実際の経営者について、疑義を持ち、b社、M社及び被告会社のいずれが本件美容室を経営しているのか被告会社に尋ねたことがありながら、被告会社に対し更新料の支払を求めた平成24年6月18日付け書面では、この点について何ら触れず、被告会社から更新料を受領しており、原告は、本件賃貸借契約の更新に際し、本件建物の使用実態を容認したと認められる。そうすると、「本件建物の使用実態等は、原告と被告会社との間の信頼関係の破壊を基礎付ける事情とはいえない。」
  • 「本件ビルの1階上部全面を覆うような……看板の設置について、原告の事前の承諾がなかったとしても、当該看板の設置から5年弱の期間、当該看板に変化のないまま、本件賃貸借契約は解除されることなく当初の期間を満了したこと、原告は、平成24年6月ころ、被告会社に対し、当該看板について本件ビル1階部分の外壁の範囲内に収まるよう改善を求めつつも、それを本件賃貸借契約の更新の前提条件とせず、被告会社から更新料を受領していることに加え、本件賃貸借契約の更新から本件解除の意思表示までは3か月程度しか経過していないことからすれば、当該看板の設置等の問題は、本件解除の意思表示の時点では、原告と被告会社との間の信頼関係を破壊するような重大なものであったということはできない。」
  • 「温水器の設置、本件ビル地下1階の電気室の使用及び本件建物左側通路のゴミ置き場の設置については、原告は、被告会社との間で、本件確認書を締結し、その後、少なくとも平成24年5月29日までの4年半以上の期間、異議を述べたことはなく、これらの点について、少なくとも本件確認書の締結の時点では容認したと認められる。しかも、原告は、被告会社に対し、平成24年6月18日付け書面において、これらの点について、改善を求めているものの、本件賃貸借契約の更新の前提条件とはせず、被告会社から更新料を受領している。したがって、温水器の設置、本件ビル地下1階の電気室の使用及び本件建物左側のゴミ置き場の設置は、原告と被告会社との間の信頼関係の破壊を基礎付ける事情とはいえない。」
  • 「サッシ工事を行ったのは被告会社であるが、仮に、……犬走りの工事を行ったのが原告ではなく、被告会社であり、しかもこれらの工事について、原告の許可がなかったとしても、原告は、漏水が継続的に発生し、被告会社が十分な対応をしていないというにもかかわらず、本件賃貸借契約を解除することなく、長期間にわたり、被告会社に本件建物の使用を継続させ、さらに、原告は、平成24年6月18日付け書面において、これらの工事を原因として漏水が発生しているので、防止対策を講じるよう要請しつつも、本件賃貸借契約の更新の前提条件とはせず、本件賃貸借契約の更新に応じている。これらに加え、本件賃貸借契約の更新から本件解除の意思表示までわずか3か月程度の期間しか経っていないことからすれば、本件解除の意思表示の時点においては、1階店舗前面の犬走り部分の工事及びサッシの工事と水漏れの発生の問題は、原告と被告会社との間の信頼関係の破壊を基礎付けるような重大な問題であったとはいえない。」
  • 「被告会社は、本件建物の使用開始以降、本件ビルの共用部分である階段等において、脚立等の物を置いたり、灰皿を設置したりし、原告から撤去するよう要請を受け、撤去することが複数回あったことが認められる。しかしながら、被告会社は、原告からの要請を受けると、その要請に沿った対応をしており、また、原告は、本件賃貸借契約の更新以前からこのような事態があったものの、本件賃貸借契約の更新に応じており、被告会社による本件ビルの共用部分への脚立等や灰皿の設置は、原告と被告会社との間の信頼関係の破壊を基礎付ける事情とはいえない。」
  • 「以上からすれば、本件解除の意思表示の時点において、原告と被告会社との間の信頼関係が破壊されていたということはできず、原告は、本件賃貸借契約を解除することはできない。」

〇東京地判平成27年1月19日(平成25年(ワ)第23052号)

  • 「特に、原告において本件店舗のうち本件転貸借部分に施した工事からすると、本件転貸借部分の構造は景品交換所を想定したものとなっていること、そのことは事務室と書かれた図面……においても同様であることからすると、原告においては、遅くとも本件店舗の工事が終了して、本件店舗が営業を開始する頃までに、本件転貸借部分が景品交換所とされ、必然的に第三者に転貸されることを認識していたと推認できる。そして、……原告において、……被告に対し、本件転貸について異議を述べたことがない。そうすると、原告は、遅くとも、……和解をしたことにより、被告の本件転貸を、黙示又は挙動によって承認したと解することが相当である。」
  • 「したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。」

〇東京地判平成28年1月25日(平成26年(ワ)第25879号)

  • 〔1〕被告Rの登記簿上の本店が本件建物にあり、本件建物の館銘板の3階部分(本件貸室2)に同被告の名称が表示されていたこと、〔2〕被告Cについて、本件建物の郵便受けの3階部分(本件貸室2)に同被告の名称が表示されていたこと、〔3〕訴外Bについて、本件建物の館銘板及び郵便受けの3階部分(本件貸室2)に同社の名称が表示されていたこと、が認められる。また、被告R、被告C、Bの3社(本件3社)について、当時、各社のホームページに本店、支社ないし事務所の所在地として、本件建物ないし本件貸室2が表示されていたこと、ホームページ上の電話番号に被告Sを契約者とするものが含まれており、電話の設置場所が本件建物内であったこと、も認められる。
  • しかしながら、本件貸室2については、賃借人である被告H及び契約締結当初から同被告とともに上記貸室を使用してきた被告Sは、本件3社の上記表示等がなされている間も上記貸室の使用を継続しており、また、被告賃借人らが上記貸室を使用しながら、本件3社に対して上記貸室の一部に独立した区画を設けて使用させた事実も認められない。そして、本件3社のうち、被告Rについては、代表者が被告Sの従業員で、固有の従業員はおらず、業務の内容も被告Sの従前の業務の一部を移したものであることが認められ、同被告について本件貸室2の独立した使用収益権が与えられていたものとは認められないというべきである。
  • 他方、被告C及びBについては、訴外P4が経営する会社であって、被告賃借人らとは異なる実態の会社と認められ、被告Rと共同で事業を行うことが計画され、両社の代表者であるP4を交えた打合わせ等が本件貸室2で行われていたことが認められる。しかしながら、P4が上記貸室を使用する頻度は月に数回程度にとどまり、使用に際して被告Sの関与なしに上記貸室に出入りすることもなく、同貸室内の電話機は留守番電話の状態で、同貸室内にあるP4のパソコンもP4が上記貸室に上記の頻度及び形態で来訪した際に使用していたことが認められ、上記の利用状況をもって上記2社に独立した使用収益権が与えられていたものとは認められないというべきである。
  • 「したがって、被告賃借人らが本件3社に本件貸室2を無断転貸した事実は認められず、これを理由とする本件各賃貸借契約の解除は認められないというべきである。」

〇東京地判平成29年3月28日(平成27年(ワ)第22932号)

  • 「被告Bが被告会社を設立し、それ以降、被告会社が本件建物を占有し、ハートロックビレッジ(筆者注:本件建物とその隣地に新築した本件新建物の呼称。以下同じ。)の営業を行うようになったことは、被告Bが本件建物を被告会社に転貸したものと評価することができ、被告Bは被告会社を設立することを原告に告げておらず、また、この転貸について原告の承諾を得ていない。」
  • 「しかし、……被告Bは、被告会社の設立……に先立ち、……本件新建物を建築し、本件建物と新建物を一体として使用し、これらの施設をハートロックビレッジと称して飲食業、宿泊業、物品販売業、ガイド業等を行うようになっており、その営業形態は被告会社の成立後もほぼ同様であるといえる。そうすると、被告Bによる本件建物の無断転貸が信頼関係を破壊しないと評価するに足りる事由があるといえる。」
  • 「原告は、本件賃貸借契約において、被告Bは、本件建物を旅館及び店舗としてのみ使用することとされていたにもかかわらず、被告会社らが本件厨房を本件新建物の宿泊客への食事の提供のためにも利用していることが、本件建物の目的外使用に当たると主張し、本件賃貸借契約中に原告主張の定めがあることは認められる。しかし、原告は、本件建物を旅館として利用することを承諾しており、これは、本件建物において調理を行うことを含むものといえるから、被告会社らが調理をした食事を本件新建物の宿泊客に提供していることは、目的外使用とまではいえない。また、……原告は、本件厨房の本件新建物に面した窓をドアに改造すること及び本件新建物のウッドデッキを本件建物のウッドデッキと接続させることを承諾した際、本件新建物の敷地であるデッキ部分で行うカフェの営業のために本件厨房を利用することを認識したことが認められるのであるから、本件建物と本件新建物を一体として使用することを承諾していたものと評価することができる。そうすると、この点からも、被告会社らが、本件厨房で調理をした食事を本件新建物の宿泊客に提供していることが、目的外使用とはいえない。」
  • 「原告は、被告会社らが原告の承諾なく、〔1〕本件建物の2階テラスの床板を切断し、〔2〕本件建物の軒下に、本件建物の外壁を利用して物入れを設置したと主張する。しかし、〔1〕については、……水が中に入るのを防ぐため、ウッドデッキに勾配をつけたものであり、原告に本件建物を返還する際に修復するつもりであったし、〔2〕についても、……原告に本件建物を返還する際に修復するつもりであった。 ……被告会社の行った新事業は、いずれも被告会社の従前の事業に付随するものに過ぎないこと、……被告会社らが本件厨房を本件新建物の宿泊客への食事の提供のためにも利用していることが、本件建物の目的外使用に当たるとまではいえないこと、……原告の指摘する無断増改築は、いずれも軽微なものであり、被告会社らも本件建物を返還する際に修復するつもりであることに照らすと、……被告Bによる本件建物の無断転貸が信頼関係を破壊しないと評価するに足りる事由があるとの判断が左右されるとはいえず、他に上記……判断を覆すに足りる証拠はない。よって、原告による無断転貸を理由とする解除の主張は理由がない。」

〇東京地判平成29年7月18日(平成28年(ワ)第6854号)

  • 「被告がP6らに対して3畳間を転貸したこと及び本件廊下と3畳間との間にベニヤ板で仕切り壁を設けたことについて、原告の承諾があったか否か又はこれらに背信性がないといえる特段の事情があるかについて検討する。」
  • 「被告は、原告が営業していた……理容店の元従業員であり、……理容店(小石川支店)の営業を実質的に譲り受ける形で本件理髪店の営業を始めており、本件貸室における営業は40年以上となる。P6も、P6賃借部分でそれと同程度かいくらか長い期間焼き鳥屋を営業しており、被告が従業員を連れてP6が営業する焼き鳥店に毎日のように通ったこともあるなど、長屋的な緊密な人間関係があった。そして、3畳間の転貸は30数年に及ぶものであった。よって、被告のP6らに対する3畳間の転貸は長屋的な緊密な人間関係の中で30数年に及んでなされたものであるから、亡P3(筆者注:原告の旧代表者、原告の現代表者の親。以下同じ。)がこれを全く知らなかったとは考え難いことからして、亡P3は上記転貸を承諾していたか、少なくとも、昭和45年頃から継続する本件賃貸借契約を解除しうる程度に背信的であるとはいえない特段の事情があると認められる。」
  • 「次に、被告が3畳間と洋室との間に設けた仕切り壁はベニヤ板でできたものであるから、簡易に設置し又は取り外しができるものであった。他方、本件建物は元々増改築を繰り返してきた建物であるし、原告も、増築前建物に増改築を加えて本件建物としたにもかかわらず、不動産登記上何ら変更登記をしないなど、本件建物の現況を維持することにそれほど関心があったとは認められない。また、亡P3が、被告が仕切り壁を設けたことを全く知らなかったとは考え難いことは、前記……と同様である。よって、被告が3畳間と洋室との間に仕切り壁を設けたことについては、亡P3はこれを承諾していたか、少なくとも、昭和45年頃から継続する本件賃貸借契約を解除しうる程度に背信的であるとはいえない特段の事情があるものと認められる。」
  • 「以上のとおり、被告がP6らに対して3畳間を転貸し、3畳間と洋室との間にベニヤ板で仕切り壁を設けたことについては亡P3が承諾していたか少なくとも背信的であるとはいえない特段の事情があるものと認められる。よって、原告は、被告のP6らに対する3畳間の転貸又は仕切り壁の設置を理由として本件賃貸借契約を解除することができない。」

