景品表示法における「表示」について

       

景品表示法における「表示」について

はじめに

 本記事は、景品表示法における「表示」について、Q&A方式でまとめたものです。
   説明にあたっては、可能な限り食品・飲食業界に即した具体例を含めるようにしています。

Q.景品表示法が規制している「表示」とは、どのようなものですか。

. 景品表示法は、商品やサービス(役務)の取引に関して行われる不当な表示を規制しています。

 消費者は、商品やサービスを選択するにあたり、企業が行う商品や役務に関する表示を有力な手がかりとしています。そのため、商品やサービスの品質や価格についての表示は正しく、適切でなければなりません。ところが、実際の商品やサービスよりも著しく優良または有利であると誤認させるような表示が行われると、消費者の自主的・合理的な商品選択が妨げられることとなり、消費者の利益が損なわれてしまいます。
 また、不当表示が行われると、事業者による品質や価格についての本来的競争の発展を阻害することにもなります。すると、適正な価格で良質な商品・サービスを提供する事業者の利益も損なわれてしまいます。
 そこで、景品表示法によって、これらの不当表示を規制しているのです。

第一条(目的)

この法律は、商品及び役務の取引に関連する不当な景品類及び表示による顧客の誘引を防止するため、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為の制限及び禁止について定めることにより、一般消費者の利益を保護することを目的とする。

 食品に関連する不当表示としては、使用される原材料や生鮮食品などの原産地、化学調味料や添加物の有無、製造方法、食材のブランド銘柄、健康食品であればその性能や安全性、食品の割引価格やライバル会社の商品との価格の比較などが、よく問題となります。

Q.景品表示法における「表示」の定義を教えてください。

. 景品表示法2条4項では、「表示」について、以下のように定義されています。
 「「表示」とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行う広告その他の表示であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう」
 この定義については、以下のとおり3つの要件に分解することができます。

要件① 
顧客を誘引するための手段であること
要件② 
事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行うものであること
要件③ 
広告その他の表示であって、内閣総理大臣が指定するものであること

第二条(定義)

4 この法律で「表示」とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行う広告その他の表示であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。

 以下のQAでは、それぞれの要件ごとに、その内容を具体的に検討します。

Q.「表示」(景品表示法2条4項)の要件①「顧客を誘引するための手段であること」にあたるかどうかは、どのように判断されますか。

. 顧客を誘引するための手段にあたるかどうか(要件①に該当するかどうか)は、「表示が顧客を誘引する効果を持つものかどうか」という基準により、客観的に判断されます。

 そのため、事業者に顧客誘引の意図がなかったとしても、表示の受け手からみて顧客誘引の効果があるような場合は、この要件にあたります。また、顧客誘引の性質をもつかどうかが問題となるので、実際にその表示で顧客が誘引された事実は必要ありません。
 なお、実務では、顧客を誘引するための手段にあたるかどうか(要件①に該当するかどうか)が問題となることは、ほぼありません。なぜなら、事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行う広告その他の表示(要件②に該当する表示)であれば、ほとんどは直接または間接的に顧客誘引の効果をもつものとみられるからです。

第二条(定義)

4 この法律で「表示」とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行う広告その他の表示であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。

 

Q.「表示」(景品表示法2条4項)の要件②「事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行うものであること」にあたるかどうかは、どのように判断されますか。

A. 要件②は、さらに、
②-1事業者が行うものであること
②-2自己の供給する商品または役務についての表示であること
②-3その内容又は取引条件その他の取引に関連する事項に関するものであること
という3つの要件に分解されます。

 以下、それぞれの要件について説明します。

<②-1 事業者が行うものであることについて>

 ②-1「事業者」(景品表示法2条4項)とは、景品表示法2条1項で、「商業、工業、金融業その他の事業を行う者」と定義されています。
 具体的には、「何らかの経済的利益の供給に対応して反対給付を反復継続して受ける経済活動を行う者であれば足り、その主体の法的性格は問わない」とされています。
 この具体的な定義は、同様の定義規定である独占禁止法2条について判例が示した解釈ですが、景品表示法においても、独占禁止法2条と同様に解釈すべきと考えられています。なぜなら、改正前の景品表示法が独占禁止法の特別法という関係にあり、改正前後で規制の趣旨の実質を変更するものではないと考えられているからです。
 以上のとおりですので、経済活動を行っている者は全て「事業者」(景品表示法2条4項)に該当することになります。

第二条(定義)

1 この法律で「事業者」とは、商業、工業、金融業その他の事業を行う者をいい、当該事業を行う者の利益のためにする行為を行う役員、従業員、代理人その他の者は、次項及び第三十一条の規定の適用については、これを当該事業者とみなす。
・・・・・・
4 この法律で「表示」とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行う広告その他の表示であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。

独占禁止法

第二条(定義)

1 この法律において「事業者」とは、商業、工業、金融業その他の事業を行う者をいう。事業者の利益のためにする行為を行う役員、従業員、代理人その他の者は、次項又は第三章の規定の適用については、これを事業者とみなす。


