HACCPに沿った衛生管理の制度化~改正食品衛生法②~

はじめに

 食を巡る環境の変化等に応じて食品の安全を確保すべく、食品衛生法が平成30年に大きく改正され、令和3年6月に完全施行されました。その中で、更なる食中毒の防止や食品の輸出促進という観点から、HACCPHazard Analysis and Critical Control Point:ハサップ)に沿った衛生管理の制度化がなされ、重要な改正事項の1つに位置付けられています。

 そこで、本ページでは、このHACCPに沿った衛生管理の制度化についてご紹介します。

 施行期日は公布日(平成30年6月13日)から2年以内(食品衛生法等の一部を改正する法律(平成30年法律第46号)附則1条柱書本文)とされ、政令(令和元年政令121号)により、令和2年6月1日と定められました。経過措置として、施行後についても 1年間の猶予期間(食品衛生法等の一部を改正する法律(平成30年法律第46号)附則5条)があります。

 なお、総合衛生管理製造過程の承認制度(改正前の食品衛生法第13条・14条。通称:マル総)は、HACCPに沿った衛生管理の制度化に伴い廃止されましたが、それより前に承認・更新の手続が完了したものについては、その有効期間満了日までは従前のとおり取り扱われます。

HACCPとは

 HACCPとは、国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)の合同機関であるコーデックス委員会により発表された、国際的に承認された衛生管理手法の一つです。具体的には、事業者が、食中毒菌汚染等の食品の安全を損なうおそれのある危害要因を事前に把握し、原材料の入荷から製品の出荷に至るまでのサプライチェーンの中で、当該危害要因を除去ないし低減させるのに重要な工程を管理することで、製品の安全性を確保する仕組みを指します(の4頁(【参考】HACCP(ハサップ)について)参照)。

 1993年、コーデックス委員会は、ガイドラインにおいて、HACCPを構築するための「7原則12手順」を示しました。その7原則は「HACCP7原則」とも呼ばれていますが、具体的には、以下に掲げるとおりです。

①危害要因の分析 ②重要管理点の決定 ③管理基準の設定 ④モニタリング方法の設定

⑤改善措置の設定 ⑥検証方法の設定 ⑦記録と保存方法の設定

 今回の改正では、改正前の食品衛生法50条2項において都道府県が条例で定めるとしていた「一般的な衛生管理」に関する事項について、HACCP導入の前提条件として厚生労働大臣が必要な基準を定められるようになりました(食品衛生法51条1項1号、食品衛生法施行規則66条の2第1項、別表17)。その上で、「HACCPに沿った衛生管理」として厚生労働大臣が基準を定め(食品衛生法511項2号、食品衛生法施行規則66条の2第2項、別表18)、HACCP7原則が全て導入されました。このように、HACCPに沿った衛生管理を制度化することで、更なる食品衛生管理の向上及び食品流通の国際化を図るのが今回の改正です。

 また、HACCPを導入するに当たり、小規模営業者等については緩和した基準(「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」:食品衛生法51条1項2号括弧書、食品衛生法施行令34条の2、食品衛生法施行規則66条の2第2項、別表188号)で足りるとする、事業者の規模等に応じた配慮もされました。

 なお、HACCPに沿った衛生管理の実施状況は、食品衛生監視員による立入検査等を通じて確認・指導等が行われますので、対象営業者の把握を可能とするために、平成30年の食品衛生法改正に伴って、営業届出制度も創設されました。詳細については、「営業許可制度の見直しと営業届出制度の創設~改正食品衛生法⑤~」をご覧ください。

  • 厚生労働省「改正の概要」

https://www.mhlw.go.jp/content/11131500/000481107.pdf

衛生管理に関する基準

(1)「一般衛生管理」と「HACCPに沿った衛生管理」

 厚生労働大臣は、営業の施設の衛生的な管理その他公衆衛生上必要な措置として、以下の事項についての基準を定めるものとされており(食品衛生法511項柱書)、営業者(1)はこれに従う必要があります(食品衛生法512項)。

