風評被害対策 口コミサイトやSNSで誹謗中傷された場合の対応~発信者情報の開示、損害賠償請求・刑事告訴~

はじめに 

 今日、食品・飲食業のお客様は、口コミサイトやSNSなどを通じて、商品やサービス等の評判をチェックすることが当たり前になっています。それにも関わらず、事実に反し商品等について誹謗中傷する内容がこれらのサイトに書き込まれてしまうと、その情報が拡散し、売上・利益の減少や、企業イメージの低下につながることがあります。

 口コミサイトやSNSで誹謗中傷された場合、食品・飲食事業者の皆様としては、次のように考えるでしょう。

① 投稿を一刻も早く削除したい。
② 投稿者に対し、投稿によって発生した損害の賠償を請求したい。
③ 投稿者を刑事告訴したい。

 インターネット上の情報は拡散しやすく、誹謗中傷による被害が拡大する可能性があるため、まず①の投稿の削除を検討することになります。①の投稿の削除をするために取り得る手段については、次の記事で整理しております。

>>参照:「風評被害対策 口コミサイトやSNSで誹謗中傷された場合の対応 ~投稿された口コミの削除~」

 なお、投稿の削除については、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(通称:プロバイダ責任制限法)の令和6年改正により、大規模プラットフォーム事業者に対し、対応の迅速化・透明化を図るための措置が義務化されることになりました。同改正については、この記事の7でご紹介します。

 では、②の損害賠償請求をするにはどうしたらよいのでしょうか。この記事では、主に②の損害賠償請求の前段階で必要な手続を整理します。最後に、②の損害賠償請求と③の刑事告訴についても要点を説明します。

 なお、②の損害賠償請求が認められるためには、前提として、誹謗中傷が食品・飲食事業者の皆様に対する名誉毀損等であると認められる必要があります。どのような場合に民事上の名誉毀損と認められるのかについては、次の記事をご覧ください。

>>参照:「風評被害対策 口コミサイトやSNSで誹謗中傷された場合の対応 ~民事における名誉毀損の要件~」

投稿者は誰なのか?

 誹謗中傷をした投稿者へ損害賠償を請求するには、まず投稿者が誰なのかを法的に証明しなければなりません。しかし、仮に、ある投稿のハンドルネームが投稿者の実名と思しき場合であっても、それが実際に実名であるか、その人物の住所はどこかといったことは、ハンドルネームからは明らかではありません。ハンドルネームが匿名である場合は尚更です。

 そこで、投稿者の氏名・住所等を特定するため、誹謗中傷が書き込まれたサイトの運営者等から、サイト運営者等が把握している投稿者の発信者情報(IPアドレス、タイムスタンプ等。※)の開示を受ける必要があります。

※ IPアドレス:インターネット上の送受信の際にどの通信機器が使用されたかを特定するために各通信機器に割り当てられる数字の羅列
 タイムスタンプ:そのIPアドレスがどの時刻にその通信機器に割り当てられていたかを特定するために必要となる年月日と時刻のこと

 

発信者情報の開示を受けるためには

(1) いかなる場合に発信者情報の開示が認められるか

 いかなる場合に発信者情報の開示が認められるか、つまり、いかなる場合に発信者情報開示請求権が認められるかは、投稿者のプライバシーや表現の自由等と、その投稿(侵害情報)により権利を侵害されたとする者の権利回復の利益との調整が必要な問題であり、プロバイダ責任制限法5条がその要件を規定しています。

 同規定によると、発信者情報開示請求権は、

 ① その開示の請求に係る侵害情報の流通によって、開示の請求者の権利(※)が侵害されたことが明らかであるとき
 ② その発信者情報が、開示の請求者の損害賠償請求権の行使のために必要であるなど、当該発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき

の両方を満たすときに認められます(プロバイダ責任制限法5条1項1号・2号、同条2項1号・2号)。

※ ここで「権利」とは、民事上の不法行為の場合と同様、保護されるべき個人法益として、著作権侵害、名誉毀損、プライバシー侵害等の様々なものが想定され、特に限定されているわけではありません(総務省総合通信基盤局消費者行政第二課「プロバイダ責任制限法逐条解説」(2023年3月)(下記URL)の第1条(趣旨)の【解説】の(2)の③)。
https://www.soumu.go.jp/main_content/000883501.pdf

