食品・飲食事業において第三者に対する経営委託と無断転貸が問題となった裁判例
はじめに
無断転貸は民法において明文で禁止され(民法612条1項)、賃貸借契約の解除事由となるとされています(同条2項)。
しかし、食品・飲食事業においては、店舗について借主から第三者へ経営の委託がされることが珍しくありません。
そのような場合に、借主と第三者との間の経営委託契約が、実質的には事業用建物の無断転貸にあたるとして、賃貸借契約の解除に関するトラブルが発生することがあります。
本記事では、食品・飲食事業における第三者に対する経営委託と無断転貸が問題となった裁判例をご紹介します。
なお、人物関係が分かりやすいように、以下の裁判例ではいずれも、
貸主A→借主B→転借人C
としています。
また、各裁判例の紹介にあたっては、以下の3つの視点で整理しました。
i その事案における経営委託契約は、転貸借契約にあたるか
ii 転貸借契約にあたる場合、それについて貸主の承諾はあったか
iii 無断転貸である場合、信頼関係の破壊はあるか
なお、事業用建物の無断転貸一般については、以下の記事をご参照ください。
事業用建物における無断転貸について(店舗における経営委託と無断転貸等)
裁判例の紹介
借主は当初お茶漬け割烹を営んでいたが、第三者との間で経営委託契約を締結し、以後はおにぎり屋を営んでいた事案(東京地判昭和47年6月30日判時684号69頁)
事案
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Bは本件建物においてお茶漬け割烹を営んでいたが、Cとの間で「店舗委託契約」として経営委託契約を締結し、以後はCが本件建物においておにぎり屋を営んでいた。
建物所有者であるAは、BC間の契約は転貸借契約であり、無断転貸であるとして、AB間の賃貸借契約を解除し、本件建物の明渡し等を求めた。
なお、BはCに対し、経営委託契約の解除及び本件建物の明渡しを求めたため、裁判所は、この二つの訴えを併合して審理・判示した。
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結論
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ⅰ 本件における経営委託契約は、転貸借契約にあたる
ⅱ 転貸借契約について、貸主の承諾はない
ⅲ 信頼関係の破壊はある
→ AB間の賃貸借契約は、BのCへの無断転貸により解除
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判断内容
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<ⅰについて>
①BC間の訴えについて
● B側の事情及び意図
・BはAとの間で「本件建物の転貸をしない」旨の特約を交わしていた
・そのためBはCに、店舗の経営を委託するという形を採らざるを得なかった
・そこでBは仲介業者に経営委託契約書を作らせ、BCともにこれに調印して契約を締結した
● C側の事情及び意図
・Cは仲介業者に店舗「賃借」のあっせんを依頼していた
・そのため、「店舗委託契約書」という表題の意味にあまり重きをおかず、「賃貸」を極力避けようとするBの意思は必ずしもCに伝わっていなかった
● BC間の契約書の内容
・契約書の文中には「使用料」「貸主」「借主」「貸与」「使用させる」「転貸(の禁止)」等、賃貸借契約において用いるのを常とする言葉が数多く使われていた
● BC間のその他の事情
・BはCを従業員として雇い入れるのだということは明言していなかった
・BはCに契約後も店舗経営について格別の指導監督をしていなかった
⇒ 本件の経営委託契約は、専らBがAとの間の転貸禁止の特約に違反しないことだけを狙いとしたもので、BC間にはBが主張するような雇用兼準委任契約に添う実質的な関係はほとんどない。
したがって、BC間の契約は、Cが本件建物を使用するための賃貸借契約にあたる。
なお、Cは、Aから本件建物の明渡しを求められて驚き、AB間の問題を解決できないときは賃料の支払いを留保する旨、Bに対して内容証明郵便で通知した。
したがって、CはBに対し、賃料の支払いを拒絶できる(民法559条、576条)ことから、賃料不払いを理由として契約の解除及び建物の明渡しを求めるBの請求は認められない。
②AB間の訴えについて
・上記のとおり、BC間の契約は転貸借契約である
<ⅱについて>
・AはBC間の転貸につき承諾していない
⇒無断転貸にあたる
<ⅲについて>
・Aは、CはBの従業員とばかり思っており、一方でBは、Cとの契約が実は賃貸借でありながら、Aとの間で無断転貸にならないように、殊更に経営委託契約という形式をとっていた
⇒信頼関係の破壊はある
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コメント
