えん下困難者用食品について
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はじめに
食品の中には、「乳児の発育や、妊産婦、授乳婦、えん下困難者、病者などの健康の保持・回復などに適するという特別の用途について表示を行う食品」(※)があり、「特別用途食品」といいます(健康増進法43条1項、6項)。
※ 消費者庁「特別用途食品について」(最終閲覧:令和6年5月20日) https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_for_special_dietary_uses/ |
特別用途食品には、次のような区分があります(※1)。
【特別用途食品の区分】(令和6年4月現在)
病者用食品 |
許可基準型 |
低たんぱく質食品 |
アレルゲン除去食品 |
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無乳糖食品 |
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総合栄養食品 |
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糖尿病用組合せ食品 |
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腎臓病用組合せ食品 |
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経口補水液 |
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個別評価型 |
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妊産婦、授乳婦用粉乳 |
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乳児用調整乳 |
乳児用調製粉乳(乳児用粉ミルク) |
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乳児用調整液状乳(乳児用液体ミルク) |
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えん下困難者用食品 |
えん下困難者用食品(狭義) |
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とろみ調整用食品 |
特定保健用食品(※2)
※1 消費者庁「特別用途食品とは」 ※2 特定保健用食品は、食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)が定める保険機能食品の一つですが、健康増進法に基づき消費者庁長官の許可を受けることで、特別の用途に適する旨の表示を行うことができるとされています。本記事で説明する「特別用途食品」には、特定保健用食品は含まれません。 |
特別用途食品全般については、別に「特別用途食品」として記事にまとめていますので、ご参照ください。
本記事では、特別用途食品のうち、えん下困難者用食品(とろみ調整用食品を含む。)について、その内容を確認した後、いかなる基準を満たした場合に、えん下困難者用食品としての表示を行うことが認められるかについて説明していきます。
また、農林水産省は、介護食品とよばれる食品について、「スマイルケア食」という愛称を定め、それぞれの方の状態に適したスマイルケア食品の選択ができるように、分類を整理して識別マークを設けました(※)。スマイルケア食品の識別マークには、「青」マーク、「黄」マーク(分類2~5)、「赤」マーク(分類0~2)があり、そのうち「赤」マークは、特別用途食品のえん下困難者用食品(狭義)たる表示の許可を得た食品に対応します。そこで、本記事では、このスマイルケア食品の識別マークについても簡単にご紹介します。
※ 農林水産省大臣官房新事業・食品産業部食品製造課「スマイルケア食(新しい介護食品)」参照(最終閲覧:令和6年5月20日) |
なお、本記事では、
・ 「健康増進法に規定する特別用途表示の許可等に関する内閣府令」(平成21年内閣府令第57号)を、「内閣府令」
・ 特別用途食品の表示許可等の運用基準を定めた消費者庁次長通知「特別用途食品の表示許可等について」(令和元年9月9日付け消食表第296号)を、「特別用途食品の表示許可等通知」
といいます。
「えん下困難者用食品」とは
えん下困難者用食品(広義)は、上記1の【特別用途食品の区分】のとおり、「えん下困難者用食品」(狭義)と「とろみ調整用食品」からなります。
「えん下困難者用食品」(狭義)は、飲食物の飲み込みに不安のある方や飲食中のむせ(誤えん)が気になる方向けに、えん下を容易にし、誤えんや窒息を防ぐために、硬さなどを調整した食品で(※1)、主にゼリー状やペースト状の食品が特別用途表示を行うことを許可されています。
「とろみ調整用食品」は、えん下を容易にし、誤えんを防ぐために、液体にとろみをつける食品です(※2)。
それぞれ、実際に許可を受けている品目の一部を、下記6、(1)及び(2)で紹介しています。
※1 消費者庁「えん下困難者用食品ってなに?」1頁 ※2 消費者庁「とろみ調整用食品ってなに?」1頁 |
特別用途表示の許可の申請手続
健康増進法43条1項は、「販売に供する食品につき、乳児用、幼児用、妊産婦用、病者用その他内閣府令で定める特別の用途に適する旨の表示」(特別用途表示)をしようとする者は、消費者庁長官(※)の許可を受けなければならないと規定しています。そして、内閣府令1条2号は、「えん下困難者用」であることを、健康増進法43条1項にいう「特別の用途」として列挙しています。
そのため、ある食品について、えん下困難者用食品として特別用途表示を行うことを考えている食品関連事業者の皆様におかれましては、消費者庁長官の許可を得ることが必要です。
そこで、えん下困難者用食品として特別用途表示の許可を得るための申請手続について概説します。
※ 健康増進法69条3項により、同法による内閣総理大臣の権限は、消費者庁長官に委任されています。 |
(1) 申請書の提出
