風評被害対策 口コミサイトやSNSで誹謗中傷された場合の対応 ~民事における名誉毀損の要件~

はじめに

 食品・飲食業のお客様・消費者は、口コミサイトやSNSなどを通じて食品や飲食店の情報を発信し、どの食品・飲食店を購入・利用しようか選択する際には、それらの情報を確認する・・・こういったことが最近ますます多くなっている上、口コミサイトやSNSでの投稿は広範囲に即時に拡散される可能性があります。
 良い投稿は、食品や飲食店に対して良いイメージを植え付け、集客にも繋がりますが、悪い投稿は、売上の減少の原因となってしまいます。
 このような口コミ等により風評被害を受けた場合、食品・飲食事業者の皆様としては、どのような手段を取ることができるのでしょうか。
 以下では、まず、口コミサイトやSNSでの投稿によって食品・飲食事業者の名誉が毀損された場合に取ることのできる手段について概観した上で、民亊における名誉毀損の要件についてご説明します。

名誉が毀損された場合の手段

 口コミサイトやSNSでの投稿によって名誉が毀損された場合、食品・飲食事業者の皆様が検討しうる手段としては、

①投稿者を名誉毀損罪に問う(刑事)

②投稿者に対して、名誉毀損を理由に、不法行為に基づく損害賠償請求をする(民事)

③口コミサイトの運営者等に対して、名誉毀損を理由に、人格権(名誉権)に基づく妨害排除(予防)請求としての差止請求(その投稿の削除請求)をする(民事)

等が考えられます。
 ここでは、の検討にあたり、民事において名誉毀損だと認められるのはどのような場合かについてご説明します。

名誉毀損の要件

 名誉棄損が

名誉

そもそも、法律上の概念である「名誉」は、一般的に以下の3つに分類されると考えられています。

《 内部的名誉 》
自己や他人が自身に対して下す評価から離れて、客観的にその人の内部に備わっている価値そのもの

《 外部的名誉 》
人に対して社会が与える評価

《 名誉感情・主観的名誉 》
自己が自身の価値について有している意識や感情

 不法行為としての名誉毀損にいう「名誉」とは、判例上、外部的名誉に限られます。
 なお、名誉感情を社会通念上受忍すべき限度を超えて侵害された場合は、名誉毀損ではありませんが、民事上、不法行為に基づく損害賠償請求ができるとされています。

社会的評価の低下

内容・程度 》
 名誉を毀損するとは、特定の人・団体の社会的評価を低下させることをいいます。ただし、現実に低下させることまでは必要なく、低下を招く危険性を生じさせることで足りるとされています。
 ただし、単に社会的評価の低下やその危険性が認められた場合、直ちに不法行為としての名誉毀損にあたるとされるわけではありません。裁判実務上、不法行為といえる程度の社会的評価の低下がある場合に限り、不法行為としての名誉毀損にあたると判断されています。

《 基準 》
 社会的評価が低下するか否かは、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断されます。その際、表現対象の社会的地位や状況等も考慮されます。
 ここでいう一般の読者とは、その文章が表現される媒体の一般的な読者をいいます。たとえば、特定のテーマを取り扱っているネット掲示板では、そのテーマに関心を有している人たちが読者と考えられます。
 ただし、インターネットでは、誰でも閲覧することが可能な状態であることが多いため、投稿者が意図していない人にも閲覧される場合が多くあります。

 たとえば、SNSへの投稿について、投稿者としては、投稿者のSNSアカウントをフォローしている友人・知人に対してのみ発信したつもりであっても、SNSの性質上、フォローしている友人・知人以外にも知られてしまうことになります(閲覧制限などの対応をしていない場合)。このような場合には、投稿者の意図した閲覧者ではなく、現実の読者を基準に、その投稿をどのように受け取ったか、という基準で判断されることになります。

 では、どのような場合に、投稿内容が一般的に社会的評価を低下させるといえるのでしょうか。
 たとえば、食品会社の社長について、犯罪歴がある、反社会的勢力と付き合いがある、セクハラ・パワハラをしている、従業員に対して違法な長時間労働をさせているなどと投稿された場合には、現在の日本社会では社会的評価が低下したと判断される可能性が十分あるでしょう。
 また、著名な料理人や希少な食材を前面に打ち出している飲食店の場合、本当はその料理人はその店の料理に関与していない、実は希少な食材を利用していないなどといった投稿は、その飲食店の信頼を根本から揺るがすものとして、社会的評価が低下したと判断される可能性が高いでしょう。