① 施設の内外の清潔保持、ねずみ及び昆虫の駆除その他一般的な衛生管理に関すること(食品衛生法5111号:「一般的な衛生管理」

 HACCPを効果的に機能させるには、一般的な衛生管理が適切に行われている必要  があるために要求されるものです。

 具体的には、食品衛生法施行規則66条の2第1項及び別表17において、食品衛生責任者等の選任(1号)や施設の衛生管理(2号)、従業者の教育訓練(13号)などについての基準が定められています。

② 食品衛生上の危害の発生を防止するために特に重要な工程を管理するための取組に関すること(食品衛生法5112号:HACCPに沿った衛生管理」

 ここで、上述の「HACCP7原則」(食品衛生法施行規則66条の2第2項、別表181号ないし第7号)が定められています。

 そして、営業者は、食品衛生法511項柱書に基づき厚生労働大臣が制定した上記基準に従って、食品衛生法施行規則66条の2第3項各号の定めるところにより、公衆衛生上必要な措置を定め、これを遵守しなければなりません(食品衛生法512項)。   具体的には、以下のとおりです(HACCPに基づく衛生管理」)。

① 食品衛生上の危害の発生の防止のため、施設の衛生管理及び食品又は添加物の取扱い等に関する計画(以下「衛生管理計画」といいます)を作成し、食品又は添加物を取り扱う者及び関係者に周知徹底を図ること(食品衛生法施行規則66条の2第31号)

② 施設設備、機械器具の構造及び材質並びに食品の製造、加工、調理、運搬、貯蔵又は販売の工程を考慮し、これらの工程において公衆衛生上必要な措置を適切に行うための手順書(以下「手順書」といいます)を必要に応じて作成すること(同2号)

③ 衛生管理の実施状況を記録し、保存すること(3号前段)

 なお、記録の保存期間については、取り扱う食品又は添加物が使用され、又は消費されるまでの期間を踏まえ、合理的に設定すること(3号後段)

④ 衛生管理計画及び手順書の効果を検証し、必要に応じてその内容を見直すこと(同4号)

 なお、営業者がHACCPに基づく衛生管理に取り組む際の負担軽減を図るため、各食品関係団体が作成した手引書が、厚生労働省のHPで公開されています(2)。

1 食品衛生法において、「営業」とは、業として、食品若しくは添加物を採取し、製造し、輸入し、加工し、調理し、貯蔵し、運搬し、若しくは販売すること又は器具若しくは容器包装を製造し、輸入し、若しくは販売することをいい(ただし、農業及び水産業における食品の採取業は含まれません)(食品衛生法47項)、営業者とは、営業を営む人又は法人をいいます(食品衛生法48項)。

 なお、食品衛生法51条は、営業以外の場合で、学校・病院等において継続的に不特定又は多数の者に食品を供与する施設に準用されています。

2 HACCPに基づく衛生管理のための手引書

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000179028_00002.html

 

(2)小規模な営業者等について

 

 営業者の中には、経営規模が小さいことなどから、HACCPに基づく衛生管理を行うことが難しい営業者も存在します。そこで上述のとおり、食品衛生法は、食品の特性や規模・業種等を考慮して、一定の営業者につき、HACCPに基づく衛生管理を緩和した「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」(食品衛生法511項2号括弧書、食品衛生法施行令34条の2、食品衛生法施行規則66条の2第2項、別表188号)を満たせば足りるものとしています。

ア 対象となる小規模な営業者等

 「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」で足りるとされる営業者(食品衛生法51条1項2号括弧書)は、以下のとおりです。

① 食品を製造し、又は加工する営業者であって、食品を製造し、又は加工する施設に併設され、又は隣接した店舗においてその施設で製造し、又は加工した食品の全部又は大部分を小売販売する者(食品衛生法施行令34条の2第1号)