特別用途表示の許可を受けるには、次の事項を記載した申請書を、製品見本(※1)を添えた上で消費者庁長官に提出しなければなりません(健康増進法43条2項、内閣府令2条1項各号)。
申請書の記載事項 |
備考(※2) |
申請者の氏名、住所及び生年月日(法人の場合は、その名称、主たる事務所の所在地及び代表者の氏名) | |
営業所の名称及び所在地 | 申請する営業所の名称及び所在地を記載し、併せて製造所の名称及び所在地を付記します。 |
商品名 |
同一食品でも、商品名が異なる場合、個別に許可の申請を行わなくてはなりません。 |
消費期限又は賞味期限 |
定められた方法により保存した場合において、品質が急速に劣化しやすい食品にあっては消費期限である旨、それ以外の食品にあっては賞味期限である旨を明記し、その設定方法についても記載します。 |
原材料及び添加物の配合割合 |
製造に使用する全ての原材料及び添加物並びにそれらの配合割合について、それぞれ配合割合の高いものから順に記載し、その配合割合によって製造される製品の重量を記載します。配合順と、原材料及び添加物の表示内容が異なる場合には、その理由を明記します。 商品名ではなく一般的な名称を使います(添加物については食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)に定める方法による)。 栄養強化の目的で使用した添加物についても記載し、食品衛生法(昭和22年法律第233号)で使用基準が定められている添加物については純度等も記載します。 |
製造方法 |
製造方法を具体的に記載します。特に加工工程においてビタミン類を添加する時期、添加後の加熱温度その他の製造条件を詳細に記載します。 |
許可を受けようとする理由 |
特別の用途に適する理由を具体的に記載します。 |
許可を受けようとする表示の内容 |
各区分の表示の適用範囲は、えん下困難者用食品(狭義)については「えん下困難者の用に適する旨が医学的、栄養学的表現で記載されたもの」、とろみ調整用食品については「えん下困難者の用に適する旨のうち、とろみに関するものが医学的、栄養学的表現で記載されたもの」です(※3)。 |
栄養成分の量及び熱量 |
栄養成分の量及び熱量の表示は、食品表示基準に基づくとともに、試験検査機関の分析した結果を基に適切に表示しなければなりません。 |
摂取、調理又は保存の方法に関し、特に注意を必要とするものについては、その注意事項 |
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表示方法 |
消費期限又は賞味期限、製造所の製造地及び製造者の氏名又は名称等は、食品表示基準に基づく表示をします。 |
※1 製品見本については、「特別用途食品の表示許可等通知」の別添3(下記URL)の4、(4)を参照。実際に商品として販売する際に行う原料の配合、製造方法等に従って製造し、市販される包装容器に収められたものを製品見本とします。えん下困難者用食品(狭義)であって、複数の製品を1製品群として申請するものは、全ての製品の製品見本が必要です。製品見本は、試験検査のため、申請後、許可等申請書の写しを添付して、申請者が直接、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所又は消費者庁長官から登録を受けた試験機関に持ち込みます。 ※2 申請書の記載事項及び備考その他の留意事項については、※1の別添3の4、(1)の各項目を参照 ※3 「特別用途食品の表示許可等通知」の別添1(下記URL)の第5、1、(1)及び(2) |
この申請書の様式は、「特別用途食品の表示許可等通知」の別添3(特別用途食品の取扱い及び指導要領)(※1)の別紙様式1のとおりです。申請書は日本語で記載する必要があります(内閣府令2条3項)。
なお、令和5年11月の運用の改正により、特別用途食品に関する手続についても、e-Gov電子申請サービス(https://shinsei.e-gov.go.jp/)による受付が可能となっています(※2)。
※1 「特別用途食品の表示許可等通知」の別添3(下記URL) ※2 消費者庁次長「『特別用途食品の表示許可等について』の一部改正について」(令和5年11月13日消食表第672号) |
また、「えん下困難者用食品(狭義)」については、令和5年5月の制度の見直しにより、「製品の同等性」があると認められる複数の製品を1製品群として申請することができるようになりました(※1)。えん下困難者用食品における「製品の同等性」とは、当該許可基準を満たし、商品名、許可を受けた表示の内容、食事療法上の有効性、使用方法等の変化を伴わない範囲をいいます(※2)。
同一商品名で内容量が異なる場合は、個別に申請する必要はありませんが、内容量や容器包装が異なる場合には、申請の際の添付書類(下記(2))のうち、表示見本や、賞味期限の設定の根拠となる安定性試験結果、えん下困難者用食品(狭義)の性状に係る試験検査成績書等については、内容量ごとに提出する必要があります(※3)。
※1 消費者庁「『特別用途食品の表示許可等について』の一部改正(令和5年5月19日消食表第237号消費者庁次長通知)の概要②」(下記URL)の2.(2)① ※2 消費者庁食品表示企画課長「特別用途食品に関する質疑応答集について」(平成31年3月26日消食表第105号)の別添「特別用途食品に関する質疑応答集」(最終改正:令和6年4月1日 消食表第229号)(下記URL)の問15 ※3 ※2の「特別用途食品に関する質疑応答集」の問27 |
特別用途表示の許可の申請については、随時事前相談の機会が設けられていますので、申請にあたってご不明点等がありましたら、予め消費者庁食品表示課(※1)に照会することが望ましいでしょう(※2)。
※1 従前は「食品表示企画課」でしたが、消費者庁組織令の一部を改正する政令(令和6年政令第85号)により名称が「食品表示課」に変更されました(消費者庁次長「『特別用途食品の表示許可等について』の一部改正について」(令和6年1月1日消食表第220号))。 (別紙)「特別用途食品の表示許可等について(新旧対照表)」 ※2 消費者庁食品表示企画課長「特別用途食品に関する質疑応答集について」(平成31年3月26日消食表第105号)の別添「特別用途食品に関する質疑応答集」(最終改正:令和6年4月1日 消食表第229号)(下記URL)の問34 |