インターネット上の投稿は信用性が低いか 》

 投稿がされた媒体の信用性が低い場合、投稿された媒体の信用性が低いのだから、そのような媒体に投稿したことによって社会的評価は低下したといえない・・・このような主張がされることがあります。特に、インターネット上の投稿は、新聞などと異なり、投稿されるまでに十分な推敲や裏取りがされるとは限らない上、匿名でされることが多く、一般的に信用性が低いのではないかという議論がされています。
 しかし、裁判実務では、一概にインターネット上の表現だからといって直ちに信用性が低いとは考えられていません。従って、インターネット上の投稿であることを理由として、社会的評価の低下を否定されるものではありません。

表現方法 》
 投稿の表現方法は、社会的評価低下の程度の判断要素となります。
 たとえば、仮定や疑惑の話として表現する場合や、伝聞や噂として表現する場合は、断定的に表現する場合よりも社会的評価の低下の程度が低いと判断されることがあります。
 もっとも、社会的評価の低下の程度は、具体的な表現方法や表現内容等を踏まえて判断されます。従いまして、仮定・疑惑・伝聞・噂として表現すれば、常に名誉毀損とにあたらない・・・というわけではありません。

事実の摘示

事実の摘示か、意見・論評の表明か 》

 名誉毀損が認められる場合の原則的な形は、事実の摘示がある場合です。他方、事実の摘示がなく、意見・論評の表明にすぎない場合でも、名誉毀損として不法行為は成立し得ます。

 ただし、事実の摘示型か意見・論評の表明型かによって、要件が異なります。

 一般の読者の普通の注意と読み方を基準として、証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を主張するものだと判断された場合、事実の摘示ありとされ、そうでない場合は、意見・論評の表明にすぎないとされます。

 事実適示と意見論評の違いを、飲食店に対する名誉毀損の例で説明すると、以下のとおりです。
 事実適示:「あの店は「日本産のお米のみを使用」といっているのに、実は外国産のお米を使用している」
 意見論評:「あの店の料理はまずい」
 
摘示された事実の特定 》
 
 インターネット上の表現については、問題となる投稿のみをもっては、どのような事実が摘示されたのか、どのような意見・論評が表明されたのか、不明瞭なことがあります。たとえば、インターネット掲示板等への投稿では、その投稿より前に他の投稿者によってされた別の投稿や、関連するスレッドに投稿された別の投稿を踏まえて、投稿がされることがあります。
 そのような場合には、文脈等を踏まえ、複数の関連する記事やスレッドを一体のものとして、どのような事実が摘示されたのか、どのような意見・論評が表明されたのか、判断されることがあります。
 たとえば、ある飲食店に関して様々な投稿がされているスレッドの中で、その飲食店に関する投稿がされた場合、その投稿だけでなく、そのスレッド内のそれ以前の他の投稿者の別の投稿も踏まえて判断されることがあります。判例では、掲示板上の「借りた金でゲーセン三昧だった」「また誰かひっかかるのかなあ」という投稿が問題になった事例で、この投稿のみではその意味内容は十分に明らかではないものの、そのスレッドに、その人は借金する際に嘘をついていたという投稿がされていたこと等から、上記の投稿は、他人を騙して借金しているという事実が摘示されたものだと判断された例があります。

公然性

 名誉毀損罪が成立するためには、事実の摘示は公然となされることが必要です。他方、民事では、公然性が必要か否か、見解の対立がありますが、現在の裁判実務では、不法行為としての名誉毀損の場合も公然性が必要だとされています。
 公然性は、以下の場合に認められます。

《 不特定又は多数の者に対して伝達される場合 》 
 たとえば、公衆の面前などで名誉が毀損された場合や、誰でも閲覧できるネット掲示板等に投稿された場合です。

《 特定少数者への伝達であっても、不特定又は多数の者への伝播可能性がある場合 》
 特定少数者への伝達であっても、そこから不特定又は多数の者に伝わる可能性がある場合、公然性の要件が認められます。これは、伝播可能性があれば人の社会的評価が低下する危険性があるためです。
 たとえば、食品や飲食店の悪い口コミを、SNS内で一定のメンバーしか閲覧できないグループに投稿した場合であっても、その投稿が不特定又は多数の人に知れ渡る可能性が認められるのであれば、公然性は認められます。