〇東京地判平成30年9月7日(平成28年(ワ)第31205号)
 「原告は、本件委託契約が実質的には転貸借関係であり、被告はcないしAGTKに本件建物部分を転貸している旨主張する」。しかし、本件委託契約に基づきcないしAGTKが被告に支払う金額は、毎月定額ではなく、本件店舗の売上げにより変動するものであるほか、cは、本件店舗の日々の売上げを被告を管理する訴外A社に報告しており、「本件店舗の水道光熱費は被告が負担し、内装関連費用も9割を被告が負担するなどしているのであって、cないしAGTKが仕入れ業者の手配や本件店舗の従業員の雇用を全て行っていることを踏まえても、本件建物部分に係る被告とcないしAGTKとの関係が賃貸借関係であるとみることはできない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。」

〇東京高判平成30年10月31日金商1563号28頁

  • 無断転貸禁止条項に反する旧S又は控訴人Sの行為についても、旧Sは、従前の訴外kや訴外H商事との間の商品取引販売契約と同様の契約を訴外Zとの間で締結したというもので、賃貸人側からそれが無断転貸禁止条項に反するものであるという法的見解を示されたのは、訴外Wから本件解除がされた際が初めてであると見られること、Zは、本件工事に着手したものの、その直後に中止されたままであり、現在においても、Zは、本件建物において、自己の旗艦店をオープンさせるには至っておらず、結局、Z販売契約が目的としたところはほとんど果たされなかったというに等しいというべきであるから、これによりWが受けた影響は大きいものではなかったということができる。
  • 「以上の各事情を総合して考慮すると、……控訴人に無断模様替禁止条項及び無断転貸禁止条項に反する行為があったとしても、本件賃貸借契約における賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されたとは認め難い特段の事情があったと認めるのが相当である。」

〇東京地判平成31年3月8日(平成29年(ワ)第13988号)

  • 訴外Rは、本件ビルの所在地を本店所在地として、被告のグループ会社として設立され、本件ビルの1階に、本件建物に事務所がある旨の表札をかかげている事実は認められるが、一方で、Rには従業員はおらず、代表者も被告の代表者Bが兼務しており、設立後に何らかの事業を行った形跡はないことからすれば、Rが現実に本件建物を占有使用しているとは認め難い。したがって、被告が本件建物をRに対し転貸した事実自体を認めることができない。
  • 「無断転貸の事実は認められず、……本件契約の更新時に賃貸借契約書の取り交わしを理由なく拒んだこと、原告に対する敵対的行為は、信頼関係の破壊と評価できる事由として認められず、……頻回にわたる賃料の延滞と不規則納入、鍵の無断交換による間接占有の侵害、被告の商号変更の事実を原告に伝えなかったことは、それぞれ一定の事実は認められるものの信頼関係の破壊の程度はそれほど高くはなく、これらを総合しても信頼関係が破壊されたとは認められない。したがって、原告の信頼関係の破壊の主張は理由がない。」

〇東京地判令和元年5月22日(平成29年(ワ)第20136号)

  • 「原告は、被告がシェアハウス事業を行って大きな収益を上げていることは、本件賃貸借契約が禁ずる無断転貸に当たると主張する。しかしながら、……原告は、本件賃貸借契約の締結に際し、Bからシェアハウス事業を行うために本件建物を賃借すること、そのための改装工事を行うことを聞き、これを了承して本件賃貸借契約を締結したものであるところ、原告本人によれば、原告は、シェアハウス事業が、1棟の建物を複数の者に転貸して居住させる事業であることは理解していたことが認められる。そうすると、本件建物をシェアハウスとして利用し、複数の者に転貸することについては、原告の包括的な承諾があったということができるから、無断転貸をいう原告の主張は採用することができない。」
  • 「なお、本件賃貸借契約においては、転貸の承諾を書面で得ることが要求されているところ、本件において書面による承諾があったとは認められないが、前記のとおり、賃貸人である原告の包括的な承諾があったことは明確であるから、書面が作成されていないことのみをもって、賃貸借契約の解除事由である無断転貸がされたということはできない。また、原告は、被告が良心的な賃料で海外の留学生等に本件建物を賃貸するものと考えていたが、実際には、高額の賃料で不当な収益を得ている旨主張するが、シェアハウス事業の形態や転貸料等が原被告間で合意されていたことを認めるに足りる証拠はなく、かかる事実は転貸についての承諾の有無を左右するものではない。」
  • 「したがって、無断転貸を理由とする本件賃貸借契約の解除は認められない。」

〇東京地判令和元年10月28日(平成29年(ワ)第43424号)

  • 「原告は、本件賃貸借が被告cに対して転貸されている旨主張し、現在は本件建物部分では被告bとその妻が暮らし、本件クリーニング店の営業は被告cが行っていること(被告cが平成27年及び平成28年の確定申告書において本件クリーニング店を営業している旨申告していることを含む。)は当事者間に争いがない。」
  • 「しかし、被告cは、いわゆる家業である本件クリーニング店の営業に平成4年から参加し、その後徐々に営業主体が被告bの加齢もあって被告bから被告cに移ってきたこと、この間を通じて本件クリーニング店の営業形態に変化している様子がないこと……等を考慮すると、本件クリーニング店の営業主体が被告bから被告cになっていること等をもって、本件賃貸借が被告bから被告cに転貸されたとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。」
  • 「以上のとおり、原告主張の無断転貸の事実が認められないため、原告の本件解除に係る予備的請求は理由がない。」

〇東京地判令和4年11月10日(令和3年(ワ)第20138号)

  • 「被告は、本件駐車場部分について、第三者に転貸することを、Cが本件土地1及び2を所有していた当時、Cが承諾していたと主張する。本件駐車場部分は、アスファルト舗装がされ、白線が引かれており、一見して駐車場の用途で使用されていること、少なくとも3台分の駐車が可能であることが分かる。原告が本件駐車場前の道路を月1回程度通過する際、本件駐車場部分にカラーコーンや種類の異なる車両、配達用のバイク等が駐車されているのは見ていたところ……、被告の家族以外の者が利用していることは容易に認識できたといえる。原告は、本件建物の賃借人が利用していると考えていた旨供述するが、そうであったとしても、本件駐車場を被告が第三者に転貸していることに変わりはなく、第三者に転貸することを容認していたといえる。以上に鑑みると、C以降原告に至るまで、本件駐車場部分を転貸することについて、少なくとも黙示の承諾はあったといえるから、その余の争点を判断するまでもなく、原告の主張は理由がない。」
  • 「仮に黙示の承諾があったとまでいえないとしても、本件駐車場部分を駐車場として利用する用途自体は外観上明らかであるところ、借主は近隣の店舗であり、仮に本件駐車場部分の利用に起因して問題が生じたとしても、借主に対する責任追及は可能である。原告は、本件駐車場部分は、本件建物の賃借人が利用していると考えていた旨主張するが、本件建物の賃借人による利用と本件駐車場部分近隣の店舗等による現状の利用が質的に異なるとも言いがたい。また、現に従前、本件駐車場部分の利用に起因して原告が損害を被ったことも認められない。よって、本件では賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるといえる。」

〇東京地判令和5年8月29日(令和4年(ワ)第5359号)

  • 「被告は本件建物を転貸したと認められる。なお、さらに転貸の相手方が訴外Cとなるか、又は訴外会社となるかについても争いがある。しかし、そもそも無断転貸が認められる場合には、原則として相手方を問わずに契約の解除原因となると解されること及び後記……で説示するところに照らし、本件においては、転貸の相手方について個別に判断するまでもない。」
  • 「まず、本件賃貸借契約における本件特約条項(原契約における対応する条項も含む。)は、「業務受託者」との文言によるものではあるが、何ら条件を付さず、また原告の承諾を要求することなしに、被告が他者に店舗を使用させることを認めている……。併せて、被告は、原契約締結以前頃に、自身の業務内容をパンフレットにより紹介しており、その中には、店舗の運営については顧客に委託する旨や、業務委託料については売上金から必要な費用を差し引いて計算する旨などが記載されていた……。そうすると、原告が原契約を締結するに当たり、前賃借人が存在して不動産仲介業者が関与したこともうかがわれる経過……において、被告の業務内容を何ら把握・検討していなかったとは通常考え難い……。そして、原告は、訴外Cが平成19年頃から本件店舗における営業を開始した……後、10年以上が経過した令和4年2月に至るまで……、本件店舗の利用の実態が無断転貸であることを理由とした解除の意思表示をした形跡がない……。これらの点に照らせば、原告は、原契約の時点から被告の業務につき相応の認識を有していたこと、その上で被告が他者に本件店舗を利用させることにつき、その主体や条件に強い関心を有しておらず、店舗の利用を許容する姿勢であったことを推認できる。長期間にわたり無断転貸による解除の意思表示をしていなかった経過も、やはり上記の姿勢を推認させるものである。以上から、原告は、本件特約条項により、転貸借について事前に包括的な承諾をしていたものと推認することができる……。そして、上記のとおり包括的な承諾が認められること及び営業の内容につき特段変化した形跡はないこと……に照らせば、転貸借の相手方が訴外Cであるか訴外会社であるかにかかわらず、本件において承諾があるものと認められる」。「原告は、本件業務委託契約による実質的な転貸借につき、事前に包括的に承諾していたと認められる」。
  • 「以上から、本件業務委託契約は実質的には転貸借と認められるが……、原告はこれを承諾していたと認められる……。よって、……本件賃貸借契約には解除原因が認められず、原告の請求には理由がない。」

〇東京地判令和5年10月2日(令和3年(ワ)第19831号)

  • 原告は、被告Bが平成18年4月21日に被告Lに対して1階店舗部分等を無断で転貸し、以後、被告Lが被告Bと共同で1階店舗部分等を占有使用している旨主張する。本件店舗については、被告Lが平成18年4月21日に営業許可を受け、被告Bも、平成24年3月31日までの営業許可を受けていたが、同年4月2日付けで廃業の届出をしたこと、本件店舗で稼働するスタッフは、現在、全員が被告Lに所属する従業員であるとのことが認められる。しかしながら、本件店舗の各営業日の現金売上は、日々、被告Bの銀行口座に入金されており、被告Bの総勘定元帳においても、本件店舗の現金売上及び電子マネー等による売上が、被告B自身の売上として計上されており、本件店舗の電気、水道、ガス料金等についても、被告Bが支払を行っているのであるから、これらの事実は、被告Bが本件店舗の営業主体であることを示すものということができる。また、被告Bは、昭和58年3月に本件フランチャイズ契約や覚書を締結して以来、被告Lから従業員の派遣や設備の貸与等の支援を受けながら、長年にわたって本件店舗の経営を続け、本件ビルのフロア案内板にも「1F/(有)B L店」との表示がされていることに鑑みると、現在、本件店舗で稼働するスタッフの全員が被告Lに所属する従業員であるとしても、これをもって直ちに1階店舗部分について被告Lに対する転貸がされていると評価することはできない。加えて、本件全証拠によっても、平成18年頃に1階店舗部分に関する契約関係を転貸借契約に変更する必要が生じたような事情は認められない上、被告Lが被告Bに対して1階店舗部分の転借料を支払っていると認めるに足りる証拠はなく、被告らの間において転貸借契約が締結されていることを示すような契約書等は作成されていない。そのため、1階店舗部分等について、被告Lの事実的支配に属するものというべき客観的関係があるとまでは認められず、被告らの間において、被告Lによる占有取得の原因となるような合意があるとも認められない。
  • 以上に鑑みると、本件店舗に関する被告Lの営業許可の取得や被告Bによる廃業の届出の事実、本件店舗で稼働するスタッフの全員が被告Lに所属する従業員であるとの事実をもって、1階店舗部分等について、被告Lに対する転貸や被告Lによる占有使用があると推認することはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。以上によれば、無断転貸を理由とする本件賃貸借契約の解除の効果は生じないから、本件賃貸借契約が解除されたことを前提とする被告Bに対する請求や、被告Lが1階店舗部分等を占有使用していることを前提とする被告Lに対する請求については、その余の点について検討するまでもなく、理由がない。