(2)添付書類
特別用途表示の許可申請書の提出にあたっては、以下に掲げる書類の添付が求められます(内閣府令2条4項)(※1)。
添付書類 |
備考 |
(申請者が法人の場合)定款の写し又は寄附行為の写し | |
試験検査成績書 (区分ごとに分析項目や試験方法が定められています(※2)。) |
製造日が異なる製品又は別ロットの製品を3包装以上無作為に抽出して、国、地方公共団体等が設置した試験研究機関又は試験成績の信頼性を確保するために必要な施設、機器、職員等を有し、かつ適正に運営管理された外部試験検査機関が行います。それぞれの試験検査成績書には、試験検査機関名、試験者名及び責任者名の記載が必要です。 えん下困難者用食品(とろみ調整用食品を含む。)については、下記4(1)又は(2)の表示許可基準の規格基準の各項目及び要件に適合することを証明するものが必要です。えん下困難者用食品(狭義)であって、複数の製品を1製品群として申請するもの(上記(1)参照)については、各製品1ロット以上、かつ合計3ロット以上無作為に抽出することとし、全ての製品の試験検査成績書を提出します。 |
表示見本 |
販売に際しての容器包装又は添付文書の表示を図示したものです。一辺の長さ等、表示の実寸が分かる情報を記載します(※3)。複数個入りの商品における外箱も含め、特別用途食品として小売される容器包装の全ての表示見本が必要です(※4)。 |
当該食品が許可基準又は要件に適合することを客観的に証明する資料 |
えん下困難者用食品(とろみ調整用食品を含む。)については、下記4(1)又は(2)の基本的許可基準の各項目に適合することを客観的に証明する資料をいいます。この基本的許可基準の各項目に適合することを証明する資料とは、次に掲げる事項を記載した書類をいいます。 ・ 製造者が設定した許可申請食品の製品規格及びそれを確認するための試験方法 ・ 許可申請食品の製造開始時から現在に至るまでの経緯及びその販売実績(販売実績については、特に販売期間や製造量の定めはありませんが(※5)、販売実績がない製品については、許可申請食品の対象となりません。ただし、販売実績のある製品の風味を変更した製品については、製品の同一性を失わないことを証明でき、かつ許可申請食品の安全性を担保するための資料が提出された場合は、この限りではありません)。 ・ 施設等における使用成績が報告されている場合は当該報告書類(使用成績に関する書類とは、許可申請食品を日常的かつ継続的に摂取することが可能であることを示す病院等の医療機関における使用実績、患者、医師、管理栄養士等を対象としたアンケート調査結果等の資料をいいます)。 |
当該食品の自家試験実施結果 |
製造者が設定した許可申請食品の製品規格について、その製造者が自らの検査施設で試験をした成績書です。自らの検査施設を有しない場合は外部試験検査機関に依頼して試験を実施してもかまいません。 「えん下困難者用食品(狭義)」で複数の製品を1製品群として申請するものは(上記(1)参照)、全ての製品の結果の提出が必要です。 |
製造所の構造設備の概要及び品質管理の方法についての説明書 |
製造所の構造設備の概要の説明書として(※6)、製造所所在地を示す地図、製造所内生産設備の配置図(※7)、製造所における申請食品の製造方法、不良品の流通を防止するための品質管理体制等の資料などが考えられます。 品質管理の方法の説明書として、製造者が設定した許可申請食品の規格(許可基準、製品規格、栄養成分表示等)に適合することを確認するための試験方法と試験結果が記載されていることが必要です。 許可基準等を満たすことを確認するため、少なくとも3年に一度、定期的に外部試験検査機関による試験を実施すること等も盛り込みます。 |
その他当該食品に関する一般的説明資料 |
消費期限又は賞味期限の設定に関する資料や、表示見本に記載されている表示に関する根拠資料(虚偽誇大の表示に該当しないことが確認できる資料等)、許可申請食品に関するウェブサイト情報、パンフレット、広告等が考えられます(※8)。 |
(申請者が製造者と異なる場合)当該食品の製造委託契約書の写し |
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※1 申請書の添付書類及び備考その他の留意事項については、「特別用途食品の表示許可等通知」の別添2(下記URL)の2の各項目を参照 ※2 区分ごとの分析項目については※1の別添2の別紙1、試験方法については同別添2の別紙2乃至5参照 ※3 「特別用途食品の表示許可等通知」の別添3(下記URL)の4、(2)、ウ ※4 消費者庁食品表示企画課長「特別用途食品に関する質疑応答集について」(平成31年3月26日消食表第105号)の別添「特別用途食品に関する質疑応答集」(最終改正:令和6年4月1日 消食表第229号)(下記URL)の問21 ※5 ※4の「特別用途食品に関する質疑応答集」の問22 ※6 ※4の「特別用途食品に関する質疑応答集」の問23 ※7 令和5年5月の運用の見直しにより、製造所在地を示す地図及び製造所生産設備の配置図については、製造所の営業許可等を添付する場合は省略できることになりました(消費者庁「『特別用途食品の表示許可等について』の一部改正(令和5年5月19日消食表第237号消費者庁次長通知)の概要②」(下記URL)の2.(2)⑤)。 ※8 ※4の「特別用途食品に関する質疑応答集」の問24 |
なお、申請食品の試験検査成績書等における栄養成分等の分析値は、成分ごとに定められた表示値からの規定範囲内(※1)で、かつ、各申請区分に定められている許可基準の範囲内である必要があります(※2)。
※1 分析値の表示値からの規定範囲について、「特別用途食品の表示許可等通知」の別添1(下記URL)の第6 ※2 消費者庁食品表示企画課長「特別用途食品に関する質疑応答集について」(平成31年3月26日消食表第105号)の別添「特別用途食品に関する質疑応答集」(最終改正:令和6年4月1日 消食表第229号)(下記URL)の問16 |
(3)手数料
表示許可の申請にあたっては、健康増進法施行令(以下、「施行令」といいます。)7条各号に定めるところに従い、手数料を納付しなければなりません(健康増進法43条4項)(※1)。
種類 |
内容 |
国に納める手数料(施行令7条1号) |