例:豆腐の製造販売、食肉の販売、魚介類の販売、店舗併設の施設で製造した洋菓子の販売等

② 飲食店営業(食品を調理し、又は設備を設けて客に飲食させる営業をいう)を行う者(同施行令34条の2第2号、食品衛生法施行規則66条の3第1号)

③ 調理の機能を有する自動販売機(容器包装に入れられず、又は容器包装で包まれない状態の食品に直接接触するものに限る)により食品を調理し、調理された食品を販売する営業を行う者(同施行令34条の2第2号、同規則66条の3第2号・5号)

④ パン(比較的短期間に消費されるものに限る)を製造する営業を行う者(同施行令34条の2第2号、同規則66条の3第3号)

⑤ そうざい製造業を行う者(同施行令34条の2第2号、同規則66条の3第4号)

⑥ 容器包装に入れられ、又は容器包装で包まれた食品のみを貯蔵し、運搬し、又は販売する営業者(同施行令34条の2第3号)

⑦ 食品を分割し、容器包装に入れ、又は容器包装で包み販売する営業を行う者(同施行令34条の2第4号、同規則66条の4第1号)

 例:八百屋、米屋、青果商、青果卸業、コーヒーの量り売り等

⑧ 食品を製造し、加工し、貯蔵し、販売し、又は処理する営業を行う者のうち、食品の取扱いに従事する者の数が50人未満(事務職員等、食品の取扱いに直接従事しない者を除く)である事業場(ここでは、以下「小規模事業場」といいます)を有する営業者(同施行令34条の2第4号、同規則66条の4第2号本文)

 ただし、当該営業者が、食品の取扱いに従事する者の数が50人以上である事業場(ここでは、以下「大規模事業場」といいます)を有するときは、取り扱う食品の特性に 応じた取組に関する食品衛生法511項2号括弧書、食品衛生法施行規則66条の2第2項、別表188号で定める基準は、当該営業者が有する小規模事業場についてのみ適用し、当該営業者が有する大規模事業場については、適用しません(同施行令34条の2第4号、同規則66条の4第2号但書)。

イ 適用される基準

 上記のいずれかに該当する場合には、以下の基準を満たせば足ります。

① 施設の内外の清潔保持、ねずみ及び昆虫の駆除その他一般的な衛生管理に関すること(食品衛生法51条1項柱書・同項1号、食品衛生法施行規則66条の2第1項・同規則別表17

② その取り扱う食品の特性に応じた取組(食品衛生法51条1項柱書・同項2号括弧書、食品衛生法施行規則66条の2第2項・同規則別表188号:HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」

 食品衛生法施行規則別表188号において、小規模な営業者等については、「取り扱う食品の特性又は規模に応じ、前各号に掲げる事項を簡略化して公衆衛生上必要な措置を行うことができる」とされています。これについては、厚生労働省が内容を確認した手引書に則って衛生管理を実施することにより、HACCPに沿った衛生管理に適合するものとして取り扱うとされています(1の別添第1、2-8(6)参照)。

 具体的には、小規模な営業者等は、業界団体が作成し、厚生労働省が内容を確認した手引書(2)を参考にして、以下のの内容を実施することになります(3の9頁(小規模営業者等が実施すること)参照))。

 手引書の解説を読み、自分の業種・業態では、何が危害要因となるかを理解し、

 手引書のひな形を利用して、衛生管理計画と(必要に応じて)手順書を準備し、

 その内容を従業員に周知し、

 手引書の記録様式を利用して、衛生管理の実施状況を記録し、

 手引書で推奨された期間、記録を保存し、

 記録等を定期的に振り返り、必要に応じて衛生管理計画や手順書の内容を見直す。

1「食品衛生法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政省令の制定について」(令和元年117日付け生食発 1107 第1号 、最終改正:令和3年8月5日)

https://www.mhlw.go.jp/content/11131500/000816176.pdf

2 HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書(五十音順)

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000179028_00005.html

3 厚生労働省「HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理の制度化」

https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000662484.pdf

 