 

4 その他転貸に関連する判例・裁判例

 以下では、これまでご紹介した裁判例の他に、広く転貸に関連する判例・裁判例をご紹介します。

〇大判昭和9年11月6日大民集13巻2122頁
 「賃貸人カ賃貸物ノ所有者ナルトキハ賃貸借終了シタル場合ニ賃貸人ニ於テ其ノ所有権ニ基キ今ヤ巳ニ無権原占有者ト為リ了リタル賃借人ニ対シ目的物ノ返還ヲ請求スルヲ得ルハ論無シ其ノ或ハ目的物カ適法ニ転貸セラレ転借人現ニ之ヲ占有セル場合ハ縦令転貸借ソノモノハ未タ終了セサルトキト雖賃貸人トシテ其ノ所有権ヲ主張シ転借人ニ対シ返還ヲ請求スルコト固ヨリ其ノ権利ニ属ス何者転貸借ノ承諾ハ賃貸人ノ解除権ヲ除却スルニ止マリ(民法第六百十二条第二項)賃貸人ト転借人間ニ何等ノ貸借関係ヲ生スルコト無ク而シテ賃貸借ノ終了ハ当然転貸借ヲ終了セシメサルト共ニ賃貸借ニシテ一旦終了スル以上転借人ノ占有ハ又以テ賃貸人ノ所有権ニ対抗スルヲ得サルニ至ルヘケレハナリ」

〇大判昭和10年9月30日判決全集22巻17頁
 「賃借人カ賃借物ヲ第三者ニ転貸シタル場合ニ於テ賃貸人カ其ノ転貸借ヲ承諾セサルトキハ之ヲ以テ賃貸人ニ対抗スルコトヲ得サルニ過キスシテ其ノ転貸借ハ無効トナルモノニ非ス従テ賃貸人ノ承諾ニ因リ適法ニ転貸借カ行ハレタル後ニ於テ転貸借ノ終了スルニ先チ賃貸借カ賃貸人ト賃借人トノ合意ニ因リ解除セラレ若ハ賃貸借カ期間満了ニ因リ終了シタルトキハ爾後転貸借ハ当然其ノ効力ヲ失フニ非スシテ之ヲ賃貸人ニ対抗スルコトヲ得サルニ過キサルモノトス」

〇大判昭和12年4月19日大民集16巻524頁
 「民法第六百十三条ニ依レハ賃借人カ適法ニ賃借物ヲ転貸シタトキハ転借人ハ賃借人(即転貸人)ニ対シ転貸借契約ニ因リ義務ヲ負担スルト同時ニ賃貸人ニ対シテモ直接ニ其ノ義務ヲ負担スルモノトス故ニ其ノ転貸借カ終了スルトキハ転借人ハ賃借人ニ対シ転借物返還義務ヲ負担スヘキハ勿論ナルモ賃貸借モ亦既ニ終了セル場合ニハ転借人ハ転貸人ニ対シテモ直接ニ転借物返還義務ヲ負担スヘク賃貸人ニ対シ其ノ返還義務ヲ履行シタトキハ之ニ因リテ賃借人ニ対スル返還義務ヲモ免ルヘキハ論ヲ俟タス」

〇最判昭和26年5月31日民集5巻6号359頁
 民法六一二条「二項の法意は賃借人が賃貸人の承諾なくして賃借権を譲渡し又は賃借物を転貸し、よつて第三者をして賃借物の使用又は収益を為さしめた場合には賃貸人は賃借人に対して基本である賃貸借契約までも解除することを得るものとしたに過ぎないのであつて、所論のように賃貸人が同条項により賃貸借契約を解除するまでは賃貸人の承諾を得ずしてなされた賃借権の譲渡又は転貸を有効とする旨を規定したものでないことは多言を要しないところである。」

〇最判昭和28年5月7日民集7巻5号525頁
 「無断転貸を理由として一旦有効に賃貸借契約が解除せられた後に、賃貸人において転借人に対し、新たに締結された賃貸借その他の事由により、引続きその目的物の使用を許したからとて、所論のようにこの一事により、既に行使された解除権がさかのぼつて放棄されたこととなり、若くは一旦発生した解除の効力が消滅に帰するいわれはない。」

〇最判昭和28年5月8日集民9号91頁
 「間貸はすべて民法六一二条の転貸に当らないということはできない」。

〇最判昭和28年11月20日民集7巻11号1211頁

  • 訴外Kは、被上告会社との共同経営の契約に基いて、共同経営者の一人として、被上告会社と対等の立場において、右建物の一階を飲食店経営のため占有使用していることがわかるのであつて(殊に本件共同経営契約においては、被上告会社は場所什器を提供する外会計に関与するというのみで、飲食店経営の本体をなす調理販売はKが担当とするというのであるから、右場屋の占有使用は寧ろ主としてKの担当圏内にあるものといわなければならない。)被上告人の使用人その他被上告人の占有補助の機関として占有使用しているのでないことはもとより、何ら、被上告人に対する従属的の関係において占有使用しているものでないことは明らかである。
  • 「して見れば、かかる占有使用の関係をとらえて、原判示のごとく、「被上告会社の権限の範囲内」で占有使用せしめているものとして、民法六一二条第二項の場合に該当しないものとすることはできない。右のごとき占有使用関係の設定は民法六一二条第二項所定の「賃借人ガ」「第三者ヲシテ賃借物ノ使用ヲ為サシメタルトキ」に該当するものと云わなければならない」。

〇最判昭和30年9月22日民集9巻10号1294頁
 「民法六一二条二項が、賃借人が賃貸人の承諾を得ないで賃借権の譲渡又は賃借物の転貸をした場合、賃貸人に解除権を認めたのは、そもそも賃貸借は信頼関係を基礎とするものであるところ、賃借人にその信頼を裏切るような行為があつたということを理由とするものである。それ故、たとえ賃借人において賃貸人の承諾を得ないで上記の行為をした場合であつても、賃借人の右行為を賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情のあるときは、賃貸人は同条同項による解除権を行使し得ないものと解するを相当とする。」

〇最判昭和31年2月17日集民21号149頁
 「……右のように本件家屋の賃借人がその家屋の一部の使用権を共同事業経営のために他の共同経営者に提供し、以て右共同経営者との間に毎月該共同経営より生ずる売上金の内から一定の割合の金員の配当を受くべき旨を約した法律関係は、即ち家屋の賃借人がこれを他に転貸してこれが賃料の支払を受けると何等択ぶところがなく、賃借人は、甲乙及び丙に対し転貸したものと認むべく、これにつき賃貸人の承諾がない以上、無断転貸を理由とする賃貸人の解約申入の効力を認むべきである。」

〇最判昭和31年4月3日集民21号629頁
 「賃借人が賃借家屋を会社に使用せしめたときは、個人と会社とはその人格を異にするのであるから、たとえ賃借人がその会社を設立し自己の事業を会社の事業に移したにすぎないものである場合においても、他に特段の事情がない限りその間に転貸借が成立するものと解すべく、このことは組合の事業組織を会社に変更した場合に関し当裁判所がした判例の趣旨に徴して認められるところである……。」

〇最判昭和31年5月8日民集10巻5号475頁
 「賃借人が賃貸人の承諾を得ないで賃借物の転貸をした場合であつても、賃借人の右行為を賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情あるときは、賃貸人は民法六一二条二項による解除権を行使し得ないことは当裁判所の判例とするところである……。」

〇最判昭和31年12月20日民集10巻12号1581頁
 「原審が無断転貸により上告人において本件賃貸借の解除権を取得したことを認めながらその解除権の行使について賃貸人たる上告人側の判示事情と賃借人たる被上告人……及び転借人たる同人以外の被上告人ら側の判示事情とを対比して正当の範囲を逸脱したものと判示したのは、無断転貸による解除権に関しては借家法一条ノ二の如き規定なきに拘わらずこれあるが如く解せんとした嫌があるばかりでなく、原審は被上告人……の民法六一二条一項違反によつて本件賃貸借の解除権を取得した上告人においてその解除権を行使したのは、本件宅地にデパートを建設せんとする企図に出でたものであることを認定しているのであるから、たとえ本訴当事者双方に判示のような事情があつたからとて、これを以て直ちに上告人の本件解除権ないし所有権の行使に信義誠実の原則にもとり、公序良俗に反し道義上許すべからざる権利の濫用ありとなすには足りない。それ故原判決が判示事実関係を認定しただけで権利の濫用ありとなしたのは民法一条の適用を誤つた違法があり全部破棄を免れない。」

〇最判昭和32年6月7日集民26号839頁
 「会社の設立無効の判決が確定したときは解散の場合に準じて清算をなすことを要し、会社は清算の目的の範囲内においてなお存続するものとみなされるのであって当然に人格を喪失するものでないから、右判決確定により将来に向って本件賃貸借および転貸借関係が当然に失効するのではない。」

〇最判昭和32年12月10日民集11巻13号2103頁
 「無断転貸が背信行為にあたるものとして解除権が発生した場合であるときは、その後その転貸が終了したからといつて、その一事のみにより、右転貸が回復し得ない程信頼関係を破壊したものではないとし、解除権の行使を許すべからざるものと断定しなければならぬものではない。」

〇最判昭和33年1月14日民集12巻1号41頁
 本件家屋の賃貸人である被上告人が、賃借人である上告人に対し、上告人の無断転貸を理由に賃貸借契約を解除したとして、本件家屋の明渡しを請求した事案の上告審で、無断転貸の期間が1か月に満たなかったとしても、本件家屋の附近は閑静な高級住宅街であること、学校へ行っている子供を含む被控訴人らは本件家屋の隣に居住して居り、本件家屋にアメリカ軍人等が出入し、その愛人が居ることは教育上支障があること、近隣の住宅街の人々が抗議したこともあるなどの事情があるときは、無断転貸を理由として賃貸借契約を解除することができる。

〇最判昭和34年1月8日集民35号33頁
 「原判決の是認、引用している第一審判決は、被告……Aが原告……の承諾なしにDに対し本件家屋を転貸した事実を認定した上、「しかも、同被告はさきにも原告に無断で本件家屋を改造している事実があること前記のとおりでありその上に又原告に無断で転貸するが如きは原告に対する信頼関係を破るものといわねばならない」と判示しており、さらに原判決はこれに附加してDに転貸する以前E某にも本件家屋の一部を敷金八万円家賃月八千円で転貸し、同人退去後Dに月八千円で転貸しており、E某に転貸以来飲食店向に改造されているから無断転貸による解除は適法である旨判示している。されば、原判決には所論の違法は認められない。」

〇最判昭和34年7月17日民集13巻8号1077頁
 本件土地三一〇坪六合五勺のうち上告人において第一審相被告Y1、同Y2にそれぞれ建物敷地として占有使用させている部分の面積は合計三〇坪であるというのであるから、割合にして僅か十分の一弱にすぎない。しかし、なお、本件土地は道路に沿つた海岸の波打ちぎわに存する砂地で、前記三〇坪及び上告人所有建物の敷地一二坪を除いた残余の部分はとり立てていう程の用途に使用されているものでないのであつて、このような事実関係のもとでは、たとえ前記Y1及びY2に占有使用させている部分の面積が本件土地の総面積に比し僅かであつても、右占有使用につき賃貸人たる被上告人の承諾がない以上、被上告人は本件土地全部につき上告人との間の賃貸借契約を解除し得るものと解すべく、右解除権の行使をもつて権利乱用というのはあたらない。

