外食やインストア加工における原産地表示

 平成313月、外食・中食における原料原産地表示情報提供ガイドライン検討会が「外食・中食における原料原産地情報提供ガイドライン」(以下、「本件ガイドライン」といいます。)を策定し、公表しています。この本件ガイドラインは、外食・中食業者に対し、自主的な原料原産地の情報提供を促すものです。

 一方で、原料原産地の表示については、食品表示法(平成25年法律第70号)4条1項の規定に基づく食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)が表示義務を規定しています。

 そこで、本稿では、食品表示基準における外食・中食の扱いに触れた上で、本件ガイドライン策定の経緯や食品表示基準との適用関係、本件ガイドラインが示す原料原産地の情報提供の内容等について概説します。

食品表示基準における外食・中食の扱い

 平成29年9月、食品表示基準の改正により、原料原産地の表示義務の対象が、旧基準の「22食品群+個別4品目」から「輸入品以外の加工食品」全てに拡大され、令和4年4月から完全施行されています(輸入加工食品については、製造国を「原産国名」として表示することが義務付けられています)(基準32項の表の上欄8項、9)

 しかし、以下の区分に該当する場合には、食品表示基準による原料原産地の表示義務の対象外とされています。

区分

具体例

加工食品を設備を設けて飲食させる場合(※1)

・レストランや食堂、喫茶店等での外食

包装に入れずに販売する場合(※2)

・串に刺してある焼き鳥をそのまま販売

・トレイに載せた加工食品(ラップ等で包装しないもの)

・消費者に渡す際に紙、ビニール等で包装した加工食品

法令によって表示が義務付けられ ている場合(※3)

・「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律」(昭和 28 年法律7号)

 例:ワイン

・「米穀等の取引等に係る情報の記録及び産地情報の伝達に関する法律」(平成 21 年法律 26 号)

 例:米穀、米粉、米麹、米菓生地等の原料、米飯類、もち・団子等

食品を製造し、加工した場所で販売する場合(※4)

・スーパーマーケットの店内でそうざい 等を配布製造し、店内で直接販売する場合

不特定又は多数の者に対して譲渡する場合(※5)

・サンプル品を配布する場合(※販売でない場合)

【引用】
消費者庁「新しい原料原産地表示制度を知ろう! 中小企業向けマニュアル」令和310月、2
https://www.caa.go.jp/policies/policy/local_cooperation/local_consumer_administration/advancedmodel/assets/cms_local201_220427_4-2.pdf

(※1)
・「設備を設けて飲食させる場合」とは、レストラン、食堂、喫茶店等の外食事業者による食品の提供をいい、飲食店で提供される状態のものを自宅へ届けてもらうなどの外食事業者による出前も含まれます。

 外食事業者が、別の場所で製造・加工したものを仕入れて、飲食させる場合については表示は必要はありませんが、単に販売する場合については製造・加工した者又は販売をする者のいずれかが食品表示基準による表示を行う必要があります。

【参考】

  • 消費者庁食品表示企画課「食品表示基準Q&A (総則-4)」平成27年3月(最終改正:令和5年6月29日消食表第344号)、2頁

https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_230309_12.pdf


(※2)
・「製造・加工と同じ場所で販売する場合」とは、製造者と販売者が同一で、同一の施設内・敷地内で製造販売することをいいます。具体的には、惣菜や刺身盛り合わせ等をインストア加工し、当該店内で販売する場合などがこれに該当します。

 ただし、仕入れ、切断、成形、解凍、小分け、再包装、温め直し等の行為については、インストア加工には当たらないとされています。そのため、これらの行為をスーパーマーケット等のバックヤード等で行った場合でも、食品表示基準による原料原産地の表示が必要です。これに対し、調味する行為(塩味を付ける、しょう油をかける、ごまをふる等)や、調理する行為(煮る、焼く、揚げる等)などは、インストア加工に該当します。

【参考】

  • 消費者庁食品表示企画課「食品表示基準Q&A (加工-190)及び(加工-191)」平成27年3月(最終改正:令和5年6月29日消食表第344号)、106-107頁

https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_230629_07.pdf

 