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本件では、借主は経営委託契約という形式をとっており、貸主は第三者のことを借主の従業員だと思っていました。しかし、借主は無断転貸にあたらないように殊更に経営委託契約という形式をとっていたに過ぎず、結論として賃貸借契約の解除は肯定されています。
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食品マーケットを経営する目的で賃貸借契約を締結したが、第三者との間で飲食店営業を目的とする転貸借契約(第三者に経営を委託する旨の条項あり)を締結した事案(東京高判昭和51年7月28日判タ344号196頁)
事案
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BはAから本件建物を賃借した後、Cらとの間で、飲食店営業を目的として賃貸する旨の賃貸借契約を結んだ(BはCらに経営を委託する旨の条項あり)。
Aは、BC間の賃貸借契約はAの承諾のない無断転貸であるとして、AB間の賃貸借契約を解除した。
これ対して、Bは、CらとはBの飲食業の経営を委託する契約を締結したに過ぎない、仮に転貸借にあたるとしても、Aは転貸につき承諾していた、と主張した。
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結論
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ⅰ 本件における契約は、転貸借契約にあたる
ⅱ 転貸借契約について、貸主の承諾はない
ⅲ 信頼関係の破壊はある
→ AB間の賃貸借契約は、BのCへの無断転貸により解除
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判断内容
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<ⅰについて>
● BとCらとの間の各契約内容
・Cらは、それぞれ自己の名において飲食店営業をする
・その設備に関する費用、諸税の支払いは勿論、営業によって生ずる一切の損益はCらに帰属する
・BはCらの営業には一切関与せず、賃料あるいは管理費の名目で本件建物の使用収益の対価を徴収する
・BはAに対する関係においてのみ本件建物の管理及び賃料の支払い等の責任を負う
● BC間のその他の事情
・BはAから本件建物を賃借した後、新聞紙上に本件建物の一部を貸店舗として賃貸する旨の広告を出して転借人を募集し、Cらとの間で、飲食店営業を目的として賃貸する旨の賃貸借契約を結んだ
⇒BとCらとの間に、本件建物を使用収益させる旨の転貸借契約が成立した
<ⅱについて>
・Aは当初から本件建物につき転貸は固く禁じる旨を再三明白に表示していた
・Bは、食品マーケットを経営する目的で本件建物の賃借を申し込んだが、その後、本件建物がマーケットの経営には不適当であると判断し、一部は自ら使用して飲食店を営み、他の部分は第三者に使用させて飲食店を経営させようと考え、Cらとの間で転貸借契約を結んだ
・BはAに対し、本件建物の一部は自ら飲食店営業に使用し、その他の部分は第三者に経営を委託し飲食店を営みたい旨申し入れたが、Aは、Bのいう経営委託という方式に疑問を抱き、繰り返し、転貸であれば承諾できないとして、説明を求めた
・Aは、Bから、転貸とは異なるものであるとの説明を受けたため、申入れにつき承諾を与え、また、Cらのうちの一人が本件建物でバーを経営するため、風俗営業許可を取ることに同意し、Bから権利金等を受領した
⇒Aは、本件賃貸借の当初から転貸を禁ずる旨を強く表示しており、承諾を与えたり権利金を受け取ったりしたが、これは、Bの巧みな説明によって委託経営の趣旨を誤解し、転貸にはあたらないとの見解のもとに行ったものにすぎない
⇒無断転貸にあたる
<ⅲについて>
Aは当初から強く転貸を禁ずる意思を明示していたのに、Bは無断転貸を行った
⇒信頼関係の破壊はある
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コメント
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本件では、貸主は、第三者による店舗の使用について承諾を与え、権利金も受け取っています。しかしながら、貸主は当初から強く転貸を禁ずる意思を再三明示していたこと、貸主が承諾等をしたのは、借主の説明により転貸ではないと誤解したためであること等が考慮され、賃貸借契約の解除が肯定されています。
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小料理屋を営んでいた借主が、過労により第三者に小料理屋の経営を委託した事案(東京地判昭和56年1月30日判タ452号129頁)
事案