〇最判昭和35年6月23日民集14巻8号1507頁
 「家屋の所有権者たる賃貸人の地位と転借人たる地位とが同一人に帰した場合は民法六一三条一項の規定による転借人の賃貸人に対する直接の義務が混同により消滅するは別論として、当事者間に転貸借関係を消滅させる特別の合意が成立しない限りは転貸借関係は当然には消滅しないものと解するを相当とする。」

〇最判昭和36年12月21日民集15巻12号3243頁
 「転貸借の終了するに先だち賃貸借が終了したときは爾後転貸借は当然にその効力を失うことはないが、これをもつて賃貸人に対抗し得ないこととなるものであつて、賃貸人より転貸人に対し返還請求があれば転貸人はこれを拒否すべき理由なく、これに応じなければならないのであるから、その結果転貸人は、転貸人としての義務を履行することが不能となり、その結果として転貸借は終了に帰するものである」。

〇最判昭和37年2月1日集民58号441頁
 「賃借人が賃借家屋を第三者に転貸し、賃貸人がこれを承諾した場合には、転借人に不信な行為があるなどして賃貸人と賃借人との間で賃貸借を合意解除することが信義、誠実の原則に反しないような特段の事由がある場合のほか賃貸人と賃借人とが賃貸借解除の合意をしてもそのため転借人の権利は消滅しない」。

〇最判昭和37年7月20日民集16巻8号1583頁
 「所論は、本件賃借権が譲渡並びに転貸禁止のものであることをいい、処分の可能性のない賃借権につき交換価値の算定は不可能であるとして原審判断の違法をいうが、右譲渡禁止の点については、原審において主張なく従つて認定もない事柄であり、本件賃貸借契約に転貸を認めない旨の約定があることだけでは賃借人が賃借土地を使用収益することによる利益に影響を及ぼすことなく、賃借権の評価にかかわりない旨の原審判断(第一審判決引用)は首肯できるから、右判断の違法をいう所論はすべて採用できない。」

〇最判昭和38年9月26日民集17巻8号1025頁
 「所論は、所論のいわゆる概括的転貸許容の特約は賃貸借契約の本来的(実質的)事項でないから、その登記なくしては、家屋の新所有者に対抗できないと主張して、これと異る原判決の判断を攻撃する。しかし、借家法一条一項の規定の趣旨は、賃貸借の目的たる家屋の所有権を取得したる者が旧所有者たる賃貸人の地位を承継することを明らかにしているのであるから、それは当然に、旧所有者と賃借人間における賃貸借契約より生じたる一切の権利義務が、包括的に新所有者に承継せられる趣旨をも包含する法意である。右と同趣旨の原判決の判断は正当である。」

〇最判昭和39年11月20日民集18巻9号1914頁
 「転貸借は、賃借人が賃借物を更に賃貸するものであるから、賃借人の有する賃借権が第三者対抗要件を具備しており、かつ転貸借が有効に成立している以上、転借人は、自己の転借権について対抗要件を備えていると否とにかかわらず、賃借人(転貸人)がその賃借権を対抗しうる第三者に対し、賃借人の賃借権を援用して自己の転借権を主張しうるものと解すべきである」。

〇最判昭和40年2月12日集民77号387頁
 土地賃貸人において、転借人に対し後日直接賃貸借契約をしてよい意向を示し、それまでの間は転借について暗黙の承諾をしたと見られるような態度をとり、転借人としては、賃貸人の指図に従い、同人の転貸人に対する賃貸借消滅による建物収去土地明渡請求訴訟に協力する態度をとり、賃貸人が勝訴すれば自ら賃借できると考え、同人から明渡を請求されることは全く予想していなかつた事情のもとで、賃貸人が右訴訟で勝訴した結果、一転して突然、その所有権に基づき転借人に対し土地明渡の請求をすることは、「上告人自らが抱かしめた被上告人の期待を一方的に無視し、被上告人に全く予期しない負担と損害を及ぼすものであつて、あまりにも他の困惑を顧みない自己本位の権利の主張に外ならず、」権利の濫用にあたる。

〇最判昭和40年6月18日民集19巻4号976頁
 上告人が、訴外Aが賃借する本件宅地を買受け、Aの妻である被上告人BがAより賃借権を承継し、本件宅地に建物を所有しこれに居住していたが、その建物を焼失した後、被上告人Bが本件宅地を上告人の承諾なくAらに転貸し、Aらがその地上に本件建物を建築し、被上告人Cらが右建物に居住して建物敷地を占有していた。被上告人Bは、上告人の承諾なく本件宅地上に夫であるA、また三男である被上告人Cをして本件建物を建築せしめており、これは本件宅地を同人等に無断転貸したものといわざるをえないが、被上告人BらはAとともに本件建物の建築当時から同一の生計を営み、本件建物に居住してきた等の事実関係の下においては、賃貸人である上告人の承諾がなくても上告人との間の賃貸借契約上の信頼関係を破綻するに足らない特段の事情があるものというべきである。

〇最判昭和40年6月29日集民79号539頁
 土地の賃貸人が、賃借人において賃借土地の一部を転貸している事実を知りながら、3年余にわたる賃貸人であった期間中、特段の異議を述べず賃借人から賃料を収受していたときは、転貸について黙示の承諾をしたものと認められる。

〇最判昭和41年1月27日民集20巻1号136頁
 「土地の賃借人が賃貸人の承諾を得ることなくその賃借地を他に転貸した場合においても、賃借人の右行為を賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときは、賃貸人は民法六一二条二項による解除権を行使し得ない……。しかしながら、かかる特段の事情の存在は土地の賃借人において主張、立証すべきものと解するを相当とする」。

〇最判昭和41年7月1日集民84号7頁
 「賃貸借契約中の賃借人のする転貸等については賃貸人の書面による承諾を要する旨の特約が、継続的な賃貸借契約関係において賃貸人の承諾の有無についての法律関係を明確にし将来の紛争を避けんとするにあり、したがって、このような合理的な目的をもってされた法律行為の方式の制限についての合意は、有効である」。

〇判昭和42年12月8日集民89号353頁
 賃貸借の目的たる土地が四四・七坪である場合に、その一部である二三・七坪が無断転貸された場合は、特段の事情がない限り、右転貸は背信行為にあたるから、賃貸借の全部解除は有効である。

〇最判昭和43年4月16日集民90号1011頁
 本件賃貸借は、建物と土地についてそれぞれ別個独立の賃貸借を締結したものではなく、賃料も一括して定められた総合的な一個の賃貸借契約にもとづくものであるから、土地の一部の無断転貸という違反行為を理由とする契約解除により、土地についてとともに建物についても賃貸借関係が終了するものと解するのが相当である。

〇最判昭和43年5月28日集民91号157頁
 被上告人Aは同Bに対し上告人の承諾なくして本件土地の一部を転貸したことになるが、被上告人Aと同Bとが同居の夫婦であることその他、両者の生活関係および本件土地の使用状況等を考えると、被上告人Aの右転貸は上告人の承諾がなくても上告人との間の賃貸借契約上の信頼関係を破壊するに足りない特段の事情があるものとするのが相当であるというのであって、これによると、右無断転貸を理由とする解除は効力を生じないとした原判決の判断は正当である。
 「被上告人両名の関係に……変動を生じ、これにより前記転貸を賃貸人(上告人)に対する背信行為と認めるに足りないものとした特段の事情が解消されたときは、また、その時点において別途判断すれば足り、一般にこのような事情の変更が将来生じうるということは、なんら前記の結論に消長をきたすものではない。」

〇最判昭和43年9月12日集民92号271頁
 「本件転貸によって賃貸人たる被上告人が経済的利益を害されることがないから、右転貸が賃貸人と賃借人との間の信頼関係を破壊するものではない旨主張するが、本件賃貸借は、原判決摘示の事情のもとに、裁判所の調停によって成立したものであり、右調停条項中には無断転貸禁止の条項があったばかりでなく、上告人は右転貸によって本件賃貸借の賃料をはるかにこえる賃料を収受しており、被上告人は本件解除前あらかじめ転借人たる訴外……会社に対し無断転借は承認できない旨を告知している等……の諸事実に徴すれば、賃借人たる上告人の義務違反の程度は強く、本件転貸が……信頼関係を破壊するものではないとは到底いえない」。

〇最判昭和43年10月31日民集22巻10号2350頁
 「建物所有を目的とする土地の賃貸借において、賃借人は賃借権を譲渡しまたは賃借物を転貸することができる旨の特約が成立し、かつ、その賃借権の設定および右特約の双方について登記がされているときは、賃貸人が、その賃借権を譲り受けた者またはその賃貸借につき利害関係を有するに至つた者に対し、右賃借権の消滅をもつて対抗するためには、民法一七七条の規定を類推適用して、その旨の登記を経ることを要するものと解すべきである。」

〇最判昭和44年1月31日集民94号143頁
 「賃借人が賃貸人の承諾を得ないで賃借権を譲渡しもしくは賃借物を転貸した場合においても、賃貸人と賃借人との間の信頼関係を破壊するに足りない特段の事情があると認められるときには、賃貸人は、民法六一二条に基づいて賃貸借契約を解除することができないものと解すべきである。そして、この理は、土地の賃貸借契約において、賃借人が賃借権もしくは賃借地上の建物を譲渡し、賃借物を転貸しまたは右建物に担保権を設定しようとするときには賃貸人の承諾を得ることを要し、賃借人がこれに違反したときは賃貸人において賃貸借契約を解除することができる旨の特約がされている場合においても、異ならないものと解するのが相当である。」

〇最判昭和44年2月18日民集23巻2号379頁
 「賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情があるときには、賃貸人は、民法六一二条二項によつて当該賃貸借契約を解除することができず、右のような特段の事情があるときにかぎつて、右譲受人または転借人は、賃貸人の承諾をえなくても、右譲受または転借をもつて、賃貸人に対抗することができるものと解すべきである……。そして、右のような特段の事情は、右譲受人または転借人において主張・立証責任を負うものと解すべきである。」

〇最判昭和44年7月8日民集23巻8号1374頁
 「他人の土地の継続的な用益という外形的事実が存在し、かつ、その用益が賃借の意思にもとづくものであることが客観的に表現されているときには、民法一六三条により、土地の賃借権の時効取得を肯認することができるものと解すべき……であり、そして、この法理は、他人の土地の継続的な用益がその他人の承諾のない転貸借にもとづくものであるときにも、同様に肯定することができるものと解すべきである。」

〇最判昭和47年6月15日民集26巻5号1015頁

  • 「本件賃貸借契約の解除の意思表示は、被上告人が本件家屋の所有権を取得する以前に前所有者によつてなされたものであつても、被上告人は、契約解除の理由とされた無断転貸借の当事者であり、その後約三年の間転借部分を占有して、転貸借による利益を享受していた者であるから、被上告人が、所有権取得後一転して、右転貸借が違法な行為であり、これを理由とする賃貸借契約の解除が有効になされた旨を主張し、解除の効果を自己に有利に援用して、右転貸借の他方の当事者である上告人に対してその占有部分の明渡を求めることは、にわかに是認しがたいところというべきである。しかも、……被上告人は、転借に際し、自己が賃貸人側の了解を得てもよい旨を上告人に申し出で、上告人も被上告人がその責任で賃貸人の承諾を得るものと考えたというのであつて、上告人としては、被上告人の右の申出でを信頼したためにみずから承諾を得る努力をしなかつたものとも考えられ、他方被上告人が承諾を得るためなんらかの手段をとつた形跡はないのであるから、たとい、右申出でが被上告人において承諾を得ることの確約ではなく、承諾を得なかつたことについて、上告人も一半の責を免れないとしても、むしろ主たる責任は被上告人にあるものということができ、したがつて、被上告人が、いまに至つて、本件転貸借につき賃貸人の承諾がなかつた旨を自己の権利を理由づけるために主張することは、信義に反し、とうてい是認しがたい態度といわなくてはならない。原判示のその他の事実も、被上告人の主張を正当ならしめるに足りるものとは解されない。」
  • 「してみれば、他に特段の事情のないかぎり、被上告人において、上告人に対し、本件家屋の賃貸借契約が無断転貸を理由に解除された旨を主張することおよびこれを理由として本件家屋の所有権に基づき上告人に対し占有部分の明渡を請求することは、信義則に反しまたは権利の濫用であつて、許されないものと解するのが相当である。」