 なお、SNSなどのログイン型のサービスにおいては、システム上、投稿時のIPアドレス等を保存していないものがあり、投稿時のIPアドレス等から発信者を特定することができません。そこで、投稿者を特定するためには、当該サービスアカウントの作成時やログイン時、ログアウト時、削除時の通信を構成するIPアドレス等が開示される必要があります。

 そこで、このようなログイン等に付随する発信者情報を「特定発信者情報」として、開示請求権の対象とする旨のプロバイダ責任制限法の改正が令和3年になされています。

 ただし、この「特定発信者情報」は、侵害情報の送信に係る通信記録ではなく、それ自体は権利侵害を構成するものではないため、その開示には、上記①と②に加え、次の③の補充的な要件が必要となります(プロバイダ責任制限法5条1項3号)。

 ③ 次のイからハまでのいずれかに該当するとき

 イ サイト運営者等が当該権利の侵害に係る特定発信者情報以外の発信者情報を保有していないと認めるとき
 
 ロ サイト運営者等が保有する当該権利の侵害に係る特定発信者情報以外の発信者情報が、次に掲げる発信者情報以外の発信者情報であって、総務省令(プロバイダ責任制限法施行規則4条)で定めるもの(※)のみであると認めるとき
 ・ 当該開示の請求に係る侵害情報の発信者の氏名及び住所
 ・ 当該権利の侵害に係る経由プロバイダ等を特定するために用いることができる発信者情報

 ハ 当該開示の請求をする者が上記①及び②の要件で開示を受けた特定発信者情報以外の発信者情報によっては、当該開示の請求に係る侵害情報の発信者を特定することができないと認めるとき

※ プロバイダ責任制限法施行規則4条で定める特定発信者情報以外の発信者情報:
・ 発信者その他侵害情報の送信又は侵害関連通信に係る者の住所を保有していない場合における発信者その他侵害情報の送信又は侵害関連通信に係る者の氏名又は名称
・ 発信者その他侵害情報の送信又は侵害関連通信に係る者の氏名又は名称を保有していない場合における発信者その他侵害情報の送信又は侵害関連通信に係る者の住所
・ 発信者その他侵害情報の送信又は侵害関連通信に係る者の電話番号
・ 発信者その他侵害情報の送信又は侵害関連通信に係る者の電子メールアドレス
・ 侵害情報が送信された年月日及び時刻(いわゆるタイムスタンプ)

 発信者情報開示請求を受けたサイト管理者やプロバイダ等の事業者は、原則として、当該発信者に対し、開示の請求に応じるか否か、開示の請求に応じるべきでない旨の意見である場合にはその理由について、意見を聴かなければなりません(プロバイダ責任制限法6条1項)。発信者情報開示請求を受けた事業者は、意見聴取に対する発信者の意見に拘束されるわけではありませんが、開示請求に対し合理的根拠を示して異議が述べられたときは、原則としてその意見を尊重し、裁判外又は裁判上の開示請求に対応することになります。

(2) 発信者情報の入手の流れ 

 次に、口コミサイトやSNSにおける投稿の発信者情報を入手するためには、このようなサイトへの投稿が、投稿者の通信端末からどのような流れでなされているのかを理解する必要があります。

 口コミサイトやSNSへの投稿は、以下の流れをたどってなされます。

投稿者の通信端末(スマートフォン等)

経由プロバイダのサーバ(docomo、au、softbank等)

サイト運営者のサーバ(facebook、X(旧twitter) 等が管理するサーバ)

サイト(facebook、X(旧twitter) 等の各サイト)

 このように、投稿者は自己の通信端末から直接口コミサイトやSNSに接続しているのではありません。経由プロバイダと契約をし、その経由プロバイダを通じてインターネットに接続し、口コミサイトやSNSにアクセスしているのです。

 そのため、サイト運営者が把握している発信者情報は、ある投稿者がどの経由プロバイダを通じてその口コミサイトやSNSにアクセスしたかといったもの(IPアドレス、タイムスタンプ等)に限られます。

