名誉毀損の要件

はじめに

 現在では、お客様が口コミサイトやSNSなどの情報を確認してから、どの食品・飲食店を購入・利用するか選択することが当たり前になりました。
 SNS等に、商品・サービスを褒める投稿がされれば、食品や飲食店に対して良いイメージを植え付け、集客にも繋がります。他方で、商品・サービスを誹謗中傷するような投稿がされると、売上の減少の原因となりかねません。特に、口コミサイトやSNS等、インターネット上の投稿については、広範囲に・即時に・半永久的に拡散される可能性がある点で、事業者に与える影響は甚大といえます。
 このような口コミ等により誹謗中傷を受けた場合、食品・飲食事業者の皆様としては、それが名誉毀損だとして損害賠償請求等をしたいところです。
 この記事では、口コミサイトやSNSにおいて、どのような投稿が食品・飲食事業者の皆様に対する名誉毀損だと認められるのかについて、取り得る手段に触れつつご説明します。

名誉毀損(総論)

名誉毀損をされた場合の対応

 名誉毀損とは、特定の者の社会的評価を違法に低下させる行為のことをいいます。
 口コミサイトやSNSでの投稿によって名誉が毀損された場合、食品・飲食事業者の皆様としては、以下のような対応が考えられます。

①投稿者を名誉毀損罪に問う(刑事)
②投稿者に対して、損害賠償請求をする(民事)
③口コミサイトの運営者等に対して、その投稿の削除請求をする(民事)
④投稿者に対して、名誉を回復するのに適当な処分(名誉回復措置。いわゆる謝罪広告)をすることを請求する(民事)

 ①~④の中では、④の名誉回復措置(謝罪広告)のイメージがわきにくいのではないでしょうか。
 インターネット上の謝罪広告を命じた実例としては、東京地判平成24年11月8日(ウェストロー2012WLJPCA11088003)があります。
 この裁判例では、「私●●(投稿者)は、●●教授(被害者)の「●●」という論評を批判する文書を私のHPに掲載しました。しかし、これらは●●教授の社会的評価を低下させる不適切な表現を含んだものでした。これにより、●●教授の名誉を毀損し、●●教授に多大な迷惑をかけたことを認め、同文書を削除するとともに、ここに深くお詫び申し上げます。」という謝罪広告を投稿者のウェブサイトに掲載することを命じています。
 もっとも、④名誉回復措置(謝罪広告等)の請求は、実務上、特に必要性が高い場合に限り例外的に認められるに過ぎません。
 本記事では、②不法行為としての名誉毀損がどのような場合に認められるのかについて、以下の順番でご説明します。

 ・そもそも名誉とは何をいうのか
 ・名誉毀損の2つのパターン(事実摘示型と意見・論評型の区別)
 ・インターネット上の名誉毀損における具体的問題
 なお、③の投稿等の削除請求については、以下の記事をご覧ください。

>>参考:風評被害対策 口コミサイトやSNSで誹謗中傷された場合の対応~投稿された口コミの削除~

 また、①の刑事告訴、及び②の損害賠償請求に関する、具体的な手続きについては、以下の記事をご覧ください。

>>参考:風評被害対策 口コミサイトやSNSで誹謗中傷された場合の対応~損害賠償請求・刑事告訴、発信者情報開示の仮処分~

「名誉」とは

 「名誉」毀損とはいうものの、そもそも「名誉」とは具体的にはどういう意味なのでしょうか。
 法律上の概念である「名誉」は、一般的に内部的名誉、外部的名誉、名誉感情・主観的名誉の3つに分類されると考えられています。それぞれの意味内容は、以下のとおりです。

内部的名誉

 自己や他人が自身に対して下す評価から離れて、客観的にその人の内部に備わっている価値そのもの

外部的名誉

 人に対して社会が与える評価

名誉感情・主観的名誉

 自己が自身の価値について有している意識や感情

 不法行為としての名誉毀損にいう「名誉」とは、判例上、外部的名誉(人に対して社会が与える評価)に限られます。
 つまり、損害賠償請求をするためには、「その行為により社会的評価が低下した」と認められることが必要です。

 なお、名誉感情が侵害された場合には、何の請求もできないというわけではありません。名誉感情を、社会通念上受忍すべき限度を超えて侵害された場合は、名誉毀損ではありませんが、不法行為に基づく損害賠償請求ができるとされています。