(※3)
・「容器包装に入れられた加工食品」とは、加工食品を容器包装しているもので、そのままの状態で消費者に引き渡せるものをいいます。

 例えば、串に刺してある焼き鳥をそのまま販売する場合や、ラップ等で包装せずにトレイに載せた加工食品、消費者に渡す際に紙やビニール等で包装した加工食品は「容器包装に入れられた加工食品」に該当しません。客の注文に応じて弁当や惣菜をその場で容器に詰めて販売する行為も、食品表示基準における「容器包装に入れられた加工食品」の販売に該当せず、食品表示基準40条に定める生食用牛肉の注意喚起表示を除き、食品表示基準に定められた表示は必要ありません。

【参考】

  • 消費者庁食品表示企画課「食品表示基準Q&A (加工-2)及び(加工-4)」平成27年3月(最終改正:令和5年6月29日消食表第344号)、14頁

https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_230629_07.pdf

外食や中食が原料原産地の表示義務の対象外とされているのは、次のような理由からです。

・外食や中食業者は、日々食材の調達を行い、使用する原材料の種類が多い上に、気候等の影響により原材料の産地が頻繁に変わり、原材料の原産地表示を法的に義務付けるには課題が多い。

・これらの店舗の多くでは、事業者や従業員が消費者と対面するため、食品の詳細について説明を行うことが可能である。

【参考】

本件ガイドラインの策定の経緯

 このように、外食は原料原産地の表示義務の対象外とされていますが、外食が私たちの食生活において重要な地位を占めていること、BSEの発生や輸入農産物からの基準を超える残留農薬の検出、食品の偽装表示等、食の安全を脅かす出来事が続き、食品表示が重要視されるようになってきたことなどを受け、以前から、外食についても原料原産地の表示を求める声は強まっていました。そして、「食料・農業・農村基本法」(平成11年法律第106)に基づき平成17年3月に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」では、外食事業者による自主的な原産地等の表示の取り組みを促進するとの方針が示され、同年7月、外食における原産地等の表示に関する検討会により、「外食における原産地表示に関するガイドライン」が策定されていました。

 他方、中食についても、一般社団法人日本惣菜協会が、平成236月に「惣菜・弁当(持帰り)の情報提供ガイドライン」を策定し、中食事業者による自主的な情報提供の取り組みが進められていました。

 しかし、近年、スーパーマーケットやコンビニエンスストアにおける惣菜・弁当等の品揃えやイートインスペースが充実し、飲食店におけるお持ち帰りや宅配の規模が拡大するなど、外食と中食の境は消えつつあります。

 このような中で、両ガイドラインを見直し、共通で使えるガイドラインとするため、外食事業者・中食事業者・消費者のそれぞれの立場から構成される検討会が開催され、平成31年3月、本件ガイドラインが策定されました。

 なお、令和2年3月に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」では、外食・中食における原料原産地表示について、本件ガイドラインに基づく外食・中食事業者の取組拡大に向け、中小事業者が円滑に取り組むことができるよう、環境整備を図るとの方針が示されています。

【参考】

外食・中食での原料原産地表示に係る、食品表示基準と本件ガイドラインの適用関係

 加工食品の販売形態ごとに、食品表示基準による原料原産地の表示義務と本件ガイドラインの適用関係をまとめると、次のようになります。

外食・中食における原料原産地表示に係る食品表示法とガイドラインとの関係

販売形態

容器包装されていない商品
(ばら販売、量り売り等の販売形態)

容器包装入り商品

適用項目

食品表示基準

ガイドライン

食品表示基準

ガイドライン

販売と同一施設内にて製造

×

×

販売と同一施設以外にて製造

×

×

設備を設けて、その場で飲食させる場合

×

=義務表示適用外、◎=義務表示の適用、○=任意表示)

【引用】
外食・中食における原料原産地表示情報提供ガイドライン検討会(外食・中食産業等食品表示適正化推進協議会)「外食・中食における原料原産地情報提供ガイドライン」(平成31312日、3頁)

本件ガイドラインに沿った原産地表示

⑴ 情報提供の対象となる「原材料」とは?