 そのIPアドレス・タイムスタンプと合致するプロバイダ契約の当事者に関する情報(投稿に使用された通信端末の情報、その契約者の氏名・住所等)は、プロバイダ契約を締結している経由プロバイダでないと把握していません。

 そのため、投稿者が誰かを明らかにするためには、以下の2つの段階を踏む必要があるのです。

① サイト運営者に対して発信者情報(IPアドレス・タイムスタンプ等)の 開示を請求する。
② ①で明らかになった発信者情報をもとに経由プロバイダを割り出す。その上で、経由プロバイダに対してIPアドレス・タイムスタンプ等と合致する発信者情報(投稿に使用された通信端末の情報、その契約者の氏名・住所等)の開示を請求する。

(3) 発信者情報の開示を求めていくにあたっての注意点(時間的な制約)

 経由プロバイダは、日々極めて膨大な量のアクセスログ(通信履歴)を扱っています。そのため、サーバの容量上、すべてのアクセスログをいつまでも保管しておくことはできません。一定の保有期間経過後(1か月~6か月のことが多いようですが、経由プロバイダによります。)は、そのデータが消去されてしまいます。

 つまり、せっかく裁判手続等により発信者情報の開示請求が認められても、「すでに保有期間が経過しているので、発信者情報はない」という状態が生じてしまうことがあるのです。

 そこで、アクセスログが消去されてしまう前に、速やかに経由プロバイダを割り出した上で、その経由プロバイダに対し、以下の2つの事項を求めていく必要があります。

・必要なアクセスログを消去しないこと
・経由プロバイダが保有する発信者情報を開示すること

(4) 投稿の特定・証拠化

 誹謗中傷を行った投稿の発信者情報の開示を求めるためには、いかなる方法をとるにせよ、インターネット上のどの投稿に問題があるのかを特定し、関係者に示す必要があります。そのためには、すみやかにその投稿を証拠化(書面化、データ化)する必要があります。

 投稿を特定するために必要な要素はサイトによってことなりますが、次の項目を意識して証拠化しておく必要があります。

 ・その投稿のURL(サイトによっては、閲覧用URLに加えて投稿者URLが必要なこともあります。※)
 ・話題事項のタイトル
 ・投稿番号
 ・投稿日時
 ・投稿内容

 ここで、URLとは、その投稿がインターネット上に存在したこと及びその位置を示すもので、投稿の特定において非常に重要です。

※ 投稿記事の特定については、最高裁判所「11. 発信者情報開示命令申立て」(下記URL)の「オ.申立書記載例」の各申立書記載例の投稿記事目録の記載及び注釈を参照
https://www.courts.go.jp/tokyo/saiban/
minzi_section09/hassinnsya_kaiji/index.html

(5) 発信者情報の開示を求める方法

 では、どのような方法でサイト運営者等に対して発信者情報の開示を求めればよいのでしょうか。

 発信者情報は、その投稿がされたサイト等によっては、裁判手続によらず、専用のフォーム等を用いて裁判外の任意手続によって開示される場合もあります。たとえば、著作権等の管理団体を構成員とするプロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会は、発信者情報の任意開示に関するガイドラインを公表しています。

>>参考:プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会

 これは、インターネット上で誹謗中傷されたとして発信者情報の開示請求がなされた場合に、サイト運営者等がどのように行動すべきかについて整理されたものです。

 しかし、サイト運営者等の対応や投稿内容にもよりますが、一般的に、裁判外の交渉によって、サイト運営者等が発信者情報を開示することは、滅多にありません。

 裁判所から、投稿の内容が名誉毀損等に該当するから発信者情報を開示せよという命令が出されて初めて、発信者情報が開示されるという流れが通常だといえます。

 そこで、裁判手続をとる必要が生じます。この裁判手続として、以前は、訴訟手続もしくは仮処分手続(※)をとることが通常でした。

※ 仮処分手続:通常の訴訟手続の前に、通常の訴訟手続で勝訴したときと同様の処分を相手方に命じるよう裁判所に求める手続。通常の訴訟を前提とした暫定的な仮の措置であるため、通常の訴訟手続より簡易・迅速に手続を進めることが可能。

