食品表示基準の弾力的運用 — 令和6年能登半島地震を受けて

1 はじめに

食品は、人々が直接体内に摂取するものであるため、食品表示法4条1項に基づく食品表示基準に従った適切な食品表示により、消費者に食品の内容を正しく伝達することは重要です。他方で、今般発生した能登半島地震の被災地においては、食料が不足する状況にあり、食料の円滑な供給が重要な課題となっています(※1)。

これを受け、令和6年1月3日、消費者庁・農林水産省・厚生労働省は、連名で、災害救助法(昭和22年法律第118号)の適用対象たる被災地において販売・譲渡(不特定又は多数の者に対する無償譲渡に限ります(※2)。)される食品につき、食品表示基準の弾力的運用を認める方針を打ち出し、関係機関に通知しました(「令和6年能登半島地震を受けた食品表示法に基づく食品表示基準の運用について」※3)。

本稿では、この通知による食品表示基準の弾力的運用について説明いたします。

※1 消費者庁食品表示企画課長、農林水産省消費・安全局消費者行政・食育課長、厚生労働省健康・生活衛生局がん・疾病対策課長「令和6年能登半島地震を受けた食品表示法に基づく食品表示基準の運用について」(令和6年1月3日消食表第1号・5消安第5731号・健生が発0103第1号)の1頁(本文の第1段落)

https://www.maff.go.jp/j/press/syouan/kansa/pdf/20240103hyoji.pdf

※2 特定かつ少数に対して無償で譲渡する場合には、食品表示基準は適用されません(消費者庁食品表示企画課「食品表示基準Q&A」平成27年3月(最終改正:令和5年3月31日消食表第155号)の第1条関係の(総則-2))。

https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_230331_06.pdf

※3 ※1の通知参照

2 食品表示基準の弾力的運用が認められる被災地

食品表示基準の弾力的運用が認められる地域は、令和6年能登半島地震によって災害救助法が適用される被災地で、令和6年1月1日時点では、以下に掲げる47市町村です(※4)(今後同法の適用地域が拡大した場合、その地域も含まれることになります(※5))。

○ 新潟県(13市1町)

:新潟市、長岡市、三条市、柏崎市、加茂市、見附市、燕市、糸魚川市、妙高市、五泉市、上越市、佐渡市、南魚沼市、三島郡出雲崎町

○ 富山県(9市3町1村)

:富山市、高岡市、氷見市、滑川市、黒部市、砺波市、小矢部市、南砺市、射水市、中新川郡舟橋村、中新川郡上市町、中新川郡立山町、下新川郡朝日町

○ 石川県(10市7町)

:金沢市、七尾市、小松市、輪島市、珠洲市、加賀市、羽咋市、かほく市、白山市、能美市、河北郡津幡町、河北郡内灘町、羽咋郡志賀町、羽咋郡宝達志水町、鹿島郡中能登町、鳳珠郡穴水町、鳳珠郡能登町

○ 福井県(3市)

:福井市、あわら市、坂井市

※4 内閣府政策統括官(防災担当)「令和6年能登半島地震にかかる災害救助法の適用について【第2報】」(令和6年1月1日)

https://www.bousai.go.jp/pdf/240101_kyuujo2.pdf

※5 ※1の通知の2頁(問2の(答)のなお書き)

3 弾力的運用の例外

通知で示された食品表示基準の弾力的運用においては、健康被害防止の観点から、弾力的な運用の対象とはならない事項があります。この点についてまず説明いたします。

(1)弾力的運用が認められない事項 -「アレルギー表示」及び「消費期限」

今回の食品表示基準の弾力的運用は、食品表示基準に定められた義務表示事項の全てが表示されていない場合でも、関係行政機関において、当分の間、これに対する取締りを行わなくても差し支えない、というものです。

しかし、「アレルギー表示」及び「消費期限」については、被災地の方々の食事による健康被害を防止するため、従来どおり個々の容器包装に表示する必要があることから、弾力的運用の対象とはならず、従来どおり、食品表示基準に則った表示をしなければなりません(※6)。

※6 ※1の通知の1頁(最終段落)

なお、食品表示基準では、「アレルギー表示」及び「消費期限」について、以下のように規制しています。

(2)アレルギー表示の規制

健康被害を引き起こすアレルゲン(食物アレルギーの原因となる物質)には、実際のアレルギー発症数や重篤度等に差異があり、食品表示基準は、そのうち、表示の必要性の高いものを別表第14に掲げ、「特定原材料」として、表示義務の対象としています(食品表示基準第3条第2項)。