事実摘示型と意見・論評型

 名誉毀損行為には、大きく分けて以下の2つの類型があります。
・事実を摘示する方法によるもの
・意見・論評を表明する方法によるもの

 証拠等により、その存否を判断できる場合は事実摘示型、そうでない場合は意見・論評型だと区別されます。

 飲食店に対する口コミの具体例を挙げて説明すると、以下のようになります。
事実摘示型:「あの店は「日本産のお米のみを使用」といっているのに、実は外国産のお米を使用している」 
意見論評型:「あの店の料理はまずい」

 まず、事実摘示型では、「外国産のお米を使用している」という「事実」を摘示する方法による名誉毀損が問題となります。他方、意見論評型では、「料理がまずい」という「意見・論評」を表明する方法による名誉毀損が問題となるのです。

 食品・飲食事業者の皆様が消したいと考える口コミの大半は、意見・論評型に該当することが多いでしょう。 
 しかし、事実摘示型、意見・論評型のいずれにあたるかにより、名誉毀損の要件の内容に違いが生じます。特に、意見・論評型の場合は、名誉毀損の成立が認められないことも少なくありません。これについては後述します。

インターネット上の名誉毀損における具体的問題

 以下では、インターネット上の名誉毀損について特に問題となる点を中心に、名誉毀損の成立要件について検討していきましょう。

社会的評価の低下

 名誉を毀損するとは、「特定の人・団体の社会的評価を低下させること」をいいます。
 社会的評価が実際に低下したかどうかを判断するにあたっては、その危険性があったか、低下の程度はどうか、表現内容は特定されているか、どのような基準で判断するのか、どのような方法で表現されたのか・・・・等、様々な点が問題となります。
 以下、順番にご説明します。

名誉「毀損」の内容・程度

 上記のとおり、名誉を毀損するとは、特定の人・団体の社会的評価を低下させることをいいます。ただし、現実に低下させることまでは必要なく、低下を招く危険性を生じさせることで足りるとされています。
 ただし、社会的評価の低下やその危険性が認められた場合、直ちに不法行為としての名誉毀損にあたるとされるわけではありません。裁判実務上、不法行為といえる程度の社会的評価の低下がある場合に限り、不法行為としての名誉毀損にあたると判断されています。

表現内容の特定

 どのような内容の表現がされたのかは、「一般の読者」(※)の普通の注意と読み方を基準に判断されます。

※ ここでいう「一般の読者」とは、その文章が表現される媒体の一般的な読者をいいます。たとえば、特定のテーマを取り扱っているネット掲示板では、そのテーマに関心を有している人たちが読者と考えられます。

 インターネット上の表現の場合は、問題となる投稿だけではどのような事実が摘示されたのか、不明瞭なことがあります。そのような場合には、文脈等を踏まえ、複数の関連する記事やスレッドを一体のものとして、どのような事実が摘示されたのか、どのような意見・論評が表明されたのか、判断されることがあります。
 裁判例(東京地判平成29年1月19日D1-Law29038438)では、掲示板上の「借りた金でゲーセン三昧だった」「また誰かひっかかるのかなあ」という投稿について、表現内容の特定が問題となったものがあります。
 上記の投稿のみでは、その意味内容は十分に明らかではないといえます。しかし、その投稿がされたスレッドに、「その人は借金する際に嘘をついていた」等の投稿がされていたこと等から、上記の投稿は、他人を騙して借金しているという事実が摘示されたものだと判断されました。

基準

 社会的評価を低下させるか否かについても、「一般の読者」の普通の注意と読み方を基準として判断されます。その際、表現対象の社会的地位や状況等も考慮されます。
 では、どのような場合に、投稿内容が、「一般の読者」の普通の注意と読み方に照らして社会的評価を低下させるといえるのでしょうか。
 事実摘示型と意見・論評型に分けて検討します。

<事実摘示型>

 上記のとおり、「事実摘示型」とは、事実を摘示する方法によるもので、証拠等により、その投稿の存否を判断できる場合です。
 具体例としては、食品会社に対する、「期限切れの原材料を利用している」「日本では利用できない甘味料を利用している」等の投稿を挙げることができます。
 飲食店に対するものとしては、「有名料理人が調理をしていると宣伝しているが、実はその料理人は全く調理をしていない」とか、「利用している食材の生産地について嘘がある」などの投稿も、これにあたるといえるでしょう。
 上記いずれの投稿も、その食品会社や飲食店の社会的評価を低下させると判断される可能性が相当程度あるといえるでしょう。