 しかしながら、これらの裁判手続による場合、サイト運営者と経由プロバイダに対する発信者情報の開示請求がそれぞれ別個の手続にて行われるため、手続が複雑かつ長期化してしまうという課題がありました。

 そこで、プロバイダ責任制限法の令和3年改正法が令和4年10月1日に施行され、発信者情報の開示手続の簡略化が実現しました。同改正では「発信者情報開示命令」の制度が新設され、サイト運営者と経由プロバイダに対する発信者情報の開示請求を一括で、かつ非訟手続(※)という簡略な手続によることができ、上記の課題の解決が図られています。

※ 非訟手続:通常の訴訟手続が具体的事実に法律を適用して紛争を解決するという機能を果たすのに対し、非訟手続では裁判所が合目的な裁量により処分を行う。非訟手続は訴訟手続よりも簡略かつ柔軟である(ex.口頭弁論の実施及び手続の公開は不要)という特徴がある。

 以下では、プロバイダ責任制限法の令和3年改正で新設された発信者情報開示命令制度と、従前からの訴訟・仮処分手続による発信者情報開示に分け、説明していきます。

発信者情報開示命令制度

 発信者情報開示命令制度を利用した場合の典型的な流れは、

① 発信者情報開示命令及び提供命令の申立て(対サイト運営者)→経由プロバイダの名称等の情報の取得
② 発信者情報開示命令の申立て及び消去禁止命令の申立て(対経由プロバイダ)→消去禁止命令+投稿者の住所氏名等の取得

というものになります。

 以下、それぞれの申立てについて詳細を説明していきます。

(1) 発信者情報開示命令及び提供命令の申立て(対サイト運営者)

・ 口コミサイトやSNSに誹謗中傷的な投稿がされ、その投稿の発信者情報の開示を請求しようとする方た食品・飲食事業者の方(以下、請求者といいます。)は、まずはサイト運営者を相手方として、発信者情報(IPアドレス等)開示命令の申立て(上図①)を行います。この際、サイト運営者が投稿者のメールアドレスや電話番号も把握している場合には、IPアドレスやタイムスタンプ情報の他にこれらの情報も併せて開示の申立てを行うことが可能です。

・ また、この発信者情報開示命令の申立て(上図①)を本案として、サイト運営者に対して提供命令の申立て(上図②)を行います。かかる申立ては経由プロバイダの名称等を請求者に提供することをサイト運営者に対し命ずるように求めるものです。提供命令の申立ては、発信者情報開示命令の申立て(上図①)と併せて一つの申立書で行うことが可能です。

 この提供命令は、既述のとおり(3、(3))、経由プロバイダにおけるアクセスログの保存期間が比較的短期であり、サイト運営者に対する開示命令の申立てが容認されるまでの間、請求者が経由プロバイダに対する消去禁止命令の申立て(次項参照)をすることができないと、侵害情報に係るアクセスログが消去される懸念があるために設けられた制度です。

 提供命令が発令された場合、この効果として、㋐ サイト運営者が保有する発信者情報を元に特定される経由プロバイダの名称等の情報が請求者に提供されることとなり、請求者は、上記の発信者情報開示命令の申立て(上図①)の結果を待たずして、経由プロバイダに対し次の(2)の申立てを行うことが可能となります。

 さらに、提供命令には、㋑ 請求人が、㋐で名称等の情報を取得した経由プロバイダに対し次の(2)の開示命令の申立て(上図③)をした旨を、サイト運営者に通知したときには、サイト運営者は、その保有する発信者情報(IPアドレスやタイムスタンプ等)を経由プロバイダに提供する、という効果もあります(上図④)。これによって、サイト運営者を相手とする発信者情報開示命令の申立て(上図①)による開示命令が発令される前の段階において、サイト運営者が保有する発信者情報を、請求人には秘密にしたまま経由プロバイダに提供することができ、経由プロバイダにおいて、あらかじめ発信者情報(投稿者の氏名・住所等)を特定・保全することが可能となります。

(2) 発信者情報開示命令及び消去禁止命令の申立て(対経由プロバイダ)