〇最判昭和48年10月12日民集27巻9号1192頁
 「賃貸借契約が賃借人の破産を理由とする解除により終了したときには、これに基づく転貸借契約も終了するのであるが、転借人になんら非違もないのに、賃貸人が、自己の都合により転借権を消滅させるため、賃借人会社を代表してその自己破産を申し立て破産宣告を得たうえ、これを理由として賃貸借契約を解除するようなことは、転借人に対し著しく信義則に違反する行為であり、かかる場合、賃貸人が、右解除により賃貸借契約を終了させても、転借人との関係ではその効力を生ぜず、転借権は消滅しないと解すべきである。なお、右の法理は転貸借契約と再転貸借契約との関係においても変りはない。」

〇最判昭和49年5月30日集民112号9頁
 「賃借家屋につき適法に転貸借がなされた場合であつても、賃貸人が賃借人の賃料延滞を理由として賃貸借契約を解除するには、賃借人に対して催告すれば足り、転借人に対して右延滞賃料の支払の機会を与えなければならないものではない。」

〇最判昭和50年4月18日集民114号523頁
 「土地賃借人が借地上に所有する建物につき、第三者名義で保存登記をし、あるいは第三者に所有権移転登記をした場合でも、それが登記上の名義のみであつて建物所有権の帰属に変動がないときには、右建物の敷地について民法六一二条所定の解除原因たる賃借権の譲渡または転貸はないと解すべき」である。

〇最判昭和51年6月21日集民118号129頁
 「本件土地の賃借権の譲渡(転貸人の地位の承継)を受けた上告人は、その譲渡人がそれを右土地の転借人である被上告人らに通知をせず、又は被上告人らが右譲渡を承諾しない以上、被上告人らに対し、その転貸人としての地位を主張し得ない」。

〇最判昭和54年5月29日集民127号61頁
 賃借土地上の数棟の建物のうち一部の建物の譲渡にともなう借地の一部無断転貸を理由として土地賃貸借契約全体が解除された場合には、そのほかの建物について所有者である借地人は建物買取請求権を有しない。

〇最判昭和58年3月24日集民138号387頁
 朽廃に近い建物とその敷地の転借権を譲り受けた者が、その譲受につき転貸人の承諾を得ず、転貸人の異議の申入及び工事続行禁止の仮処分決定を無視して完遂した「本件建物の改造工事は不信行為の著しいものであって、たとえ同人が右改造工事による本件建物の増加価格を放棄し、その譲受当時の価格による買取を求めたとしても、その買取請求権の行使は信義則に反するものとしてその効力を生じない」。

〇東京地判昭和60年4月17日判時1174号85頁

  • 訴外Nが「被告に対して本件建物を転貸したことについて、原告が昭和五三年頃から疑ってはいたが確証を得られず、昭和五六年四月になってやっとその確証を得るに至ったものと認められ、原告は、その後すぐにその転貸借を否認し、本件訴訟を提起しているのであるから、原告が被告の転借を事後に承諾していると解することはできない。そして、他に、原告が被告の転借を承諾したと認めるに足る証拠はない」。
  • また、訴外Nは、本件建物の転貸借契約について、当初からこれをことさらに秘匿し、また、被告も本件建物が原告の所有に属すること(したがって、被告が本件建物を転借していること)を知った後も昭和五六年までは、原告には、何らの連絡をしなかったばかりでなく、更に、自分は単に訴外Nに雇われているだけだなどと虚偽の事実を述べているものであり、これらからすると、被告の転借について被告の側に背信性の強い事情があるものというべきである。そして、原告の側において、原告と直接契約をすればもっとも賃料が安いと述べていかにも本件建物につき原告が直接被告に賃貸するかのような示唆をし、このいわば一種の利益誘導もきっかけの一つとなって、訴外Nから立ち退きを迫られていた被告が原告に対し本件建物の転借を、証拠資料を持参した上開示するに至ったこと、そして、本件訴訟は、被告が原告に開示した資料が基となって提起されたものであること、原告は被告に本件訴訟を提起しておきながら、被告に対し例えば弁護士の選任を要しないかの如きこと等を述べていることなど原告にも、必ずしも適当とはいえない対応が見られるし、また、被告は、訴外Nに対し保証金を支払うとともに本件建物の一階に相当の費用をかけて改装を施し、その二階を住居としていること、本件賃貸契約においては、賃借権の譲渡又は賃借物の転貸が頭から否定されておらず、賃貸人に協議応諾義務が課されていること、「原告は、本件建物の明渡しを受けたとしても結局は他に賃貸するものと考えられることといった諸事情があるけれど、これらの事情をもってしても、先に述べた、被告の側の背信性の強い事情を考えると、被告の転借につき、背信行為と認めるに足りない特段の事情がありと評価することは到底許されず、他に、右事情を認めるに足る証拠はない。」

〇東京地判平成7年1月23日判時1557号113頁
 「短期的な賃料の下降は予測が困難であったとしても、ある程度の周期で賃料相場に値下がりを含む変動が生じ得ることは、経済事象の変転の目まぐるしい現代においては、予見不可能とまではいえないものというべきである。のみならず、本件賃料自動改定条項は、少なくとも増額については、被告と転借人との間の賃料の定めが一般の賃料の動向を反映して変更されて行き、その七割をもって本件賃貸借契約における賃料とすれば、それも適正妥当な額になるとの考えに基づいていることは明らかである。この理は、転貸料が減額されたときにも等しく当てはまるのであり、減額の場合にのみこれを適用することが信義則上著しく不当であるとはいえないものというべきである。」

〇最判平成9年2月25日民集51巻2号398頁
 「賃貸借契約が転貸人の債務不履行を理由とする解除により終了した場合、賃貸人の承諾のある転貸借は、原則として、賃貸人が転借人に対して目的物の返還を請求した時に、転貸人の転借人に対する債務の履行不能により終了すると解するのが相当である。」

〇東京高判平成11年12月21日判タ1023号194頁

  • 「本件基本契約、本件建物建築請負契約、本件原賃貸借契約はいわゆる事業受託方式のサブリース契約を構成する一連の複合的契約であって、しかもそのうちサブリース契約の解除・消滅の場合に転借人との関係は、本件原賃貸借契約における本件特約をもって、その当然承継を定めたものと認めることができる。そして、サブーリース契約において建物所有者に転貸借契約上の転貸人の地位に当然承継義務を定めたとしても、原則としてその転借人に不利益を生じさせるものではなく、サブリース契約当事者及び転借人の通常の取引意思にも合致するものであるから、その特約はサブリース契約にとっては第三者となる転借人のためにする契約としての効力を有し、転借人もその効力を当然に援用できるものと解するのが相当であ」る。
  • 「控訴人が本件において、右援用に意思表示をしているものと認められることは明らかである」。「そうすると、被控訴人は……サブーリース契約(本件原賃貸借契約)の解除により、同契約第二〇条の本件特約により、……本件転貸借契約に基づく賃貸人の地位を承継したものというべきであるから、控訴人が同契約に基づいて差入れた保証金返還義務も負ったものと解すべきである。」

〇最決平成12年4月14日民集54巻4号1552頁
 「民法三七二条によって抵当権に準用される同法三〇四条一項に規定する「債務者」には、原則として、抵当不動産の賃借人(転貸人)は含まれないものと解すべきである。けだし、所有者は被担保債権の履行について抵当不動産をもって物的責任を負担するものであるのに対し、抵当不動産の賃借人は、このような責任を負担するものではなく、自己に属する債権を被担保債権の弁済に供されるべき立場にはないからである。同項の文言に照らしても、これを「債務者」に含めることはできない。また、転貸賃料債権を物上代位の目的とすることができるとすると、正常な取引により成立した抵当不動産の転貸借関係における賃借人(転貸人)の利益を不当に害することにもなる。もっとも、所有者の取得すべき賃料を減少させ、又は抵当権の行使を妨げるために、法人格を濫用し、又は賃貸借を仮装した上で、転貸借関係を作出したものであるなど、抵当不動産の賃借人を所有者と同視することを相当とする場合には、その賃借人が取得すべき転貸賃料債権に対して抵当権に基づく物上代位権を行使することを許すべきものである。」

〇最判平成17年3月10日民集59巻2号356頁

  • 「所有者以外の第三者が抵当不動産を不法占有することにより、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ、抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、占有者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として、上記状態の排除を求めることができる……。そして、抵当権設定登記後に抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者についても、その占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ、その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、当該占有者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として、上記状態の排除を求めることができるものというべきである。……また、抵当権に基づく妨害排除請求権の行使に当たり、抵当不動産の所有者において抵当権に対する侵害が生じないように抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には、抵当権者は、占有者に対し、直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができるものというべきである。」
  • 「これを本件についてみると、……次のことが明らかである。本件建物の所有者であるA社は、本件抵当権設定登記後、本件合意に基づく被担保債権の分割弁済を一切行わなかった上、本件合意に違反して、B社との間で期間を5年とする本件賃貸借契約を締結し、その約4か月後、B社は上告人との間で同じく期間を5年とする本件転貸借契約を締結した。B社と上告人は同一人が代表取締役を務めており、本件賃貸借契約の内容が変更された後においては、本件賃貸借契約と本件転貸借契約は、賃料額が同額(月額100万円)であり、敷金額(本件賃貸借契約)と保証金額(本件転貸借契約)も同額(1億円)である。そして、その賃料額は適正な賃料額を大きく下回り、その敷金額又は保証金額は、賃料額に比して著しく高額である。また、A社の代表取締役は、平成6年から平成8年にかけて上告人の取締役の地位にあった者であるが、本件建物及びその敷地の競売手続による売却が進まない状況の下で、被上告人に対し、本件建物の敷地に設定されている本件抵当権を100万円の支払と引換えに放棄するように要求した。」
  • 「以上の諸点に照らすと、本件抵当権設定登記後に締結された本件賃貸借契約、本件転貸借契約のいずれについても、本件抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められるものというべきであり、しかも、上告人の占有により本件建物及びその敷地の交換価値の実現が妨げられ、被上告人の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるということができる。また、上記のとおり、本件建物の所有者であるA社は、本件合意に違反して、本件建物に長期の賃借権を設定したものであるし、A社の代表取締役は、上告人の関係者であるから、A社が本件抵当権に対する侵害が生じないように本件建物を適切に維持管理することを期待することはできない。」

〇福岡高判平成19年2月1日(平成18年(ネ)第806号)
 「Yの関連会社であり、本件貸室を実際に使用しているA社は、いわゆるテナントビルの一室である本件貸室の一部を、Dダッシュ団体の店舗の開店当初から、上記のように多数の風俗嬢の性病検査のために必要な血液や検体を採取する場所として、定期的に使用させていたものであって、仮にYの主張するとおり、A社の取引先であるB社からの依頼によりやむなく使用させたものであったとしても、それが、不動産業、広告請負業及びそれらに通常関連ないし付帯する業務のための事務所以外の目的に使用してはならないとの約定に違反することは明らかである。そして、身近な場所で、多数の風俗嬢の性病検査のために必要な血液や検体が採取されるなどということは、一般人をして強い警戒心や忌避の感情を喚起せしめないではおかない性質の行為であるから、上記のような約定のもとに本件貸室を賃貸していたXにとってはまことに遺憾なことであって、その約定違反の程度は極めて重大かつ悪質なものといわざるを得ない。また、A社の違反行為は、Yの違反行為と同視することができるから、Xの本件無催告解除は、特段の事情のない限りは有効であると解され、本件賃貸借契約は終了したことになるものというべきである。この点につき、Yは、風俗嬢の採血場所を提供していただけで、それは従業員の健康診断と変わるところはないなどと主張するが、風俗嬢の性病検査のために行われる採血を従業員の健康診断の際の採血と同視することができないのは当然であって、Yの上記主張は採用できない。」