<②-2 自己の供給する商品または役務についての表示であることについて>

 次に、②-2自己の供給する商品または役務についての表示であるかどうかは、「自己」が「供給」する「商品または役務」であるかどうかを考慮して判断されます。
 この要件に該当する例としない例は、以下のとおりです。

【 該当する例 】

 典型的なものとしては、商品のメーカーや卸、小売店などがあります。

【 該当しない例 】

(1)広告媒体や広告代理店の場合

 例えば、新聞や雑誌に掲載された健康食品の広告が不当表示にあたるとされた場合が考えられます。新聞社や雑誌社などは、広告主の供給する健康食品の表示を行っているにすぎないため、「自己」の供給する商品・役務についての表示とはいえず、この要件にはあたりません。

(2)事業者が商品または役務の供給を受ける取引の場合

 例えば、中古品を買い取る旨の広告、従業員の募集広告、原材料購入のための広告などは、自己の「供給」する商品・役務についての表示とはいえず、この要件にはあたりません。

(3)商品や役務そのものではない場合

 例えば、株主総会開催の公告や新株発行の公告などは、自己の供給する「商品または役務」についての表示とはいえず、この要件にはあたりません。

第二条(定義)

4 この法律で「表示」とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行う広告その他の表示であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。


<②-3 その内容又は取引条件その他の取引に関連する事項に関するものであることについて>

 ②-3商品や役務の内容又は取引条件その他の取引に関連する事項に関する表示であることが必要です。この要件には、商品や役務の品質や価格をはじめ、取引に関係のある事項についてのすべての表示が含まれます。
 また、以下のような事項に関する表示も、景品表示法上問題となることがあるので注意が必要です。

(1)商品の内容や取引条件そのものではない事項
 商品の内容や取引条件そのものでなくとも、商品の内容や取引条件が他社よりも良いというイメージを与える場合があるからです。
 例えば、開店したばかりのレストランであるのに、老舗であるかのような表示をしたり、会社の規模や市場シェアを実際より大きいかのような表示をした場合などです。

(2) 商品の内容や特徴と密接な関係がある商品名や会社名
 名称の表示により、商品の内容に関する表示と評価されることになるからです。
 例えば、商品名が「天然秋鮭の水煮缶」であった場合、消費者はその商品の内容について、天然の秋鮭を原料とした商品であると認識すると考えられるので、この要件をみたすといえます。

第二条(定義)

4 この法律で「表示」とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行う広告その他の表示であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。

 

Q.「表示」(景品表示法2条4項)の要件③広告その他の表示であって、内閣総理大臣が指定するものであることは、どのように判断されますか。

A. 要件③については、景品表示法2条4項に基づき、「不当景品類及び不当表示防止法第2条の規定により景品類及び表示を指定する件」(昭和37年公正取引委員会告示3号)、いわゆる定義告示による指定が行われています。

2 法第二条第四項に規定する表示とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引に関する事項について行う広告その他の表示であつて、次に掲げるものをいう。
一 商品、容器又は包装による広告その他の表示及びこれらに添付した物による広告その他の表示
二 見本、チラシ、パンフレット、説明書面その他これらに類似する物による広告その他の表示(ダイレクトメール、ファクシミリ等によるものを含む。)及び口頭による広告その他の表示(電話によるものを含む。)
三 ポスター、看板(プラカード及び建物又は電車、自動車等に記載されたものを含む。)、ネオン・サイン、アドバルーン、その他これらに類似する物による広告及び陳列物又は実演による広告
四 新聞紙、雑誌その他の出版物、放送(有線電気通信設備又は拡声機による放送を含む。)、映写、演劇又は電光による広告
五 情報処理の用に供する機器による広告その他の表示(インターネット、パソコン通信等によるものを含む。)


 食品に関連するものとしては、特に「商品、容器又は包装による広告その他の表示及びこれらに添付した物による広告その他の表示」(1号)が問題となることが多いでしょう。
 以下では、1号と3号に関する具体例を説明します。

(1)1号に関する具体例
・商品による表示

 商品本体に着色・着香する表示です。無果汁の清涼飲料水に着色や香料を加え果汁を使用した飲料に見せかけることや、水飴に着色や香料を加えてはちみつに見せかけることなどが典型例です。

・容器又は包装による表示
 文字や図案などを商品の容器や包装に印刷・刻印又は貼り付けなどをする表示です。レトルト食品のパッケージやマーク、肉や魚のパックに張ってあるラベルなどがこれにあたります。また、容器や包装自体の形・色・大きさによるものも「容器又は包装による表示」にあたります。実際には内容量が少ないにも関わらず、外見からはあたかも内容量が多いかのように見せかける過大包装を用いた土産品や、過大な乾燥剤を入れた菓子缶などです。

・添付したものによる表示
 商品本体や容器や包装以外で、取引に伴って相手方に引き渡される物による表示です。健康食品の箱の中に入れられた効能書や、商品とともに引き渡される説明書などが典型例です。

(2)3号に関する具体例
 例えば飲食店の新規開業にあたり、金銭を支払って雇った人(いわゆるサクラ)を並ばせた場合は、「実演による広告」(3号)に該当します。このような行為は、「並ぶ」という人間の行動によって、その飲食店の来店客が多いことが示されているといえるからです。

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