・ (1)の申立てにより得た情報を基に、請求者は経由プロバイダを相手方として発信者情報(投稿者の氏名・住所等)開示命令の申立て(上図③)を行います。この申立ては、(1)の事件が係属しているときは、同事件と同一の裁判所に行うこととされています。既に裁判所に係属しているサイト運営者に対する開示命令事件の手続と、新たに申立てをした経由プロバイダに対する開示命令事件の手続が併合されることにより、一体的な審理を受けることができます。

・ 発信者情報開示命令事件の審理中に発信者情報が消去されることを防ぐため、裁判所は、申立てにより、発信者情報開示命令事件が終了するまでの間、経由プロバイダが保有する発信者情報の消去禁止を命ずることができます。この消去禁止命令の申立ては、発信者情報開示命令の申立て(上図③)と同時に行うことができます。

(3) 管轄裁判所

 発信者情報開示命令事件で相手方となるサイト管理者やプロバイダ等の事業者は外国法人であることが多く、発信者情報開示命令の申立てはどこの裁判所にするのかと気になる方が多いのではないでしょうか。ここでは、日本の裁判所に申立てができるのか(国際裁判管轄)と、日本の裁判所に申立てができるとしてどこの裁判所に申立てをするのか(国内裁判管轄)という問題を分け、説明いたします。

ア 国際裁判管轄

 プロバイダ責任制限法9条は、相手方が法人その他の社団又は財団のときには、以下の場合に、日本の裁判所に管轄権があるとしています(プロバイダ責任制限法9条1項2号・3号)。

・ 相手方の主たる事務所又は営業所が日本国内にあるとき(2号イ)

・ 相手方が日本国内に主たる事務所又は営業所を有しない場合であっても、次のいずれかに該当するとき(2号ロ)
 (ア) 相手方の事務所又は営業所が日本国内にある場合において、申立てが当該事務所又は営業所における業務に関するものであるとき
 (イ) 相手方の事務所若しくは営業所が日本国内にない場合又はその所在地が知れない場合において、相手方の代表者その他の主たる業務担当者の住所が日本国内にあるとき

・ 上記に該当しないときであっても、相手方が、日本において事業を行う者(日本において取引を継続してする外国会社を含む。)であり、申立てが相手方の日本における業務に関する場合(3号)。ここで、相手方が「日本において事業を行う者」で「日本における業務に関する場合」に該当する場合としては、相手方である外国法人が、日本において事務所又は営業所を設置することなく、日本から利用可能な日本語によるSNS等を提供している場合などが想定されています(※)。

※ 総務省総合通信基盤局消費者行政第二課「プロバイダ責任制限法逐条解説」(2023年3月)(下記URL)の第9条(国際裁判管轄)の【解説】の2の(5)の⑧)。
https://www.soumu.go.jp/main_content/000883501.pdf

・ 上記のほか、合意に基づく管轄権も認められます(2項)。

 ここで、外国会社とは、外国の法令に準拠して設立された法人その他の外国の団体であって、会社と同種のもの又は会社に類似するものをいいます(会社法2条2号)。会社法は、外国会社が日本において継続して取引をしようとするときは、日本における代表者(日本における代表者のうち一人以上は、日本に住所を有する者でなければなりません。)を定め(会社法817条第1項)、当該外国会社について登記することを求めています(会社法818条1項、933条1項)。

 そして、法務省や総務省の要請により、今日、大手ITの外国法人は、外国会社の登をしています。したがって、相手方が外国法人であっても、プロバイダ責任制限法9条1項2号により、また、同号に拠れなくとも「日本において事業を行う者」の「相手方の日本における業務に関する」ものとして、日本の裁判所に管轄が認められることになるでしょう。

イ 国内裁判管轄

 では、発信者情報開示命令の申立ては、国内のどの裁判所に対して行うのでしょうか。

 プロバイダ責任制限法10条によると、発信者情報開示命令の申立ては、区分に応じた地を管轄する「地方裁判所」の管轄に属するとし、法人その他の社団又は財団を相手方とする場合は、その地を、次の(イ)又は(ロ)に掲げる事務所又は営業所(当該事務所又は営業所が日本国内にないときは、代表者その他の主たる業務担当者の住所)の所在地としています(プロバイダ責任制限法10条1項3号)。