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BはAから本件建物を賃借した後、自ら小料理屋を経営していたが、過労により経営を続けられなくなった。
そこで、BはCに対し、本件建物の使用を許諾し、CはBに代わって本件建物を使用して小料理屋の営業を行った。
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結論
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ⅰ 本件における経営委託契約は、転貸借契約にあたる
ⅱ 転貸借契約について、貸主の承諾はない
(ⅲ 信頼関係の破壊に関する判断は不明)
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判断内容
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<ⅰについて>
● BC間の契約内容
・CはBに1か月8万円を支払う
・本件建物の賃料及び電気、ガス、水道の使用料その他の雑費はCが負担する
・小料理屋の経営はCに一切を一任し、利益はCにおいて収受する
● BC間のその他の事情
・小料理屋の営業許可名義はBのままで変更されることはなかった
・しかし、毎日の仕入れ、販売、アルバイトの雇用、電気・ガス・水道の使用料等の支払いは一切、Cの計算、負担で行われていた
・小料理屋の営業上の損益はすべてCに帰属していた
・Cは、小料理屋の営業に関し、Bから指揮監督を受けたことはなかった
⇒Cは、単なる従業員としてではなく、小料理屋の実際の経営者として、Bから独立して、本件建物を使用占有していたものであって、BのCに対する本件建物の使用許諾は、本件建物の転貸借にあたる
<ⅱについて>
AはBC間の転貸借について承諾していない
⇒無断転貸にあたる
<ⅲについて>
ⅲについては判例タイムズに記載されておらず、判示内容は不明
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コメント
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経営委託契約の内容・経営の実態等からして、第三者が小料理屋の経営者として、借主から独立して店舗を使用占有していたから、賃貸借契約の解除が肯定されています。 |
借主が第三者との間で、スナック営業についての経営委託契約を締結した事案(東京地判昭和60年4月17日判タ604号124頁)
事案
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BはAから、本件建物を飲食店以外に使用しないことを約して賃借したが、都合により、自身では飲食店営業を行うことができなかった。
そこで、飲食店の営業を委託することとすれば、自ら営業せずに済み、しかもAの承諾も要しないものと考え、Cとの間で、スナック営業について経営委託契約を締結した。
これに対して、Aは、BC間の契約はAの承諾のない無断転貸であるとして、賃貸借契約の解除及び本件建物の明渡しを求めた。
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結論
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ⅰ 本件における経営委託契約は、転貸借契約にあたる
ⅱ 転貸借契約について、貸主の承諾はない
ⅲ 信頼関係の破壊はある
→ AB間の賃貸借契約は、BのCへの無断転貸により解除
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判断内容
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<ⅰについて>
● BC間の契約内容
・本件建物において、Cが自己の計算でスナック経営を行う
・CはBに対し、保証金50万円及び毎月15万円の金銭を支払う
● BC間のその他の事情
・BはCに本件建物を全面的に引き渡した
・Cは直ちに約650万円の費用で本件建物1階を改装し、営業を始めた
・C自身は本件建物の2階に居住するようになった
・Cの営業はその責任で独立して行われ、Bはその営業に関し指示等をしたことはなかった
⇒BC間の契約は、本件建物を賃料月額15万円で転貸する旨の契約であるといえ、経営委託契約であるとはいえない
<ⅱについて>
Aは転貸につき承諾していない
⇒無断転貸にあたる
<ⅲについて>
・Bは、Cとの契約内容をAに知られないようにし、Cに対しても、他人に聞かれたときは、Bに雇われていると述べるよう求めていた
・Cも、BC間の契約が本件建物の賃貸借契約であって、単なる経営の委託でないことは十分に分かっていた
・契約後1年間くらいは本件建物の所有者をBだと信じていたものの、その後、本件建物がAの所有に属することを知った以後も、Aに対しては何の連絡もしなかった