〇大阪高判平成20年9月24日高裁民集61巻3号1頁
 「原賃貸借関係における本件敷金返還請求権を、転借人を委託者かつ受益者とし、原賃借人兼転貸人を受託者とする信託財産であると認定できるような特段の事情があるということはできず、結局、本件敷金返還請求権をもって被控訴人の信託財産であると認めることはできない。」

〇東京地判平成22年9月2日判時2093号87頁

  • 「賃借人は、賃貸借契約上、目的物の引渡しを受けてからこれを返還するまでの間、善良な管理者の注意をもって使用収益すべき義務を負うところ、少なくとも無断転貸等を伴う建物賃貸借においては、上記の点にかんがみると、その内容として、目的物を物理的に損傷等することのないようにすべきことにとどまらず、居住者が当該物件内部において自殺しないように配慮することもその内容に含まれるものと見るのが相当である。」
  • 「したがって、本件物件においてApが自殺したことは被告CCの善管注意義務の不履行に当たるというべきであるから、これと相当因果関係のある損害について、被告CCは原告に対し債務不履行に基づく損害賠償債務を負うことになる。」

〇最判平成22年9月9日集民234号385頁

  • 「本件念書は、数個の条項で構成され、そのうちの本件事前通知条項には、本件各土地に係るAの借地権の消滅を来すおそれのある事実が生じた場合は、上告人らは、被上告人にこれを通知し、借地権の保全に努める旨が明記されている上、上告人らは、事前に本件念書の内容を十分に検討する機会を与えられてこれに署名押印又は記名押印をしたというのであるから、上告人らは、本件念書を差し入れるに当たり、本件事前通知条項が、上告会社においてAの地代不払を理由に本件転貸借契約を解除する場合には、上記の地代不払が生じている事実を遅くとも解除の前までに被上告人に通知する義務を負うとの趣旨の条項であることを理解していたものといわざるを得ない。」
  • 「そうすると、上告人らは、本件念書を差し入れることによって、上記の義務を負う旨を合意したものであり、その不履行により被上告人に損害が生じたときは、損害賠償を請求することが信義則に反すると認められる場合は別として、これを賠償する責任を負うというべきである。このことは、上告人らが、本件念書の内容、効力等につき被上告人から直接説明を受けておらず、本件念書を差し入れるに当たり被上告人から対価の支払を受けていなかったなどの事情があっても、異ならない。そして、上告人らが不動産の賃貸借を目的とする会社等であること、上告人らが本件念書を差し入れるに至った経緯、上告会社が本件転貸借契約を解除するに至った経緯等諸般の事情にかんがみると、被上告人が上告人らに対して上記の義務違反を理由として損害賠償を請求することが信義則に反し、許されないとまでいうことはでき」ない。

〇東京地判平成25年12月11日(平成25年(レ)第790号)

  • 「控訴人は、本件転貸借契約は、原契約である平成7年契約を引き継いだ上で、新たに控訴人を貸主とするために作成されたもので、実質的には賃貸人の地位の控訴人への譲渡にすぎず、このことによって連帯保証人であるDに不利益を与えることもないから、本件保証債務は本件転貸借契約に引き継がれる旨主張する。」
  • しかしながら、本件転貸借契約書の冒頭には、本件貸室の賃貸借について、 Gと控訴人との間の賃貸借契約締結に伴い、「従来の賃貸借契約を合意解除の上」、新たに、転貸人である控訴人と、転借人であるCは、賃貸借契約を締結した旨記載されていることが認められる。そして、推認される本件転貸借契約の締結に至る経緯、すなわち、〔1〕Gは、平成18年9月14日に本件ビルの所有権を取得して以降、Cに対して平成7年契約に基づく賃貸人の地位を有していたが、その後、Gが自ら直接にCに対する賃貸人の地位に立つのではなく、控訴人を転貸人、Cを転借人とするサブリース契約に切り替えることとしたこと、〔2〕GとCとの間の平成7年契約を解除することなく存続させた場合、この契約と、Gを賃貸人、控訴人を転貸人、Cを転借人とするサブリース契約とが二重に存在してしまうこととなることから、上記のようなサブリース契約への切替を実現するため、平成7年契約を解除するとともに、本件転貸借契約を締結し、上記契約書が作成されたことを踏まえれば、本件転貸借契約書は、その字義どおり、平成7年契約を合意解除するとともに、新たに、Cとの間の賃貸借契約の諸条件を定める趣旨と理解することが素直というべきである。
  • 「また、本件全証拠を総合しても、Dが本件連帯保証契約を締結した当時において、連帯保証人であるDにおいて、賃借人であるCの本件貸室についての利用関係が転貸借契約に基づくものに切り替わること等を予測し得たことを認めるに足りない上、実質的に見ても、単純な賃貸借から転貸借へと法律関係が変更されると、原賃借人兼転貸人である控訴人に賃料不払等の債務不履行があったときにまで転借人であるCは本件貸室の明渡義務を負わなければならなくなり、ひいてはその保証人である被控訴人が当該義務に係る債務不履行についても保証債務を負うおそれがあるなど、保証人の立場からみて、賃貸借契約の対象物件について所有権の移転が生じ、それに伴い賃貸人の地位が承継された場合と同視することのできない差異が生じるのであって、このような点を踏まえると、平成7年契約の連帯保証人であったDにおいて、本件転貸借契約についても連帯保証人となることを予め承諾していたと認めることはできない。しかも、前提事実によれば、Dは、本件転貸借契約が締結されるより10年以上も前に死亡しており、同人が本件転貸借契約に際して、連帯保証の意思を表示する余地はない。」
  • 「これらに照らすと、本件転貸借契約は、平成7年契約の一部変更にとどまらず、別個の合意とみるほかなく、本件保証債務が本件転貸借契約に引き継がれるということはできない」。「したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。」

〇東京地判平成26年12月11日(平成26年(ワ)第6462号)

  • 「建物の借主は、賃貸借契約上、当該建物の使用収益に際し、善良なる管理者の注意をもってこれを保管する義務を負う。賃借建物内で借主又はその他の居住者が自殺をした場合、当該建物を使用しようとする第三者がこれを知ったときには相応の嫌悪感ないし嫌忌感を抱くことは否定できず、そのために当該建物については、新たな借主が一定期間現れず、また、現れたとしても本来設定できたはずの賃料額よりも相当程度低額でなければ賃貸できなくなることは容易に推測できる。したがって、建物の借主は、賃貸借契約上の義務として、少なくとも借主においてその生活状況を容易に認識し得る居住者が建物内で自殺をするような事態を生じさせないように配慮しなければならないというべきである。また、建物の賃借人が、賃貸人の承諾を得て当該建物を転借している場合、転借人は、賃貸人に対して直接に契約上の義務を負うことになるから(民法613条1項)、被告は、原告会社のみならず原告Aに対しても上記賃貸借契約上の義務を負う。」
  • 「被告は、本件建物においてDと同居していた事実がなく、また、本件事故を予見し、未然に防止することは不可能であった旨主張する」。「原告と被告が、平成25年5月当時、交際関係にあったことは当事者間に争いがないところ、……Dが、平成25年5月5日、それまで独居していた埼玉県越谷市αのアパートを退去して、それ以後、本件建物で生活を開始したこと、その際に冷蔵庫や洗濯機などの家財道具を持ち込んだことが認められる。これらの事情を考慮すれば、Dが、同日以後、本件建物で被告と同居していたことを認めることができる」。「被告は、平成25年5月5日以後、Dと生活を共にしていたのであるから、その行動や生活状況を把握し得る立場にあったと認められるから、少なくとも本件建物の賃貸人及び転貸人である原告らとの関係において、本件事故がその善管注意義務に違反したものであることを否定できない。したがって、被告は、本件事故によって生じた原告らの損害を賠償すべき義務を負う。」

〇東京地判平成27年8月7日(平成27年(ワ)第7782号)

  • 被告SSCは、被告Kから平成26年10月に本件建物を転借して占有を開始したことは認めるものの、被告Kから本件賃貸借契約と同様の条件で転貸できると聞いていたので原告の承認を得ていると認識していた旨主張する。しかしながら、弁論の全趣旨(本訴訟において、被告K及び被告U1は原告の承諾を得ていないことについて争っていない。)に照らせば、被告Kが原告の承諾を得ずに転貸した事実は認められる。また、「被告SSCは、平成27年1月末日に本件建物での営業を停止したものの、原告から二度にわたり明渡請求を受けながらも、原告に鍵等を返還せず、施術録や通院記録といった所有物を置いたままの状態を続けたのであるから、実際に原告に鍵等が返還された平成27年4月27日まで、占有を継続したものと認めるのが相当である。」
  • 「請求原因事実……が認められるため、被告SSCは、平成26年12月1日から平成27年4月27日までの賃料相当損害金として合計158万7600円の支払義務を負うと認められる」。これに対して、被告SSCは、原告の承諾を得ていると誤信して転借した旨主張しているが、前記のとおり、実際に原告の承諾は得ていないのであるから原告に対して占有権原を対抗できない上、被告SSCが原告の承認を得ていると誤信した理由は、単に被告Kから同様の条件で転貸できると聞いたというだけであるから、不法占有について、被告SSCには少なくとも過失があるといわざるを得ない。また、被告SSCは、平成26年10月から平成27年1月までの賃料は被告Kに支払済みである旨主張するが、原告は、被告Kからも被告SSCからも平成26年12月1日以降の賃料の弁済を受けておらず、原告が被告SSCの不法占拠によって損害を被っていることに変わりはないため、被告SSCは、被告Kに対する賃料支払によって、原告に対する不法占有に基づく損害賠償債務を免れない。「以上によれば、被告SSCの前記主張を踏まえて検討しても、被告SSCは本件建物の不法占有に基づく損害賠償債務を免れない」。さらに、「被告SSCは、平成26年10月分から平成27年1月分までの電気使用料相当額の利得を得たと認められるため、同額について不当利得返還債務を負うと認められる。」

〇仙台地判平成27年9月24日(平成26年(ワ)第762号)

  • 「平成18年12月20日、被告Y1は、原告会社との間で本件賃貸借契約を締結して302号室に居住し始めるとともに、遅くとも平成20年11月14日以降、Mが同所において被告Y1と同居するようになったものと認められる。そして、302号室に居住していたMは、平成23年6月23日に同室のバルコニーにおいて首を吊って自死したものであるが、かかる事故が生じたことは、一般的に当該居室を賃借するに当たっての心理的な忌避感あるいは抵抗感を抱かせるものであり、かつ、客観的にも、一定の期間にわたり、その価値を減殺し得るものということができる。この点、被告らは、かかる忌避感等は迷信に基づく偏見に過ぎない旨の主張をするが、賃借するか否かを判断するに当たり、当該物件において、かつて自死が行われていたという事実が、一定程度その意思決定に影響を与えるであろうことは容易に推認できるところであり、これにより損害が生じないということはできない。そうすると、Mが自らの意思に基づき、302号室のバルコニーにおいて首を吊って自死したことにより生じた損害につき、同人は不法行為責任を負うものというべきであり、同人の死亡に伴い、その子である被告Y3及び被告Y4は同債務を2分の1の割合で相続したものと認められる。」
  • 「被告Y1についてみるに、同被告がMと同居する者であり、不動産仲介業者に対して説明したように、東日本大震災による原発事故の後、Mが思い悩んでいて、うつ状態に陥っていたと認識していたとしても……、上記事実のみから、被告Y1が、本件マンションにおいてMが自死することを予見し得たとともに、これを回避すべき義務を怠ったものとまでいうことはできず、その他に、Mの自死に関し、同被告に過失を認めるに足りる証拠はない。他方、被告Y1は、原告会社から302号室を賃借していたところ、Mは同被告の占有補助者ということができるから、信義則上、同人の過失をもって、被告Y1の原告会社に対する債務不履行に当たるものと認めることができる。そうすると、被告Y1は、原告らに対する不法行為責任は負わないものの、原告会社に対し、本件自死により生じた損害についての債務不履行責任を負うものと認められる。」