<意見・論評型>

 これに対し、「意見・論評型」とは、証拠等によりその投稿の存否を判断できないものをいいます。
 意見・論評型の名誉毀損の場合も、社会的評価の低下の有無は、一般の読者の普通の注意と読み方を基準に判断されます。
 たとえば、口コミサイトに、単に「A店のラーメンは不味い」と投稿されたとします。この場合、その投稿は単なる個人の感想や意見の表明にすぎず、社会的評価を低下させないと判断される可能性が高いでしょう。
 というのも、同じ食品・飲食物であっても、感想は顧客によって千差万別であり、全ての人に共通する絶対的・客観的評価基準はないためです。
 このような単なる感想や愚痴は、名誉毀損とは認められないことが基本です。
 
 これに対して、単なる感想や愚痴にとどまらない投稿であれば、名誉毀損だと認められる可能性があります。具体的には、以下の2つの場面が問題となります。
 ①強い感想の場合
 ②具体的根拠・エピソードも示されている場合

①強い感想の場合
具体例「おたくの料理はまずすぎる。食べたら体調も悪くなるだろう。もはや犯罪だね」

 このように、感想であっても表現が強すぎる場合は、名誉毀損だと認められる可能性があります。ただし、どの程度強い表現であれば社会的評価は低下したといえるのか、はっきりした基準はなく、ケースバイケースの判断となります。
 裁判例では、風俗店勤務の人について「感染するとわかってて出勤は犯罪だね」という投稿がされた事例で、前後の投稿の流れに照らして、社会的評価の低下が認められた例があります。

②具体的根拠・エピソードも示されている場合
 具体例「A店のラーメンは、とても質の悪い鳥ガラを利用しているので、不味い」

 このように、単に「A店のラーメンは不味い」と投稿するだけでなく、②その具体的根拠やエピソードも示されている場合には、総合して社会的評価を低下させると判断される可能性が高まります。
 もっとも、具体的根拠があわせて示されている場合だからといっても、常に社会的評価を低下させると判断されるわけではありません。
 裁判例では、以下のような肯定例・否定例があります

・肯定例
「脳幹グリオーマという脳幹部に腫瘍ができる難病でも治せると言われて本件施設を訪れ、お布施という名目で1回2万円を支払い原告の施術を2回受けたものの、全く効果がなかった」旨の具体的なエピソードも示された投稿について社会的評価の低下を認めた例(東京地判平成26年1月26日ウェストロー2014WLJPCA01218007)

・否定例
旅館に対する「天然プラネタリウムと名乗るオープンデッキも他のお客さんが遅くまでビヤガーデン化して煌々と明かりが灯いていた」「滅入ったのは今時エアコンの無い部屋です,考えられませんよね。50年前にタイムスリップしたのかと思いました」「料金も黙っていたらシーズン料金だからと多めに取られるとこでした」という投稿については社会的評価の低下を否定した例(東京地判平成24年12月12日ウェストロー2012WLJPCA12128017)。

 上記のとおり、具体的根拠が示されていたからといって、必ずしも社会的評価の低下が認められるわけではありません。あくまで、名誉毀損として不法行為になるほどの社会的評価の低下があるかどうかを、ケースバイケースで判断することになります。

表現方法

 投稿の表現方法は、社会的評価低下の程度の判断要素となります。
 たとえば、仮定や疑惑の話として表現する場合や、伝聞や噂として表現する場合は、断定的に表現する場合よりも社会的評価の低下の程度が低いと判断されることがあります。
 裁判例(東京地判平成29年5月29日ウェストロー2017WLJPCA05298011)では、「●●に脅しのメールでも送ったのか?w」という投稿について、脅しのメールを送ったのではないかという疑問文の形式であり、脅し行為を行ったことを示す内容でもない等として、社会的評価の低下はないと判示したものがあります。
 もっとも、単に仮定や疑惑、伝聞、噂等の形式をとることにより常に社会的評価の低下はないと判断されるというわけではありません。裁判例(東京地判平成21年3月11日ウェストロー2009WLJPCA03118006)でも、「「…とか?!」と疑問符を付すことにより,名誉毀損性を欠くことにはならない。」と判示したものがあります。