また、アレルギー表示の対象としては、特定原材料に準ずるものとして、「食品表示基準について」(平成27年3月30日付消食表第139号)という通知(※7)が表示を推奨している「準特定原材料」があります。

具体的には、以下のものがアレルギー表示の対象となっています(令和6年4月現在)。

特定原材料
(8品目)

えび、かに、くるみ、小麦、そば、卵、乳、落花生(ピーナッツ)

準特定原材料
(20品目)

アーモンド、あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、マカダミアナッツ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン

なお、「くるみ」は、従前は準特定原材料でしたが、令和5年3月9日に「食品表示基準の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第15号)が公布され、特定原材料に追加されました(※8)。

また、令和6年3月28日に、「食品表示基準について」の一部が改正され、準特定原材料として「マカダミアナッツ」が追加され、「まつたけ」が削除されました(※9)。

※7 「食品表示基準について」の「別添 アレルゲンを含む食品に関する表示」

https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_240401_203.pdf

※8 「くるみ」を含む食品のアレルギー表示は、令和7年3月31日までに製造され、加工され、又は輸入される加工食品(業務用加工食品を除く)及び同日までに販売される業務用加工食品については、従前の例によることができますが、特定原材料は、重篤な健康危害を発症するものなので、速やかに表示することが望まれています(※2の「食品表示基準Q&A」の「別添 アレルゲンを含む食品に関する表示」の(I-9))。

※9 消費者庁次長「『食品表示基準について』の一部改正について」(令和6年3月28日消食表第 1 8 9 号)

https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_240328_05.pdf

そして、食品表示基準は、特定原材料を原材料とし、また特定原材料に由来する添加物を含む加工食品(※10)や、特定原材料に由来する添加物を含む一定の生鮮食品、特定原材料に由来する添加物について、アレルゲンの表示(※11)を義務的表示事項としています(加工品について、食品表示基準3条2項・10条1項8号、生鮮食品について同19条・24条1項5号及び別表24、添加物について同32条2項・3項)(※12)。

※10 特定原材料を原材料とする加工食品を原材料とするものを含み、抗原性が認められないものや香料を除きます。

※11 特定原材料を含む旨、また、特定原材料等に由来する添加物やこのような添加物を含む食品については添加物の物質名と特定原材料等に由来する旨を表示します。

※12 ただし、適用が除外される場合があります(食品表示基準1条ただし書き、5条1項、10条1項柱書の括弧書き、11条1項、19条括弧書き、24条1項柱書の括弧書き)。

(3)消費期限の表示

「消費期限」とは、「定められた方法により保存した場合において、腐敗、変敗その他の品質の劣化に伴い安全性を欠くこととなるおそれがないと認められる期限を示す年月日」をいいます(食品表示基準2条1項7号)。

期限表示として「賞味期限」もありますが、これは、「定められた方法により保存した場合において、期待される全ての品質の保持が十分に可能であると認められる期限を示す年月日(ただし、当該期限を超えた場合であっても、これらの品質が保持されていることがある)」をいいます(食品表示基準2条1項8号)。

品質が急速に劣化しやすい食品にあっては「消費期限」である旨の文字を冠したその年月日を、それ以外の食品にあっては「賞味期限」である旨の文字を冠したその年月日を年月日の順で表示します(食品表示基準3条1項)(※13)。

消費期限又は賞味期限は、加工食品や一定の生鮮食品、添加物についての義務表示事項となっています(加工食品について、同3条1項・10条1項、生鮮食品について、同19条・24条1項5号及び別表第24、添加物について同32条1項・3項)(※14)。

なお、今回の食品表示基準の弾力的運用は、この「消費期限」を例外としていますが、「賞味期限」は例外としていません。

しかし、「賞味期限」については、多くの業務用加工食品において容器包装に表示されている状況もあり、可能な限り個別に表示することが求められています(※15)。

また、消費期限や賞味期限は、未開封の状態で適切に保管されていることを前提としていることから、食品を適切に保管することが困難な避難所等においては、開封後の食品は、食べ残しを保管せず、適切な喫食方法で、速やかに消費すべきとされています(※16)。

※13 製造又は加工の日から賞味期限までの期間が3ヶ月を超える場合にあっては、賞味期限である旨の文字を冠したその年月を年月の順で表示することもできます(食品表示基準3条1項の「消費期限又は賞味期限」の欄参照)。

※14 ただし、適用が除外される場合(食品表示基準1条ただし書き、3条3項、10条1項柱書の括弧書き、11条1項、19条括弧書き、24条1項柱書の括弧書き)や、省略が可能な場合(同3条3項・4項、10条4項)があります。