9800円(情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律6条1項の規定により同項に規定する電子情報処理組織を使用する場合にあっては、7600円) |
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所又は登録試験機関(※2)が行う許可試験の手数料(施行令7条2号) |
80万円を超えない範囲内において、内閣総理大臣が特別の用途を勘案して定める区分ごとに法43条1項の許可を行うについて必要な試験の項目として内閣総理大臣が定める項目の実費を勘案して内閣総理大臣が定める額(※3)、登録試験機関に納める手数料については、当該登録試験機関が、内閣総理大臣の許可を受けて定める額 |
※1 納付の方法については、「特別用途食品の表示許可等通知」の別添3(下記URL)の4、(3)、イ及び同別添3の4、(4)、イ参照 ※2 消費者庁「登録試験機関制度について」(下記URL)の「登録試験機関一覧(令和6年5月13日現在)」参照(最終閲覧:令和6年5月20日) ※3 「健康増進法施行令第7条第2号の規定に基づき内閣総理大臣が定める区分、項目及び額」(平成25年9月18日消費者庁告示第6号、最終改正:令和5年9月14日消費者庁告示第5号) |
以上の申請を踏まえて、消費者庁内での審査、厚生労働省医薬・生活衛生局への意見照会、及び国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所又は登録試験機関における許可試験という一連の許可手続が実施されることになります。そのため、特別用途表示の許可手続には、申請書に不備がなくとも、少なくとも半年程度かかるとされています(※)。
※ 消費者庁食品表示企画課長「特別用途食品に関する質疑応答集について」(平成31年3月26日消食表第105号)の別添「特別用途食品に関する質疑応答集」(最終改正:令和6年4月1日 消食表第229号)(下記URL)の問30 |
許可基準
えん下困難者用食品として特別用途表示の許可を受けるためには、えん下困難者用食品(狭義)、とろみ調整用食品のそれぞれに設けられた以下の基準を満たすことが求められます。
(1)えん下困難者用食品(狭義)たる表示の許可基準(※1)
基本的許可基準 |
・ 医学的、栄養学的見地から見てえん下困難者が摂取するのに適した食品であること。 ・ えん下困難者により摂取されている実績があること。 ・ 特別の用途を示す表示が、えん下困難者用の食品としてふさわしいものであること。 ・ 使用方法が簡明であること。 ・ 品質が通常の食品に劣らないものであること。 ・ 適正な試験方法によって成分又は特性が確認されるものであること。 |
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規格基準 |
次の表に記載された規格を満たすこと(常温及び喫食の目安となる温度のいずれの条件であっても規格基準の範囲内であることが要請されますが、温める等の簡易な調理を要するものにあっては、その指示どおりに調理した後の状態で当該基準を満たせばよいものとされています)(※2)。
各許可基準に該当する食品は、次のようなものです。 ・ 許可基準Ⅰ 均質なもの(例えば、ゼリー状の食品) ・ 許可基準Ⅱ 均質なもの(例えば、ゼリー状又はムース状等の食品)。ただし、許可基準Ⅰを満たすものを除く。 ・ 許可基準Ⅲ 不均質なものも含む(例えば、まとまりのよいおかゆ、やわらかいペースト状又はゼリー寄せ等の食品)。ただし、許可基準Ⅰ又は許可基準Ⅱを満たすものを除く。 |
※1 「特別用途食品の表示許可等通知」の別添1(下記URL)の第5、2、(1) ※2 許可基準Ⅰ~Ⅲへの具体的な適用の問題について、消費者庁食品表示企画課長「特別用途食品に関する質疑応答集について」(平成31年3月26日消食表第105号)の別添「特別用途食品に関する質疑応答集」(最終改正:令和6年4月1日 消食表第229号)(下記URL)の問12乃至14 |
(2)とろみ調整用食品たる表示の許可基準(※)
基本的許可基準 |
・ 液体に添加することでその物性を調整し、医学的、栄養学的見地からみて特別の配慮を必要とするえん下困難者に適当な食品であること。 ・ えん下困難者に対する使用実績があること。 ・ 特別の用途を示す表示が、えん下困難者用の食品としてふさわしいものであること。 ・ 使用方法が簡明であること。 ・ 適正な試験方法によって特性が確認されるものであること。 |
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規格基準 |
次に掲げる粘度要件及び性能要件を満たすものであること(とろみ調整用食品の使用対象は、原則として均質な液体であるとされ、液状流動食や不均質なものを含む液体(みそ汁等)に使用する場合には、摂取上の注意について表示する必要があります)。 【粘度要件】
(添加濃度は、精製水に対する添加濃度を意味します。) 【性能要件】 ・ 溶解性・分散性 当該食品で調整する際、10℃、20℃及び45℃において、5mm以上の不溶解物の塊(だま:表面部分のみが吸水して中心部まで溶媒が浸透せず、膨潤・水和が不十分な状態)が認められないこと。 ・ 経時的安定性 当該食品で調整30分後の粘度が、調整10分後の粘度の±15%以内であること。 ・ 唾液抵抗性 当該食品で調整後、アミラーゼを添加し、30分後の粘度が、アミラーゼ無添加の粘度の75%以上であること。 ・ 温度安定性 当該食品で調整後の10℃及び45℃の粘度がそれぞれ20℃の粘度の±35%以内であること。 |
※ 「特別用途食品の表示許可等通知」の別添1(下記URL)の第5、2、(2) |
特別用途表示の表示事項
上記4の許可基準を満たし、消費者庁長官の許可(※)を受けた場合、当該食品について特別用途表示を行うことができます。その際、当該食品の容器包装又は添付文書に、健康増進法43条6項により内閣府令8条1項各号が定める表示事項(下記(1))のほか、えん下困難者用食品(狭義)、とろみ調整用食品の区分ごとに定められた必要的表示事項(下記(2)、ア及びイ)を表示しなければなりません。
※ 消費者庁長官から、申請者に、「特別用途食品の表示許可等通知」の別添3(下記URL)の別紙様式3の表示許可書が交付されます(同別添3の5、(1))。 |