〇東京地判平成28年12月19日(平成26年(ワ)第34203号、平成27年(ワ)第27947号)

  • 「本件建物は、本件賃貸借契約時は1階2部屋、2階4部屋の建物であったこと、被告会社は、……本件賃貸借契約締結後まもなく、本件建物を16部屋(1階6部屋、2階10部屋)に細分化する工事を行ったこと、被告会社は、同工事終了後、WEB上に本件建物をシェアハウスとして広告を出し、不特定多数人に本件建物の各部屋を転貸したことが認められる」。「前記の本件建物の使用態様は、本件賃貸借契約の内容に反するものというべきところ、被告会社……は、同契約締結の当初から、本件建物をシェアハウスとして利用することが原告と被告会社との間で合意されていた旨主張する」が、この点について検討すると、「本件賃貸借契約締結の当初から、本件建物をシェアハウスとして利用することが原告と被告会社との間で合意されていたとの事実を認めることはできない。」
  • 「本件賃貸借契約の規定の変更内容から見て、原告が本件建物の転貸を許容したとはいえるものの、本件建物を16部屋に細分化した上、シェアハウスとして不特定多数人に転貸することまで許容したとはいい難いし、qの発言も、かかる転貸を承知したものとまでは見られないから、原告が被告会社による本件建物の使用形態を承諾して本件更新契約の締結に応じたとの事実を認めることはできない。」
  • 「以上によれば、被告会社は、本件賃貸借契約に違反し、同契約締結後まもなく、本件建物を16部屋に細分化する工事を行った上、WEB上に本件建物をシェアハウスとして広告を出し、不特定多数人に本件建物の各部屋を転貸したことが認められ、その時期及び態様に照らせば、被告会社の上記行為が原告と被告会社との間の信頼関係を破壊するものであることは明らかというべきである。」

〇東京地判平成30年10月24日(平成29年(ワ)第13545号)

  • 賃貸人たる被告らは、転借人たる原告に対し、賃借人兼転貸人Iの賃料不払を告げずに本件合意書を交付したということができるが、Iの賃料不払を告げなかったのは、原告がIの未払賃料の有無に関心がなかったためであると考えられるのであり、そうすると、被告らが、Iの賃料不払の事実を秘匿するとの意図の下に、殊更にIの賃料不払を告げなかったと認めることはできない。そして、本件同意書の「やむを得ない事情」にIの賃料不払という債務不履行が含まれていると解することができないことからすると、被告らが、Iの賃料不払を秘して本件同意書を交付したことにより、原告をしてあたかもIの債務不履行状態が存在せず、将来においてもIが被告らに対し月額944万9996円の賃料を支払えば、本件転貸借契約及び本件再転貸借契約が継続するかのように誤信させ、本件転貸借契約及び本件再転貸借契約を締結させたということはできない。被告らが原告に対しIの賃料不払を告知することなく本件同意書を交付した行為について、故意による不法行為が成立するとはいえない。
  • また、仮に、原告が、〔1〕本件同意書の「やむを得ない事情」にIの賃料不払という債務不履行が含まれると考えていたので、〔2〕Iの賃料不払を理由に本件賃貸借契約が解除されても、本件転貸借契約が被告らに引き継がれると考えていたとしても、上記〔1〕の考えは、法的保護に値しないから、被告らが原告に対しIの賃料不払を告知することなく本件同意書を交付した行為について、過失による不法行為が成立するとはいえない。

〇東京高判平成30年10月31日金商1557号26頁

  • Xは入居者募集にあたり、定期建物賃貸借契約とすることを条件としており、Yもこれを認識の上入札に参加したこと、及びYとの交渉にあたりXとAは、定期建物賃貸借契約の性質を損なうような契約条項の変更には応じられない旨を一貫して主張していたこと、が認められる。
  • 本件賃貸借契約の締結交渉は、一連の交渉を積み重ねて契約締結の準備が行われ、遅くとも賃貸借開始予定日であった平成29年1月16日には、Xに本件賃貸借契約の成立が確実であるとの合理的な期待を抱かせるに至ったものというべきであり、平成28年12月27日以降に契約条項の文言を巡って最終調整が行われたものの、Yによる度重なる契約条項の修正依頼は、定期建物賃貸借という契約交渉当初からの前提条件を、製本済賃貸借契約書が交付され押印直前となった段階に至ってから覆すものといわざるを得ず、Xの上記期待を正当な理由なく侵害するものとして、信義則に反する行為と認めるのが相当である。よって、Yの信義則違反にあたらないとする主張は採用できないことから、Yは本件賃貸借契約の締結交渉を破棄したことにつき、不法行為責任を負う。

〇東京地判平成31年2月21日判タ1468号171頁
 「被告会社の第二事件に係る訴えのうち、被告会社が、原告及び被告Bに対し、本件建物部分1について被告Bの原告に対する賃料債務の不存在の確認を求める訴えは、他人である原告と被告Bの間の権利関係の存否の確認を求めるものであり、かつ、当該権利関係を判決主文において確認することが、被告会社と原告又は被告会社と被告Bの間の法的紛争を解決するために必要とは認められないから、訴えの利益があるとはいえない。したがって、上記訴えは却下されるべきである。」

〇東京地判平成31年4月25日判タ1476号249頁

  • 「本件賃貸借契約には、転貸を可能とする内容の特約が付されているが、他方で、本件建物の使用目的は、原則として被告の住居としての使用に限られている。これによれば、上記特約に従って本件建物を転貸した場合には、これを「被告の」住居としては使用し得ないことは文理上やむを得ないが、その場合であっても、本件賃貸借契約の文言上は、飽くまでも住居として本件建物を使用することが基本的に想定されていたものと認めるのが相当である。」
  • 「これに対し、被告は、本件賃貸借契約において転貸が可能とされていた以上は、転貸後の使用目的を被告の住居としての使用に限る理由はなく、民泊としての利用も可能とされていたなどと主張する。しかし、特定の者がある程度まとまった期間にわたり使用する住居使用の場合と、1泊単位で不特定の者が入れ替わり使用する宿泊使用の場合とでは、使用者の意識等の面からみても、自ずからその使用の態様に差異が生ずることは避け難いというべきであり、本件賃貸借契約に係る上記……の解釈を踏まえれば、転貸が可能とされていたことから直ちに民泊としての利用も可能とされていたことには繋がらない。本件建物を民泊の用に供することが旅館業法に違反するかどうかは措くとしても、……現に、……他の住民からは苦情の声が上がっており、ゴミ出しの方法を巡ってトラブルが生ずるなどしていたのであり、民泊としての利用は、本件賃貸借契約との関係では、その使用目的に反し、賃貸人である原告被承継人との間の信頼関係を破壊する行為であったといわざるを得ない。」
  • 「この点に関し、被告は、原告被承継人から要請を受けた後、直ちに民泊としての利用を停止したと主張するが、……被告は、平成28年3月頃にDから指摘を受け、その後、保健所から照会を受けてもなお本件建物を民泊の用に供していることを認めず、同年11月に至ってようやく本件建物における民泊を終了させている。しかも、同月27日の最後の宿泊は、同年4月頃に予約されたものであったというのである。仮に、被告において、本件建物を民泊の用に供することが本件賃貸借契約上許容されていないとの認識を十分に有していなかった事実があったとしても、上記のような被告の対応を踏まえれば、原告被承継人との間の信頼関係を破壊するには十分なものであったというべきであり、本件建物における民泊を終了させたことのみをもってこの信頼関係が回復されたと認めるには足りない」。「また、被告は、民泊の利用者用のゴミ捨て場としてポリバケツを独自に設置するなどの手配をしたと主張し、……これに沿う事実も認められるところであるが、原告被承継人が……指摘しているように、民泊の利用者が出すゴミは、民泊という事業活動に伴って生じた産業廃棄物に当たるものとして、上記の処理方法は廃棄物の処理及び清掃に関する法律に違反するとされる余地があるから、被告において上記手配をしたことをもって信頼関係の破壊が生じておらず、又はこれが回復したと認めることはできない。」
  • 「被告は、本件建物を民泊の用に供することにつき原告被承継人の承諾を受けていたと主張し、証人Eもこれに沿う証言をする。しかし、……原告被承継人は、本件賃貸借契約の締結に先立ち、民泊はやりたくないとの意向を示していたのであり、本件賃貸借契約の締結に際しても、本件建物を民泊の用に供することにつき明示的に承諾したことはなかったというのであるから、本件建物を民泊の用に供することにつき賃貸人である原告被承継人又は原告の承諾があったと認めるには足りず、ほかに、そのような承諾があったことを認めるに足りる適確な証拠はない。」
  • 「以上によれば、本件建物を民泊の用に供したことは、本件賃貸借契約上の使用方法に違反するものであったといわざるを得ず、これにより、原告被承継人又は原告と被告との間の信頼関係は破壊され、現時点においてもなお回復には至っていないものと認められる」。「原告は、本件建物を民泊の用に供したことをもって本件賃貸借契約に違反し、信頼関係が破壊されたとも主張しており、原告のこの主張が相当であることは前示のとおりであるから、本件解除は、本件建物を民泊の用に供したことを理由とする債務不履行による解除として有効と解すべきである。したがって、被告は、原告に対し、本件賃貸借契約の終了に基づき、本件建物を明け渡すべき義務を免れない。」

〇東京地判令和3年7月20日金商1629号52頁

  • 「被告らは、新型コロナウィルス感染症の影響により被告……が本件貸室を使用して営む飲食店の利益は90%減少していることからすると、原告の被告……に本件貸室を使用収益させる債務が90%消滅しているといえ、危険負担の債務者主義により、被告の賃料支払債務も90%相当額が消滅する、また、少なくとも令和2年4月7日から同年5月6日までは、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が出されたため、本件貸室を飲食店として使用することができなかったから、同期間の賃料は発生しないと主張する。」
  • 「しかしながら、一般に、賃貸人は賃借人に対して賃貸物件を使用収益させる債務を負っているところ(民法601条)、原告は、被告……に対し、本件貸室の使用を制限するなどしておらず……、本件貸室を使用収益させているといえる。そして、賃貸人は、賃借人に対し、賃貸物件の使用により賃借人に利益を得させる義務を負うものではなく、原告と被告……との間において、このような義務を定めた特約の存在をうかがわせる証拠も見当たらない。そうすると、新型コロナウィルス感染症の影響により本件貸室を使用して営む飲食店の利益が減少したとしても、その減少の割合に応じて、原告の被告……に対する本件貸室を使用収益させる債務が消滅するものと解することはできない。また、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が出されたことなどをもって、本件貸室が使用不能となったと評価することもできない。したがって、被告らの上記主張を採用することはできない。」

〇東京地判令和3年7月29日(平成31年(ワ)第10009号)