・CはAに対し、自分はBに雇われているだけだなどと述べていた
⇒信頼関係の破壊はある
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コメント
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本件では、その契約の内容等からすれば、およそ経営委託契約とは評価できないものといえるでしょう。また、信頼関係の破壊の有無の判断にあたり、借主と転借人が通謀して経営委託の事実を隠していたことが、借主にとって不利益な事情として考慮されています。
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借主が第三者との間で、バー営業に関する経営委託契約を締結した事案(東京地判昭和60年9月9日判タ568号73頁)
事案
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BはAから本件建物を賃借した後、Cとの間で経営委託契約のを締結し、Cに対して本件建物でのバー営業を委ねた。
Aは、本件建物の無断転貸にあたると主張し、賃貸借契約の解除を求めた。
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結論
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ⅰ 本件における経営委託契約は、転貸借契約にあたる
ⅱ 転貸借契約について、貸主の承諾はない
ⅲ 信頼関係の破壊はある
→ AB間の賃貸借契約は、BのCへの無断転貸により解除
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判断内容
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<ⅰについて>
● BC間の契約内容
・CはBに100万円の保証金を支払い、これは理由の如何にかかわらず返却しない
・CはBに対し、店舗使用料として月額15万円を支払う
・支払いを1か月以上滞納した場合には契約を解除され本件建物を明渡す
・Cが本件建物を他に転貸することを禁止し、これに違反した場合は、契約を解除し、即刻本件建物を引き渡す
● BC間のその他の事情
・バーの営業すなわちその仕入れ、販売、水道光熱費、必要経費の支払いは、全てCの計算と危険負担においてなされていた、CからBへ営業実績の報告はなされていないし、報告が義務付けられてもおらず、Bは営業に関する帳簿類の管理点検などもしたことはなかった
・バー営業に伴う飲食税の納付もCがその負担において行っていた
・Bは、時折店舗に姿を見せることはあったが、バー営業に関し容喙することはなかった
⇒CをBの単なる使用人または経営受託者とみることには無理があり、BC間の契約は本件建物の賃貸借契約にあたる
<ⅱについて>
Aは転貸を承諾していない
⇒無断転貸にあたる
<ⅲについて>
・Bは、本件建物を転貸しながら、これを経営委託と装い、委託の名のもとに本件賃貸借の賃料にほぼ三倍する利を得ていた
・建物の使用態様には、その使用者の変動に応じて自ずから差異がある
・本件賃貸借契約における賃料増額、契約更新の際のBの対応にはやや誠意を欠くとみられるところがあった
⇒信頼関係の破壊はある
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コメント
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本件では、経営委託に過ぎないとみる余地は多分に残すとされつつも、経営委託契約の内容・実態等から、第三者を単なる使用人または経営受託者とみることには無理があり、経営委託契約は本件建物の転貸借契約にあたるとされています。
また、信頼関係の破壊の有無の判断にあたり、店舗の転貸借だと見られることを避けようという意図のもとに作為した形跡がみられること、借主は委託の名のもとに賃料のほぼ三倍の利益を得ていたこと等が、借主にとって不利益な事情として考慮されています。
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スナック店を経営していた借主が、元従業員である第三者にスナック店の経営を委託した事案(神戸地判昭和61年8月29日判タ627号164頁)
事案
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BはAから本件建物を賃借し、スナック店を経営し、Cを従業員として雇い入れた。
その後、Bは別の喫茶店を経営することとなったため、スナック店についてはCに経営を委託することとした。
Aはこれが無断転貸にあたると主張し、賃貸借契約の解除を求めた。