特別用途食品について、表示しなければならない事項を表示しなかった場合、許可の取消し(下記10、(2))の対象となり、取消し後も特別の用途の表示をした者は、健康増進法43条1項の規定に違反した者として、罰金に処せられます(下記10、(4))。
また、食品表示基準3条の規定に基づく表示事項を表示せずに販売した場合には、食品表示法(平成25年法律第70号)6条1項に基づく指示の対象となり、正当な理由がなく指示に従わなかった場合は同条5項に基づく命令の対象となります。この命令に違反した者は、同法20条により懲役又は罰金(法人について両罰規定あり。)に処せられます。
なお、ここでいう表示とは、食品の小売用容器包装に記載された文字、図形等をいい、食品を販売する際の包装紙又は袋、食品の内部包装、広告、パンフレット等に記載された文字、図形等は表示と解されません。ただし、容器包装を透かして容易に見ることができる内部に記載された文字、図形等、食品に添付される説明書等に記載された文字、図形等は表示とみなされます(※)。
※ 「特別用途食品の表示許可等通知」の別添3(下記URL)別添3の3、(1) |
(1)内閣府令8条1項各号が定める表示事項(※1、2)
表示項目 |
備考 |
商品名 |
表示の許可を受けた商品名どおりに表示します。 |
消費期限又は賞味期限 |
食品表示基準に基づき表示します。 |
保存の方法(常温で保存する旨の表示を除く) |
|
製造所所在地 |
|
製造者の氏名(法人の場合は、その名称) |
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許可証票 |
内閣府令別記様式第2号によります(下記欄外参照)。 |
許可を受けた表示の内容 |
許可申請書中の「許可を受けようとする表示の内容」の項に記載した内容を表示します。許可の条件として示された事項がある場合はこれに従います。表示項目名を「許可表示」と簡略して記載できます。 |
栄養成分量、熱量並びに原材料名及び添加物の表示 |
食品表示基準に基づき表示します(栄養成分量、熱量については、外部試験検査機関により分析した結果に基づくことも必要です)。同基準別表第9に定めのない成分については、栄養成分表示欄の枠外に記載します。 |
摂取、調理又は保存の方法に関し、特に必要とするものについては、その注意事項 |
許可申請書に記載した内容を表示します。表示項目名を「摂取、調理又は保存方法の注意」と簡略して記載できます。 |
(許可を受けた者が、製造者以外の者であるとき)許可を受けた者の営業所の所在地及び氏名(法人の場合は、その名称) |
住所の表示は、住居表示に関する法律(昭和37年法律第119号)に基づく住居表示に従って住居番号まで記載します。申請者が輸入業者である場合にあっては、輸入業者である旨を記載するとともに、申請者の住所及び氏名又は名称を記載します。 表示項目名を、「販売者」又は「許可を受けた者」と簡略して記載できます。 |
その他 |
食品衛生法や、食品表示基準その他の関係法令を遵守します。 |
特別用途食品の「許可証票」とは、右のマークのことをいいます。 えん下困難者用食品(とろみ調整用食品を含む。)については、このマークの「区分」の欄に、「えん下困難者用食品」と記載されます。 |
(健康増進法に規定する特別用途表示の許可等に関する内閣府令の別記様式第2号) |
※1 表示項目及び備考その他の留意事項については、「特別用途食品の表示許可等通知」の別添3(下記URL)の3、(2)及び(3)参照 ※2 表示事項は、一括表示するなど読みやすいように表示するのが基本ですが、商品名、特別用途食品である旨及び許可証票の表示は、一括表示以外の見やすい箇所に記載することができます(※1の別添3の3、(3)、エ、(イ))。 |
(2)区分ごとに定められた必要的表示事項
ア えん下困難者用食品(狭義)として許可された場合(※)
・ 「えん下困難者用食品」の文字 ・ 許可基準区分を表す図表(下記枠外参照) ・ 喫食の目安となる温度 ・ 1包装当たりの重量 ・ 1包装分が含む熱量、たんぱく質、脂質、炭水化物及びナトリウム(食塩相当量に換算したもの)の量 ・ 医師、歯科医師、管理栄養士、薬剤師、言語聴覚士等の相談、指導を得て使用することが適当である旨 |
「許可基準区分を表す図表」は、右の図1から図3のいずれかのとおり、許可証票の近接した場所に表示します。
なお、各許可基準区分を表す文言は、次のとおりです。 ・許可基準Ⅰ 「そのまま飲み込める性状のもの」 (均質なゼリー状) ・許可基準Ⅱ 「口の中で少しつぶして飲み込める性状のもの」 (均質なゼリー・プリン・ムース 状) ・許可基準Ⅲ 「少しそしゃくして飲み込める性状のもの」 (不均質なものを含む、まとまりの 良いおかゆ状) |
(図1乃至3は、消費者庁次長通知「特別用途食品の表示許可等について」(令和元年9月9日付け消食表第296号)の別添1の第5、3から引用) |
※ 「特別用途食品の表示許可等通知」の別添1(下記URL)の第5、3、(1) |
イ とろみ調整用食品として許可された場合(※)
・ 「とろみ調整用食品」の文字 ・ 一回の使用量 (主にとろみをつける代表的な食品に対する標準的な使用量について明記すること。) ・ 喫食の目安となる温度及び喫食温度による粘度の違いに関する注意事項 (10℃から45℃までの食品の温度に適している旨及び喫食温度の違いによる添加物の調整に関する注意等) ・ 1包装当たりの重量 ・ 1回の使用量又は1包装当たりの熱量、たんぱく質、脂質、炭水化物及びナトリウム(食塩相当量に換算したもの)の量 ・ 医師、歯科医師、管理栄養士、薬剤師、言語聴覚士等の相談、指導を得て使用することが適当である旨 ・ とろみをつける食品に関する注意事項 (例:食品の違い、使用する量による粘度の違い等) ・ とろみ調整用食品を加える際の手順 (例:適切な粘度に調整するための撹拌速度及び時間等) ・ 摂取する際の注意事項(例:食品の温度が粘度に与える影響等) ・ その他必要な特記事項 |
※ 「特別用途食品の表示許可等通知」の別添1(下記URL)の第5、3、(2) |
許可品目の実例
(1)えん下困難者用食品(狭義)