 (イ)相手方の主たる事務所又は営業所
 (ロ)申立てが相手方の事務所又は営業所((イ)に掲げるものを除く。)における業務に関するものであるときは、当該事務所又は営業所

 この規定により管轄裁判所が定まらないときは、最高裁判所規則で定める地(東京都千代田区)を管轄する地方裁判所の管轄に属します(プロバイダ責任制限法10条2項)。

 また、発信者情報開示命令の申立てについては、これまで多くの発信者情報開示の裁判を処理している東京地方裁判所又は大阪地方裁判所が競合的に管轄裁判所に加えられています(プロバイダ責任制限法10条3項)。

 上記のほか、当事者が合意で定める地方裁判所にも管轄が認められます(プロバイダ責任制限法10条4項)。

 なお、特許権、実用新案権、回路配置利用権又はプログラムの著作権の侵害を理由とする開示命令の申立てについては、特に専門技術的な要素が強いため、同種事件について蓄積のある東京地方裁判所又は大阪地方裁判所が、専属的に管轄となります(プロバイダ責任制限法10条5項)。

(4) 申立人の住所・氏名等の秘匿の制度

 発信者情報開示命令事件の相手方はプロバイダ等の事業者ですが、申立てを行った場合、発信者に対する意見聴取等(プロバイダ責任制限法6条)や裁判記録の閲覧によって、投稿者に、申立人の氏名や住所が知られ、さらなる被害が発生することを懸念している方もいらっしゃるかもしれません。

 このような問題について、民事訴訟法の改正によって住所・氏名等の秘匿の制度(第1編第8章)が創設され(したがって、次の5の手続においても利用できます。仮処分手続について民事保全法7条)、令和5年2月20日から施行されています。同制度は、発信者情報開示命令事件にも準用されています(プロバイダ責任制限法17条)。

 この制度を利用するには、秘匿決定の申立てを行い、住所・氏名等の全部又は一部が当事者又は利害関係参加人に知られることによって、申立人が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあることを疎明します。この決定を得た場合、申立人は、代替の住所・氏名等で裁判手続を遂行することができます。

訴訟・仮処分手続きによる発信者情報開示

 発信者情報開示命令制度があるにもかかわらず、当事者が以下の訴訟手続を選択する場合としては、事前にプロバイダ等から強く争う姿勢を示されたケースなどが想定されます。発信者情報開示命令制度により裁判所が開示命令を発したとしても、命令が発令された後1か月間の異議申立期間があり(プロバイダ責任制限法14条1項)、その期間内に異議の訴えが提起されると、訴訟手続に移行することになります。したがって、あらかじめ相手方から異議の訴えが提起されることが見込まれるような事案については、開示請求をする者としては、開示命令の手続を選択するとかえって審理期間が長期化する可能性があることを考慮して、発信者情報開示命令制度を選択せず、発信者情報開示請求訴訟を利用することが考えられます(※)。

※ 総務省「プロバイダ責任制限法Q&A」(下記URL)の「問23:発信者情報開示命令事件の申立てと発信者情報開示請求訴訟について、どのように使い分けられると想定していますか」(最終閲覧:2024年8月8日)
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/
joho_tsusin/d_syohi/ihoyugai_04.html#qa23

 発信者情報開示命令制度によらない訴訟・仮処分手続による発信者情報開示請求では、サイト運営者と経由プロバイダへの開示請求が別個の手続にて進行することとなります。

(1) 第1段階:サイト運営者への発信者情報開示の仮処分命令の申立て

 まず、プロバイダが保有するアクセスログが短期間で消去されるため、サイト運営者から早急に発信者情報の開示を受ける必要があるとして、保全の必要性を疎明し、サイト運営者を相手方とした発信者情報開示の仮処分を裁判所に申し立てます。なお、投稿記事削除の仮処分を同時に申し立てることも可能です。