名誉毀損を否定する事情

名誉棄損の2つのパターン

 口コミサイトやSNSでの投稿により、食品・飲食事業者の社会的評価を低下させる危険性を生じさせた場合であっても、以下の条件を満たす場合、名誉毀損(民事)は成立しません。
 名誉毀損には、事実の適示による場合と、意見・論評による場合の2つのパターンがあります。それぞれのパターンにおいて、名誉毀損が不成立となるための要件は以下のとおりです。

《 事実の適示による名誉毀損の場合 》

・公共の利害に関する事実に係ること(公共性)
・専ら公益を図る目的に出たこと(公益目的)
・適示された事実が真実であると証明されること(真実性)又は、加害者において適示した事実が真実であると信ずるについて相当の理由があること(真実相当性)

《 意見・論評による名誉毀損の場合 》

・公共の利害に関する事実に係ること(公共性)
・専ら公益を図る目的に出たこと(公益目的)
・意見・論評の前提としている事実が重要な部分において真実であることの証明があること(真実性)、又はその事実が真実であると信ずるについて相当の理由があること(真実相当性)
・適示された事実が真実であると証明されること(真実性)又は、加害者において適示した事実が真実であると信ずるについて相当の理由があること(真実相当性)
・表現内容が人身攻撃に及ぶなど意見・論評としての域を逸脱したものでないこと

各要件についての説明

 以下では、各要件について個別に説明します。

《 公共性 》

 公共性の定義について正面から判示した判例はありません。一般に、私人のプライバシーに関する事柄に関する投稿は公共性が否定され、公職者や刑事事件に関する事柄は公共性が肯定されやすいという傾向はあります。
 食品・飲食事業者に関する投稿は、私企業・私人に関する事柄ですが、裁判実務では、特に著名でない中小企業に関する投稿についても、営業活動等の対外的活動に関係する投稿であれば、公共性を肯定する傾向があるとされています。

《 公益目的 》

 投稿の目的が、主として公益を図るものである場合、公益目的は認められます。仮に、投稿者が食品・飲食事業者に個人的な恨みを抱いているなど、公益目的以外の目的があるとしても、主たる目的が公益目的であるかどうかが重要です。

《 真実性 》

 摘示された事実や意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分において真実である場合、名誉毀損(民事)は成立しません。
 重要な部分か否かは、一般の読者の普通の注意と読み方を基準に、その投稿の中心的命題・主眼は何かによって判断されます。

《 真実相当性 》


 仮に、真実性が認められない場合でも、その事実を真実だと信じるにつき相当の理由が認められた場合には、名誉毀損は成立しません。
 相当性の抗弁が認められるためには、①真実と誤信したこと②確実な資料・根拠があることが必要です。
 その投稿が真実でない場合であっても、投稿者がその投稿内容は真実だと誤信し、その誤信が確実な資料・根拠に基づくものだと認められた場合は、名誉毀損は成立しないということです。
 なお、確実な資料・根拠については、投稿者がマスメディアかそうでないかによって、資料収集能力に差があることから、求められる確実性の程度は異なると考えられています。

《 表現内容が人身攻撃に及ぶなど意見・論評としての域を逸脱したものか否か 》

 この意義を明確にした判例はありませんが、表現方法が執拗である、表現内容が極端な揶揄・愚弄・嘲笑・蔑視的であるといった場合には、表現内容が人身攻撃に及ぶなど意見・論評としての域を逸脱したものだと判断されるとされています。
 この「意見・論評としての域を逸脱したか否か」は、投稿全体として、かつ投稿の主眼に照らして、判断されます。

 

まとめ

 以上のとおり、口コミサイトやSNSにおいて、食品・飲食事業者の皆様に対するマイナスの投稿がされた場合、名誉毀損(民事)が認められるための要件について、ご説明しました。
 特に以下のような方や、名誉毀損についてお悩みの方は、遠慮なくご相談ください。

  • 口コミサイトやSNS等において、身に覚えのない噂を立てられている食品・飲食事業者の方
  • ネット上で誹謗中傷を受けているが、どのような対策があるのか、どのような対策をとるべきか、お知りになりたい食品・飲食事業者の方
  • 投稿者に対して損害賠償請求をしたいとお考えの食品・飲食事業者の方

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