 消費者による外食メニューや中食商品の選択に資する情報を提供するという観点から、消費者の関心が高いと考えられる以下のような原材料・原産地について、取り組む事業者で判断し、情報提供をすることになります(なお、米飯類は、米トレーサビリティ法の対象ですのでご注意ください)。

① 単一の主たる原材料を使ったメニュー・商品

メニュー構成や商品を決定する主たる原材料とその原産地を表示することが望ましいと考えられています。

例:ステーキ(牛肉は国産)

② 名前に原材料名が用いられているメニュー・商品

メニュー名・商品名に用いられている原材料とその原産地を表示することが望ましいと考えられています。

例:鮭のムニエル(鮭は○○産)

③ こだわり食材を使ったメニュー・商品

 栽培方法(品種、有機等)や産地(気候、風土、土壌等)などにこだわって調達された原材料とその原産地を表示することが望ましいと考えられています。

例:旬のさんまの塩焼き(さんまは○○沖)

④ 店舗の売れ筋や定番のメニュー・商品

消費者から注文が多く、又は外食・中食事業者において主力メニュー・商品として積極的に売り出しているものについては、①~③以外の原材料についても積極的に原産地を表示することが望ましいと考えられています。

例:とんかつ(豚肉は○○産、キャベツは国産)

⑤ 農業・水産業者等との連携等により安定した食材の調達を行っている場合、又は原材料の生産流通履歴情報の分かるトレーサビリティの確保に取り組んでいる場合

 このような場合には、原材料の種類ごとに原産地を表示するなど、情報提供方法を工夫することにより、原産地に関するより多くの情報を提供できるように努めることが望ましいと考えられています。

例:「野菜は地元○○県産のものを使用しています。」

「○○漁港で水揚げされた鮮魚を直送しています。

【参考】

 外食・中食における原料原産地表示情報提供ガイドライン検討会(外食・中食産業等食品表示適正化推進協議会)「外食・中食における原料原産地情報提供ガイドライン」平成31312日、4-5
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/gaisyoku/attach/pdf/index-22.pdf

⑵ 「原産地」をどのように表現するか?

 情報提供する原料原産地の名称について、ガイドラインは以下のように指針を示しています。

① 基本的には、国産の原材料は「国産」である旨、輸入品であるものは「原産国名」を情報提供することになります。これは、外食・中食の場合、原材料の安定的に調達・確保するため、複数の産地の原材料を使用する場合が多く、また、気候等の影響により産地が頻繁に変わることも多いため、より具体的な地名を表示することは難しいと考えられるからです。

また、以下のように「一般に知られている地名」を表示することもできます。

〈国産の場合〉

  • 都道府県名、地方名、地域名(庄内、阿蘇など)、島名、、湖名、海域名(銚子沖、富山湾など)

輸入品の場合〉

  • 州名・省名(フロリダ州、福建省など)、島名、海域名(地中海、ペルー沖など)

 なお、海域名については、「生鮮魚介類の生産水域名の表示のガイドライン」(平成15年水漁第803号水産庁長官通知)に準拠した表示を行ってください。

② 一つの原材料で、複数の原産地(原産国)の原材料を使用する場合

・原材料に占める重量の割合の多い原産地から順に記載します。

・重量順表示が困難な場合、例えば、以下のような表を作成し、使用可能性のある原産地を網羅的に明示することができます。ただし、この場合には、重量順の記載ではない旨を但し書として記載します。

例:

メニュー・商品名

主要原材料

原産地

ハンバーグステーキ

牛肉

豚肉

オーストラリア

アメリカ

ニュージーランド

カナダ

メキシコ

アメリカ

若鶏の唐揚げ

鶏肉

ブラジル

タイ

アルゼンティン

 

豚ロースおろ

とんかつ

豚肉

アメリカ

メキシコ

カナダ

 

さば味噌煮

さば

ノルウェー

アイスランド

 

 

ロールキャベツ

キャベツ

中国

韓国

 

 

【引用】
外食・中食における原料原産地表示情報提供ガイドライン検討会(外食・中食産業等食品表示適正化推進協議会)「外食・中食における原料原産地情報提供ガイドライン」平成31年3月12日、6頁
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/gaisyoku/attach/pdf/index-22.pdf