これまで、えん下困難者用食品(狭義)として特別用途表示を許可された品目には次のようなものがあり、それぞれ右欄の表示内容について許可がなされています※1。
商品名 |
表示を受けた表示内容 |
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許可基準Ⅰ |
エンゲリードグレープゼリー |
本品は、えん下困難者に適したゼリーです。 |
アイソトニックグリーンゼリー |
本品は、えん下困難者の水分補給に適したゼリー食品です。 |
|
許可基準Ⅱ |
ふんわりなめらかこうや |
本品は、えん下困難者に適したゼリー状そうざいです。 |
エスジーなめらかトマト | この商品は、えん下が困難な方に適しています。 | |
許可基準Ⅲ |
アイソカル とろっとゼリー |
本品は、誤嚥防止を目的としたえん下困難者に適した食品です。 |
冷凍味付けやわらか納豆 極きざみひきわり |
本品は、えん下困難者に適したひきわり納豆です。 |
※ 消費者庁「特別用途食品について」(下記URL)の許可品目一覧の「特別用途食品表示許可品目一覧 」の【えん下困難者用食品】のうち〈えん下困難者用食品〉の表(通し番号11・16・17・18・20・21) https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_for_special_dietary_uses/ |
(2)とろみ調整用食品
これまで、とろみ調整用食品として特別用途表示を許可された品目には次のようなものがあり、それぞれ右欄の表示内容につき許可がなされています※2。
商品名 | 許可を受けた表示内容 |
トロミアップパーフェクト |
本品はえん下困難者の飲み込みを容易にするための水分へのとろみ付けに適した食品です。 |
とろみエール |
本品は、飲み込みを容易にし、誤えんを防ぐことを目的としたとろみ調整用食品です。えん下(飲み込み)が困難な方に適しています。 |
ソフティアS(エス) |
本品は、えん下を容易にし、誤えんを防ぐことを目的として液状食品(水やお茶など)にとろみをつけるためのもので、えん下困難者用のとろみの調整に適した食品です。 |
キューピー やさしい献立とろみファイン |
本品は、えん下(飲み込み)を容易にし、誤えんを防ぐことを目的にした食品です。えん下が難しい方のとろみの調整に適しており、水・お茶・濃厚流動食を飲み込みやすく、食事をまとまりやすくします。 |
※ 消費者庁「特別用途食品について」(下記URL)の許可品目一覧の「特別用途食品表示許可品目一覧 」の【えん下困難者用食品】のうち〈とろみ調整食品〉の表(通し番号2・4・5・10) https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_for_special_dietary_uses/ |
許可後の取扱い
(1)食品使用者への適切な情報提供(※)
特別用途表示の許可を受けた者は、容器包装の表示、申請食品に関するウェブサイト情報、パンフレット、広告等により、使用者への適切な情報提供を行うことが求められます。
特にえん下困難者用食品(とろみ調整用食品を含む。)については、使用者が当該製品を用いた食事療法の基本的知識を得ることができるよう、適切な情報提供を行うことが求められます。
また、医師、管理栄養士等が特別用途食品に関する適切な栄養指導を行えるよう、必要に応じて実践的な教材、栄養食事指導ツール等を作成することが望ましいとされています。
※ 本項について、「特別用途食品の表示許可等通知」の別添3(下記URL)の10を参照 |
(2) 品質管理の定期的な報告(※1)
特別用途表示の許可を受けた者は、毎年6月に、許可基準を満たしていることが分かる資料を添付し、品質管理等報告書(「特別用途食品の表示許可等通知」の別紙3(特別用途食品の取扱い及び指導要領)の参考様式3)を消費者庁次長に提出することとされています。
この許可基準を満たしていることが分かる資料について、令和5年5月の運用の改正により、外部試験機関における試験検査は少なくとも3年に1回となり、その他の年は、自家試験結果を提出してもよいことになりました(※2)。
また、えん下困難者用食品(狭義)で複数の製品を1製品群として許可を受けたものについては(上記3、(1)参照)、1製品群の許可基準を満たしていることが分かる資料を添付して提出します(ただし報告する製品は、消費者庁食品表示課が指定します)。
※1 本項について、「特別用途食品の表示許可等通知」の別添3(下記URL)の8を参照 ※2 消費者庁「『特別用途食品の表示許可等について』の一部改正(令和5年5月19日消食表第237号消費者庁次長通知)の概要②」(下記URL)の2.(2)③ |
(3) 変更事項等の届出(※1)
許可を受けた食品について、次のような変更事項があった場合には、当該変更に関する資料を添付して、消費者庁次長に届出書(「特別用途食品の表示許可等通知」の別紙3(特別用途食品の取扱い及び指導要領)の別紙様式5)を提出しなければなりません。なお、容器包装に表示する義務表示事項に変更がある場合は、表示見本の添付も必要です。
・ 個人、法人の同一性が確保されている範囲内での申請者の氏名又は住所(法人にあっては、その名称、主たる事務所の所在地又は代表者の氏名)
・ 許可を受けた者の変更がない場合における製造所所在地又は製造者氏名
・ 消費期限又は賞味期限
・ 製品の同一性を失わない程度(※2)の原材料及び添加物の配合割合、製造方法、品質管理の方法又は栄養成分表示
・ 内容量、保存の方法
・ 摂取上の注意事項又は摂取、調理若しくは保存の方法に関し、特に注意を必要とするものについての注意事項の変更
また、「えん下困難者用食品(狭義)」について、許可品と同等性があると認められる製品の追加の場合も、別に表示許可の申請をするのではなく、変更事項の届出によることができます。
この場合、追加の理由を説明する資料や、製品の同等性が認められることを証明する資料(外部試験検査機関が行った試験検査成績書を各製品1ロット以上)、表示見本の添付が必要です。
※1 本項について、「特別用途食品の表示許可等通知」の別添3(下記URL)の6、(1) ※2 「同一性を失わない程度の変更」について、消費者庁食品表示企画課長「特別用途食品に関する質疑応答集について」(平成31年3月26日消食表第105号)の別添「特別用途食品に関する質疑応答集」(最終改正:令和6年4月1日 消食表第229号)(下記URL)の問40 |
