Food 法務 第15号 看板商品・看板料理のレシピを権利として保護できないか
はじめに
食品・飲食事業者の皆様から、看板商品・看板料理のレシピについて、ライバルに真似されたくないので知的財産として保護できないか?とご相談を受けることがあります。
本コラムでは、レシピの知的財産としての保護について、著作権、特許権、営業秘密の3点から検討します。
著作権
著作権は、「表現」は保護するが「アイデア」そのものは保護しないという権利です。
レシピ自体は、基本的には「アイデア」に留まり、著作者の独創性が現れた「表現」とは基本的にいえないと考えられています。誰が表現しても「砂糖大さじ1杯」など同じ表現になり、著作者の創作的な表現が加わる余地がほぼないためです。
そのため、レシピ自体は、基本的に著作権では保護されません。
特許権
特許権は、著作権と異なり、アイデアそのものを保護する権利です。
そのため、ある料理のレシピを構成する、製造方法・製法技術・原料配分等については、発明(自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの)として特許権が認められる可能性があります。
ただし、特許登録は、以下の2つの要件を充たす必要があります。
①新規性(まだ世の中に存在していない発明であること)
②進歩性(容易に発明できないこと)
レシピの場合、既に知られた料理や製造方法では「新規性」(①)は認められません。
また、容易には思いつかない創意工夫によって風味が良くなったなどといえないと「進歩性」(②)も認められません。
このように、特許権が認められるハードルは決して低くありません。
そもそも、要件を充たすとしても、レシピに関しては、特許登録することが常に良いとは言い切れません。
まず、特許権を取得するために出願をした場合、出願から1年半が経過すると、全ての出願内容が特許庁のウェブサイトにおいて世界中に「公開」されてしまいます。
そのため、レシピを特許出願すると、かえって他者に模倣される可能性が高まるともいえるのです。
営業秘密
では、営業秘密としてレシピを保護できないでしょうか。
不正競争防止法上の営業秘密だと認められると、不正に取得・使用・開示した者に対する差止請求や損害賠償請求が可能です。
ただし、そのためには、以下の3つの要件を充たす必要があります。
①秘密管理性(秘密として管理されていること)
②有用性(事業活動に有用な情報であること)
③非公知性(公然と知られていないこと)
なお、①秘密管理性については、しっかりとした管理をしていないと認められないため注意が必要です。
具体的には、以下のような管理が必要です。
<紙媒体に記載されたレシピ>
・文書やファイルに「マル秘」等の表示をする
・施錠可能なキャビネットや金庫等に保管する
<電子データとして保管しているレシピ>
・記録媒体(CD等)、電子ファイル名、電子フォルダ名、ドキュメントファイルのヘッダーに「マル秘」等の表示をする
・閲覧のパスワード設定をする
おわりに
以上のとおりですので、看板商品・看板料理のレシピをライバルに真似されないようにするためには、不正競争防止法上の営業秘密と認められるよう、厳密な管理を行うことが一番よいでしょう。
コカ・コーラの希釈シロップのレシピも、(本当かどうかわかりませんが)その内容を知っている人間は社内で2人しかいないと言われているようです。
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