 審理の結果、仮処分が発令される場合、裁判所の決定に従い一定の額の担保金を法務局に供託することになります。

 担保の金額は、10万円~30万円程度が多いのですが、開示を求める投稿の件数や事案の内容等により異なります。

 なお、この担保金は、違法・不当な仮処分が行われた際に備えるためのものです。そのため、通常は、発信者情報の開示を受けた後、一定の手続を経て回収することができます。

(2) アクセスログの保存請求

 既述のとおり(3、(3))、アクセスログの保存期間を経過してしまうと、投稿者にたどり着くことは難しくなってしまいます。そのため、仮処分によって経由プロバイダを特定した場合には、速やかにそのプロバイダに連絡をとり、アクセスログの保存を求める必要があります。

 この方法としては、以下の2つがあります。

① 裁判外で経由プロバイダ所定の方式に従ってアクセスログの保存を求める方法
② 裁判所にアクセスログの消去禁止の仮処分命令を申し立てる方法

 どちらの方法でも、発信者情報開示の仮処分命令が発令されたこと(違法な名誉毀損だと裁判所に認められたこと)や対象となる投稿がどれかがわかる資料を適宜添付して求めることになります。

 すぐに仮処分手続に移行できるよう用意をしつつ、経由プロバイダに対して任意でアクセスログの保存・消去禁止に応じてくれるよう速やかに連絡するのがよいでしょう。

(3) 第2段階:経由プロバイダへの発信者情報開示請求

 前述のとおり(3、(5))、経由プロバイダに対し、裁判外で発信者情報開示の請求をすることができます。この2段階目の発信者情報開示請求において、日本法人であるプロバイダは、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会のガイドラインに則って行動することが多いとされています。

 そして、経由プロバイダが任意の開示に応じない場合、または裁判外の請求をせずに、通常の訴訟手続によって、経由プロバイダに対し、発信者情報の開示を請求します。

損害賠償請求・刑事告訴

 誹謗中傷をした投稿者が特定された後、同投稿者に対し、名誉毀損等を理由として、不法行為に基づく損害賠償請求をすることが考えられます。また、投稿者を名誉毀損罪等で刑事告訴することも考えられます。刑事告訴は、投稿者が特定されていなくとも可能ですが、特定されている方が、捜査機関が刑事事件として取り上げる可能性が高いという傾向があるようです。

(1) 損害賠償請求

 損害賠償請求訴訟においては、権利侵害の有無が改めて争われるほか、損害の発生・数額も重要な争点になることが通常です。食品・飲食事業者の方としては、営業損害、慰謝料、投稿者特定のための調査費用、弁護士費用等が損害であると主張したいところでしょう。

 慰謝料については、従前は低い額しか認められないことが多く、100万円ルールなどといわれ、100万円未満に抑えられることが多い状況でした。もっとも、近時では200~300万円程度の慰謝料を認める裁判例もあらわれてきています。

 他方、営業損害については、投稿を直接の原因として生じたといえるか問題となることが多くあります。基本的には、投稿が原因で売上や利益が下がったと立証することは難しく、損害として認められる可能性は高くありません。

 また、調査費用、弁護士費用等については、その全額が損害として認められた裁判例もありますが、大半の裁判例では、(特に弁護士費用について)その一部が認められるにとどまっています。

(2) 刑事告訴

 食品・飲食事業者の方を誹謗中傷するような投稿は、名誉毀損罪、侮辱罪、信用毀損罪、業務妨害罪等に該当する可能性があります。これらの罪は、次のような行為を対象としています(各罪で保護される名誉や信頼、業務の主体には、法人その他の団体も含まれます)。

  名誉棄損罪
(刑法230条)
侮辱罪
(刑法231条)
信用棄損罪
(刑法233条前段)
業務妨害罪
(刑法233条後段)

行為

公然と事実を摘示し、人の名誉(人に対する社会的評価)を棄損(死者の名誉棄損は虚偽の事実を適示した場合のみ) 事実を摘示せず、公然と人を侮辱 虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて、人の信用(経済的な側面における人の社会的な評価)を棄損 虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて、人の業務を妨害