以上に対し、令和5年5月の運用の改正では、義務表示事項以外のもの(文字色、文字サイズ、背景色又は図案の変更・任意の表示事項やキャッチコピーの追加削除等)については、届出不要と整理し、変更届出の範囲を明確化しました(※)。
※ 消費者庁「『特別用途食品の表示許可等について』の一部改正(令和5年5月19日消食表第237号消費者庁次長通知)の概要②」(下記URL)の2.(2)④ 消費者庁食品表示企画課長「特別用途食品に関する質疑応答集について」(平成31年3月26日消食表第105号)の別添「特別用途食品に関する質疑応答集」(最終改正:令和6年4月1日 消食表第229号)(下記URL)の問41 |
許可を受けた者が死亡又は許可等を受けた法人が解散したときや、許可を受けた者が当該商品の販売、製造を中止したときは、 失効の届出をします。
健康増進法65条1項による誇大表示の禁止、その他法規制
健康増進法65条1項は、何人も、食品として販売に供する物に関して広告その他の表示をするときは、健康の保持増進の効果その他内閣府令で定める事項(※1)(健康保持増進効果等)について、著しく事実に相違する表示をし、又は著しく人を誤認させるような表示をしてはならない、と規定しています(※2)。
したがって、特別用途食品について、許可表示の範囲を超えて特別の用途に適する旨の表示を行うことは健康増進法43条1項の規定に違反しますし、その表示が著しく事実に相違し、又は著しく人を誤認させる表示である場合には、同法65条1項に違反することになります(※3)。
※1 健康増進法65条1項における内閣府令で定める事項として、内閣府令19条は、含有する食品または成分の量(1号)、特定の食品又は成分を含有する旨(2号)、熱量(3号)、人の身体を美化し、魅力を増し、容ぼうを変え、又は皮膚若しくは毛髪を健やかに保つことに資する効果(4号)を挙げています。 ※2 健康増進法65条1項の表示規制の対象となる「広告その他の表示」や「健康増進効果」、「誇大表示」の解釈等については、次のものが参考になります。 ・ 消費者庁「健康食品に関する景品表示法及び健康増進法上の留意事項について」(平成25 年12月24日、最終改正:令和4年 12 月5日) ・ 消費者庁食品表示企画課長「特別用途食品に関する質疑応答集について」(平成31年3月26日消食表第105号)の別添「特別用途食品に関する質疑応答集」(最終改正:令和6年4月1日 消食表第229号)(下記URL)の問47乃至56 ※3 ※2の「特別用途食品に関する質疑応答集」の問48 |
また、医薬品類似の効果・効能の記載をすることは、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)(昭和35年法律第145号)違反のおそれがあります。その他、食品の表示や広告等を規制する法律として、食品表示法、食品衛生法、日本農林規格等に関する法律(JAS法)(昭和25年法律第175号)、不当景品類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号)、不正競争防止法(平成5年法律第47号)、特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号)等がありますので、関係法令についても注意する必要があります。
スマイルケア食について
(1)「スマイルケア食」とは
高齢化社会が進むなかで、65歳以上の在宅療養患者の栄養が不足がちであること、噛んだり飲み込んだりする食機能に問題があるとBMI(肥満度を表す指数)が低くなる傾向があることなど、介護における食の課題が顕在化してきました(※)。そのような課題に対応し、介護食品の市場の拡大が見込まれる中、農林水産省は、介護食品と呼ばれてきた食品の範囲を整理し、介護食品を選ぶ際に参考となるマークを設けることにしました。このような新しい枠組みの介護食品の愛称が「スマイルケア食」です。
※ 農林水産省大臣官房 新事業・食品産業部 食品製造課「スマイルケア食の取組について」(令和6年2月)(下記URL)の2乃至6頁 https://www.maff.go.jp/j/shokusan/seizo/attach/pdf/kaigo-45.pdf |
(2)識別マークの種類
従前、介護食品と呼ばれてきた食品には、介護に関わる専門家や民間の団体等により、幾つかの規格が作成されていました(※1)。
「スマイルケア食」では、要介護者の個々の状態に合わせた食品を選ぶ基準が分かり易くなるよう、これらの規格を統一的に分類・整理し(※2)、次のような識別マークを設けています(※3)。
「青」マーク |
噛むこと・飲み込むことに問題はないものの、健康維持上栄養補給が必要な人向けの食品 ⇒自己適合宣言 |
(農林水産省「スマイルケア食識別マーク利用許諾要領」(※3)別紙1の1,(1)から引用) |
||
「黄」マーク |
噛むことに問題がある人向けの食品 ⇒JAS制度 |
分類5のマーク |
容易にかめる食品 |
(農林水産省「スマイルケア食識別マーク利用許諾要領」(※3)別紙1の1,(2)から引用) |
分類4のマーク |
歯ぐきでつぶせる食品 |
|||
分類3のマーク | 舌でつぶせる食品 | |||
分類2のマーク | かまなくてよい食品 | |||
「赤」マーク |
飲み込むことに問題がある人向けの食品 ⇒特別用途食品の表示許可制度 |
分類2のマーク |
少しそしゃくして飲み込める性状のもの |
(農林水産省「スマイルケア食識別マーク利用許諾要領」(※3)別紙1の1,(3)から引用) |
分類1のマーク |
口の中で少しつぶして飲み込める性状のもの |
|||
分類0のマーク |
そのままの見込める性状のもの |
※1 例えば、次のような規格があります。 ・日本摂食・嚥下リハビリテーション学会 嚥下調整食分類 ・嚥下食ピラミッド(管理栄養士 金子節子氏) ・高齢者ソフト食(管理栄養士 黒田留美子氏) ・ユニバーサルデザインフード(日本介護食品協議会) ※2 農林水産省大臣官房 新事業・食品産業部 食品製造課「スマイルケア食の取組について」(令和6年2月)(下記URL)の11乃至15頁 https://www.maff.go.jp/j/shokusan/seizo/attach/pdf/kaigo-45.pdf ※3 農林水産省大臣官房 新事業・食品産業部 食品製造課「スマイルケア食識別マーク利用許諾要領」(平成28年11月制定、令和5年3月改正)(下記URL)の1乃至3項及び別添1参照 https://www.maff.go.jp/j/shokusan/seizo/attach/pdf/kaigo-5.pdf |