※15、16 ※1の通知の2頁(問1の(答)の第2段落・第3段落)

以上のとおり、被災地において食品表示基準が弾力的に運用されても、「アレルギー表示」及び「消費期限」については、上記(2)、(3)のように、食品表示基準の規定に従い、個々の食品の容器包装に表示する必要がありますので、注意が必要です。

4 その他の義務表示事項についての弾力的運用

上記3に対し、「アレルギー表示」及び「消費期限」以外の義務表示事項については、上記2の被災地において、食品表示基準が弾力的に運用されます。

「アレルギー表示」及び「消費期限」以外の義務表示事項として、例えば加工食品については、名称、保存の方法、原材料名、添加物、内容量、栄養成分の量及び熱量等の横断的に定められた表示事項(食品表示基準3条1項・2項、10条1項、15条)や、個別の食品ごとに定められた表示事項があります(同4条)。

もっとも、通知が示している食品表示基準の弾力的運用は、「食品の譲渡(中略)又は販売の態様等を総合的に勘案し、食品の安全性に係る情報伝達について十分な配慮がなされていると判断されるとともに、消費者の誤認を招くような表示をしていない場合」には、必ずしも義務表示事項の全てが表示されていなくとも、取締りを行わなくても差し支えない、とするものです(※17)。

したがって、「アレルギー表示」及び「消費期限」以外の義務表示事項についても、消費者の誤解を招くような悪質な違反が従来どおり取締りの対象となることはもちろん、食品の安全性に係る情報伝達について十分な配慮がなされることが必要となります。

この、食品の安全性に係る情報伝達についての十分な配慮に関わり、通知は、「アレルギー表示」及び「消費期限」以外の義務表示事項について、「食品を入れるダンボール等の梱包資材に、食品表示基準に規定される表示事項が記載された紙を貼り付け、梱包資材の中の食品の個数相当の数の表示事項が記載された紙をその梱包資材に入れたり、食品に近接したPOPや掲示により、消費者に提供されることが望ましい」とし、関係機関に対し、事業者から問合せがあった場合には、その旨指導するよう求めています(※18)。

このように、「アレルギー表示」及び「消費期限」以外の義務表示事項については、個々の容器包装に表示する必要はありませんが、食品の梱包資材周りや近接したPOP、掲示等により、消費者の食品選択上、情報が伝達されるよう配慮をすることが求められます。

※17 ※1の通知の1頁(本文の第2段落)

※18 ※1の通知の2頁(問1の(答)の第1段落)

5 食品表示基準の弾力的運用の終了時期について

令和6年能登半島地震を受けた食品表示基準の弾力的運用について、現時点において、かかる運用の終了時期については明らかではありません。

参考までに、過去には以下の期間に食品表示基準の弾力的運用が実施され、終了しています。

○ 新型コロナウイルス感染症の拡大を受けた食品表示法に基づく食品表示基準の弾力的運用(令和2年4月10日発出・令和3年12月31日終了)(※19)

○ 令和2年7月3日からの大雨を受けた食品表示法に基づく食品表示基準の弾力的運用(令和2年7月7日発出・令和2年11月23日終了)(※20)

○ 平成30年7月豪雨及び平成30年北海道胆振東部地震を受けた食品表示法に基づく食品表示基準の弾力的運用(平成30年7月13日・平成30年9月7日発出・平成30年12月31日終了)(※21)

※19 消費者庁「新型コロナウイルス感染症の拡大を受けた食品表示法に基づく食品表示基準の弾力的運用の終了について」(令和3年10月26日)

representasion_cms214_211026_01.pdf (caa.go.jp)

※20 消費者庁「令和2年7月3日からの大雨を受けた食品表示法に基づく食品表示基準の弾力的運用の終了について」(令和2年10月23日)

representation_cms214_201023_01.pdf (caa.go.jp)

※21 消費者庁「平成30年7月豪雨及び平成30年北海道胆振東部地震を受けた 食品表示法に基づく食品表示基準の弾力的運用の終了について」(平成30年11月30日)

food_labeling_information_181130_0002.pdf (caa.go.jp)

6 おわりに

以上、令和6年能登半島地震を受けた食品表示基準の弾力的運用について説明してきました。このような運用は、被災地への食料供給を促すためのものであって、食品表示が果たす機能を損なうことを認めるものではありません。食品関連事業者の皆様におかれましては、弾力的運用の趣旨を十分に理解した上で対応することが求められます。

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