Food法務 第5号 同一労働同一賃金に関する最高裁判決~主に賞与・退職金について~
同一労働同一賃金に関する最高裁判決~主に賞与・退職金について~
はじめに
10月13日と15日、同一労働同一賃金について、重要な複数の最高裁判決が出ました(大阪医科薬科大学事件、メトロコマース事件、日本郵便事件)。
ニュースでも大きく取り上げられていましたので、目にされた方も多いのではないでしょうか。
食品・飲食業界の皆様にも、大変影響の大きい判決ですので、概要をご紹介いたします。
<10月13日>
▼大阪医科薬科大学事件・メトロコマース事件:
「賞与」・「退職金」等に関する非正規雇用者と正社員との格差(非正規雇用者には支給しないこと)は不合理か
→ 支給しないことは不合理ではない(会社側勝訴)
<10月15日>
▼日本郵便事件(東京・大阪・佐賀の3つの地方裁判所で提起された訴訟それぞれの判決)
「扶養手当」等の手当、「病気休暇」等の休暇に関する非正規雇用者と正社員との格差(非正規雇用者には扶養手当等を支給せず、病気休暇等を認めないこと)は不合理か
→ 支給等しないことは不合理(労働者側勝訴)
今回は、このうち10月13日の賞与・退職金等に関する2つの最高裁判例について概説します。
最高裁判決の概要(賞与・退職金に関する格差について)
賞与・退職金等に関する2つの最高裁判決(大阪医科薬科大学事件・メトロコマース事件)では、主に以下の点が問題となりました。
(賞与・退職金以外の点も問題となっていますが、字数の関係から割愛します。)
▼大阪医科薬科大学事件
大学の教室事務職員(アルバイト)に、正社員と同様に「賞与」が支給されるべきか
▼メトロコマース事件
駅の売店に勤務する契約社員に、正社員と同様に「退職金」が支給されるべきか
最高裁は、いずれも不支給は不合理とはいえないと判断しました(会社側勝訴)。
経営者の皆様としては、アルバイトや契約社員(以下では「非正規雇用者」といいます。)には、賞与や退職金が支払われないのは当たり前だと思われているかもしれません。そして、この最高裁判決を見て、「やはり非正規雇用者には賞与や退職金を払わなくていい」と感じられるかもしれません。しかし、決してそうではありません。
メトロコマース事件の補足意見では、
・非正規雇用者であっても、ある程度長期間雇用されることを想定して採用されている場合であり
・比較の対象とされた正社員との職務の内容等が実質的に異ならないようなとき
には、非正規雇用者に退職金を支給しないことは不合理(支給する必要あり)と判断される可能性がある旨の見解が示されているのです。
今後の検討事項
食品・飲食業界においても、非正規雇用者の方に対しては、賞与や退職金を支給しないことが大半であると思われます。
しかし、上記最高裁判決を踏まえると、非正規雇用者に賞与や退職金を支給しないのであれば、その非正規雇用者が「実質的に正社員と異なる状態」であるといえるか、検討が必要です。
具体的には、以下の要素を総合的に検討する必要があります。
・業務の内容(中核的業務・不可欠な役割を担っているか否か、その程度等)
・責任の程度(結果に対する責任の有無、決裁権限の範囲、管理する金額・部下の多寡等)
・職務内容と配置の変更の範囲(配転、転勤、出向、昇・降格の有無等)
・その他の事情(正社員登用制度の有無・運用状況、従業員への説明状況、労組との交渉状況等)
なお、以上の点から「実質的に正社員と異なる状態」といえるだけでは、十分ではありません。
これらに加えて、
・賞与や退職金について、非正規雇用者と正社員との間に格差を設けている合理的な理由
についても、客観的裏付け(就業規則等に定められているか、実際の運用はどうか等)をもって説明できる必要があります。
最後に
食品・飲食業界においても、契約社員やアルバイト等の非正規雇用者について、
・契約更新を長期間繰り返しており、業務内容等も正社員とあまり変わらない
・しかし、賞与や退職金の点で正社員とは大きな格差がある
という状態にあることは、少なくないと思われます。
特にそのような場合には、不合理な格差である(=非正規雇用者の方にも賞与や退職金を支給すべきである)と判断されないよう、会社の制度・運用について改めて検討された方がよいでしょう。
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