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結論
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ⅰ 本件における経営委託契約は、転貸借契約にあたる
ⅱ 転貸借契約について、貸主の承諾はない
ⅲ 信頼関係の破壊はある
→ AB間の賃貸借契約は、BのCへの無断転貸により解除
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判断内容
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<ⅰについて>
● BC間の契約内容
・スナックの売上が月45万円あった場合は、うち15万円をCが取得し、売上が45万円を越えれば経費を差し引いた残りをBC間で折半する、売上が45万円に達しない場合は、Bの損失というあいまいなものだった
・書面化されていなかった
● BC間のその他の事情
・スナック店の収入および支出(仕入、給料、光熱費、家賃等を含む)はすべてCの責任で行い、その支払いもCがスナック店の売上からしていた
・家賃については、CからB、BからAへと送金されていたが、その他の支払いは、Cが直接支払先に行っていた
・Cはスナック店の金銭管理、帳面付けをすべて行っており、Bは、月1回帳面を見るだけで、Cに対しスナック店の経営について指導・監督をしたことはなかった
⇒BC間の契約は、形式的にはスナック店の経営委託契約という方式を取っているものの、Cが同店の実質的経営者であり、Cが本件建物でスナック店を経営するための賃貸借契約にあたる
<ⅱについて>
AはBC間の転貸について承諾していない
⇒無断転貸にあたる
<ⅲについて>
・転貸の前後を通じ、本件建物につきスナックとしての使用方法は変わらなかった
・家賃延滞などの事実はなかった
・しかし、客観的にはスナック店の経営主体が実質的に交替している
・転貸が行われているのにかかわらず、Aに隠して、転貸の承諾を受けていなかった
⇒信頼関係の破壊はある
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コメント
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本件では、経営委託契約の内容、経営の実態等から、経営委託契約という形式ではあるものの、第三者が同店の実質的経営者であり、転貸借契約にあたるとされています。
転貸の前後を通じて、スナックとしての使用方法は変わらなかったとしても、経営主体が変更した事実を貸主に隠していたこと等から、信頼関係の破壊はあるとされています。
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大衆酒場の「のれん分け」の試用として、従業員に営業を任せた事案(東京地判昭和61年10月31日判時1248号76頁)
事案
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BはAから本件建物を賃借し、大衆酒場を経営していた。
Bの経営する大衆酒場はチェーン店であり、従業員の中で勤務成績良好な者に「のれん分け」をする制度がとられていたところ、従業員・Cを独立させるべく、その試用として、Cに本件建物における大衆酒場の営業を任せることにした。
Aは、これは無断転貸にあたると主張し、賃貸借契約の解除を求めた。
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結論
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ⅰ 本件における経営委託契約は、転貸借契約にあたる
ⅱ 転貸借契約について、貸主の承諾はない
ⅲ 信頼関係の破壊はない
→ BのCへの無断転貸はあるが、信頼関係の破壊はないため、AB間の賃貸借契約の解除は認められない
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判断内容
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<ⅰについて>
● BC間の契約内容、
・CからBに対し、保証金2000万円を差し入れる
● BC間のその他の事情
・営業主体の名義人をBからCに変更した
・営業にかかる料理飲食等消費税や水道及びガス等の公共料金はCが支払っていた
・毎月の損益はすべてCに帰属するという形態をとっていた
・CはBから給料の支給を受けることはなかった
⇒Cは本件建物を独立して使用収益しており、BはCに対し本件建物を転貸したというべきである
<ⅱについて>
AはBC間の転貸について承諾していない
⇒無断転貸にあたる
<ⅲについて>