(3)条例による規制

 「公衆衛生上必要な措置」について、都道府県知事等は、上記(1)及び(2)の基準に反しない限り、条例で規制を付加することができる(食品衛生法51条3項)ので、営業地域の法令にも留意する必要があります。

 

HACCPに沿った衛生管理の制度化の対象とならない事業者

 HACCPに沿った衛生管理の制度化の対象とならない事業者も存在します。

 例えば、農業及び水産業における食品の採取業は、食品衛生法上の「営業」に当たら  ず、HACCPの衛生管理の制度化の対象とされていませんが、食品等事業者の一員として、一般的な衛生管理を中心に、食品の安全性の確保に努めなければならないことには変わりありません(食品衛生法47項但書、1の問8参照。個々の事例が採取業に該当するか否かについては2参照)。

 また、営業以外の場合で、学校、病院等で継続的に不特定又は多数の者に食品を供与する施設(集団給食施設)も、調理を行う施設であることから、「HACCP の考え方を取り入れた衛生管理」の対象となりますが(食品衛生法5112号、68条3項、食品衛生法施行令34条の2第2号、食品衛生法施行規則66条の3第1号括弧書)、1回の提供食数が 20 食程度未満の、少数特定の者に食品を供与する営業以外の施設については、HACCP に沿った衛生管理を求められません(1の問7参照)。

 さらに、営業者であっても、食品衛生法規則66条の2第4項で定める者については、「公衆衛生に与える影響が少ない営業」を行う者として、HACCP に沿った衛生管理(衛生管理計画の作成並びに衛生管理の実施状況の記録及び保存)は、「必要に応じて」行うこととされており、義務ではありません(1の問6参照)。

 食品衛生法施行規則 66 条の2第4項が定める者は次の通りです。

① 食品又は添加物の輸入をする営業を行う者(1号)

② 食品又は添加物の貯蔵のみ又は運搬のみをする営業を行う者(食品の冷凍又は冷蔵業を営む者を除く)(2号)

③ 容器包装に入れられ、又は容器包装で包まれた食品又は添加物のうち、冷凍又は冷蔵によらない方法により保存した場合において、腐敗、変敗その他の品質の劣化により食品衛生上の危害の発生のおそれのないものの販売をする営業を行う者(3号)

④ 器具又は容器包装の輸入をし、又は販売をする営業を行う者(4号)

1 厚生労働省「HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理の制度化に関するQ&A」(最終改正:令和3531日)

https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000787793.pdf

2「農業及び水産業における食品の採取業の範囲について」(令和3422日付け薬生食監発 0422 12 号)

https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000774306.pdf

 

衛生管理基準に違反した場合の措置

 営業者が衛生管理基準に違反した場合、現在のところ罰則は設けられていませんが、営業許可の取消し、営業の全部若しくは一部の禁止、若しくは期間を定めた営業の停止といった行政処分が下されるおそれがあります(食品衛生法60条1項)。

おわりに

 HACCPに沿った衛生管理の制度化に関する食品衛生法の改正内容について紹介してきました。

 HACCPによる衛生管理が多くの事業者によって実施されることで、衛生管理の取組み・課題が明確化され、日本国内の食品全体の安全性の向上に繋がります。そして、日本の食品が国際標準に沿うものと評価され、輸出の促進に繋がることも期待されます。

 本記事でご紹介した内容を含め、HACCPに関する詳しい情報は厚生労働省のホームページ()で紹介されています。是非ご参照ください。

厚生労働省「HACCPに沿った衛生管理の制度化について」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/haccp/index.html

お問い合わせフォームまたはお電話にてお問い合わせください。 TEL:03-3597-5755 予約受付時間9:00~18:00 虎ノ門カレッジ法律事務所 お問い合わせはコチラをクリックしてください。

法律相談のご予約はお電話で(予約受付時間9:00~18:00) TEL:03-3597-5755 虎ノ門カレッジ法律事務所