  原材料の原産地が季節移動したり、一時的に変動したりする場合は、原産地表示に続けてその旨を記載します。

例:「レタスは原則国産ですが、天候の影響により○○産のものを使用することがあります。」

④ 原産地の情報の一部が流通業者等から伝達されない場合や、メニュー等に印字する場合で、工夫しても全ての原産国を記載することが困難な場合は、伝達されない原産国、表示できない原産国を「その他」と記載できます。 

⑤ 使用原材料が加工食品の場合であっても、使われた生鮮原材料の原産地が分かっているときには、その原産地の情報を提供することが望ましいといえます。しかし、食品表示基準では、原料原産地表示の対象の原材料が中間加工原材料の場合には製造地表示が認められているように、生鮮原材料の原産地を特定できない場合は、加工食品の「製造地」の情報提供でかまいません。

 ただし、「製造地」として表示できるのは「その商品の内容に実質的な変更をもたらす行為」が行われた場所です。例えば、A国で鶏肉を味付け、衣付け、油調し、冷凍して輸入した加工食品について「製造地」を表示する場合には「唐揚げ(A国製造)」となり、国内で揚げ直し等の再加熱を加えたとしても「国内製造」と表示することはできません。

 なお、消費者に分かりやすく情報提供する観点から、外食・中食事業者は、原材料の名称や原料原産地名について、上記のほか、「食品表示基準」、「食品表示基準Q&A」別添の「魚介類の名称のガイドライン」等の各種ガイドライン、業界団体等が表示に関する事項について自主的に設定するルールである公正競争規約等に準拠して情報提供することとされています(ガイドライン4⑵)。

⑶ どのような方法で情報提供をするか?

 取り組む事業者において、以下のような方法を選択又は組み合わせて、消費者にとって「見やすい、聞きやすい、わかりやすい店舗」を構築します。

① 店舗での情報提供

  • プライスカードやポップへの表示
  • 卓上メニューやメニューブックへの表示、ボードの店内掲示
  • 店員による情報提供(例:「原料の産地等については店員にお尋ねください。」)

② インターネット等の活用

  • ホームページにメニューや商品情報を掲載
  • メニュー等に印字したQR コードの読み取りによる情報の提供

 また、外食や中食の場合は、各メニューや商品に原材料の原産地を表示する一般的な方法のほか、1つの原材料が複数のメニュー・商品に使用されるという特徴を活かし、メニューブックの巻末やメニュー・商品のジャンルごとに、原材料をまとめて原産地を表示するなどの工夫によって、消費者に分かりやすく原産地情報を提供することもできます。

おわりに

 以上のとおり、ガイドラインは、外食・中食事業者が自主的な原材料の原産地の情報提供に取り組むための指針ですので、強制力はありませんが、我が国の食に対する消費者の信頼確保に向けて、外食・中食事業者の自主的な対応が期待されています。

 ただし、ガイドラインに基づく原材料の原産地を表示する場合には、正確な表示を行わなければなりません。任意の情報提供であっても、誤った表示により、消費者が実際のものよりも著しく優良であると誤認するような場合には、「不当景品類及び不当表示防止法」(景品表示法:昭和37年法律第134号)による措置の対象となります。また、インストア加工の容器包装入り商品は、添加物や消費期限、アレルギー表示等は義務表示の対象です。原料原産地表示は任意ですが、意味を誤認させるような用語を容器包装に表示すると禁止事項に該当し、食品表示基準違反となるので注意が必要です(基準916 号)。

 表示ミスを起さないようにするためには、原材料に関する情報管理が重要です。景品表示法は、「表示に関する事項を適正に管理するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じなければならない」として、自己の供給する商品又は役務についての一般消費者向けの表示をする事業者に対して必要な措置を講じることを求めています(景品表示法26条1項)。同規定に基づいて事業者が講ずべき措置については、「事業者等が講ずべき景品類の提供及び表示の管理上の措置についての指針」(平成 26 年内閣府告示第 276号)が出されていますので、ご確認ください。

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