表現者(侵害の主体)

 インターネット上での名誉毀損については、そもそも名誉毀損をした加害者(侵害の主体)は誰なのか?が問題となることが少なくありません。
 もちろん、口コミや投稿を書き込んだ人物(表現者自体)が名誉の侵害主体(つまり加害者)にあたるのは当然です。これに加えて、投稿がされたサイトの運営者も侵害主体となるのか、SNSにおいてリツイート・いいね等をした者も侵害主体となるのか等が問題となります。

サイト運営者

 ある口コミサイトに名誉毀損と認められる投稿等がされた場合、食品・飲食事業者としては、そのサイトの運営者も加害者(侵害主体)だとして、削除請求や損害賠償請求等をしたいところです。このような請求は認められるのでしょうか。

<削除請求>

 多くの裁判例では、サイト運営者についても、名誉毀損に該当する投稿について、条理上の削除義務が認められています。
 これは、以下のような事情が考慮されているためと考えられています。
・投稿者のみならず、サイト運営者も管理者として投稿を削除することができること
・被害者からみれば、投稿者がどこの誰かわからず、投稿者本人に削除請求をすることは困難であることが多いこと

<損害賠償請求>

 損害賠償請求については、プロバイダ責任制限法が、名誉毀損の認められる投稿の流通に関与してしまったサイト運営者の損害賠償責任を、原則として免除しています。例外的にサイト運営者が責任を負うのは、以下の場合に限られます。
①サイト運営者において、他人の権利が侵害されていることを知っていたとき
又は
②その情報の流通を認識している場合で、それによる権利侵害を知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき

 簡単にまとめると、サイト運営者は自ら投稿等を削除することもできるのに、ある投稿等が名誉毀損だと認められる場合に、そのことを知りながらあえてその投稿を放置した場合には、損害賠償義務を負うということです。
 例外的な場合のみ損害賠償義務を負うとされているのは、ある投稿が名誉毀損であるか否かといった専門的判断をサイト運営者が任意にすることは困難であること、できるだけ多くの投稿・表現がされる状態は好ましいこと等が理由と考えられています。

SNS特有の問題

 SNSでは、投稿等の転載・引用が頻繁に行われています。特に、SNSで「いいね!」を押した人やリツイート・シェアした人も名誉の侵害主体となるかについて議論があります。

<リツイート>

 Twitterでは、リツイート機能により、情報を容易に拡散することができます。では、元ツイートが誰かの名誉を毀損するものである場合、リツイートをした人も、リツイートによりその誰かの名誉を毀損したことになるのでしょうか。
 リツイートの際、リツイート者が誰かは表示されるものの、元ツイートがそのまま表示されます。そのため、一般の読者としては、元ツイートをつぶやいたのは元ツイート者だと認識するのが通常でしょう。
 しかし、リツイートされた元ツイートもリツイート者の発言だと判断し、リツイート者を侵害主体と判断した裁判例が複数存在します。自身のタイムラインに元ツイートをそのまま載せるものである点で、リツイート者自身の発言と同様に扱われる等が理由とされています。
 まだまだ議論の余地がある論点ですが、リツイートした元ツイートも、リツイート者の発言だと判断される可能性があるという点が非常に重要です。

<「いいね!」等 >

 それでは、「いいね!」についてはどうでしょうか。
 SNSの利用にあたっては、あまり深く考えずに「いいね!」することが多いでしょうし、Facebookの「いいね!」は全世界で1日に45億回も押されているというデータもあるそうです。リツイートと比較すると、より関与の程度は低いように思われます。
 ある裁判例では、「いいね!」機能は、SNS上の発言等に対して賛同の意を示すものにとどまり、その発言自体と同視することはできないとしました。その上で、仮に「いいね!」の対象となる発言が誰かの名誉を毀損するとしても、「いいね!」をクリック・タップしたことをもって、不法行為責任を負うことはなく、その発言の削除を求める義務もない旨の判示がされています。
 もっとも、常に「いいね!」は不法行為としての名誉毀損にあたらないとまではいえないでしょう。特に発信力の高い著名人等によって「いいね!」がされたことで、それがなければ一部の範囲内の人に限定して読まれていた発言等が広く拡散する可能性もあります。そのような場合には、「いいね!」についても、対象となった発言等自体とは別に新たな名誉毀損が成立すると判断される可能性もあるといえます。