・Bは、Aから、本件建物をCに使用させるのは転貸になるから困る、との苦情を受け、苦情を受けた同月中にはCを本件建物から退去させ、再度自己の責任において大衆酒場の営業を続け、したがってAが賃貸借契約の解除の意思表示をした時点では転貸借の状態は解消していた
・約1年2か月の転借期間におけるCの営業形態は、Bのチェーン店として、その商号を掲げたまま行われており、Bが営業していた当時とほとんど変わらなかった
・Cが本件建物を転借使用するに至った経緯は、Bのチェーンにおける「のれん分け」制度に基づくものであった。Bは、転貸期間はCを正式に独立させることができるかどうかを見極める試用期間と考えていた
⇒信頼関係の破壊はない
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コメント
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本件では、経営委託契約の内容・実態等から、第三者は本件建物を独立して使用収益しており、転貸借にあたると判断されました。
しかし、転貸借関係を速やかに解消したこと、営業形態にほぼ変更がないこと、Bの「のれん分け」制度の基づく試用に過ぎなかったこと等の事情から、信頼関係の破壊はなく、解除は認められませんでした。
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借主が第三者にピザレストランの経営を委託した事案(東京地判平成19年2月2日ウェストロージャパン2007WLJPCA02028012)
事案
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BはAから本件建物を賃借し、その後、本件建物におけるピザレストランの経営をCに委託した。
Aはこれが無断転貸にあたるとして、賃貸借契約の解除及び本件建物の明渡しを求めた。
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結論
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ⅰ 本件における経営委託契約は、転貸借契約にあたる
ⅱ 転貸借契約について、貸主の承諾はない
ⅲ 信頼関係の破壊はある
→ AB間の賃貸借契約は、BのCへの無断転貸により解除
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判断内容
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<ⅰについて>
● BC間の契約内容
・本件店舗の内装にかかる費用及び所有者に対する賃料・管理費を除き、本件店舗の営業に必要な一切の費用をCが負担する
・BはCから、委託配当金名目で、毎月161万9000円(毎年4万円ずつ増額)という固定した金額を受領する
● BC間のその他の事情
・営業に必要な材料の仕入れ代、従業員の給料等はすべてCが負担していた
・業績が悪い時は分割返済に応じるなどしていたものの概ね月額150万円の支払いがなされていた
・Bは、歯科医院を経営している関係上、本件店舗に立つことはないことはもちろん、本件店舗の営業につき、Cに対して、特段の指示や指揮をすることはなく、営業はCの判断で行われていた
⇒CはBから独立して、本件建物を使用収益していたといえ、BはCに本件建物を転貸していた
<ⅱについて>
AはBC間の転貸について承諾していない
⇒無断転貸にあたる
<ⅲについて>
・Bは、長期間にわたって本件建物を無断転貸していた
・その間、Aに支払う賃料とCから受け取る賃料の差額分として毎月100万円以上の収益をあげていた
⇒信頼関係の破壊はある
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コメント
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本件では、経営委託契約の内容・実態等から、第三者は借主から独立して店舗を使用収益しており、転貸借にあたるとされました。
また、信頼関係の破壊の有無の判断にあたっては、無断転貸が長期間にわたること、借主は、貸主に支払う賃料と第三者から受け取る賃料の差額分として毎月100万円以上の収益をあげていたこと等が、借主に不利益な事情として考慮されています。
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まとめ
以上、食品・飲食事業において、事業用店舗の経営委託が無断転貸にあたると判断された裁判例をご紹介しました。
以下のような方は、ご遠慮なくご相談ください。
・食品・飲食事業の店舗を第三者に経営委託することを検討しているが、無断転貸にあたるとして、賃貸借契約を解除されてしまわないか不安を感じている方
・事業用建物を賃貸しているが、借主の第三者への経営委託が無断転貸にあたるとして、賃貸借契約を解除することを検討している方