法定刑

3年以下の懲役若しくは禁固又は50万円以下の罰金 1年以下の懲役若しくは禁固若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは過料
★令和4年7月7日から法定刑が引き上げられています。
3年以下の懲役又は50万円以下の罰金 3年以下の懲役又は50万円以下の罰金

 このうち、名誉棄損罪と侮辱罪は、親告罪とされており、告訴がなければ処罰されることはありません(刑法232条)。

 誹謗中傷された食品・飲食事業者の方としては、投稿者をこれらの罪で刑事告訴(刑事訴訟法230条)をしたいところです。ただ、捜査機関に投稿者の処罰を求めて告訴状を提出したとしても、捜査機関がそれを受理して捜査を始めたり、捜査したとしても起訴したりするとは限りません。事案の重大性、被害弁償の有無・程度等により、対応は異なります。刑事告訴に向けて、証拠・資料等を準備し、事前に捜査機関に相談しておくなどの準備をしておくのが通常です。

令和6年改正:「プロバイダ責任制限法」から「情報プラットフォーム対処法」へ

 プロバイダ責任制限法は、インターネット上の書き込みによる誹謗中傷等の権利侵害があった場合に、プロバイダ等の損害賠償責任が免責される要件を明確化するとともに、上記のとおり、プロバイダに対する発信者情報の開示を請求する権利を定め(3、(1))、令和3年の改正では、より円滑に被害者救済を図るために、発信者情報の開示請求に係る裁判手続の創設し(3、(5))、開示請求を行うことができる範囲の見直しをする(3、(1))などの対応を行ってきました。

 そして、令和6年5月10日、同法の改正法が成立し、同月17日に公布されました。同改正は、インターネット上の違法・有害情報への事業者による対応の迅速化と運⽤状況の透明化を図るため、総務大臣が指定する一定の⼤規模プラットフォーム事業者(新20条)に対し、以下のような措置を義務づけるものです(「第5章 大規模特定電気通信役務提供者の義務」が新設されます。※)。

※ 令和6年改正の概要について、総務省「情報流通プラットフォーム対処法(プロバイダ責任制限法の⼀部改正)の概要」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000948497.pdf

・ 被権利侵害者から削除の申出を受け付ける方法の公表(新22条)
・ 削除の申出があった場合の侵害情報に係る調査の実施(新23条)
・ 侵害情報に係る調査のための体制の整備(⼗分な知識経験を有する者の選任等)(新24条)
・ 削除の申出に対する判断について、原則として申出から14日以内の所定の期間内に申出者に結果を通知(新25条)
・ 削除の基準の策定と公表(新26条。公表の時期について1項、同基準が適合することが望まれている事項について2項)
・ 削除をしたときの、当該削除対象となった情報の発信者に対する通知等(新27条)
・ 削除の実施状況(削除の申出の受付・同申出に対する判断の通知・削除情報の発信者に対する通知などの実施状況、これらの事項についての自らの評価、その他総務省令で定める事項)の年1回の公表(新28条)

 さらに、これらの措置の施行のため、総務大臣からの報告徴収(新29条)、違反に対する是正勧告・命令(新30条)、罰則(新35条乃至38条)の規定が設けられました。

 そして、これらの規律を加えるため、法律名が「特定電気通信による情報の流通によって発⽣する権利侵害等への対処に関する法律」(通称:情報流通プラットフォーム対処法)に改められます。

 同改正法は、公布の⽇から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されます。

まとめ

 以上のように、プロバイダ責任制限法(令和6年改正により「情報流通プラットフォーム対処法」)は、インターネット上の誹謗中傷等による権利侵害への対応をより進める方向で改正がなされてきています。

 ただ、投稿者を特定するために取り得る手段や特定した投稿者に対する請求等(損害賠償請求、刑事告訴)については、法律要件の解釈や手続等の選択・遂行に専門的知識を要しますので、弁護士にご相談されることをお勧めします。

 特に以下の方はご遠慮なくご連絡ください。

 ●口コミサイトやSNS上の誹謗中傷記事の投稿者に対して損害賠償請求をしたいと考えている食品・飲食事業者の方
 ●口コミサイトやSNS上の誹謗中傷記事の投稿者が誰なのか、特定したいと考えている食品・飲食事業者の方

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