投稿の対象者(侵害の客体)

 投稿の対象者(侵害の客体。つまり、誰が被害者なのか)についても問題となることがあります。

不特定の集団を対象とした表現の場合

 ある投稿等によって名誉を毀損されたと主張する場合、そのような主張をしている被害者自身の名誉が毀損されたと評価されることが必要です。
 たとえば、「A社は●●だ」「B氏は●●だ」というように、「A社」「B氏」等の具体的な企業や個人を対象とした投稿であれば、この点は問題となりません。
 他方、例えば「日本人は●●だ」や「東京人は●●だ」といった投稿は、不特定の集団を対象としています。このような投稿の場合、裁判実務上、漠然と不特定の集団を対象とした表現がされても、その集団に属している特定のC氏の社会的評価の低下は認められず、名誉毀損は成立しないと判断されることが大半です。

 もっとも、所沢市の農作物がダイオキシンで汚染されているというニュースについて、「所沢市内において野菜等を生産する農家」の名誉が毀損されたことを前提とする判断をした裁判例があります。
 このニュースは大きな集団を表現の対象としていることから、対象者は特定されていないようにも思えます。それなのに名誉毀損を前提とする判断がされた理由としては、所沢市の各農家に、ニュースによって実際に甚大な影響が認められた事案だったこと等が考えられます。

対象者が匿名の場合

 また、投稿等の対象者(侵害の客体)を匿名で表現する投稿等が問題になることもあります。
 例えば、「お菓子屋であるX社は・・・」等といった投稿において、「X社」が匿名である場合です。
このような投稿が全くの匿名で、一般読者の普通の注意と読み方を基準に考えても、ある特定の企業を指すとはいえない場合、名誉毀損は成立しません。
   ただし、その投稿自体は匿名で、企業名等が明らかでなくても、一般読者の普通の注意と読み方を基準に考えると、SNSや口コミサイトの前後の投稿等から、X社が特定の企業を指すものといえる場合には、名誉毀損が成立することがあります。
 例えば、「お菓子屋であるX社は・・・」という投稿がされていても、その前後にX社の主要商品名が何度も投稿されており、「X社とは●●社のことだな」と一般読者に伝わってしまうような場合には、名誉毀損が成立する可能性があるでしょう。

公然性

 公然性とは、不特定又は多数の人へ表現が伝達されることをいいます。

 名誉毀損罪(刑事)の場合は、法律上の明文で公然性が要件とされていますが、不法行為としての名誉毀損(民事)の場合はそのような明文はないものの、現在の裁判実務では、不法行為としての名誉毀損(民事)の場合も、公然性が必要だとされています。
 表現が公然とされる(つまり、表現が不特定又は多数の人へ伝達される)ことにより、「社会的」に評価を低下させたといえためです。
 公然性が認められるのは、以下の2つの場合です。

不特定又は多数の者に対して伝達される場合

 たとえば、公衆の面前で名誉が毀損された場合や、誰でも閲覧できるネット掲示板等に投稿された場合です。

特定少数者への伝達であっても、不特定又は多数の者への伝播可能性がある場合

 特定少数者への伝達であっても、そこから不特定又は多数の者に伝わる可能性がある場合、公然性の要件が認められます。これは、伝播可能性があれば「社会的」に評価を低下させる危険性があるためです。
 たとえば、食品や飲食店の悪い口コミを、SNS内で一定のメンバーしか閲覧できないグループに投稿した場合であっても、その投稿は不特定又は多数の人に知れ渡る可能性がありあます。従いまして、公然性は認められることが大半でしょう。

名誉毀損を否定する事情(違法性阻却事由)

 口コミサイトやSNSでの投稿により、公然と食品・飲食事業者の社会的評価を低下させる危険性を生じさせた場合であっても、以下の条件を満たす場合、不法行為としての名誉毀損(民事)は成立しません。
 この違法性阻却事由については、事実摘示型と意見・論評型で、その要件が異なります。以下では、それぞれのタイプごとに分けて説明します。