  • 「被告は、本件転貸借契約は本件土地の転貸及び本件土地の開発行為の内容について本件土地の所有者の承諾が得られることを効力発生条件とする停止条件付契約であったにもかかわらず、これらについて本件土地の所有者の承諾は得られなかったため、停止条件の未成就により本件転貸借契約の効力は発生していない旨主張する。しかし、本件転貸借契約の第8条……によれば、そもそも、原告は本件土地の所有者らから本件土地を被告に転貸することについて承諾を得ることとはされているものの、被告が行う本件土地の開発行為の内容についてまで承諾を得なければならないものとはされていない。また、その点を措くとしても、……原告は、本件土地の所有者らから、本件土地を被告に転貸すること及び被告が行う本件土地の開発行為の内容について承諾を得ていたものと認められる。したがって、被告の上記主張は採用できない。また、被告は、原告が本件土地の開発許可申請手続に必要な土地所有者の承諾書(開発行為同意書)を被告に交付していなかった点からしても本件転貸借契約の効力発生を認めることはできない旨主張するが、そもそも、本件転貸借契約の契約書……の記載等に照らしても、本件土地の所有者から原告が開発行為同意書を取得することやそれを被告に交付することが本件転貸借契約の効力発生要件になっていたとは認められない。したがって、被告の上記主張は採用できない。」
  • 「本件転貸借契約は、……転借料不払を理由とする原告の解除によって平成31年3月6日に終了したと認められるところ、被告は、……その後も少なくとも令和元年7月11日までの間は本件土地を権原なく占有していたものと認められるから、不法行為に基づき、原告の主張する……期間分について、本件土地の賃料相当損害金を原告に支払う義務を負う。」

〇東京地判令和3年8月12日(令和2年(ワ)第6130号)
 「本件解除1の時点において、本件未払が存在しており、その額も合計152万円(4か月分)と少なくない金額である上……、本件催告に係る書面は保管期間経過により返送されるなど……、被告会社は原告と連絡を取り合うことを軽視しており、誠実に対応していたとはいえないことを併せ考慮すると、原告が、本件転貸について黙示の承諾をしていたものと評価する余地があることを踏まえても、本件未払は、本件賃貸借契約における信頼関係を破壊するに足りるものと認められる」。「被告らは、本件相殺1及び2により、本件未払は存在しないと主張するが、相殺の意思表示は、それ以前に既に有効になされた賃貸借契約解除の効力に影響を与えるものではないから……、同主張は採用することができない」。「したがって、本件未払を解除事由とする本件解除1による本件賃貸借契約の解除は有効であり、これにより本件賃貸借契約は終了したと認められる。」

〇東京地判令和3年10月29日(令和2年(ワ)第4782号)

  • 原告は、被告Tが本件建物1及び2において営業することについて、被告Tが訴外H社の100%子会社であることを条件として被告Tへの転貸について承諾したにもかかわらず、経緯は不明であるが、H社は被告Tの100%株主の地位を喪失しており、被告Tが本件特約事項に違反しているから、転貸承諾の効力は喪失し、被告Tが本件建物1及び2の正当な占有権原を有しないと主張する。
  • しかし、H社の代理人であるK弁護士はH社からFに対する株式譲渡の事実を否定しているほか、株主総会の議事録(被告Tの株式譲渡には株主総会の承認が必要である。)や株主名簿など、H社からFに対して被告Tの株式が正規の手続を履践して譲渡されたことを裏付ける客観的な証拠は何ら存在しておらず、他にこれを認めるに足りる証拠はない(したがって、Fから被告Lに対する本件譲渡契約も、少なくとも被告Tとの関係では無効であると解される。)。また、被告Tについて「(株主が100%株式会社H)のときに限る」と定める本件特約の解釈については争いあるが、いずれにせよ、原告がH社に対し、飲食店の運営を被告Tに委託する条件として明記されたものであって、仮にこれと齟齬する株式譲渡が行われたとしても、それはH社による転貸借の条件違反となるにすぎず、原告が承諾済みのH社及び被告T間の適法な転貸借契約の効力(本件建物1及び2に係る被告Tの占有権原)が直ちに失われる法的根拠はないというべきである。したがって、本件特約違反の有無を論ずるまでもなく、本件賃貸借契約を解除すらしていない原告が被告Tに対する本件建物1及び2の明渡しを求める請求は主張自体失当であって、採用できない。以上の検討によれば、被告Tによる占有権原が喪失したとは認められないから、原告の被告Tに対する本件建物1及び2に関する明渡請求も理由がない。

〇東京地判令和3年12月15日(令和3年(ワ)第5751号)

  • 「aビルの建替え工事を実施する必要性は、直接的にはaビルの所有者にあり、原告は、本件共同事業計画に基づき、……建替え後の新たな建築物を賃借して、第三者に転貸して収益を上げることを計画しているに過ぎず……、原告自身によるaビルの使用の必要性を直ちに認めることはできない。そうすると、原告が本件賃貸借契約の更新を拒絶することにつき「正当の事由」があるかどうか評価するに当たって、aビルの建替え工事の必要性を殊更に重視することはできないというべきである。他方で、被告は、本件建物を住居として使用しているところ……、本件建物に居住していた期間は5年に満たないことを踏まえると……、被告が主張するような本件建物の使用の必要性は、いずれも本件建物に居住し続けたいという被告の願望に過ぎない。aビル付近には、本件建物と同程度の規模(25平米前後)、賃料(5万円前後)で居住することができる物件も存在することが窺われることからすれば、被告が本件建物を使用する必要性もさほど重視することはできないというべきである。」
  • 「以上を踏まえると、原告が、……別件の少額訴訟において、被告から反社会的勢力であるとか、犯罪を行っているなどと不穏当な主張がされており、被告との間の信頼関係が築けていない賃貸借契約の経過……を踏まえても、上記のとおり、原告と被告との関係では、本件建物の建替え工事を実施する必要性があることだけでは、原告が本件賃貸借契約の更新を拒絶することにつき「正当の事由」があると評価することはできず、立退料の支払によってその「正当の事由」を補完する必要があるというべきである。」
  • 「そこで、原告が被告に対して支払うべき立退料の額について検討すると、原告は、立退料の支払が必要であったとしても少額に留まるべきと主張して、予備的請求として30万円の支払を提示しているが、被告が本件建物から転居し、同程度の規模、賃料の物件を賃借する際の費用などを考慮すると、本件建物の賃料の半年程度では立退料の額として不十分であり、賃料の10か月相当額である53万円をもって、「正当の事由」を補完する立退料とするのが相当である。」

〇東京地判令和3年12月21日(令和1年(ワ)第17228号)

  • 訴外Hから被告Tへ本件建物が賃貸されたことは、両者の間で各契約書が作成されていることから明らかである。また、〔1〕本件建物の単独所有者となっていた訴外Dと原告との間の本件建物の売買に係る契約書に、賃貸借契約等の売買の目的を阻害する権利があることを前提とする記載があり、これを解除及び排除して引き渡した場合に支払われるとされている留保金4億4820万円が支払われた事実はうかがわれないこと、〔2〕当該売買に係る重要事項説明書に、Hと被告Tとの間に賃貸借契約が締結されている旨の記載があること、〔3〕本件通知書に、Dが原賃貸人、Hが転貸人、被告Tが転借人の地位にあることを前提とする記載があることからすれば、遅くとも原告が本件建物を取得した時点までに、DからHへの賃貸が行われ、DはHから被告Tへの転貸を承諾していたと認めるべきである。したがって、遅くとも原告が本件建物を取得した平成25年3月21日の時点において、本件建物の所有者であったDからHへ、Hから被告Tへの各賃貸及び後者についてのDの承諾があったと認められる。
  • 本件転貸借契約については、Hの承諾が認められ、仮にこれが認められないとしても、その承諾に代わるHに対する背信行為と認めるに足らない特段の事情があるというべきである。また、Dは、本件建物の賃貸をHに一任していたと認められるから、Hによる本件建物の転貸には包括的にDの承諾があったと推認するのが相当である。そうすると、被告Tから被告Sへの本件建物の転貸についても、上記のとおりHの承諾又はこれに代わるHに対する背信行為と認めるに足らない特段の事情があると認められる以上、Dの承諾又はこれに代わるDに対する背信行為と認めるに足らない特段の事情があると推認すべきであって、これを覆すに足りる証拠は認められない。
  • したがって、本件転貸借契約についてD及びHの承諾又はこれに代わる両者に対する背信行為と認めるに足らない特段の事情があると認められる。以上からすれば、被告らは、Dから本件建物を譲り受けた原告に対し、賃貸借契約又は転貸借契約に基づく占有権原を対抗することができ、また、原告の主張する無断転貸を理由とする解除には理由がない。

〇東京地判令和4年11月10日(令和3年(ワ)第28244号)

  • 「被告会社は、令和4年7月19日の時点で、別紙滞納額等計算書記載のとおり、未払固定賃料計1669万1860円、未払共同管理費計1248万8913円、未払区画内管理費計43万8624円、未払電気料計89万3636円、未払水道料71万4350円及び未払熱供給料(時間外空調熱使用料)計1501円の小計3122万8884円を支払っていないことが認められる。」
  • 「前記……認定の被告会社の賃料等未払は著しいため、原告と被告との本件契約に係る信頼関係の破壊は著しく、原告は、被告会社に対し、催告を経ることなく本件契約を解除することができると解するのが相当である。また、……被告Bは令和2年8月14日時点で被告会社の代表取締役の地位にあったと認められるから、前記……認定の被告Bに対する通知の送付は、催告と解することができる。したがって、本件契約は、令和4年7月19日、前記……認定の被告会社に対する履行遅滞による解除を原因として終了したものと認められる。」

〇東京地判令和5年9月11日(令和4年(ワ)第6592号)

  • 「本件建物は、大正9年に建築された木造住宅の東側半分であるところ……、一級建築士による耐震診断においては、土台や基礎に問題があるなどの理由から、倒壊する可能性が高く、今後、本件住宅を詳細に調査したとしても、倒壊しないという判定となる可能性は極めて低いと評価されている上……、令和3年8月時点でも、本件住宅には、基礎や外壁に多数のクラックや隙間、亀裂等が確認されているのであり……、このような本件住宅の現状、特に本件住宅が築後100年を超える木造住宅であり、主要構造部の老朽化が著しく、一級建築士により倒壊する可能性が高いと診断され、その診断の根拠に客観的な裏付けがあることに照らすと、安全性の見地から、原告において、本件住宅を解体する必要性を肯定することができる」。「また、被告Bは、賃料を3か月間滞納し……、耐震診断における本件建物への立入りを拒否しているところ……、本件賃貸借契約上、賃料等の支払を1か月以上怠ったときは、無催告で契約を解除できること……、耐震診断は、本件住宅の所有者としての原告の責任や賃貸人としての修繕義務を履行するためにも必要な行為であることに照らすと、被告Bによるかかる行為は、信頼関係破壊の一事情として、原告の正当事由具備の主張を補強するものというべきである。」
  • 「他方、被告Bは、被告会社の事業として、本件建物における飲食店営業の許可を得ているが……、その営業形態は、D店の客に下町情緒の味わいや女性や子供も楽しめる場を提供するといった、いわばD店の魅力を付加するものにすぎず、本件建物における独自の売上実績を有していないのであり……、このような本件建物の使用方法に照らすと、被告Bに相応の本件建物の自己使用の必要性が認められるとしても、その必要性は高度なものとまではいえず、被告Bが本件建物から退去することによって受ける不利益は、金銭によって補償することが可能である」。「そして、本件賃貸借契約の賃料が月額9万円と比較的低廉であること……、本件建物の内装や備品は比較的簡素で……、本件建物からの引越費用が高額になるとは考えられないこと、原告が50万円又は相当額の立退料の提供を申し出たことなどからすれば、立退料額としては120万円を相当とすべきであり、原告が同額の立退料の提供を了承していることを併せ考慮すれば、原告の本件解約申入れには正当事由が認められる。」
  • 「よって,本件賃貸借契約は、令和3年11月21日をもって終了したということができる。」

 

5 まとめ

 以上、賃貸借契約および転貸の基本的な法律関係について概説しました。

 上述のように、転貸が絡む場合には賃貸人・賃借人(転貸人)・転借人という複数の当事者間の法的関係が問題となることに加え、背信性など総合的な判断が必要となる場合もあるため、紛争に発展しやすいと言えます。

 かかる紛争を適切に解決するためには、専門的知識を有する弁護士にご相談されることをお勧め致します。

 特に以下のような方はご遠慮なくご相談ください。

・賃貸人から無断転貸による賃貸借契約解除を主張されている方

・賃借人(転貸人)が目的物を第三者に無断転貸しているため賃貸借契約を解除したい方

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