(3)識別マークを表示するには
「青」マークは、飲み込む機能及び噛む機能のいずれにも問題はない人向けに市販される加工食品のうち、エネルギー及びタンパク質の量などについて一定の基準を満たし、その製造業者が当該基準に適合するものであることを宣言し、公表されているものについて使用できます(※1)。
「黄」マークは、各分類に応じ、そしゃく配慮食品の日本農林規格(平成28年8月17日農林水産省告示第1586号)箇条4に定める基準に適合するものとして、格付の表示(JASマーク)が付されて いるものに使用できます(※2)。
「赤」マークは、各分類に応じた規格(「特別用途食品の表示許可等通知」の別添1、の第5の2の表7の許可基準Ⅰ~Ⅲ)を満たすものとして、特別用途食品の表示許可制度におけるえん下困難者用食品たる表示の許可を得たものに使用できます(※3)。
※1 農林水産省大臣官房 新事業・食品産業部 食品製造課「スマイルケア食識別マーク利用許諾要領」(平成28年11月制定、令和5年3月改正)(下記URL)の3、(1) https://www.maff.go.jp/j/shokusan/seizo/attach/pdf/kaigo-5.pdf ※2 ※1の「スマイルケア食識別マーク利用許諾要領」の3、(2) ※3 ※1の「スマイルケア食識別マーク利用許諾要領」の3、(3) |
商品の包装容器等に識別マークを表示することを希望する製造業者や、包装容器に識別マークの表示がある商品を取り扱う販売業者は、農林水産省のホームページ(※1)における申請フォームにより申請し(※2)、利用許諾を受け、所定の表示の方法(※3)に従い、1年間を期限として、識別マークを利用することができます。
※1 農林水産省「スマイルケア食(新しい介護食品)」(最終閲覧:令和6年5月20日) https://www.maff.go.jp/j/shokusan/seizo/kaigo.html ※2 識別マークの表示に必要な手続について、農林水産省大臣官房 新事業・食品産業部 食品製造課「スマイルケア食識別マーク利用許諾要領」(平成28年11月制定、令和5年3月改正)(下記URL)の5参照 https://www.maff.go.jp/j/shokusan/seizo/attach/pdf/kaigo-5.pdf ※3 識別マークの表示の方法について、※2の「スマイルケア食識別マーク利用許諾要領」の4参照 |
健康増進法の違反行為等に対する措置(行政処分、罰則等)
(1) 食品の検査及び収去
消費者庁長官又は都道府県知事は、必要があると認めるときは、当該職員に特別用途食品の製造施設、貯蔵施設又は販売施設に立ち入らせ、販売の用に供する当該特別用途食品を検査させ、又は試験の用に供するのに必要な限度において当該特別用途食品を収去させることができます(健康増進法61条1項)。
この検査や収去の規定は、特別用途食品以外の、食品として販売に供する物であって健康保持増進効果等についての表示がされたものに対しても準用されています(同法66条3項)。
(2) 特別用途表示の許可の取消し
特別用途表示の許可を受けた者が、次のいずれかに該当する場合、消費者庁長官により、当該許可を取り消される可能性があります(健康増進法62条)。
・ 健康増進法43条6項の規定に違反したとき(特別用途食品につき、必要的表示事項を表示しなかったとき)(62条1号)
・ 許可に係る食品につき虚偽の表示をしたとき(同条2号)
・ 許可を受けた日以降における科学的知見の充実により当該許可に係る食品について当該許可に係る特別用途表示をすることが適切でないことが判明するに至ったとき(同条3号)
(3) 勧告・命令
上記8の健康増進法65条の誇大広告の禁止に違反した表示が行われ、国民の健康の保持増進及び国民に対する正確な情報の伝達に重大な影響を与えるおそれがあると認めるときは、消費者庁長官又は都道府県知事より、当該表示を行った者に対して、当該表示に関し必要な措置をとるべき旨の勧告が出される可能性があります(健康増進法66条1項)。
そして、勧告を受けた者が、正当な理由がなく当該勧告に係る措置をとらなかったときは、当該勧告に係る措置をとるべき旨命じられる場合があります(同条2項)。
(4) 刑事罰
同法43条1項の規定に違反し、消費者庁長官の許可を受けることなく特別用途表示を行った者は、50万円以下の罰金に処されます(健康増進法72条2号)。
また、同法61条1項に基づく検査や収去(上記(1))を拒み、妨げ、又は忌避した者は、30万円以下の罰金に処されます(同法74条2号)。
そして、法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業員が、その法人又は人の業務に関し、これらの違反行為を行った場合には、行為者を罰するほか、当該法人又は人に対しても同様の罰金刑が科されます(同法75条)。
さらに、同法66条2項に基づく命令(上記(3))に違反した者は、6月以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されます(同法71条)。
おわりに
以上、えん下困難者用食品(広義)の表示に関する規制等を概観してきました。
高齢化の進行に伴い、えん下機能に不安を抱える高齢者の方などが増加傾向にある今日、えん下困難者用食品(広義)が有するポジティブな影響は大きいものと考えられますが、その反面、特別用途表示に係る制度の運用が適正に行われなければ、消費者に不利益を及ぼすおそれが高まります。そのため、食品関連事業者の皆様におかれましては、以上の規制を遵守し、適切な表示を行うことが求められます。
ご不明点やご相談等がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
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