事実摘示型の名誉毀損

 この場合における違法性阻却事由の要件は、以下の3つです。この3つの要件を満たした場合、名誉毀損は成立しません。

①公共の利害に関する事実に係ること(公共性)
②専ら公益を図る目的に出たこと(公益目的)
③-1摘示された事実が真実であると証明されること(真実性)
又は
③-2加害者において摘示した事実が真実であると信ずるについて相当の理由があること(真実相当性)

   以下では、それぞれの要件について説明します。

<①公共性>

 公共性については、裁判例において「多数の人の社会的利害に関係する事実で、かつその事実に関心を寄せることが社会的に正当と認められるもの」「国民が正当な関心を有する事実」などと表現されています。
 これに該当するか否かについて、判例は、摘示された事実自体の内容・性質に照らして客観的に判断されるべきであり、表現方法や事実調査の程度によって左右されないとしています。
 裁判例では、プライバシー・私生活上の行状に関する事柄は、一般に公共性が否定される傾向にあります。
 もっとも、判例上、私生活上の行状であっても、社会的活動の性質や社会に及ぼす影響力の程度等によっては、公共性ありと判断される場合があるとされています。

 具体的には、政治家等の公人に関する事柄は、私生活上の行状に関するものであっても、公共性ありと判断される可能性が高まります。
 他方、私人・私企業のプライバシーに関する事柄の投稿は公共性が否定されやすい傾向があります。もっとも、私人・私企業であっても、社会的影響力の大きい団体の幹部(政治的影響力の強い宗教団体の幹部等)に関する事柄であれば、公共性が肯定される可能性は高まります。
 また、刑事事件に関する事柄である場合は、私人・私企業についても公共性が肯定されやすいという傾向にあります。行政処分に関する事項についても、社会的活動の性質や社会に及ぼす影響力の程度等に照らして、公共性ありと判断される余地はあるでしょう。

 それでは、食品・飲食事業者に関する投稿はどうでしょうか。
 まず、社会的影響力の大きいといえる規模の事業や、刑事事件に関する投稿の場合は、公共性ありと判断される可能性が高まります。
 これに対して、特に著名でない中小企業に関する投稿については、公共性が否定されそうですが、必ずしもそうではありません。

 実例として、飲食店に関する掲示板上での投稿について、その公共性を肯定した裁判例があります(東京地判平成26年12月24日2014WLJPCA12248001)。
 裁判所は、掲示板上の投稿について、その飲食店の関係や周辺に在住する顧客等との関係では「公共性あり」と判断しました(なお、結論としては、次にご説明する公共目的が認められない等として、名誉毀損の成立を肯定しました)。 

< ②公益目的 >

 投稿の目的が、主として公益を図るものである場合、公益目的は認められます。
   裁判例では、公共性があると判断された場合、特段の事情がない限り、公益目的もあると推認される傾向にあるとされています。
 そのため、投稿等が違法な名誉毀損にあたると主張する食品・飲食事業者としては、裁判実務上、その投稿等の主たる目的は、嫌がらせや復讐といった公益以外の目的によるものだ等と主張して、この推認を覆すことが求められます。
 ただし、仮に、投稿者が食品・飲食事業者に個人的な恨みを抱いているなど、公益目的以外の目的があるとしても、それだけでは公益目的なしとは認められません。あくまで、主たる目的が公益目的といえるかどうかで判断されることになります。

< ③-1 真実性 >

 摘示された事実が重要な部分において真実である場合、不法行為としての名誉毀損(民事)は成立しません。
 重要な部分か否かは、一般の読者の普通の注意と読み方を基準に、その投稿の中心的命題・主眼は何かによって判断されます。
 具体例として、「ここは 無添 a寿司 などと標榜しているが なにを 無添なのか これっぽっちも 書かれていない。 揚げ油はなにを使っているのか シリコーンは入っているのか。 果糖ブドウ糖は入っているのか? 化学調味料なし。 と言っているだけ。」という投稿が問題となった裁判例があります(東京地判平成29年4月12日2017WLJPCA04126010)。
 裁判所は、この投稿の主眼は「原告が『無添』の対象として公表しているもの以外の個別具体的な添加物等(例えば,揚げ油の種類,シリコーンや果糖ブドウ糖の使用の有無)については,その使用の有無が公表されていない」という点にあり、それが摘示された事実の重要な部分であると判示しました。
 なお、この裁判例では、摘示された具体例を原告が公表していないことは社会的に批判されるべき事実などとはいえないから、その投稿は原告の社会的評価を低下させない等と判断し、名誉毀損の成立を否定しました。

<③―2 真実相当性 >

 仮に、その投稿が真実でない場合であっても、投稿者がその投稿内容について「真実だと誤信」し、その誤信が「確実な資料・根拠」に基づくものだと認められた場合は、名誉毀損は成立しません。

 なお、インターネット上の投稿については、新聞などと異なり、投稿されるまでに十分な推敲や裏取りがされるとは限らない上、匿名でされることが多くあります。
 そのため、インターネット上の表現は、新聞・テレビ等のマスメディアの表現と比較して一般に信用性が低いのではないかという考えがあります。その上で、インターネット上の表現は一律に信用性が低いこと等を理由に、相当性の基準を緩めるべきだと主張されることがあります。
 しかし、インターネット上の表現だからといって一律に信用できないとはいえません。また被害者からすれば、むしろインターネット上の表現の方がより重大な被害をもたらすおそれすらあります。
 裁判実務においても、一概にインターネット上の表現だからといって直ちに信用性が低いとは考えられておらず、相当性の基準を緩めるべきだという上記の見解は採用されていません。

意見・論評型の名誉毀損

 次に、意見・論評型の名誉毀損の違法性阻却事由について、ご説明します。意見・論評型の違法性阻却事由は以下のとおりです。

①公共の利害に関する事実に係ること(公共性)
②専ら公益を図る目的に出たこと(公益目的)
③-1意見・論評の前提としている事実が重要な部分において真実であることの証明があること(真実性)
又は
③-2その事実が真実であると信ずるについて相当の理由があること(真実相当性)
④表現内容が人身攻撃に及ぶなど意見・論評としての域を逸脱したものでないこと

事実摘示型とは、③・④の要件に違いがあります。

<③-1 ③-2 真実性・真実相当性 >

 意見ないし論評の前提としている事実の重要な部分において真実性・真実相当性が認められる場合、不法行為としての名誉毀損(民事)は成立しません。意見ないし論評の前提としている事実について判断されるという点がポイントです。
 重要な部分か否かについて、一般の読者の普通の注意と読み方を基準に判断される点は事実摘示型と同様です

< ④表現内容が人身攻撃に及ぶなど意見・論評としての域を逸脱したものか否か >

 意見・論評型の場合は、この要件が加わります。

 この意義を明確にした判例はありませんが、表現方法が執拗である、表現内容が極端な揶揄・愚弄・嘲笑・蔑視的であるといった場合には、表現内容が人身攻撃に及ぶなど意見・論評としての域を逸脱したものだと判断されるとされています。
 この「意見・論評としての域を逸脱したか否か」は、どのような文言が用いられたかも重要ですが、投稿全体として、かつ投稿の主眼に照らして、判断されます。
 例えば、「変態度MAX」という文言を用いた投稿について、投稿対象者(客体)への配慮に欠けた表現だとしつつ、意見・論評としての域を逸脱した違法なものとまではいえないと判断した裁判例があります。
 他方、「バカ」「キチガイ」「狂人」という文言を繰り返し用いた上、「脳味噌にウジがわいたアホ」という表現をした投稿について、人身攻撃に及んでいると判断して名誉毀損を認めた裁判例もあります。
 このように、人身攻撃に及ぶなど意見・論評としての域を逸脱したものといえるか否かは、ケースバイケースで、その投稿に即して判断されることになります。

まとめ

 以上のとおり、口コミサイトやSNS等、インターネット上で食品・飲食事業者の皆様に対するマイナスの投稿がされた場合、不法行為としての名誉毀損(民事)が認められるための要件について、ご説明しました。
 特に以下のような方や、名誉毀損についてお悩みの方は、遠慮なくご相談ください。

• 口コミサイトやSNS等において、身に覚えのない噂を立てられて困っている食品・飲食事業者の方
• インターネット上で誹謗中傷を受けているが、どのような対策があるのか、どのような対策をとるべきか、お知りになりたい食品・飲食事業者の方
• 投稿者に対して損害賠償請求をしたいとお考えの食品・飲食事業者の方

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